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魔道の果て  作者: 桂慈朗
第2章 美しき復讐者
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(22)偽りの企み

『狙いは、儂の命であろうか?』

『今のところ全く分かりませんが、捕えようとしているのは間違いないでしょうね。』

『王女と王子には動機も理由もある。』

『悔いていらっしゃるの?』

『悔いなどない。ただ、王女らをこの世界に呼び込んでしまった儂の迂闊さを笑ろうておるのじゃ。』

『世界を転移するというのは、大変な魔法なんでしょ。』

『そうじゃな。使えるのはもう一度だけしかない。時の流れは向こうもこちらも同じじゃが、あと2年後が限度じゃろう。』

『限度と言うことは、魔法の限度ではなく何かの期限なのですね。』

『相変わらず頭が回るな、美鈴。』

『ごめんなさい。詮索が過ぎたかしら。』

『気にするな。』

『今進めている企業への依頼から、私も朧気ながらアレクがやろうとしていることは見えてますわよ。』

『そうじゃなろうな。それを美鈴に隠すつもりはない。』

『でも、2年と言うのは短すぎるのじゃないかしら。』

『承知の上じゃ。じゃがせねばならん。そのために、多くの貴族を殺めてまでことを起こし、この地にまでやって来た。』

『帰ってしまわれるのですね。』

『それもこれも、この件を上手く立ち回っての事じゃがな。』


 美鈴の左手には先ほどアレクに説明した手紙がある。


(どういう料簡でこんなものを送ってきたのかしら。)


 手紙には、アレクに対して王女や王子には手を出せないことを保証するので、直接会見がしたいという提案がある。

 場合によっては、魔導師の今後の活動に力を貸すとも書かれていた。

 差出人は依然と同じようにユリアナ財団の名称。

 王女の真の名前を知っているということからも、本物である可能性は高い。

 時間を引き延ばして相手の素性を知るというのが戦略だったが、逃亡することは時間を惜しんだアレクが認めていない。


『私はこの交渉に乗っても良いと思います。』

『ほう、なぜじゃ?』

『今の話を聞くまでは、少しでも逃げた方が良いと考えていました。』

『ふむ。』

『本来、相手方に大きな力があれば、こんな小細工は必要ありません。交渉するということは、こちらの意見を飲む用意があるという事。』

『そうじゃな。罠にしては焦りの色が見える。』

『アレク、あなたは同席しない方がいいでしょうが、私が出て相手の顔を見てみたいと思っているわ。』

『護衛は用意できるのか。』

『場所と時間はこちらが指定する。それは譲れない線ね。向こうに準備をさせないため。しかもなるべく早く交渉に臨む。』

『向こうが情報を得る前に、ということじゃな。なら、儂も出た方が良い。』

『でも、相手の狙いはあなたでしょ。』

『相手が儂を即座に殺そうとするのであれば、出ぬ方が良いじゃろうな。しかし、そうでないのであれば儂の力を使えば逃げおおせることは可能じゃろう。美鈴、お前を連れてでもな。』

