最終話
秘密結社騒動から守の意識が回復するまで一年もの時間が経過し、大学に通っていたヒカリたちは、学生の本分を忘れて恋に、仕事に、地球平和にうつつを抜かしていたため、出席日数、単位が足りなくて進級が危ぶまれていた。
「博士ー。どうにか進級できる手段はないのですか?」
「一つだけ方法がある」
「どんな方法ですか?」
目をキラキラと輝かせ、ヒカリがブリッコポーズで博士の次の言葉に期待して待っている。
「……もう、就職すればいいんだ。永久就職だ」
「へっ?」
「だから、君が僕と結婚すれば、大学なんて行かなくてもいいだろ?」
「い、いきなりなんてことを言うのですか!」
博士は、守の夢の中でヒカリとキスをしてからヒカリ一筋になり、熱烈なアプローチを仕掛けてくることが多くなってきた。
ある時は花束を持って
「僕は、君のもの。君は僕のもの」
と、ウインク付きで気持ち悪いこと言ってきたり、ある時は花束を持って
「僕のために味噌汁を毎日、濃い目に作ってください!」
と、ありきたりなストレートな言葉でせめてきたり、ある時は花束を持って
「僕と少しだけ夫婦の契りを結んでみないか」
と、うさん臭そうな勧誘のように言ってきたりしていて、ヒカリは滅入っていた。
「ま、まあ、もう少しお金の使い方を見直したら考えてもいいかな」
前言撤回。ヒカリは滅入っているのではなく、まんざらでもないようだった。
「進……」
ヒカリは進級のことよりも、博士のことよりも進のことが気になって仕方なかった。
守が回復して嬉しいのであるが、運命共同体の進がいなくなってしまったことがヒカリの心身を疲労させていた。
進は守の夢の中に意識だけ入り込んでいたのであれば、意識だけが取り残され、現実では眠っている状態になっているはずであるのだが、博士曰く、
「どうやら、進くんは身体ごと意識の中に入り込んでしまっていたようだ」
らしい。どのようにして夢の中に身体ごと入った理由は明白だ。進が持っていた博士が作った「多次元移動装置」の存在があったからだ。
「多次元移動装置」は未完成品であり、博士もまだ実験していないことが多すぎるため、いざ発動させるとどうなるか分からない。
進は守の夢の世界に入る前に「多次元装置」を持保持していたことから、「キャッ・チア・ドリーム」の起動と同時に科学反応をおこし、一人だけ次元を飛び越えて守の夢の中に入ってきたと思われる。
「進くんなら、大丈夫さ。あの子は怖いもの知らずで、強いから、守くんの夢の中で、悠々自適な生活を送っているさ」
落ち込んでいるヒカリを慰めようと、どさくさに紛れてヒカリをやさしく抱きながら言った。
博士…崩壊した夢の中で、生きられるのですか?
「…そうだ!トランシーバー!」
ゴン!!
