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僕、サイボーグなんだ  作者: 吉原マサシ
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第二話

進がサイボーグになってから、毎週火曜日に定期検診を行っている。

事故が起きたのが成長期だったこともあり、成長と共に脳以外のパーツを確保するのはとても苦労した。

パーツの費用を確保するため、進とヒカリは博士の依頼をこなし、何人も人を殺めては守への秘密を増やしていった。

そして、進がサイボーグになってから、ヒカリと守が何者かから命を狙われるようになった。

勘のいいヒカリがすぐに気づき、進に伝えることでなんども片岡家は救われてきた。

二人は守に伝え無いようにすることを誓って戦い続けた。今の生活を守るために。

「先生!そろそろ進の左足と右手の弾薬が尽きそうなんだけど」

「博士と呼びなさい!もう尽きそうなのかい?この前補充したばかりじゃないか!」

「仕方ないでしょ!この前の依頼で、秘密結社の内密を頼まれて、内密で終わらないでそのまま壊滅させられたんだから」

「ああ、そうだったね。確か「秘密結社ポーズ」だったかな?」

「そうです。なんか「人類を皆殺しにして、ポンカンで世界を埋め尽くす」って言っていました」

「なんか、変な秘密結社が増えてきていますね」

「そうだね。なんで他の惑星の人たちは地球ばかり狙ってくるのだろう?」

「それはね、地球がどの星よりもキラキラ輝いていて、緑と青の広がる綺麗な惑星だからよ。ほどよい重力、美味しい空気、それは――」

ヒカリが目をキラキラさせながら語る。

「うん、そうだね。うん、うん」

博士、ヒカリの話を傾聴しながら、進の方へ向く。

「それにしても、進くんは何度も地球を救っているね」

「それほどでもないですよ~!」

「……あんまり図に乗らないのよ」

これがヒカリと進の普段の生活である。守は幼稚園からの幼馴染で彼女の愛に夢中で、二人が守を守るために陰でこそこそしていることを知らない。

「守はまた愛ちゃんとデート?」

「そうだよ」

「ラブラブだねー。まあ、僕と姉さんもラブラブだけどね」

「先生!そろそろ進にロケットパンチかロケットキックをつけてくれません?ついでに私に遠隔操作できるようにして」

「それはいいね。検討してみるよ」

「わお!それは面白そうだ。僕も操縦してみたい」

進は家族のことを大切にしており、たった三人の家族に家族以上の関係を求め続けている。特に、守が愛とラブラブになってから、ヒカリへのアプローチが過度になってきている。少し変わった性癖の持ち主だ。


そのころ守はというと、高校のころに取った車の免許でドライブをしていた。

もちろん助手席には愛が乗っている。

目的地は近所にある小さな山。なんでも「山の神様」がいて、神様に助けられた人も何人もいるという。

「さあ、今日は山に行ってみようか!山は心をきれいにしてくれるし、山の空気は最高に美味しいからね。進くん安全運転で行こうね」

「わ、分かっているよ。気を付けるから、あんまり話しかけないで」

「えーっ!ドライブの時ほど話が弾むことはないんだけど…守君がそういうならしかたないかな。分かりました。お口にチャックしておきます」

むすっとした愛をよそに、守は車の運転に必死になっていた。

ペーパードライバーでありがちの前のめりになっての運転で、少しかっこ悪い恰好をしている。そんななんでも一生懸命にこなす守のことが愛は大好きだ。

「守君、今の十字路のところを右に曲がらないと!」

「そ、そうだったっけ?」

車をコンビニの駐車場でUターンさせ、改めて出発。

「そこだよ、そこを左に曲がるの」

「えっ?右じゃないの?」

「Uターンしたのだから、左に決まっているじゃない!守君のばか!」

守はあの事故から少し方向音痴になってしまい、彼の大学から家までの道も毎日ヒカル、進、愛と一緒に登校しないとまだおぼつかないくらいである。

「ごめん。さっきのは取り消して、次からはナビしてくれると嬉しいな」

「よろこんで!」


あの事故の代償は進も守も大きかった。

守は四肢から臓器まで損傷が激しく、進から移植してもらわなければ、今のような生活はあの事故の時に止まっていたのかもしれない。

進は、脳以外の四肢と臓器はすべて守に与えられ、当時のサイボーグ工学に詳しい先生が偶然主治医だったことから、サイボーグとして新たな命の伊吹が進に吹き込まれた。

当時、進は後遺症でサイボーグしての生活をなかなか受け入れることに戸惑いを感じて何度も病院の窓から身を投げようとしては自らの命を絶とうとしていた。

だが、身を投げようとする瞬間にヒカリと守の笑顔が浮かんでしまい、全て未遂に終わっていた。

そんな進をみかねて、先生が面会謝絶であったヒカリと話し合うことをゆるしてくれたことがきっかけで、進の未来に明るい兆しがやってくることになる。

唯一無事だったヒカリは、当時自分が何をすることもできなかったことをずっと引きずっていた。

二人のことを誰よりも大切に思うヒカリは、自分の人生を犠牲にしてまでも二人を支え続けていこうと決心し、これからも自分の幸せよりも二人の身を案じて生き続けなければならないと思っていた。

そんな矢先、度重なる進の自殺未遂を聞いたヒカリは、先生に二人だけで話をしたいと懇願した。

そして、二人だけで話す機会が設けられ、長い沈黙のあと、ヒカリが語りだした。

「私は、あの時何もできなかった。進は真っ先に守を守ってくれた。でも、後先考えないでなにをしようとしているのだろうと思った反面、これからは私が二人を支えていかなければならないと考えたの。私にはそれくらいしかできることがなかったから。私は…あなたの全てを受け入れる。あなたと一緒にまた、笑顔で歩んでいきたい」

進にすべてを話し、安心したのか、ヒカリは涙を流していた。

その思いのこもった言葉に進も感銘を受け、一緒に涙を流す。

「姉さん。そこまで考えてくれてありがとう。でも、姉さんは守のことだけを支えてあげて。頼りないかもしれないけど、僕は、サイボーグだから二人を守る力は十分にあるよ。だから、これからは僕らのことであんまり泣いてほしくないな。僕は姉さんの弟で、守のお兄ちゃんなんだ。二人の兄弟に生まれてきてよかったと思っているよ」

ヒカリの想いを聞いた進もまた自分の気持ちに素直になれることができ、自分の思っていることを口にすることができた。

「守ってくれるなら、ミサイルとかを積んでもいいかもしれないね」

「それはいいな!実はもう、プランは出来上がっているんだ」

「「先生!」」

「ごめん、もしもに備えて待機していたんだ。もう二人ともすっきりとした顔をしているよ」

ヒカリと進は顔を見合わせ「フフフっ」と、ほほ笑んだ。

「進くん。本当に強くなりたいなら、そのくらいの装備はしておいた方がいいかもしれない。だって、君たちは狙われているからね」

「そうだったわね。進も知っているでしょ?最近私たちに付きまとっている人たちのこと」

「一応ね。だからこそ、僕の改造は必要になるかもしれないのですよね博士!」

「ああ!僕に任せてくれ!」

親指をぐっと立てて力強く応えてくれる先生は二人にとっても大切な存在の一人であると、認識するには時間がかからなかった。


それから現代に至る装備が進には装着されている。ロケット弾は両足のひざの部分と両手のひらから。手足の指先からはマシンガン。

と、現在は実戦で使う武器は少なく、まだまだ開発段階であるのだが、身体能力の高い進は戦闘で己の拳だけを使っていることが多い。よっぽどのことがない限りは、威力が強くて周りを巻き込んでしまう武器は使わないように気を付けている。

