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魔道の果て  作者: 桂慈朗
第2章 美しき復讐者
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(24)交渉と誤算

 交渉場所には、かなり戦闘的な匂いのする男性と王女と王子を模した偽物が入って来た。

 美鈴が用意した監視カメラや録音機がこの音楽ホールには準備されている。

 交渉する姿勢を見せながらも、相手の情報を得ることに対しては準備を怠らない。


 美鈴の猛烈な反対により、王女たちを全て殺すということについては半ばあきらめたアレクである。

 それでも、本心ではこの世界の武器であれどアレクを傷つけられるとは思っていない。

 元の世界と比べれば大きな集中力が必要とはなるものの、アレクは常時自分の周囲に防御魔法を纏うことができる。

 神官たちが作る障壁と同じ原理だが、範囲は狭くその代り強力である。

 狭いとはいえ、傍らにいる美鈴を覆うことは十分可能だ。


 加えて転移魔法を用いて一気に建物外まで飛ぶこともできる。

 さらに警戒魔法で周囲の状況もわかる。

 いくら技術が優れたこの世界でも、アレクを傷つけたり拘束したりできるとは思えなかった。


 また、建物の周りにも、美鈴が準備した人間が張り付いている。

 彼らはアレクが見る限り専門家ではなさそうだが、最悪逃げる時の混乱程度は生じさせてくれるだろう。

 また、相手方が多人数を配置してきた時には、そこでのイザコザで状況が確認可能だ。


「あなた方がユリアナ財団を名乗っている人たちですか。」

「もちろんそうでなければここには来ていません。」

 美鈴の問いかけに、安西が答える。

 アレクは、これまた深いフードをかぶりながら、美鈴の左手を握っている。

 ある程度の言葉はわかるが、全体の意味を把握するには不足であり、美鈴の中継を経ていた。


「では、先に言っておきましょう。その偽物たちに価値はないですよ。」


  ◆


 安西が楽しそうに首をすくめる。

 いきなり指摘されたのは、おそらくアレクサンダラスが魔法の痕跡にでも気づいたためだろう。

 ただ逆に言えば女性の隣にいる老人が本物だという可能性が高い。

 あるいは無線などを使っているという可能性も捨てきれないが、その存在感は一紀にも本物であることを十分予感させてくれた。


「なるほど、さすがにわかりましたか。じゃあ、彼らの役目は終わりですね。交渉に入りましょう。」

 安西は、手で合図して一紀と水橋をやや後ろに下がらせる。

「いいでしょう。あなた方の目的は何ですか。」

「ギブアンドテイクですよ。」

「ギブアンドテイク? どういう意味でしょう。」

「私たちは王女と王子を通じて、アレクサンダラスさんの存在に気付きました。なら、お持ちの魔法の原理について教えていただきたい。私たちからは、必要とされる技術の原理を提供しましょう。」