「うっ…」
鈍い音と博士のうめき声…ハッと思いついたヒカリは、頭を振り上げた拍子に、博士の顎に頭をクリーンヒットさせた。
どこかで似たような光景があったね。
「博士!進が守の夢の中に存在しているのなら、トランシーバーって使えるかもですよね!」
「ひゃあ、やっへみようは!(じゃあ、やってみようか)」
博士はさっきの拍子で舌をかんだようだ。ほんのり口から血が流れているのが痛々しい。
「えっと…トランシーバーは…あった!なぜ、早くこのことに気付かなかったのかしら」
「ほうはね(そうだね)」
まだまだ、博士の舌は治りません。
ピーザーザーザーザー
「あー、あー聞こえますか、聞こえますかどうぞ?」
ザーザーザーザー
返事はないようだ。
「おかしいな…レベルをもう少し上げて、もう一回やってみよう」
ピーザーザーザーザー
やはり、返事はなかった。
「進…いったいどうしたのかしら」
そのころ悩みの種、進はというと、江戸時代に来ていた。
「おっちゃーん!ごちそうさま。お勘定はここに置いておくね」
「へい!まいどー!」
キレイに食べ終わった食器の隣にお金を置いて、店を後にする進。
「どうだい?この時代に慣れたかい?」
「慣れましたよー!すごくいい時代ですね、江戸って」
「僕もそうだと思うよ」
進の守の夢の中でのこと。進は、博士の作った「次元移動装置」の使い方を知らず、守の夢の中から脱出できずに、崩壊(現実での起床)に巻き込まれそうになった。
「えーい!動けこの野郎!いい加減にしないと、本当にぶっ壊すぞ!」
シーン
いい加減、動こうとしない「次元移動装置」にイライラが募り、進の頭が沸騰しそうになりそうな時だった。
「もういいか!全力を出して自力で次元の壁を壊して、現実世界に戻ってやる!うおおおおおおおーーー!!!!」
進はありったけの力を振り絞り、その場で強烈なパンチをお見舞いした。
パリ…パリ…パリーン
次元の壁が壊れる音がした。
「よしっ!これで、元の世界に帰ることができるはずだ!」
進は、自分で作った次元の穴を通った。元の世界に帰ることができるかも分からず、この先が地獄なのか天国なのかしらないまま、進は先に進んでいった。
その先は…なんと江戸時代だったってわけだ
「まさか、僕の他にも同じ世界からやってくる人がいたなんて思いもしなかったよ」
「僕もです」
「にゃー(そうだな)」
――俺もいるぞ!この時代の人間だがな!
二人と一匹と一霊体のグループは、出逢えたことの喜びを分かち合っていた。
「幸太郎さんはいつごろこちらに来たのですか?」
「ついこの間かな。あ、この時代に来た時は今の三郎太のような霊体だったけどね。君は昨日の晩、何の前触れもなくやってきたね」
「ちょっと、いろりろありまして…次元を越えてきたつもりが、時空を越えてきてしまったようです」
進は、気が付いたら江戸の時代に飛ばされてきた。ネコくんがその一部始終を見ていたのだが、どうやら空から隕石のように落ちて来たらしい。
そんな大事だというのに、噂話も広がらずその日、空から進が落ちてくる姿を見たものはネコくんしかいない不思議な現象だった。
「にゃーお(なるほどな)」
「今の説明で分かったの?すごいね君は」
このネコ、閻魔大王の息子に見定められたことはある。
――お前、俺とこのネコの声が聞えるんだってな。
「はい。何となくですが。姿もぼんやり見えていますよ」
「にゃにゃ!(すごいなーお前!)」
――お前、すごいなー!まあ、霊体になった俺もすごいけどな!
「まあまあ。進君はこれからどうするの?元の時代に戻りたいでしょ?」
「もちろん戻りたいです!一応あてはあるのですが…」
そう言うと、進はゴソゴソと袋の中から何かを取り出した。
「じゃーん!博士が作った「次元移動装置」!」
「おー!これが進くんの言っていた例の奴か!これってどこかで見たような…」
「にゃあ、にゃーお!(なんか、輝いて見えるにゃ!)」
――これで、お前も元の時代に戻れるな!短い間だったけど、楽しかったぜ!
「うん!君たちのことは忘れないよ!…って、話していなかったっけ?僕はこの装置の使い方が分からないから、困っているんだ」
「そうなのかい?ちょっと貸してみて」
三郎太の身体を乗っ取っている幸太郎に装置を手渡した。すると…
ウイーン!ヴヴヴヴヴヴヴヴ
「おっ!どうやら動き出したぞ?」
「ホワイ!?僕が触れても、叩いても、投げ飛ばしても、かじっても何もなかったのに…なぜ幸太郎さんが触っただけで起動するの?オーマイガー!」
進は欧米人のようにオーバーリアクションになって驚いた。進は純粋な日本人であるが…すごく驚いたときだけ欧米人のようになるのだ。
ピピピピピー!シヨウシャヲカクニンチュウデス――シヨウシャヲカクニンチュウデス
「な、なんだ?」
ピー!シヨウシャ、アラシヤマコウタロウ!シヨウシャ、アラシヤマコウタロウ!
