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魔道の果て  作者: 桂慈朗
第3章 魔道の価値
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(6)燈る復讐の炎

「奴は我々を謀っていたのです!」

 レオパルド王子は、日本語とは明らかに異なる言葉でユリアナ王女に向かって力説していた。

「どういう意味じゃ?」

 ユリアナは、冷静に務めて聞き返す。

 レオパルドがこれほどまでに自分の主張をユリアナにぶつけてきたことはこれまでなかった。

 どちらかと言えば、ユリアナの後をついてくるというのが彼の姿勢だったのだ。


「姉上は騙されております。カズキはアレクサンダラスを殺すつもりなど最初からないのです! 自らが魔法を身につけるべく、我々にはアレクサンダラスを遠ざけていたではないですか!」

 その感覚は、ユリアナも感じていなかったわけでは無い。

 アレクサンダラスのことを考えれば打つべき仇であるのは間違いないが、この世界に来て様々な未知の技術や文化に触れることで、ユリアナには大きな心境の変化が訪れていたのも事実である。

「確かにそうじゃが、カズキの言うことにも理があった。アレクサンダラスを先に殺せば、我々は元の世界には帰れなくなってしまう。」


 レオパルドはまっすぐな目でユリアナを見つめ続ける。

 彼もこの世界に来て成長したのかもしれない。

 どことなく頼もしさが増した気はしなくもない。子供から変化が始まっているのであろう。

「姉上は、敵討ちと元の世界に帰ることと、どちらが大事なのですか!」

「それは敵討ちに決まっておる!」

「では、それにも関わらず元の世界に帰るという小さな希望のために、すぐそばにいるあ奴を生かし続けられるおつもりか!」

「いや、それは。。。」

「アレクサンダラスを討ち果たすのは我々の本望。それを目の前にしながら指をくわえて、姉上は腑抜けになられたか!?」

「無礼だぞ! レオ。」

「無礼は承知の上です。アレクサンダラスを討つ。それが最大で全ての目的ではないですか。何を悩む必要がありましょうぞ。そもそも私どもは、かの憎き敵の姿をモニタという幻の姿として見ただけですぞ。会うことすら叶わない。それでカズキが私どもを手助けなどどうして言えましょうか。」


 レオパルドが主張していることは、ユリアナも既に幾度となく考えたことである。

 そして、結論は出ていない。

 今自分たちがすべきことは敵を討つことなのか、それともこの世界の技術をサラゴニアに戻って活かし、加えて王不在の中で混乱しているであろうバッテンブルク家の復興を果たす。

 ユリアナには、まだこの世界の技術というものが十分理解できてはいないが、もしカズキを一緒に連れていければそれも叶うのではないかと漠然と考えていた。


「おまえの言い分もわからぬではない。しかし父と母なき今、国を立て直すのも我々の重要な仕事ではないか。それにも心を配ることこそ、王家に連なる者の努めであろう。」

「姉上は事態を甘く考えすぎです。カズキは魔法の教えをアレクサンダラスに請うています。この世界の輩に魔法が使えるとは思いませんが、それこそがアレクサンダラスの野望を助けようとする証拠ではありませんか。」


 レオパルドは、カズキを快く思っていないようだ。

 ユリアナも最初は確かにそうであった。

 下賤の者と思っていたし、慇懃無礼な態度が癇に障ったりもした。

 しかし、念話の相手を主にカズキとサエコに限っていたこともあったかもしれないが、接していくにつれカズキは真正直な性格なのだろうと思うに至った。


 探究心には貪欲だが、他人を気遣わないわけでは無い。

 むしろ、サエコが言うには恥ずかしさを誤魔化すために連れない態度を取っていると言う。

 それが本当かどうかはわからないが、根の部分は子供なのではないかと感じ始めていた。


 カズキには伝えていないが、ユリアナとカズキは同じ年齢だったこともサエコの話で分かっている。

 そして、カズキは何も考えていないわけでは無いことも。

「カズキの考えや行動に、わからない部分があるのはおまえの言う通りじゃ。」

「それだけじゃありません。アレクサンダラスを拘束しているのであれば、最悪私どもを先に元の世界に返すこともできるでしょう。アレクサンダラスのやろうとしていることに、カズキが賛同しているからこそ今の状態があるとは思いませんか。だとすれば、カズキはアレクサンダラスのみを元の世界に戻し、私どもをこの世界に放置しようとしている。」