「それじゃあ、先生。次はロケットパンチかキックのプランをお願いしますね」

「だから、博士って呼んで!その件は次までには形にしておくよ」

「博士。これからもお世話をおかけします」

「ああ。進くんもあまり無茶しないようにな」

「はい!」


一方、守はというと……無事に山の近くに車を止め、山の頂上へと歩みを進めていた。

「順調ね。これならお昼までには山頂に行けるかも」

「だね。愛ちゃんのお弁当楽しみだなあ」

「期待して待っていてね。私の愛情をいっぱい込めたから」

「愛ちゃんの愛情ってどんな味がするんだろう?」

「もう、そんなの分かっているくせにー!」

「はははっ!」

バカップルである。

「ねえ、この山に住んでいる神様のこと知っている?」

「知っているよ、なんでも願い事をかなえてくれるらしいよね」

「そんなの信じられないよ」

「私は信じたいな。そしてお願いするんだ。守くんとこれからもずーっと一緒にいられますようにって!」

「もしも願いがかなうなら僕も同じことを願おうかな」

「願おう!一緒に願おう!」

バカップルである


――ここからでていけ!


「ねえ、今、何か聞こえなかった?」

「いいえ、聞こえなかったけれど……風の音じゃない?もうすぐ頂上だから風が吹き抜けているのかも。よーし山頂まで競争だ!よーい……どん!」

そういうと、愛は山頂に向けて走り出した。

「ちょ、ちょっと!待ってよー!」

愛は見かけによらず足が速い。高校時代に陸上部のエース候補と呼ばれた時期もあったが、守と付き合いだしてから、からっきしのふぬけになってしまった。だが、その走力はまだ健在である。

「はあ、はあ、はあ。僕が追い付けるわけないじゃないかー!」

守はそれなりにスポーツ全般器用にこなすのだが、体力がないことが欠点である。トップスピードで走り続ける愛に体力なしの守が追い付けるはずもなく、守はすぐにへばってしまった。

「もう、いつも僕を置いていくんだから……。でも、そこが好きだよあいちゃん」

息を切らせながら、バカップル力を全開に見せつける守であった。

「おーい!愛ちゃーん!どこにいるの!」

叫んでも声は届かない。なんてたって愛はもう山頂にいて、大の字になって疲れて自然を全身で感じているのだから。


――迷ったのかい?


「ま、迷ってはいないよ。っていうか、どちらさまですか?」

すると、一匹の猫がやってきた。

「にゃーお!(久しぶりだな!)」

何か言いたそうに守の目の前で鳴いている。


――うーん……確かに似ているね……。ねえ、僕だよ。覚えていないかい?


「君なんてしらないよ」

「にゃー!(あっしは知っているぞい!)」


――そのネコくんは、私の使い魔だ。


「使い魔?」


――ああ、まあ、僕の友達ってことでいいかな。


「へー。それで、あなたは?」


――僕?僕はここの山の地縛霊さ。みんなからは山の神様って呼ばれているけどね。



「会社に辞表も提出したし、これで大丈夫なはずだ」

彼の名前は嵐山幸太郎。両親は生まれて間もなく死に別れ、親類の元を転々として邪魔者扱いされて忌み嫌われ育てられた彼は、愛情を知らずに育てられてきた。

そんな彼にも転機は訪れた。彼は中学を卒業してすぐに一人暮らしを始め、職場で似たような境遇の女性と意気投合し、そのまま生まれて初めて家族と呼べる存在を手に入れた。そして、二十歳になるまでに二人もの子どもにも恵まれ、普通の幸せと呼べる日々を過ごしていた。

だが、最後に育てられた叔母と結婚した女性との会話を偶然耳にしたことにより仮初めの日々は崩壊する。結婚した女性は彼の人生をどん底に落とすためだけに結婚し、子どもを産み、育て、仮面家族を演じていただけであったのであった。その会話を耳にした彼は何もかもが信じることができなくなり、

彼は生まれてきたこと自体が間違いであると思うようになり、短い人生を終える決心がついた。愛した女性には裏切られ、血のつながりのある唯一の子ども達も叔母に奪われ、親しい友人もいない、彼は人生のどん底を味わっていた。

「もう、思い残すことは……なにもない」

何もかも失った彼は一人、誰にも行先をつげずに徒歩で薄暗い近くの山へと向かった。何もかもを終わらせるために。

手に持った小さい懐中電灯を足元に照らしながら、一歩、また一歩と進んでいく。その山の頂上についた彼は、ロープを引っかけても人ひとりの重さに耐えられそうな大きな木を探し、見晴らしの良いところを見つけ、最後となるであろう住んでいた町の明かりをぼーっと眺めていた。生まれ育った町ではないが、家を出てからいろいろとお世話になった顔なじみの人や店もあり、愛着のある町ではあるがいいところは知らないし、悲しい思い出の方が多い町でもある。それでもぽつぽつと家の明かりが照らしあってできるこの風景はとても美しかった。