「僕の名前を…なぜだ?」
振れただけで誰だか分かるのか?しかし、この身体は三郎太だ。どうやって幸太郎のことが分かったのだろうか。
コレヨリジクウテンイヲオコナイマス。コレヨリジクウテンイヲオコナイマス。
(どうしよう…進くんに僕の正体がばれてしまう。だが、これも閻魔大王の導きなのか?)
「三郎太!この身体を返すので、僕にぶつかって!」
――もう、お別れなのか?
「お別れしたくはなかったけど…こうなったら仕方がない!早く!君を巻き込みたくないんだ!」
――…分かったよ幸太郎!
ドン!
――よし、これで僕と三郎太は大丈夫だ。進くん!手を出して!
「は、はい!」
――ネコくんも!
「にゃあ!(がってんでい!)」
サンビョウマエ…ニ…イチ…ジクウテンイカイシ!
ビュオオオオオ!ピュー!ガシャン!
二人と一匹は次元移動装置に吸い込まれ、消えてなくなった。
「行っちまったか。本当に短い間だったけど、楽しかったぜ!二人目の相棒!」
突然やってきて、突然いなくなる。幸太郎たちを見送り、少ししんみりしている三郎太。その後、この不思議な出来事を面白おかしく後世に伝えるべく、漫談家になったのは幸太郎も、ネコくんも、進も歴史に詳しい人でさえ知る由もなかった。
ピピピピピー!ガッシャン!
そして、現代に戻ってきた進たち。
「いててて…ここはどこだ?」
――ここは、僕らが住んでいた町の山の頂上ですよ
「にゃあにゃ(また戻ってきたにゃ)」
ピー!サギョウヲシュウリョウシマス。オツカレサマデシタ。ピュン…
「次元移動装置」はそれっきり動かなくなった。
幸太郎が何かを知っていそうな雰囲気ということは、はじめから仕組まれた時空転移だったのかもしれない。
「どうしてここに来ると分かっていたのですか」
こういうことには鋭く突っ込む進。普段のおどけたキャラからは想像がつかない。
――それは…僕が「次元転移装置」を作る手伝いをしていたからさ
「ということは、博士のことも知っているのですか?」
――ああ。だけど、博士は僕のことをしらない。勝手に僕が手伝っていただけだから…
そう言いうと、幸太郎は昔話をはじめた。
――僕は、死に方に納得しないで閻魔大王にもう一度死ぬ機会を作ってもらったが、地縛霊になってしまったことは話したよね?
「はい」
――地縛霊になってからの話なんだけど、いろいろあってね。もしかしたらだけど、君にも何度かどこかで会っているきがするんだ。
「ん?僕は全く記憶にないですよ」
――そうか…君、小さいときにこの山で薬草を探しに来たり、知らない子と一緒にあそびに来てすぐに帰った記憶はないかい?
「あー!薬草取りは、町の子ども達と一緒に来たことがあったっけ」
――なんか流行病か何かで大人たちがダウンして、いたでしょ。
「そうそう!僕の姉さんも病に侵されて、弟が取り乱しちゃって、大変だったな―」
――それと、「神様に会える」って友達でない子と一緒に山に来たけれど、それが嘘で、途中で「友達じゃない」って言って帰ったよね。
「そうゆうこともあったなー。あの子、どうしているんだろう?」
――あの子は、閻魔大王の息子だったんだよ。
「嘘だー。そんなことがあるわけ…あるね。幸太郎さんは閻魔大王と何度か会ったことがあるらしいしね」
――それで、その閻魔大王の息子を助けたことで「好きな時代に行ける力」と「誰かに乗り移れる力」を一度だけ使えるようになって、僕は江戸時代に行ったってわけさ。
「そうだったのですね!」
「にゃあー、にゃーお!(おいらもとばっちりで飛ばされて、アニキから特別な力をもらったんだぜー)」
「へー」
進はネコくんの話には興味がないようだ。
――…で、話を戻すけれど、地縛霊になってしばらくしてから、博士がこの山に来て、しばらく観察していると何かを作り出したんだ。
「よし、これで完成じゃ!名づけて「次元移動装置」!開発に三年もかかってしまったな。ふぁーあ!ちょいと一眠り…ガー」
――へー、これが「次元移動装置」か。すごいなー。でも、回路がめちゃくちゃだ。触れることができたら、少し手直しできるのに…
幸太郎は生前、機械や電気を取り扱った仕事をしており、このような作業はお手の物であった。
好奇心をくすぐられた幸太郎は、触れることのできない「次元移動装置」に手を伸ばし…
――あれっ触れるぞ!
