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魔道の果て  作者: 桂慈朗
第2章 美しき復讐者
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(25)王女の説得

 一紀がまだ完全にアレクサンダラスを信用したわけでは無い。

 ただ、それを言えばお互い様であろう。少なくとも好条件は提示したはずだ。

 王女からの追求を一紀が抑えて、元の世界に帰るための手助けをするというのだ。

 しかも、なぜかアレクサンダラスは一紀に魔法を教えると言い出した。

 本心がどこにあるのかはわからないが、用心しながらも接触を続けるだけの価値はある。

 元々、そのために探し出し近づいたのだから。


 あとは、王女をどのように説得するかである。

 一応プランは用意しているが、こちらに割く時間があまりなかったことから、やや適当な方法になっている。

 果たして丸め込めるか?

 そのための口裏合わせは既に魔導師と行っている。

 プランを提示した時には、交渉における戦略と比べてあまりに不出来な内容に苦笑されもした。

 ただ、代替案が出せなかったこともあってやむを得ずである。


  ◆


『どういうことじゃ。アレクサンダラスは捕縛したのであろう。』

『正しく言えば、捕縛ではなくこちらの監視下に置いたというところです。』

『どうちがうのじゃ?』

『アレクサンダラスの魔法を聞き出すためには、奴の口を開かさなければなりません。しかし、その秘密をアレクサンダラスのみが握っている以上、こちらも一定以上の拷問等はできないのです。』

『しかし、では妾らが奴に合えない理由は何じゃ! それこそ、奴をすぐに殺せなくとも、唾の一つも吐きかけてやろうぞ!』

『ですから、ユリアナ王女とレオパルド王子が無事帰還いただくためには、奴から私が魔法を学ばねばならんのです。』


『カズキ、それは一体どういうことじゃ?』

『私がアレクサンダラスを問い詰めて聞きだしたことによれば、転移の魔法は本来一人を送るのが精いっぱいのものだそうなのです。偶然巻き込まれる形でお二人がこちらに世界に来ることになりましたが、本当に三人が来れたのは奇跡だと言っておりました。』

『本当なのか?』

『こればかりは、調べる術はありません。』

『あ奴の方便ではないか?』

『ただ、アレクサンダラスは私に転移の魔法を伝授すると言いました。ですから習得するまでは奴を謀り、魔法を得てから仇をお打ちください。そうすれば、私が王女殿下と王子殿下を向こうの世界にお送りいたします。』

『どのくらいかかるのじゃ?』

『何にでしょうか?』

『カズキ、お前が転移の魔法を習得するまでにかかる時間じゃ。』

『正直判りません。私は魔法など使ったこともありませんので。ただ、王女殿下のためにも最大限努力する所存です。』

『むぅ。。』


『現状は上手く言いくるめて、アレクサンダラスは私のことを信用しております。そもそも、奴が逃げずにとどまっているのはこの地で手に入れたいものがあるため。それを私が抑えました故、奴が逃げ出すことはありません。』

『じゃが、妾は仇を打てるのなら元の世界に戻れなくてもよいのじゃ! なんとかならぬか。』

『いえ、王女殿下と王子殿下は元の世界に戻られるのが道理でしょう。それは曲げられません。ですから今取るべきは唯一の方法は、私が奴から魔法の伝授を受けることです。』

『ああああ、口惜しい!』

『ご憤慨は十分承知しております。ただ、今しばらくのご猶予を。』

『カズキ! お前はどうも妾の思い取りには動かぬな。』

『申し訳ございません。』

『では、奴に妾と王子を転移させれば。。』

『それでは、仇が打てません。』

『そうか。うぬぬ。』


 王女との問答は1時間にも及んだが、最後は不承不承納得した形となっている。

 問題は、王女がレオパルド王子にその旨を伝えた時であった。

 王子が幾度かの口論の後いきなり憤慨し、一紀のところに近づいてきた。

 王女も向こうの言葉で何かを叫びながら、その後を追いかけようとしたようだが、それより先に応じに触れられた一紀の体が炎に包まれた。

 さすがに予想外の出来事で、一紀の頭は回らない。

 これではかつての大川と同じ状態である。

 なぜか迫ってくる王子の目を見た時に、一瞬動きを止めてしまったため、容易に触れられてしまったのだ。


(これは厳しい。。)


 体が焼けるというのがこれほど恐ろしいものだとは思わなかった。

 どこか現実的ではないというイメージがあったからだろうか。

 ただ、それにも関わらず頭の芯が妙に冷静なのである。

 火を消さなければと考え、直ぐに浴室に向けて動き出そうとする。

 最も、炎の勢いは前回よりは弱かったようで、王子は控えていた安西に素早く取り押さえられ、駆け付けた水橋が直ぐにソファーのカバーで消し止めてくれたようだ。

 王女が青ざめた顔で、治癒魔法をかけてくれているのがわかる。

 痛みと焦燥感が体中を覆っているのだが、なぜか体の中心より暖かい感覚が広がっていく。

 そして、全身の細胞が活性化していくのを感じた。


(これが治癒魔法なのか。良く考えれば、もっと早く試してもらっていればよかったな。)