「この町ってこんなにキレイな風景だったんだな……。最後にこの町のいいところを知ることができてよかった……かな」

両手を上げてロープを手に取り、ふとそう思う。

「もし、生まれ変わることができたら……今度は幸せな人生がおくれるのかな。はははっ。そんなことないとは思うけどね」

力を込めて一気に首元をロープに近付け、首に引っかける。


ああ、これで僕の人生が終わる……

あい、ゆうき……幸せにな……


薄れゆく意識の中で子ども達のことを思う。その日、彼の人生は終焉を迎えた……。



「や、やっぱり、ま、まだ、じにだぐない!」

途中で死ぬことが怖くなった幸太郎は、ロープに手をかけ、必死にロープをはずそうとしたが、ジタバタすることで外れることなくさらに首に食い込んでくる。

「う゛っ……も、もう、ダメだ――」

幸太郎は心の中で強くこう思った。「もっとかっこよく死ねたらよかった」

この思った言葉が最後の言葉となった。



幸太郎がこの世で死を迎えたころ、強い念が込められて死んだ幸太郎の魂はあの世へ行っていた。

「あ――こ――――!」

なにか聞こえる…

「あらし――こう――!」

とてもどす黒い声だ…

「嵐山幸太郎!」

「は、はいっ!」

幸太郎の目の前には角の生えた赤黒い鬼と呼ばれるような風貌の人が座っていた。

「嵐山幸太郎。お主は天国と地獄どちらがいい?今日はお主だけしかまだ死んでいないから、選ばせてやるぞ。はっはっはー!」

「?ここはどこですか?」

「主は死んだのだから、あの世に決まっているだろう。そして、私は閻魔大王であるぞ!はっはっはー!」

「ダメです!今すぐに現世に返してください。あんな死に方では納得できません!」

「ん?ダメじゃ。お主は死んだのだぞ。これから快適な天国ライフか、極楽の地獄ライフのコースがお主を待っておるのだぞ!」

「そんなのイヤです!それなら、またここで舌を噛んで死にます」

「まてまて、私の立場になって考えてくれ」

「あなたの立場でも変わりないです!さあ、今すぐ僕を生き返らせてください」

「うーん…内緒にするか?約束できるか?」

「もちろんできますとも!」

意外と話の分かる鬼?人?なのかもしれない。もうひと押しでイケるかもしれない。幸太郎はそう思った。

「現世で特にやり残したことがないと書かれておるが――悲しい思い出ばかりでは地獄や天国に行ってもつまらんもんな。仕方ない。地縛霊として現世に返そうとしよう」

「地縛霊ですか?ちょっと待って――」

「では、元気でな!」

閻魔大王がパチッと指をはじくと、幸太郎はあの世から消え、現世に舞い戻って来た。



「それで、それで、どうなったのですか?」


――まあ、待て。彼女はいいのかい?


「大丈夫です!きっと、疲れて大の字になって寝ているだけですから!早く、続きを教えてください!」


――分かった、分かった。では、続きと行こうか。



僕が地縛霊として現世に戻ってから半年もの月日が流れた。

近所の山で死んだこともあって、山から出ることは許されず、取り付くこともできない。現世に帰ってきたことはうれしいのだが、死に方がイヤという理由で戻ってきたのに――イタコや陰陽道などに精通している人がどうにかしないと死ぬことも許されない霊体の僕は、暇を持て余していた。

できることが限られている中で、同じ霊体の方や動物、植物と会話をすることができること、喜怒哀楽の感情のうちの喜と楽の感情しか持てなくなったことが幸いにも僕にはプラスに作用して、唯一の現世に留まる理由になっていた。そのできることのおかげで、山に住む人や僕が普段拠点にしている小さなお寺にやってくる人と動物や植物たちの力を借りて、間接的ではあるが触れ合うことができ、トントン拍子で「山の神様」と地縛霊の僕が呼ばれるようになった。全ては山の人々と、動植物たちのおかげだ。


――そんなこんなで地縛霊としてここにいる間に「山の神様」ってランクアップしたのだよ。


「なんだかすごい話だけどそれで、僕のことを知っているようだったけど?」


――ああそれは、また少し話がながくなるのだけど…いいかい?


「いいですよ」


――では、お言葉に甘えて……そんな地縛霊ライフを満喫している中、一人の男の子が山に迷い込んできた。


「ねえ、神様いる?僕とあそんでよ!」

神様が本当に存在していると思っているその子は、帽子をかぶって、赤い洋服を着ている見た目10歳前後の男の子。まだサンタクロースを信じているくらい純粋で無垢な少年であると思える。

「神様!ねえってば!」

石をあたりに投げつけながら神様を探している男の子――純粋で無垢な少年…のはずである。

「もういいや!またあの子とあそぼ!」

もう飽きてしまったのか、神様のことは諦め、あの子と呼ばれる子ども?のところへ行くようだ。

投げた石が動物に当たりそうで冷や冷やさせたのだから、少し驚かせてやることにしよう。


――ざわざわざわざわざわ~


――ここであそんではいかんぞ~


――山であそぶ子にはお仕置きじゃ~


山にある木々にお願いして、木を上手に揺らしてもらいながら、人に言葉として聞こえるように音の高低を調節することで、言葉のように聞こえ、脅しとしては十分に力を発揮してくれるはずだ。僕は、それを利用してその子に帰ってもらうことにした。

「なんだ、なんだ?うわー!神様、やっぱりそこにいたんだー!また明日来るからねー!」

木々を揺らすことでどどーっと風を吹かせ、少し驚かせようとしただけだったのだが、威力が強すぎて、あの子を遠くまで吹き飛ばしてしまった。きっと木々が守ってくれると思うが、ますます僕の存在が本物であるということを知らしめてしまったようだ。


そんなこんなで次の日のこと。

「おーい神様!今日は友達も連れて来たんだ!だから、またビューって風を吹かしておくれよ!」

大きな声を響かせながら、昨日の帽子の子がまたやってきた。

それも二人も友達を連れて。

僕はこの二人の子のことは知っている。

どちらの子も山で流行った病を治すために、山でしか生育されていない薬草を探しにやってきた時に、大勢の子ども達の中に確かに二人の姿はあった。

なかなか薬草を見つけ出すことができず、次々と病に倒れていく子ども達。それを見かねて動物たちの力を借りて僕が間接的に手を差し伸べ、助けてあげたのはついひと月ほど前だ。

「ねえ、今日こそ遊ぼうよ」

この子となぜ一緒にいるのだろうか?

昨日「あの子」と言っていたのがこの子たちのことなのだろうか?

「早く神様に会わせてよ!お礼が言いたいんだ!」

「僕も!」

「ちょっと待ってよ!ねえ、神様ってば!」

また石をあたり一帯に投げつけ、僕を呼び出そうとする帽子の男の子。

「そんなことをしたら、神様が怒っちゃうよ!」

「やめろー!僕たちは無理やり連れてこられただけなのに……神様になんてことをするんだ!もう友達なんて呼ばないで!」

「ちょっと待ってってばー!本当に神様がいたんだよー!」

帽子の子の行動に怒りを覚えた二人の子は帽子の子の制止する手を振り切って、一目散に逃げていった。

ポツンと一人取り残された帽子の子は、両手で顔を覆い、

「うわーん!ただ、二人にも神様を見せたかっただけだったのに…バカあ!」

と、大きな声で泣いていた。僕は悲しい気持ちになることはないから、帽子の子の気持ちがなかなか理解することができなかった。


――なぜないているの?


「僕ね、友達が欲しかったの。神様を見せて、友達を作ろうと思ったの」


――そうだったの。かわいそうなことをしたね。


「もう大丈夫。もう…泣かないよ。僕には神様の声が聞こえるのだから」

涙を流す男の子は、僕が見えないにも関わらず僕の方を見てニコリと強がりながらも笑顔を作ってみせた。

ただ友達が欲しかっただけ。そんな簡単なことで――嘘をついていないのに、友達になれそうだった子が友達になれなかった。


――ネコくん、ちょっとあの子と遊んでいてくれないかな?