なぜだか、触れることができてしまった。
――よし!では、ここをこうして、こうすると、こうなって、こうすれば大丈夫かな。
ものの数分でぐちゃぐちゃしていた配線を整え、若干間違っていたコネクタも付け替え、これで正真正銘の完成品になったというわけだ。
――これでよし、博士が起きる前に退散するとするか
「…ふっ」
――というわけで、僕が少し手を加えた時に、僕の魂が登録されたのかもしれない。
「だから、僕は使えなったのですね。きっと」
――でも、君が江戸時代に転移した時は動いたんだろ?
「いいえ」
――それじゃあ、どうやって江戸時代に来たの?
「信じられないかもしれませんが…無我夢中にその辺を拳で殴っていたら、次元の壁が壊れて、その中に入ったら、江戸に行きました」
――すごいな。君はサイボーグか、なにかなのかい?
「そうです。僕、博士に改造してもらったサイボーグです」
――…冗談で言ったのだが、まさか本当とはね。
「この情報は誰にも言わないでくださいね」
――ああ、分かったよ。…ん?誰かがこっちに来たみたいだ。
「…おーい!愛ちゃーん!どこにいるのー?」
この聞き覚えのある、懐かしい声は…守?守がいるってことは、この時代は進たちのいた元の時代ってことだろう。
――ちょっと行ってくるね。
すいーっと霊体の幸太郎は守の所へ。進もこっそり後をつけて行った。
――迷ったのかい?
進は、しばらく様子を見ていると、やっとのことで思い出した。
「そうだ!今日は何月で何日なんだ?」
守がいたことで、進がいた次元の世界ではあることが分かったが、進がこの時間軸の人間なのかは不明確だ。
だからこそ、この日が何時なのかを知る必要があると進は感じた。
あまり使用しない携帯電話のスイッチを入れ、時間と日付を確認した.
「えーっと…一年前のこの日だって!じゃあ、これから、愛ちゃんが死んでしまうじゃないか!急いであの入口に入ることを止めに行かないと!」
「にゃあ!(それはダメだ!)」
――そんなことをしたら、君がいた時間軸がなくなってしまうよ。だから、過去を変えることはしてはいけない。
守と一通り話しを終え、進の所に戻ってきた幸太郎とネコが進の思った行動を制止する。
「そうか…。愛ちゃんが死んで、サイボーグになる未来はもう決まっていることなんだね」
――そう。だから、キミも早く自分のいた時間軸に早く戻りなさい。
「分かったよ…。でも、どうやって帰ればいいのですか?」
「にゃあ!(お前の馬鹿力で次元に穴をあければいいだろ!)」
「なるほど…って、この前は無我夢中のうちに穴が開いていたけど、今回は上手くいくか分からないよ!」
――大丈夫。キミの力を、キミの拳を信じて。
「…そうですよね!「信じるのは己の拳のみ」って言いますしね。今すぐやってみます!」
進は拳に力を込めた。ありったけの力を込めて、拳が空を切る!
シュッ!!パリ…パリ…パリン!!