『しかし、賭けをするには危険すぎるわ。』

『お前が相手に会うというリスクと大して変わらんさ。』

『あっ。』


 アレクがにこっと笑う。

『相手を逆に拘束すればよい。儂が出るとなれば、向こうもそれなりの人間が出てくるじゃろう。失敗しても、逃げる位ならできる。』

『また、無茶を。争いになるかもしれないのに。』

『そんなことは何度も経験しておる。それに、もし相手が協力してくれれば、それがもっともよい形じゃ。王女を抑えられるというのは眉唾じゃがな。』

『わかりました。あなたを信じます。その旨を向こうに返しましょう。』


  ◆


「本人が交渉に乗ってきたのは意外だったが、それを見定めるためには王女か王子の同行が必要となるな。そこまで考えてきたか?」

「無線で動画を送れば良いのでは?」

「いや、相手が顔を隠せば本物かどうかを判別することはできん。場所はギリギリに伝えてくるだろう。小型で高解像度のカメラを忍ばせればよいが、それで見破れるかだな。」

「それでは、連れて行っても同じでは?」

「俺たちには判らない魔法の気配を感じ取れるかと言うことだ。」

「なるほど。」

「直接対面させるわけにはいかないので、近くで待機が理想だが。」

「そんな場所を用意してくれるでしょうか?」

「無理だろうな。」


 あらかじめ手紙にしたためていた使い捨てのフリーアドレスにメールが返ってきたのは一紀の予想以上に早かった。

 首をすくめながら安西が物騒なことを楽しそうに言う。

「じゃあ、王女と王子は同行させず、魔導師のみ拉致ってところですか。」

「それこそを向こうが最も警戒している点だろうが。」

「当然ですな。」

「対策の裏をかきたいところだが、時間が明後日の13:00で場所は朝に伝えるでは、やはり難しいか。」

「朝に伝えると言うところが肝ですな。それを聞いてからでも我々が向かえる場所。」

「3時間程度と言うことか。」

「ただ、向こうも我々のことはまだ知らないはずですが。」

「返答で、大まかな距離を測りに来るか。」

「まあ、それにどれだけの意味があるかはわかりませんが。」

「下手な小細工はなしでいい!」


 おそらく送り先のフリーメールアドレスも、直ぐに足がつくようなものではあるまい。

「取り合えず、メールの発信位置の特定だな。」

「さすがにそこまで馬鹿とは思えませんが。」

「会社にやらせる。お前の手は借りん!」

「どうぞご自由に。」

「承諾のメールをいつものように頼む。」

「承知いたしました。」

「俺は王女の説得に入る。」

「そちらの方が大変そうですな。」

「ふん。大したことはない。」


 安西との会話を終えると、一紀は定例になっている状況報告のため王女と王子を呼び出した。

 今日は外出の日ではないので、ひょっとするとまだ寝ているかもしれない。

 この世界は、どうやら二人にとっては疲れやすい場所のようだ。

 多少慣れはしたものの、高地のような状況なのだろうと思う。もっとも、遊びに行く時には十分元気なのだから現金なものではあるが。


 無線式のチャイムを王女と王子の部屋には取り付けてある。

 もちろん内緒でカメラも設けてあるが、別に覗きがしたいわけでは無い。

 魔法等に関する情報取集と、一紀らに隠れた行動を監視し確認するためのものである。

 二人はその存在など露ほども知らない。


 王女は瞬く間にやってきた。

 やはりアレクサンダラスに手が届きそうという状況が嬉しいのであろう。

 一方のレオパルド王子は、やや遅れて悠然とやってきた。

 こちらの世界に慣れて来たのか、落ち着きが出てきた感じがしなくともない。

 一紀にはピンとこないが、王族の血というものはそのような振る舞いを自然にさせる力がるのだろう。

 まあ、まだまだお子様ではあるが。


『新しい情報は何かあるか?』

 王子がこちらに向かってまだ歩いている段階で、ユリアナ王女は一紀の手を取り念話により確かめてきた。

『ここからが詰めなので、慎重に行きたいと思います。それに、アレクサンダラスに逃げられないように網も張らなければなりません。』

『そうじゃな。で、カズキどのような方策を取る?』

『まずは、話し合うような姿勢を見せておびき出すべく動いております。』


 王子が冷めた目で、王女の手を取る一紀を睨みつけた。

 考えていることはわかるが、これ以外の方法を取りたければさっさと言葉を覚える努力をしてほしいものだ。

『乗って来るか?』

『乗ってこざるを得ないようにしたいですね。ただ、拘束はしますが直ぐには仇討ちをお控えください。』

『なぜじゃ。何をするつもりだ?』

『アレクサンダラスには、お二人が元の世界に戻るための魔法を吐いてもらわなければなりません。』

『この世界の技術で何とかならんのか?』

『残念ながら不可能です。この世界の技術は異なる世界に転移する方法を持ちません。こればかりは、アレクサンダラスの知識を借りなければなんともならないのです。』

『そうなのか。。。』


 王女は何やらひどく落胆した様子だが、それでもすぐに気を取り直した。

『最悪、、、妾は元の世界に戻れなくとも構わん!』

『仰りたいことはわかります。ただ、どの道アレクサンダラスを捕まえるのであれば、魔法を使えないようにしたうえで拘束したく思っております。』

『な、、何!? そんなことが可能なのか?』

『まだ100%の自信がある訳ではありませんが、私はできると思っております。そうすれば逃げられる心配はないので、得られる情報を全て喋らせてからと言うことです。』

『うむーっ。しかし、あ奴はそう簡単に捉えられるような相手ではないぞ。』

『はい。そのため、まず相手を油断させなければなりません。』


 暫くの沈黙の後、王女意を決したように伝えてきた。

『妾かレオが囮になるということか?』

『実際には王女と王子の身代わりを置きます。ただ、近くで潜んでアレクサンダラスが本物であるかを確かめていただきたいのです。』

『なるほど。妾とレオしか奴の顔を判別できんと言うことじゃな。』

『仰せのとおりです。』


『聞きたいのじゃが、あ奴の魔法を防ぐ方法とは一体どのようなものなのじゃ。』

『仕組みにつては難しいものですが、技術を用いて心の集中をできなくするものです。』

『ほぅ。』

『魔法には精神の集中が必要ですよね。』

『確かにそうじゃ。エーテルを体内に大きく貯め込み、それを妖精に分け与え、、、、というか、体内で魔力を膨らませるために集中が必要じゃ。そのために呪文を持強いることも多い。』

『それについては、既に想像しておりました。』

『妾らの魔法を見てか。』

『はい、幾度か拝見させていただきましたから。』

『それを見ただけでわかるのか。』

『ですから、あくまで推測です。その確認を丁度今させていただいております。』

『そう、、、、か。と、、すれば、その技術があれば相手の魔法を使えなくすることもできるというとか。』

『まだ検証できておりません故、事前にご協力をお願いしたく考えております。』

『それを、、妾たちで試すというのか。』

『大変申し訳ございませんが、アレクサンダラスを捕縛するためでございます。』

『やむを得んか。』

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