「にゃあ!(分かったぜ、幸太郎!)」

「うん?キミ、あそんでくれるの?」

「にゃああ!(おう、あそんでやるぜ!)」


――君とネコくんが遊んでいる隙に、彼らに話を聞いてみようではないか。だから、少しの間待っていてくれ。


「にゃーお(わかったにゃ)」



「あの子はなんだったのかな?」

「さあ、突然寄ってきて、友達になろうって言われても……」

「そうだよね。すぐイタズラするし、僕はあの子のこと苦手だな」

「僕も嫌い」

なるほど、そういうことか。

帽子の子は突然やってきて彼らの生活の中に入り込んできたのか。

それでイタズラもされて、友達になれる方がすごい。

彼らの想いはそっと胸の中にしまいこんでおこう。さあ、帽子の子のことはどうしようかな。



「このネコちゃん、なかなかやるね!」

「にゃーにゃ!(おまえもな!)」

「よーし!もう一回だ!」

「にゃあにゃ!(のぞむところだ!)」

こっちはこっちで仲良くなっていて、いい感じなんだけどな。


――もう仲良くなっっているね。


「うん、神様。僕とネコちゃんはもう友達だよ」

「にゃあにゃあ!(マブダチだぜ、かみさま!)」


――ネコくんも嬉しそうだ。君も友達ができてよかったね。


「ありがとう!神様!これで僕もあの世に帰れるよ!」


――あの世?き、きみはあの世の世界から来たのかい?


「そうだよ」

男の子が帽子を取ると、ちょこんと角が生えていた。その角から察するに、この子はこの世のものではないことを物語る。

そして、どこかで見たことがあるような面影が……。

「ねえ、パパが神様をあの世に連れ戻したいらしいんだけど……もう一回行く?」

そうか!閻魔大王に似ているんだ!ということは、この子は……閻魔大王の息子なのか?しかも、閻魔大王が僕をあの世に戻したがっている……もうわけが分からなくなってきたぞ。


――君は僕を連れ戻しにこの世に来たのかい?


「それは、違うよ!パパから一人で現世に降りて、地縛霊の神様を見てこいって言われたの。ついでに、友達を探しに来たんだ。あの世じゃ僕はパパの息子ってだけで、友達が作れなくてね。この世でもあの様子だったし……あの世も、この世も僕と似たような年代の子はなかなか融通が利かないよね」


――さっき泣いていたよね?


「あ、あれは…その…」

年端もいかない子が自分の立場を冷静に見つめて、たった一人でこの世に来たのはすごいと思う。これまでの行動とこの子の流した涙から察するに、友達を見つけに来たのが本当の理由で、僕を見に来たのはついでのような気がする。


――大丈夫だよ。君には友達ができたじゃないか。


「にゃあにゃ!(おれがいるにゃ!)」

「ありがとう、これからも一緒にいてくれるよね?僕のともだち」

「にゃあにゃんにゃ!(もちろんですぜアニキ!)」

「じゃあ、一緒にあの世に行こうね!」

「にゃにい!(なんだと)」


――それはさすがに無理じゃないのかな?


「大丈夫!パパにはともだちを連れて帰ってくるって言ったから!ちなみに神様も!早く姿を見せてよ!」


――君の目の前にいるのだが……あの世の住人でもこの世では僕の姿は見ることができないのか……。


「僕の目の前にいるのなら話が早い!三人であの世に行こう!今すぐに!」

閻魔大王の息子は両手を空に掲げると、真っ白くて暖かい光にあたりはつつまれた。

僕は頭がぼやーっとする感覚に襲われながら自然と目をつむっていた。



気が付くと、閻魔大王の目の前に立っていた。

「また会ったな、幸太郎よ。息子がお世話になったぞ」

「お世話になったぞ!」

腕組をして待っていた閻魔大王は、茶でもどうぞと大きな手を出してそう言ってきた。息子はただ素直に笑顔でお礼を言っていた。

「はあ。どうも」

「神様ってこんな姿をしていいたんだね。なんていうか…普通だ!」

「そうだにゃ!神様は、普通なお人なんですにゃ」

「ネコくん、しゃべることできるようになったんだね

「ほ,ほんとうにゃ!これでアニキともおしゃべりができるにゃ!」

この世とあの世とではいろいろと変わるんだなと思った。

「よかったね、ねこ三郎!」

「にゃあ!」

「はっはっはー!友達をついに連れて来てくれたか!これでお前も一人前だ」

この世の地族の掟のようなものでもあったのかなと思った。

「それで、僕を呼んだ理由は?」

「おお!そうであった!聞いているぞー!お主、現世では地縛霊から神様と呼ばれているほどになっているではないか!」

「なんか人のためになることをしていたら、勝手に神様と呼ばれるようになったのですよね」

「こんなにいいやつとは思ってもみなかった。それに、息子がお世話になったお礼だ。お主に現世で新しい命をくれてやろう」

「はあ、ありがとうございます」

「あまりうれしくないのか、神様よ?」

「現世での息子たちも私のことを嫌っていましたし、私のことを忘れて元気に暮らしているでしょうから、もう現世ではやり残したことはありません。ただ死に方が気に食わなかっただけで留まっているだけですよ」

「そうであったな。お主は死に方が不服だったのだよな。では、こうしよう。お主に時を渡る能力とその時で暮らせるように、もうすぐ死にそうなやつに取り付くようにできる能力をそれぞれ一回限り使えるようにしてやろう。これなら、すべてリセットされ、現世でなくても窮屈な暮らしから脱却できるかもしれぬぞ」

なんだかそっちのほうが面白そうだ。現世ではいいことが少なすぎて幸せとはなんだろうとずっと思っていた。ただ、死ぬためだけに生き返ると言うのは少し残念だが……それはそれで短い人生を全うして、幸せの意味を知ることができるかもしれない。

「分かりました。それでいいですよ!」

「では、どこの時代がいいか?」

「江戸時代の初期の江戸にとばしていただけるとうれしいです」

「あい、分かった!」

「ちょ、ちょっと!少しは心の準備やお別れの――うわー!」

「俺もかにゃ~!」

閻魔大王が片手を僕に向けて、何かを放つとあたりは真っ白な暖かい光につつまれ、あの世に来た時と同じように頭がぼやーっとする感覚に襲われて、僕は自然と目を瞑っていた。



――というわけだ。その時に僕は君とお兄さんに会ったことがあるんだ。


「ここに薬草を取りにアニキと一緒に来たことがあったんだ!姉さんを救うために!そして、その子と一緒にもきたことがあったけど……まさか閻魔大王の息子だったなんて…もっと仲良くしていれば神様みたいな能力が身についていたのかもしれない」


――そうかもね。それで、きみは…


「話の続きは?」


――へっ?