 王女は涙をこぼしながら、何かを唱えている。

 それが呪文なのか別の言葉なのか最初はわからなかったが、次に一紀の頬に両手を触れて再び力を終えたのを意識した時にわかった。

『死んじゃダメ!』


(これくらいで死ぬはずもない。もう、治癒魔法も掛けてもらっているし。)


 そう考えたが、念話を通じて返すのは止めておいた。


  ◆


「嫉妬でしょうかね。」

「なんだそれは。」

 自室のベッドに横になっているとき、安西が話しかけてきた。

 直ぐに治癒魔法をかけてもらったこと、その上で王女がずっと魔法をかけ続けたことにより、ダメージは大したことはない。

「王子の事ですよ。姉を取られると思ったんじゃないですかね。」

「そんなものか?一緒に元の世界に返してやると伝えたはずだぞ。」


 今、王女は疲れ果てて自分の部屋で眠っている。

 今日は紗江子はいないので、児島がこれは部屋に閉じ込めている王子を監視し、水橋が王女の面倒を見ている。


「返すつもりもないのに、良く言いますね。」

「まあ、嘘も方便だ。」

「結末はどうするつもりなんですか?」

「大魔導師には逃げられ、俺が教えられた魔法は偽物だった。ってところだろう。」

「それで2年引き延ばせますかね?」

「王女は何とかできるかもしれんが、王子の方はどうかな?」

「まあ、そちらは私が面倒を見ましょう。」

「お前が?」

「なんとなく、あの王子は憎めないのですよ。」

「俺にこんな事したくせにか。」

「ご冗談を。気にしてないでしょうに。ひょっとしたら、わざと受けたんじゃないかとすら私は考えていますけどね。」

「わざとではないがな。ああ、魔法を自分で体験したのは初めてだ。予想以上に興味深かった。」

「やはり、そう考えていると思いました。」

「お前に言われると腹が立つぞ。」

「いやいや、王女は今度のことで当分強く言えないでしょうし、王子は王女の怒りを受けて落ち込んでいましたからね。」


「しかし、やはり魔法とは凄いものだな。」

「ええ、既に何度か見たとは言っても、これだけ目の当たりにすると力が欲しくなりますな。」

「さて、魔導師は俺に魔法を教えると言っている。それは理論や構成原理なのか、それとも魔法実技だろうか。」

「さあ、魔導師が一紀さまになんと伝えたかは私にはわかりません。ただ、推測で言えば見込まれたのでしょう。那須さまの時と同じだと思いますよ。」

「見込み違いだったじゃないか。紗江子さんはそれで押しかけてきたけど、未だ全く敵いもしない。」

「さて、どうでしょうか?」

 安西は、今回もいつものポーズを見せた。


「まあ、次は紗江子さんに絞め殺されないよう、ご注意ください。」

「おい、どういう意味だ。」

「冗談ですよ。」


 まだ、若干皮膚が引きつっている感じがする。

 ただ、やけどにより生れた皮膚表面のかさぶたが一気にはがれ、その下にはもう次の健全な皮膚が生まれていた。

 成長を促進する魔法の原理とは、一体何なんだろうか。

 それを考え始めると没頭しそうになる。

 ただ、考えなければならないこともやらなければならないことも多い。

 今は、魔法に関する思考は置いておき、体の復活を期すべきだろう。


  ◆


 あれから、王子は大人しくなった。

 というか、表情をあまり示さなくなっている。

 紗江子さんに弄られた時には少し表情も見せるが、少なくとも一紀の前では表情を見せることはない。

 一方の王女の方は、むしろ一紀に近づきたがるようになった。

 必要以上のスキンシップを求めてくるのだ。

 王子の一件を気にしているのだろうが、一紀が気にしていないと伝えても、行動が収まることはない。

 そして、どこにでもついて行きたがる。


 アレクサンダラスとの心理戦は今は棚にあげられているので、王女に危険が及ぶ可能性は低い。

 というか、テレビ出演はその後止めたのだが、ネット上で人気が沸騰し変装しないと外出させられないという状況になっている。

 まあ、紗江子さんがそれすら楽しんで遊んでくれているようだからいいのだが、王女は一紀も一緒に行けと言ってくるのが少々煩わしい。

 今はしなければならないことが多すぎる。


 それもあって、王女と王子にはまず語学教師を付けることにした。

 本人たちには元の世界に戻すと言っているが、実際にはこの世界で生きていく必要があるのだ。

 まずは言葉、そして常識。

 一紀が扶養するとしてもそれは身につけてもらわなければならない。


 しかし、なぜ紗江子さんが語学教師をしているのか。

 一紀は別の教師を宛がったはずなのだが。どちらにしても、王女たちには最終的にはこちらの学校に通うことを目標としている。

 社会に溶け込むことが何より重要だろう。

 しかも、怪しまれずにと言うのが理想なのだ。


 一紀の方は、逆に学校にはほとんど通えなくなってしまった。

 祖父の遺言ではあるが、アレクの魔法修行が冗談ではなく厳しいのだ。

 もっとも、現時点で魔法が使える兆しは全くない。

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