「それは考えすぎではないか。」

「こう考えた理由は、アンザイがそれを教えてくれたからです。カズキは最初からアレクサンダラスから魔法を学ぶことが目的の全てなのです。」

「まさか。アンザイ、、あいつこそ信用ならん奴じゃろう。」

「アンザイは私に対して非常に協力的です。」


 音もなく、二人の会話に割り込むように安西が日本語ではない言葉で話しかけた。

「オハナシチュウ、シツレイ。」

 ユリアナ王女は驚いたように反応したが、レオパルドが安西の事を信じているということもあり、気を取り直して彼の目を強く睨む。

「お前、妾たちの言葉を話せるのか。」

「スコシ、ダケデス。」

「いつの間に覚えた?」

「ゴメンナサイ。マダ、カイワデキナイ。」

 そう言うと、安西は右手を差し出した。

 意味を即座に理解したユリアナではあったが、躊躇するように安西の目を再び睨みつけ、そして小さな溜息と共に目を反らせて安西の手を取った。


『ありがとうございます。助かります。』

『無用なやりとりは必要ない。これはどう言うことじゃ?』

『ご覧の通り、私達はレオパルド王子に助力を差し上げようとしております。』

『建前など良い。狙いは何じゃ?』

『これは、私はどうやら王女様に嫌われているようだ。』

『お前は信用ならん。』

『一紀様もなかなか食わせ物のはずですが、いつの間に王女様を手名付けられたか。』

『別にカズキになびいている訳ではない。ただ、お前よりはあ奴の方が奸計を用いる事も少ないじゃろう。』

『おやおや、やはり私はかなり警戒されているようだ。』

『戯れ言はもう良い! お前の目的は何じゃ? 申せ!』

『この際ですから、一度王女様ともしっかりとお話しをと思いましたが、とりつく島もないようですな。では、私どもの目的をお話しさせていただきましょう。』


 しばらく念話による安西の説明が続くが、王女は無表情にその話を頭の中に受け止めていた。

 騙されまいと言う意思のようなものがあるようにも見える。

『何だと! そんな戯言信じられるか!』

『いえ、一紀様には危険が迫っておりました。それを保護しようというのが今回の計画です。』

『その話は明らかにおかしいぞ。ならば、なぜカズキを捉えようとしたのじゃ。きちんと状況を説明すれば、カズキもお前に協力するじゃろうに。』

『あなたは、一紀さまのことをまだ理解されていらっしゃらない。あの方が、本当に私の言うことを聞くと思いますか? 私が無用な話をすれば、自分の力で撃退しようと新たな策を練る。そう言う人なんですよ。』

『ならば問うが、カズキを救おうということはレオパルドに言っていることとは矛盾せんのか。我が仇であるアレクサンダラスを我々に手渡すつもりがあるのか?』

『そうですね。私どもとしてはアレクサンダラスの持つ魔法にも確かに興味はありますが、それ以上に一紀さまが魔法の取得にかまけて自らの力を発揮されないのが問題なのです。王子には、お守りすることと王女様もお救いすることは伝えましたが、それ以上は何も言っていないはずですが、どのように勘違いされたのでしょう。』

 王女と手を触れたままだが、安西はいつものポーズを軽く取った。


『謀っても無駄だぞ。レオパルドに聞けばお前が何を言っていたかは容易にわかる。』

『どうぞご自由に。ただ、レオパルド王子はあまり言葉が通じませんので、そもそも謀をすること自体が無理かと思いますが。』

 ユリアナは少し考え込んだ。

『カズキは妾を裏切っておるのか?』

『別に裏切っているわけではありませんが、一紀さまは王女や王子に人殺しをさせたくないのですよ。だから、アレクサンダラスをあなた方に殺させることはない。』

『最初からそう考えておったのか。』

『そうですね。魔法の存在を認識してからは。』

『そうなのか。』

『一紀さまなりの優しさだと考えてはいただけませんか。』

『容易に割り切れるものではない。』


『では、アレクサンダラスはこの世界で何をしようとしているのじゃ?』

『向こうの世界で役立つ技術を得ようとしているようです。』

『役立つ?』

『アレクサンダラスは一紀さまを通じてでしかこちらと接触をしません。ですからあくまで推測に過ぎませんが、人々が地下に住むための方法を研究しているのではないかと考えています。』

『いったい何のために?』


 ユリアナはあまりの意外な内容に、念話と同時につぶやいてしまったようだ。

「姉上、どうされましたか?」

 控えていたレオパルドが口を挟む。

「すまぬ。アレクサンダラスがしようとしていたことについて、安西から話を聞いたのじゃ。お前は既に聞き及んでおるか?」

「憎い敵のすることに、どうして気など配りましょうぞ。」

「そうじゃな。」

 やはりレオパルドはまだ幼い。

 おそらく、アレクサンダラスを倒すという一念を強く抱くことによって、今の自分の不安な気持ちを誤魔化しているのであろう。


『なぜそのようなものが必要なのじゃ?』

『さすがにそこまではわかりかねますが、向こうの世界で必要になっているのではないのですか?』

『皆目見当がつかぬ。確かに奴は世界を支配しようとしていたと聞く。しかし、世界を支配するのであれば地下に住む必要などあるまい。あるいは捉えた王族を地下に幽閉するためか?』

『アレクサンダラスが世界を支配しようとしていたことは伺いましたが、それは本当なのですか? 私には、今ここで彼がやっていることからは、そのような想像がつきません。』

『それは間違いない。そして我が父と母を殺したのは間違いなくあ奴じゃ!』

『しかし、アレクサンダラスはこの世界に逃げてきた。世界を支配しようとする野望は潰えたのですね。』

『最終的にどうなったかはわからぬ。奴の弟子たちが支配している国がまだ残っていたと聞く。』

『では伺いたいのですが、アレクサンダラスはなぜ世界を手に入れようとしたのでしょうか?

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