「だって、それから江戸時代にタイムスリップしたんでしょ?なんで今もこの時代にいるの?」


――そういえば、そうだな。せっかくだから話してやろうか。



目を開けると、そこは見慣れない風景が広がっていた。自動車が走っていない。ビルが建っていない。服装が時代劇のようである。僕がいた時代と違うところを数えてもきりがないくらい、時代ががらりと変わっていることが窺える。


――おーこれが花の大江戸と呼ばれた時代か!まだまだ発展していない国ってなんだか興奮するなー!これから先の未来がガラッと変わることはここにいる僕しかしらないんだよね。それだけでもなんか得した気分だよ。


「にゃー!(そうだにゃ!)」


――ネコくん、君も来たんだね?しかもしゃべれなくなっているし、実体があるままだし。


「にゃあにゃ!にゃーにゃ?(おれもびっくりだにゃ!これからどうするにゃ?)」


――とりあえず、死にそうな人を探さなくちゃいけないのだけど、どう探せばいいのか…。


「にゃ!(まかせろにゃ!)」

ネコくんがそういうと、軽快に建屋の上にのぼり、「にゃー」と、甲高い声で泣いてみせた。


「にゃあ!(みつけたにゃ!)」

と、今度は建屋から大きくジャンプして、隣の建屋にトントンと飛び移っていった。

そして、一人の剣客目がけて全力で体当たりをした。どうやら、ネコくんは僕に死にそうな人を分かりやすく教えてくれたらしい。でも、さっきの甲高い泣き声と死ぬ間際の人を探すこととのつながりはなんだろうか?

「いってえ!何をするんだ!」

剣客はさっと振り返ったが時すでに遅し、ネコくんはもう建屋の上で背伸びをして毛繕いを始めていた。

「ん?さっきのはなんだったんだ?まあ、いいか」

そういって、剣客は何事もなかったかのようにまた歩き始めた。

「にゃあ!(すぐに後をつけろ!)」


――分かった!


すると、

「お主に恨みはないが…ここで切る!」

「な、なんだと!私も侮られたものよのう!切られるのはお主の方だ!」

目の前で本気の殺し合いが始まった。江戸の時代って、こんなにも簡単に人の命を落としに来ようとする人もいるのだなと、おどおどしながら思った。

「ま、まいった私の負けだ!南無三!」

「言い残すことはないな?」

「早く切れ!ぐわー!」

「キャー!」

「人殺しよ!」

血しぶきであたりは赤く染まり、通行人の人たちも僕と同じでおどおどしているかと思いきや…

「やれーもっとやれー!」

「一気にザクッと」

切られた人が小さなプラカードを掲げ、見物人にウインクで合図をしていた。「笑え」と。そのプラカードを見物人が見て、みるみるうちに笑顔になって、ただの見物人から野次馬と変貌していった。


――えっと、プラカードには…なんて書いてあるんだ?


この時代の文字は、変体している文字ばかりで何をかいているのか読み辛い。

「にゃあにゃあ、にゃあにゃーお!(なになに…要約すると、「すべて演技です。楽しんでいってください」って書いてあるにゃ!)」

これはすごい、なんとこの時代にもパフォーマンス集団があったなんて思いもしなかった。文字の読めるネコもすごいけれど、なぜだか僕はそこだけには触れないでいた。

そんなことを考えているうちに、死んだふりをしていた人がむくっと起き上がるなりこう言った。

「なんで誰も助けてくれへんの?」

「「はーっはっはっはっはー!」」

その一言で、どっと笑いが起き、一時の殺伐していた雰囲気が嘘のように変わっていた。僕には笑いのツボが分からなかったが、娯楽に飢えているこの時代ならではの一発ギャグというものであるのかもしれない。


――ネコくんあの人がどうしたの?


「にゃあにゃ(もうすぐ死ぬ)」

確かに今殺されたけど…演技なんだよね?あんなに元気な声で爆笑を引き起こした人がもうすぐ死ぬなんて誰も思いもしない。

だけど、なんか背中のあたりがざわざわする。地縛霊になってから妙に感が鋭くなったようになり、この症状は人が死ぬ時に体験したことがある感覚だ。

「にゃあ!にゃ!(今のタイミングだ!行け!)」

と、僕が霊体であるのにも関わらず、背中を蹴りつけたネコくん。ドンッと力強い懐かしい衝撃が僕の背中に集中する。ネコくんの蹴りは僕にクリーンヒットしたのだ。

ネコくんの様子がいつもと違う。何かに取りつかれたように、普段の気ままなネコくんではないようだ。


――うわー!どいてくれー!


建屋の屋根から蹴飛ばされ、まっすぐこれから死ぬ人の先へと向かって行く。

笑顔で道行く人と触れ合っているあの人の元へ、徐々に距離が縮まっていき…


しゅううううううう


「あららっ…」

僕が少し触れると、あの人は少しバランスを崩し、そのままパタリとその場に倒れた。

そして、僕の身体があの人の身体へと吸収されていく。もしかしたら同化している状態なのかもしれない。


あれ?ここはどこだ?…お前は誰だ?


――僕は嵐山幸太郎。ここは君の心の中かな。僕は、君の体を乗っ取りに来た侵略者だよ。


そうか。


――驚かないのかい?


よく分からないだけだ。


――僕もよく分からないのだけどね。ただ言ってみたかっただけだよ。


そうか。それで、何用だ?俺の夢の中に入ってきて。


――夢じゃないけど……まあ、いっか。君の名は?


俺の名は田中三郎太だ。一応、剣客を目指して日夜奮闘中だ。


――すごいね。強いんだね。


強くはない!さっきだって負けていただろ!


――あれは演技だったんでしょ?


演技中でも本気でぶつかっていく…それが武士道に在らず!


――そうですか……。三郎太さん、もうすぐ死ぬって本当ですか?


なぜ知っている?先刻、俺は不治の病に侵されていると言われたばかりだぞ!貴様、俺を迎えに来た死神なのか?


――そうでもあるし、そうでもないような気がする。


そうか!では、ここで成敗いたす!


――まてまてまて…ここは君の心の中だから、僕を殺すことはできないし、僕は君を助けに来たんだよ!


そうなのか?それを早く言え!では、お主の言うとおりにしようではないか。


――やっと話が通じた。それじゃあ、すこしのあいだ、君の体を借りるね。


お、おう!


上手く説得できたのは良いことだが、突然すぎる出来事の連続で僕が今していることがすごく超常的なことであると気付くのはちょっと先の話である。


「おい!大丈夫か?」

目を開けると、さっき切りかかっていた人が僕の介抱をしていた。手や足に目線を移し、透けていないか確認してみる。どうやら同化は無事に終わったみたいだ。

この時の僕は「この時代の返答はどう言えばいいのか」だけの疑問が頭の中をぐるぐると回り、気を焦らせていた。

そして、とっさに考え付いた答えが…

「だ、大丈夫でござるよ!」

「「だーっはっはっはっはー!」」

思いもよらぬ受け答えに、心配してくれていた野次馬の人たちをまたもや爆笑の渦へと誘った。

「はははっ。よい受け答えだったぞ!では、帰るとするか三郎太」

この人の名前は三郎太。これからお世話になる名前。これから僕のことを二度と幸太郎と呼ぶことはないだろう。そう考えただけで、自然と涙が出ていた。

「どうした?泣いているのか?」

血のりをべったりとつけて心配してくれる彼の傍にいた人。汚れているのも気にせず、友達のことを気に掛けている。きっと、この二人はお互いを信頼しあっていたのだろう。友情って素晴らしい。