時空にひびが入り、そして割れた。時空に再び穴が開いた瞬間だった。
――しばしのお別れだね。
「はい…。また他の時間軸で会いましょうね。
「にゃあ!(もちろんだとも!)」」
「僕、三郎太さんに会えてよかったです。もしかしたら、会えたのも何かのめぐり合わせなのかもしれませんね。それじゃ、お元気で」
そう言い残して、進は穴の中へ飛び込んだ。
そのころ、ヒカリはまだ必死にトランシーバーで進となんとか連絡を取れるように、頑張っていた。
「進…いい加減、連絡を取りなさいよ…心配でしょ!」
ヒカリが涙を流して頑張っているころ、ふと、隣にいた博士が空を眺めていると…隕石のようなものが地表めがけて落ちてきた。
「何かが空から落ちてくる。あれは…隕石?」
「…もしかして、また侵略者?調べる余地がありそうね…博士!」
「あいよ!」
博士はなにかのコントローラーをヒカリに渡し、隕石の調査に向かうことになった。
「発進します!」
シュイーン!ブシュー!
飛行機のような物体が博士の研究室から発進した。搭乗者は…なし!ヒカリは…コントローラーを握ってモニターを見つめている。
そう、ヒカリはラジコンを使って遠隔操作で隕石の調査に向かったのであった。
「もうちょい左。そう、そのまま真っ直ぐ!」
博士はナビゲーター。…という名の野次馬。ヒカリの抜群のコントロール技術に合わせて、画面を見ながら適当に合いの手のようなものを入れているだけだ。
「目標発見!博士、どうですか?」
「うーん…」
メガネをはずして、裸眼で目を細めてモニターを見つめる博士。
「す、進くん!」
「なんですって!」
「進くんがこの研究所めがけて猛スピードで落下しているんだ!どんな熱にも耐えられる超弩級の合金でできている進くんは大丈夫だが、急いで救出しないと、地表にどでかい穴…最悪の場合、地球の核に進くん触れてしてしまい、地球が爆発してしまう!」
「げ、迎撃しましょう!」
「えっ?」
落下しているのが進ってだけでも驚きで、最悪の場合、地球が爆発する…そんなの簡単に受け入れることができなかったヒカリの頭の中は、もうめちゃくちゃになっていた。
ちなみに、江戸時代での同様のことでは、ネコくんの不思議な力によって進の降下速度はさげられ、なんとか食い止めることができた。
「迎撃って…あれは進くんだよ?それでもいいのかい?」
「でも…地球を救うためなのよ!」
一人の命と幾億の命を天秤にかけると、一瞬で幾億の人の命の方が大切に思えてくる。いかに一人の命が大切な人の命であっても、その考えは曲げられることはない。
「仕方ない…先生!」
シュン
「にゃあ!(お呼びですかにゃ!)」
「ね、ねこ?」
一瞬で幸太郎の使い魔であるネコを呼び、
「今から見ることは、忘れてくれ!絶対にだ!」
と言って、ネコくんを窓から大きく放り投げた。
「先生!お力をお貸しくださいませ!」
ヒュン
「ネコさーん!」
ネコがグルグルと回りながら、宙に舞う。
「にゃあ、にゃーお!(あとで、高級ネコ缶を買ってもらうからな!)」
上手くバランスを取りながら、進の方へ向き直し、
「にゃあ!」
と、大きな声で叫ぶと、進は何かに覆われた。
そして、速度も徐々に遅くなり、そのままゆっくり地表に降り立った。
ドカーン!
進が地表に降り立ったと同時に何者かから攻撃が加えられた。
「うっ…」
意識のない進はその衝撃で少しよろめいたが、なんと倒れずに持ちこたえた。
「仲間たちの恨みだ!それと…あの宙に舞っているネコの恨みだ!」
全身真っ赤な服を着ていて、後ろに「ひみつけっしゃ」と白い文字で書かれている「秘密結社セヨワシ」の団員の生き残りが、秘密結社を壊滅した進に憂さ晴らしを仕掛けていた。
「くらえ、くらえ、くらえ!」
ドーン!
ドッカーン!
ドッビュワーン!
あらゆる武器を使って進に攻撃するセヨワシの団員。
初めの一撃以来よろめきも、うめきもしなくなった進。
どうやら、全く効いておらず、効果はいま一つのようだ。
「くっ、これならどうだ!ネコちゃんビーム」
ビゴー!!