「別にあなた方から技術を学ぶ必要はありません。それはこちら側ですでに用意しています。」


 美鈴が再び口を開く。

「そもそも、あなた方はいったい何者なのですか?」

「怪しいものではありません。」

「立場を明らかにできないのなら、十分怪しいのではありませんか。」

「立場を明らかにしていないのはお互い様でしょう。と、そんな議論をするつもりはありません。理由は、王女と王子をこの世界において守るためです。」

「それなら、ひっそりと匿うべきだったはずです。」

「本来そのつもりだったのですが、ちょっとトラブルがありましてね。」

「それはそちらの都合でしょう。で、それと今回の交渉にどのような関係があるというのでしょうか。」


「わかりました。単刀直入に言いましょう。王女たちにはアレクサンダラスさんを殺させるようなことはしません。仮に敵討ちであってもです。」

「アレクの事情を良くお知りのようですね。」

「ええ、王女様はまだ若い。」

「。。。そうですか。」

「しかし、その言葉を信じろと言わしめる根拠は何かありますか?」

「私たちは、魔法を使えなくすることができると言えばどうでしょうか。」


 美鈴の顔がゆがんだ。

 美鈴の動揺が伝わったのか、アレクもキッと目を見開く。

「面白いお話です。しかも興味深いですね。」

「私どもは、既にこの世界での魔法実用化について研究を始めておりましてね。是非とも、アレクサンダラスさんにもご協力いただきたいと思っております。」

「無理矢理と言うことでしょうか?」

「いえ、話し合いにより納得の上で。」

「見返りは?」

「魔法阻害の技術と、魔法を超える武器の作り方の供与。」


「でも、そちらには既に王女と王子がいますよね。その二人から聞けばよいではありませんか。」

「使えればいいのですが、意外と役立たずで。アレクサンダラスさんには元の世界に帰るまで、最大限の支援をさせていただこうと考えております。」

「あなた方はいったい。。。何者なのです?」


「善意の第三者ですよ。慈悲会グループの元理事長であった五十嵐美鈴さん。」

「えっ!?」

 美鈴は明らかに動揺を隠せない表情を見せた。

 実のところ、安西のカメラがとらえた画像を即座に分析して検索を掛けた結果が安西に伝えられたに過ぎない。


「アレクサンダラスさんは今後もそちらにいていただいて結構です。ただ、こちらとの接触と交渉をご容赦いただきたい。もちろん、秘密は厳守します。」

 アレクサンダラスが、美鈴の左手を両手で包み込んだ。

「わかりました。アレクが了解したと言っています。ただ、本当に魔法を止められるならばと。」


 美鈴が答えるや否や、アレクの周囲に光が集まり始める。

 王女や王子との魔法とは桁が違いそうだ。

 アレクとの距離は約15m。安西は即座に銃を撃ったが、光の障壁の様なものに防がれてアレクの手前1m付近で弾丸が跳ね返された。

 と、その瞬間、一気に光が消えていく。

 安西の後方でしゃがみ込みながら控えていた一紀と水橋の手には、銃らしきものが握られている。

 ただ、それからは音も光も出ていない。


 アレクが驚くような表情で一紀らの方を睨みつける。

 アレクは再び魔法を用いようと集中を始めたが、これも発動の気配がない。


「こういうことですよ。」

 安西の言葉に、美鈴もアレクも呆然と立ち尽くしていた。

「これで、満足でしょうか。」

「え、ええっ。」

 美鈴と言う女性は年齢を重ねてきたこともあってか、予想以上に回復が早かったようだ。

 魔導師は、口元でぶつぶつと言っているようだが、そろそろ交渉を進めなければならない。


「我々としても、いきなりこの技術をお渡しすることはできません。理由は御分かりですよね。」

「ええ、こちらが対策を取って裏切らないという保証はないものね。」

「良いお返事ありがとうございます。ですから、今の魔法阻害以外の技術をいくつか提供したいと思っております。」


 ようやく落ち着きを取り戻したアレクが、おそらく念話で美鈴と議論しているようだ。

「それは、どのようなものでしょうか?」

「主に、武器関係と考えていただいて結構です。」

「武器ですか。。」

 美鈴は、一紀の予想とはやや異なる反応を示す。

 違和感を感じたため、フードの奥で一紀は素早く頭を回転させる。

「武器はご所望ではないと。」

「いえ、そんなことはないのですが、それ以上に地中に住むための技術を求めています。それのご協力はいただけますか?」

「理由を聞いてもよろしいですか?」

安西がやや真面目な表情で聞き返す。

「あなた方が想像しているように、アレクは異世界に帰らなければなりません。」

「いつ頃のご予定でしょうか?」


 美鈴がアレクの顔に目を向ける。

「2年以内に。」

「できる事については、最大限ご協力させていただきましょう。ただ、できれば通訳を介してではなく、直接アレクサンダラスさんとコンタクトを取りたいのですが、よろしいでしょうか?」

 再び美鈴はアレクの顔を見た。

「良いと言っています。ただその前に一言よろしいですか?」

「何でしょう?」

「王女と王子はこの国で幸せに暮らせるように、是非とも取り計らってほしいとのことです。」

「それは、後悔あるいは懺悔と言うことですか?」

「いえ、元の世界に戻り苦難の道を歩むよりは、この豊かな世界で暮らす方が良いから。。と言っています。」

「ふむ。」


 安西はついに一紀の方を見た。

 いつものように首をすくめている。

 ここまでの演技は完璧だ。

 どうも当初のシミュレーションからは話がずれてきたし、一紀が無線で安西に指示を出すのもそろそろ潮時と言うことであろう。

 一紀は立ち上がりフードを取った。

 アレクと美鈴はやや意外な顔をして一紀を見る。


「では、ここからのコンタクトは私が行わせていただきます。」

 一紀が年齢の大きく違う美鈴に向かって言い放つ。

 アレクは、魔法が発動できなかったことがショックなのか、最初に見た時ほどの威圧感は感じられない。

 美鈴の返事を待つまでもなく、一紀は二人に近づいていった。

 安西も歩調を合わせてすぐ横を歩く。

 水橋は後方で銃を構えたままだ。


「えっ、君が、、ですか?」

 やはり意外だったのだろう。美鈴がようやく口を開いた。

「意外ですか?」

 ぶっきらぼうに一紀は返す。

「い、いや、、ちょっと思っていた以上に若かったのでね。」

「交渉に年齢は関係ないですよね。では、アレクサンダラスさん。」

 そう言うと、一紀は美鈴を無視してアレクに向かい堂々と右手を出した。


 美鈴から情報が入ったのであろう。

 アレクはそれ程驚くそぶりも見せずに、一紀が差し出した手を掴んだ。

『魔法を使おうとしても無駄ですよ。というか、何が起こっているのかは既に分かっていますよね。』

『お主がこれを考えたのか。』

『そのとおりです。』

『しかし魔法の存在せぬ世界で、なぜここまでのものが作れる?』

『あまりこの世界を侮らないでいただきたい。』

『意識を集中できなくするとは、どのような技術なのだ。』

『まあ、それは後でお教えします。それよりも、向こうの世界は寒冷化か灼熱化のどちらに向かっているのですか?』

『何!?』

『やはりそれですか。可能性としては寒冷化でしょうね。』

『お主はどうしてそれがわかるのじゃ?』

『分析と、そして最後は勘ですが。』

『じゃあ、儂が必要としていることも理解できるということか。』

『もう少し考えないといけませんが、十分協力はできるでしょう。』

『おお、、』

『もちろん、対価は要求しますよ。』

『魔法について知りたいのじゃな。いや、むしろ儂の方から弟子にしたいくらいじゃ。魔法の弱点をここまで容易に見抜くとは。まあ、待て美鈴。』


 アレクは美鈴とも手をつないでいるため、そちらにも情報は流れたようだ。


『王女と王子については、私の方で何とかしましょう。』

『そうしてくれると助かる。儂が言うのはおかしいが、不憫な子らじゃ。』

『とりあえずは、協力関係を結んでいただけるということでよろしいですか?』

『儂の為すべきことを手伝ってもらえるのであれば異存はない。』

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