「大丈夫、さあ、帰るでござるよ!」

「もう、その言葉は使わなくていいんじゃないか?」



三郎太の身体に入ってから十日が経過した。

「この身体にもやっと慣れて来たよ」

「にゃーにゃ!(よかったな!)」


――俺もこの身体にやっと慣れて来たよ。霊体ってのもなかなかいいもんだな。


一番の驚きは、僕が三郎太の身体に入ったことで、僕と入れ替わりで三郎太が霊体になってしまったことだ。本人も喜んでいるので、なぜどうしてこうなったのかを追及することはしないでおこう。

改めて、僕の名前は田中三郎太。剣客をめざし、日夜稽古に励んでいた。年齢は22歳で僕と同じ年。僕の友人の名前は田中一郎。苗字が同じ同士、自然と仲がよくなったらしい。二人は、現代でいう路上パフォーマンスで生計を立てており、江戸の下町では知らない者はいないというほど、名の知れたパフォーマンス集団であるという。

「おう、今日の調子はどうだい?」

「ぼちぼちかな。まだ記憶が曖昧だけどで、ござる」

あれから僕は記憶が無くなったふりをしている。覚えることがめんどくさいという理由が一番で、大切な存在である一郎には寂しい思いをしてもらいたくないという霊体の三郎太の意思でもある。

まあ僕には霊体の三郎太の声が聞こえるから、あまり苦労はしないのだけどね。

「さあ、今日はどうしようか?」

「今日は少し変わった趣旨で言ってみようで、ござる」

「どんな風に変えるんだい?」

「こういうのはどうだろう。僕が使っている「ござる」を広めるんだで、ござる」

「へー。少し面白そうでござるな」

「きっと、みんなが使っていたら面白くなるで、ござるよ」

「そうでござるな」

「ござるよ」

一郎と三郎太がこのようなパフォーマンスをするようになった理由は、現代風に語ると、二人が生まれ育った田舎では、来る日も来る日も仕事ばかり。

まるで、百姓の懐をうるわせるためだけに生きているようで、子どもたち以上に働いて毎晩疲れて帰ってくる両親の姿を見て「僕たちに他にできることがないか」と、考えるようになった。

そして、お金を持っている人のところに出向き、パフォーマンスを行い、お金を稼ぐという手法が出来上がった。はじめはパフォーマンス集団の子ども達の両親のためだけにお金を稼いでいた。

それから徐々に人の目に触れるところに場所を変え、より多くのお金を得られるようになると、貧しい人たちにお金を配る義賊的な団体へと変わっていた。

人数も増え始め軌道に乗ったところで、運悪く一揆によって子ども達の大多数は命を落としてしまう。

生き残ったのは一郎と三郎太だけという悲しい現実だった。

その後、巷には庶民でも娯楽やお芝居も見ることができるところが増え始め、パフォーマンス集団のことは忘れ去られ、彼らの功績はただの思い出に変わっていった。そして現在、小規模だが活動は現在進行形で行われている。

「それじゃあ、始めるとしますかで、ござる」

「そうでござるな」

町の広場に移動して計画を実行する。

「そうでござるとしか言っていないで、ござるな」

「そんなことないでござるよ」

「ござる」

「ござる」

「ござる」

「ござる」

「ござる」

「ござる」

「ござる」

「ござる」

そして、いろんなところでござるを言いふらした僕と一郎は満足感で胸がいっぱいだった。



――まあこんなこともして、いろいろあって、またこの世のこの時間軸に戻ってきたのだよ。地縛霊として。


「なに!すごく面白い話なんだけど!もっと続きが聞きたい!」


――もっとはなしたいけど、もうダメみたいだ。


「まもるくーん!どこにいるのー!」

「本当だ。じゃあ、また今度話の続きを聞かせてね」


――ああ約束するよ。


「あっ、そうだ!神様。少し髪の毛が伸びすぎているみたい。切った方がいいかもね。ばいばーい!」


――不思議な子だったね。


「にゃあにゃ(幸太郎の姿もみえていたようだしな)」


――あの子……もしかして、一度死んだことがあるのかも。


「にゃあ。にゃあにゃーお(そうかもな。それか、死人かだな)」


――なんにせよ、これからはもっと注意してあの子を見てみるとしようか。


「にゃ(違うにゃ)」


――そうだね。あの子じゃなくて、あの兄弟をだね


「にゃお、にゃおにゃお!(それに、あの事件のこともきになるしな)」


――そうだね。気を引き締めていかないと。



「ごめーん!ちょっと道に迷っていたんだ。君の大きな声でやっと行き先が分かったよ。ありがとう!」

「ふふっ。いいえ。それじゃあ、ごはんにしようか」

「そうしよう!」

青い空に白い雲。晴天に恵まれた日はどこかに出かけることが何より大事。あの交通事故からしばらく引きこもっていた守にとって、こんなにもこの星が素晴らしいと思えるようになったのは、すべては姉と兄そして、愛が外へと連れ出してくれたおかげだろう。

「幸せな日々が一生続くといいなあ」

守は幸せな日々を一生守っていくと心の中で誓った。



「姉さん。この前の件はどうなっているの?」

「ああ、あれはもう大丈夫よ。あれからそんなに付きまとわれていないでしょ?」

「うん。まだ僕らを見張っている人は何人かいるけど」

「その情報はまだつかめてないのよ。もう少し時間を頂戴」

「分かった。で、今日の依頼は?」

ヒカリは一枚の紙を進に手渡した。

「…これはなに」?

「今日の依頼…迷子の子ネコちゃん探しよ」

ヒカリと進は探偵まがいのことを仕事にしており、収入を得ている。

簡単なもの探しから、秘密結社の破壊工作までなんでもこなす何でも屋みたいに扱われているのは気にしないでおこう。

進のメンテ代がバカにならないくらいかかってしまうから、彼らにはお金が必要なのだ。


場所は変わり依頼者の家。

「すみません。もう一度お願いします」

「だから、私のネコちゃんが秘密結社にさらわれたのよ」

「秘密結社ですか…もしかして、この前ニュースになっていませんでしたか?壊滅したって」

「ああ、そんなニュースもありましたね。でもね、私のネコちゃんは間違いなくその秘密結社にさらわれたの。私の目の前でさらったから間違いないわ。それにね――」

マシンガントークを続ける依頼者のおばさんをよそに、嘘っぽいように感じた進はヒカリと内緒話を始めた。

「(この依頼は受けたくないな)」

「(各地でもネコがいなくなっているって話でも)」

「(そうなの?うーん……仕方ないか)」

「(よろしくね)」

「あの、どこでさらわれたか教えてもらってもいいですか?」

進が警察と協力して壊滅したはずの秘密結社が復活して、今度はネコを誘拐している?いったい秘密結社とネコの関係は?