青白い巨大な光線が進を襲う。
「う、うわあ!」
今度は、進を宙に浮かせ、効果は抜群だ。
そして、
ニャー!!!
たくさんのネコが現れ、進を襲う。ネコが多すぎて進はネコで埋もれてしまった。
「こ、こんの野郎!調子に乗りやがって!!」
進は、不意打ちをしてきた秘密結社セヨワシの団員に殺意を覚え、ありったけの弾薬を殺人ネコに向けて発射した。
ビューン!!ドドドド!!
ニャー!
「お前…分かっているだろうな!」
「ひ、ひい」
あまりの怖さに少し漏らしてしまう秘密結社の団員。
※まるで魔王のようなオーラを放つ彼は、普段はおとぼけキャラの優しいサイボーグです。
「さあ、今から一秒数える間に背を向けて走れ!あそこの大きな岩まで競争だ。僕の最後の一発とどちらが早く着くかな。はーっはっはっは!」
そう言うと、左手を団員に向け、
「スタート!イ…!」
団員はサッと振り向き、走る!だが、そこには目的の大きな岩などなかった。
「はっ…」
「…チ!ははっ、バーカ!嘘だよ!そんなの初めからあるわけないよ!」
ヒュー…ドッカーン!
「秘密結社セヨワシ…バンザーイ!ぐわー…」
団員に指ミサイルが命中し、秘密結社セヨワシは、二度死んだ。
「…お前が不意打ちしなければ、苦しまずに殺してやったのにな」
怒りを覚えた進は誰も手が付けられない。
破壊の魔王…そう呼んでもおかしくはない。
「進…」
そこへ、運悪くヒカリがやってきた。
「あっ、姉さん!僕、やっとこの時代に帰ってこられたよ!」
「そ、そうね。お帰り進!」
内心進が帰って来てくれたことを喜んでいるヒカリ。だが、心の奥底からにじみ出る、進への恐怖心がヒカリの足を硬直させた。
「す、進。これは…」
「ああ。僕がやったよ。少しイラついていたから、殺しちゃったけどね。残りもきっとどこかに隠れているはずだ」
じわりじわりと進はヒカリのもとへと歩み寄り。ヒカリとの距離が縮まる。
「そ、そう」
――五メートル
「ねえ、姉さん…僕のこと怖い?怖いんでしょ?」
――四メートル
「そ、そんなことないわよ」
――三メートル
「嘘つかないでよ」
――二メートル
「う、嘘じゃないわよ」
――一メートル
「そう……でも、」
――ゼロメートル。
進がヒカリの真横に立ち、耳元でささやく。
「足がブルブル震えているよ。なんでかな」
「……ご、ごめんね」
ヒカリは緊張の糸がほどけ、その場で膝から崩れるように地面に倒れこんだ。
「……やっぱりね。こっちこそごめん」
ヒカリに背を向けて進はこうつぶやく。
「僕には、もう帰る場所がなかったんだ……」
そして、空を仰ぎながら、
「……こんな世界、もう無くなっちゃえばいいんだ!」
そう言うと、進は駆け出した。
進の第一次反抗期の始まりである。
「進……進!」
ヒカリの声は進には届かなかった。
「進くんが帰ってきたの?」
「ああ、どうやら時空転移を繰り返して憔悴しきっているところで、秘密結社の残党に襲われたらしい」
「進くん、大丈夫だったんですか?」
「ああ、彼はスーパーサイボーグだからな。誰にも負けない」
「時空転移ってなんですか?」
「その話はまた今度。それよりも、進くんだ。これを見てくれ」
モニターに映し出されたのは……進が町を破壊している姿だった。
「これ……進くんじゃないですか!なんで町を攻撃しているの」
「私が悪いの……」
そこへ、ヒカリが目を赤らめながらやってきた。
「私が、進を受けとめることができなくて……今でもあの時の顔を思い出すだけで……うう」
ヒカリは進の戦う姿が残酷すぎてトラウマになっていた。
「いくら家族だからって、あの姿を見たものは誰もが怯えるよ」
博士が優しくヒカリの肩を抱き、
「愛ちゃん。彼を止めるために君の助けが必要なんだ。協力してくれるかい?」
「私にできることなら、なんでも!」
「私も……私も手伝うわ!いつまでもグズグズしていられないもの!」
「フッ……それじゃあ、これを見てくれ」
そう言うと、博士は進の設計図をテーブルに広げた。
「これが進くんの全てだ。そして、ここが……」
博士、設計図の中心を指さし、
「ここが、進くんを止めるためのカギを握る部分だ!」
一方、町の中心街。
「もう何もかも壊れてしまえ!僕には何も残っていないんだ!」
「なかなかやるではないか!もっとやれー!」
「頑張れ助っ人!」
進が秘密結社セヨワシの仲間と化し、町を破壊していた。
「みんな壊れちゃえ!」
ドカーン!!