「ここです。ここで偶然知り合いに会いましてね。そこで立ち話をしていたときです。いきなり全身真っ赤の服を着ていた人が、私の散歩紐を奪ってネコちゃんをさらっていったのよ」

依頼主はネコの散歩をしているめずらしい人らしい。そこで、全身真っ赤な服を着ている人に出くわした依頼主もさぞ怖かっただろう。

「全身真っ赤?おかしいな、僕が知っている秘密結社は全身緑だったよ」

「そういえばおかしいと思っていたのよ。なぜ秘密結社にさらわれたか知っているの?」

「話は最後まで聞いてください!なぜ知っているかは、背中のところに可愛く「ひみつけっしゃ」と白く平仮名で書かれていたからなの。だから、私のネコちゃんをさらったのは、秘密結社の人に間違いないわ」

「な、なるほど」

「なるほどなのか?」

どうやら、他の秘密結社であるのかもしれない。進が壊滅したのは秘密結社ケカリフと名乗っていたはずだ。今回の秘密結社は名前も全貌も不確定だ。

「それで、その人はどこに行ったか分からないのですか?」

「そこまでは分からないの。ごめんなさい」

「分かりました。ご足労をかけました。後は私たちに任せてください」

「なるべく早くお願いね」

「努力します」

依頼者と別れ、さっそく捜索にかかる二人。キーワードとなるのは「ひみつけっしゃ」と背中に書かれた赤い服を着た人だ。

「いないね」

「作戦を考えよう!まずは二手に分かれて…」

二人は、とりあえずおとりのノラのネコを探し、そこからアジトを探し当てることにした。


「ネコ発見!今、スーパー丸井の前だよ」

「了解!今からそちらに向かう」

二人は、こういう時のためにトランシーバーを博士に作ってもらって使っている。広範囲で雑音も気にするほどなく、利便性は市販の物の数十倍、軍の物の数倍いいと博士が言っていた。

「ネコが山の方へ移動しています」

「えっ山の方?そっちには守と愛ちゃんがデートで行くって言っていたけれど…大丈夫かしら」

「まださらわれていないから、山に行くってわけではないよ」

「そうだったわね。で、今は?」

「山に向かっているよ!」

「まだ山の方に行っているのね!」

この作戦、はたして上手くいくのであろうか?


「結局山の頂上へ来てしまった。しかも守と愛ちゃんも一緒だ」

「そうね。あのネコは僕たちに気付いていて、ここに連れて来たのではないだろうか?」

「そんなわけない…とは言い切れないね」

そして、ネコは守と愛のところへのらりくらりと歩み寄っていった。

「わあ、ネコちゃんだー!可愛い!」

「おいで、おいで」

ネコは二人のことなんか気にせず悠然とトコトコと通り過ぎて行き、立ち止まったかと思うと突然


「にゃーお!」


と大きな声で泣くと…


ゴゴゴゴゴゴゴ…


ネコの前の地面が両側に開き、そこから地下へつながっているのだろうか、階段があらわれた。

ネコは、その階段を悠々と下って行った。

「な、なにこれ?なんかのアトラクション?」

「し、知らないよ。とりあえず、降りてみようか」

「私、怖いから待っておくね」

「ダメ!いつも一緒でしょ」

「もう…分かったわよ」

さすがバカップルである。

二人が階段を下っていく姿を確認して、ヒカリと進はその先に行くのか迷っていた。

「どうしようか」

「私、こういうところは苦手だなあ。だから、進、一人で行ってきて!」

「ダメ!いつも一緒だろ!」

「もう…分かったわよ」

「二人にばれないように」

さっきと似たような光景だが、バカップルではない。

彼らはただの仲の良い兄弟だ。

それ以上でもそれ以下でもない。

ただの兄弟だ。


薄暗い地下へと続く階段。壁を伝いながら下りていくと、二階建ての家くらいの大きな扉と、子どもが通れるくらいの小さな扉があった。

「大きな扉だね」

「あっ!でも、横に子どもくらいのサイズの小さな扉もあるわ!」

「大きな扉と小さな扉のちょうど真ん中に、ネコ用の穴も開いているよ!すごいねー!」

「本当だ!すごーい!」

「ここから二手に分かれよう。どっちに行きたい?」

「えー、一緒じゃないの?私、怖くて一人じゃ行けないよ」

「大丈夫。いつも、一緒だろ?」

右手の薬指にはめてある指輪を見せ、守はそう言った。

「そうね。いつも一緒よ」

愛は右手の薬指にはめてある指輪を守の指輪にあてがいながら、そう言った。

バカップルである。

「私は小さい方でいいかな。なんか大きい方は私の力では開け辛そう」

はたして、大きな扉と小さな扉の向こうには同じ光景が広がっているのだろうか?

「それじゃあ、一緒に開けようか!」

「分かった!」

「「せーの!」」


ガラガラガラ――


扉は同時に開いたと同時に

「きゃー!誰?私なんか美味しくないわよ!ちょっ、ちょっと止めてよね!」

愛の開けた小さなドアの方から悲鳴と共に愛が誰かともめ合っている声が地下一帯に広がった。


プシュー――


「あ、愛ちゃんに……なにを……す……る……んだ」

どうやらどちらの扉にも仕掛けがしてあったようで、大きい扉の方には催眠ガス。小さい扉の方には侵入者を捉える人や機械が準備してあったようだ。

その声を聞きつけ、ヒカリと進は早足で扉のあるだだっ広い部屋へと急ぐ。

「ん!この匂いは……姉さん!マスク貸して!」

「もう準備しているわ!はい、進!」

マスクを手渡したヒカリは、いつ何時でも何が起こるか分からないという理由で、持ち運びやすいサイズのあらゆるものを特注で作り、小さなカバンにコンパクトに詰め込んで持っている。

そして、あらゆる危機を乗り越えた二人は五感もだが第六感も優れており、察知する能力が格段に上がっていた。

「やっぱり一緒に行った方がよかったわね!」

「そうだね!警戒はしていたけど」

過ぎたことにはくよくよしないようにしている二人は、抜群の相性でお互いの気持ちも察し、先の行動を予測して、普段の任務は成し遂げているのだが……どうやら親しい人に対しては少し警戒が緩んでしまうようだ。

私情が挟むとボロが出るということだ。

超特急でだだっ広い部屋に着くと、進は守の元へ。ヒカリは愛の元へと急いだ。

「守!大丈夫か!」

「に、にいさん……なの?ぼ……くよ……りも……」

「愛ちゃんは今、姉さんが介抱しに行っているよ。だから、もうお前はゆっくりお休み」

「ご……め……ん。あり……が……とう」

「姉さん!愛ちゃんはどう?」

「見当たらないの!多分、この先にある、開かれている扉と関係しているのかも」

「分かった!今すぐ僕もそっちに……行こうと思ったけど、そうそう行かせてくれるはずもないか……」


ガラガラガラ……


大きな扉が閉まり、進と守は閉じ込められてしまった。そして、薄暗い部屋に明かりが灯り、

「ニャー」

っとネコ参上!そして、大量のネコが二人を包囲した。

「姉さん!一人で先に行っていてくれる?ちょっと寄り道してくるから!」

「……依頼主のネコちゃんもいるから、殺しちゃダメよ!んじゃあ、この先の部屋で待っているからね!」

「ああ!」

タッタッタッとしばらく足音が響き、ガチャンと扉が閉まる音が静かな部屋をこだまする。

「よし!あとは任せたよ、姉さん。えーっと…麻酔銃はどの指だったかな」

そう考えていると、包囲していたネコが進に飛びかかってきた。

「守…寝ていてくれてよかったよ。お前にこの姿を見せたくなかったからな」

上着を守にかけ、皮膚色の手袋を脱ぎ捨てあらわになった機械機械した進の手。

「ネコの分際でこの俺に牙を向けるなんざ100億年早いんだよ!」


ダダダダダダダ


「僕は、人以外は殺したくないんでね。あと、麻酔銃は薬指ね。覚えておこう。んーと……戦闘終了かな!」

薬指から出ている煙にふっと息をかけ、あたりを見渡す。守も、どのネコもぐっすりと眠っている。

「さあ、姉さんはどうしているかな?早く合流しよう!」

あっという間に戦闘を終え、大きな扉の先にも扉があることを見つけ、小さな扉の先とつながっているはずであろうと悟った進は、ヒカリの所へと急ぐ。


「姉さん!大丈夫か!」

「わ、私はなんとか大丈夫……よ。だけど、愛ちゃんが……愛ちゃんが……」

血まみれのヒカリの胸に抱かれているのは、ぐったりと力の抜けた愛の姿が。


愛は死んでしまった。


「急いで博士のところへ!今なら間に合うかも!」

「そ、そうね!絶望している場合じゃないわ!す、進はどうするの?」

血で濡れた袖で涙を拭き、少し血で顔が汚れてしまっているのにも関わらず、それでも他人のことを想えるヒカリは本当に優しい女性であるといえよう。

「守を外に連れ出してから、愛ちゃんを殺した犯人を捜しに行く」

「私のサポートなしで大丈夫?私も……」

「姉さんは守の傍にいてくれ!愛ちゃんのことで絶対に取り乱すと、あいつは死んでしまうかもしれない」

「わ、分かった……気を付けるのよ!」

「ああ。それと、このネコかな」

進はひょいっと一匹のネコをつかまえた。どうやら、依頼主のネコのようだ。

そして、進はサッと三人を抱え、入口に向かい、そこで三人を下ろし、また地下へと入って行った。

「進……死んじゃダメだからね……」

颯爽と去って行って姿かたちもない進の身を案じるヒカリ。薄暗い夕暮れ時に輝く一番星に願いを込めて、そうポツリとつぶやいた。


進はサイボーグになってから初めての怒りを覚えていた。学校でいじめられても、知らない人にののしられてもヒカリと守がいたから、笑顔でここまでやってこられた。二人の存在が進の生きる糧であり、守と愛の幸せな姿を見ることが最近の生きがいになっていた。


きっと、愛が怪我をしたと知ったら、守が悲しんでしまうだろう。


きっと、愛が守のせいで入院することになったら、守は落ち込んでしまうだろう。


きっと、愛が死んでしまったら守も死んでしまうだろう。


守が悲しい想いをする……そんな未来を想像したくなくて、進は戦っているのかもしれない。

進がだだっ広い部屋へと着くと、大きな扉の先で全身真っ赤な服を着ている人がネコの回収を行っていた。

進は気配を消して、そっと近づき「ひみつけっしゃ」と書かれた背中に手の指に備えている銃を構えると

「貴様!そこでなにをしている!」

と、大きな声を発することでけん制攻撃を仕掛けた。

全身真っ赤な服を着ている人はビクッと身震いし、

「ね、ネコの回収でございます!」

と、進の知っている情報しか言葉にしなかった。次の瞬間…


ドン!


鈍い音が聞こえた矢先、彼の胴体は吹っ飛び、数秒前まで生きていた彼は亡骸に変貌した。

「ちっ。もう少しまともな返答しろっての!」

どす黒い気を発し、進はもう目の前の敵をいかに早く殺そうかと思うことしかできていなかった。

「何事だ!」

さっきの銃声を聞きつけた「ひみつけっしゃ」の団員がぞろぞろとやってきた。

その瞬間、


ドーン!ドーン!


両手のひらからロケット弾を発射させた進は、「ひみつけっしゃ」の増援も一気に壊滅させた。

「親玉!出てきやがれ!早く僕に殺させろ!」

誰も手の付けられないモードに突入した進は、先の扉のそのまた先の扉へと歩みを進めた。


ドン!


扉を壊して入った先には全身真っ赤な服を着ている人にマントを携え、いかにも親玉だろうと思われる人が椅子に座って待ち構えていた。

「いったい、こんな時間に誰が来たんだ!ドアも普通に開けられない奴だから、普通な奴な訳ないか!はーはっはっ!あっ…」

親玉が笑っている隙をついて、親玉の首根っこをつかみ上げた進。

「お前が親玉か!」

「い、いかにもわ、ワタクシがこ、この秘密結社セヨワシのり、リーダーだ!な、何用だ!」

「分かった。もうしゃべるな!僕は貴様を殺しに来たのだからな!そういや、まだあいさつをしていなかったな。こんにちは。いや、もうこんばんはか。はーはっはっは!そして――さよならだ!」


ぐちゃり!


骨を砕く音があたりに響き渡り、秘密結社セヨワシの親玉は死んだ。そして、秘密結社セヨワシの壊滅だ。

秘密結社セヨワシはネコが絶滅してしまった多次元の世界からこの世界にたどり着き、世界をネコだけの世界に変える「世界ネコ化計画」を世界征服のスローガンにして、意気揚々と活動をしていたのだが、運悪く秘密結社セヨワシの最初の仕事の世界征服の日が、秘密結社セヨワシの最後の日となってしまった。非常に残念だ。



「愛ちゃんの様子はどう?」

「なんとか落ち着いたところよ。進の方はもう終わったの?」

「うん。もう壊滅してきたから大丈夫!」

たった数十分で秘密結社を壊滅してきたのだから、進はもしかしたら、神にでも悪魔にでもなれる存在なのかもしれない。そう思ってしまったヒカリは怖くなり、この言葉を口にしないで忘れることに決めた。

「そして…ほら、依頼のネコも連れ戻して来たから、報酬もたっぷり貰って来たよ!これで、愛ちゃんの手術費の足しになってくれるかな?」

「だ、大丈夫。十分足りるよ。だから、あとは私に任せてあなたはもう休んでなさい」

「分かったよ、姉さん」

その日、世界を救った?進はまだ何も知らない。

愛が助からなかったことを。

そして、愛がサイボーグになってしまったことを。。


僕の生きる糧は家族だ

毎日のように顔を合わせても

異常に好かれていても

例え嫌われていても

僕は家族が大好きだ

ケンカをしたって

ありがとうと言ったって

死んでしまっても

その関係は変わらない

だってそれが家族というものだから


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