バラバラバラ……
強い一撃が町の一番大きいビルに直撃する。
「はーはっはっはー!」
大声で笑う進。
「やるな、あいつ!我々も後れを取るなよ!」
「「おおー!」」
進の快進撃で秘密結社セヨワシの残党は力強く声を張り上げていた。
このままでは、本当に世界がめちゃくちゃになってしまう。
「そこまでよ!とう!」
マントを翻し、ナイスタイミングで登場した一人の少女。
「しゅたっ!進くん、もう止めて」
「誰だ!名を、名を名乗れ!」
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、悪者を倒せと私が呼ぶ!サイボーグ愛!只今誕生!」
自分なりにかっこいいポーズをしてみる愛。
「愛ちゃん?愛ちゃんなのか?」
「そう!私は愛の戦士!守くんを愛する戦士なの!だから、守くんの日常を乱すものは……切るっ!」
「「ぐわー!」」
ドデカい剣を振りかざし、秘密結社セヨワシの残党を一閃。
残党の短い夢は愛の一撃により終わった。
「進くん!」
進を強襲する愛。
ガガガガガッ!
「僕と君が争う必要ないじゃない……か!
両手で愛の剣を防ぐ進。
「何言っているの?」
「僕は正義のために戦っているんだ」
「そんなの、この光景を見て分からないの?」
「そ、それは……」
「そうでしょ?だから、ごめん!」
進の一点を集中攻撃。
「その手には乗らないぞ!」
間一髪で避ける進。どうやら、弱点と呼ばれる部分のことを知っているらしい。
「後ろががら空きですよ!進くん」
「何っ!」
進の視界から愛が消える。
「とった!」
シュン!ドーン!
愛の強烈な一撃が進の背中を襲う。
「うおおおおお!」
進の背中に直撃。
ヒューン!ガガガガガ!
思いっきり前方に飛ばされ、町を破壊していく。
そして、先回りしていた愛に受けとめられて止まる。
「な、なんて強いんだ」
「だって、進くんの弱点を教えてもらいましたからね」
「……そうか」
「さあ、帰りましょう。ヒカリさんが心配して待っていますよ」
「でも……」
「大丈夫ですよ」
「分かった」
進はそういうと、愛に支えられながら、研究所へと向かった。
「進……あの時はごめんね」
「姉さん……僕こそ、ごめん」
「もう大丈夫だよ。私たちは運命共同体なんだから」
「そう……だ、ね……」
進はそう言い残すと、笑顔で目を瞑った。
「疲れていたのね」
優しく進の頭を撫でるヒカリ。
「いろいろあったからね。しばらくゆっくり休ませておこう」
「そうね。おやすみ、進」
一人ぼっちの世界はとても楽だ
気を遣わなくてもいいし
ずっと寝てもいいし
好きなものを食べてもいいし
何もしなくてもいい
でも、一人ぼっちの世界なんて悲しいだけだ
話しかけても誰もいない
一人で悩んでいても誰にも相談できない
温もりを感じたくても誰もいない
なんでも一人で解決しないといけない
人は一人じゃないから生きていける
人の命は人に支えられ、鼓動を続けている
だから、人は人って呼べるのかもしれない。