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魔道の果て  作者: 桂慈朗
第2章 美しき復讐者
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(17)騒動の仕掛け

 そんな折、アレクは偶然見たテレビに王女を見つけた。

 アレクは驚きを覚えると共に、心のどこかに安堵を覚えた感じがした。

 罪悪感など計画を立てた時捨て去ったつもりではあったが、まだどこかに人間らしさの残滓がこびり付いていたようだ。


(しかし、王女も意外と上手くこちらの世界に溶け込んだのだな。まあ、それそれで良いことだ。あの表情なら不自由をしている訳ではあるまい。)


 アレクは情報収集のためのツールとして、未だテレビを最大限活用している。

 コンピューターという便利なツールがあることは理解したが、この世界の言葉を少しは使える様になったものの、的確な操作を行うにはまだまだ不足する。

 絵と背景と動きがわかり、様々なジャンルの知識と言葉を勉強できる題材としては、現状でテレビの右に出るものは無い。


 ただ、以前と明らかに異なるのは美鈴のフォローが入るようになったことであった。

 テレビでアレクが関心を示すようなモノが映された時、美鈴はそれを巧みに読み取ってアレクに伝えようとする。

 口では日本語で、そして念話ではその背景や関連事項を。

 元々、念話と実際の音ではイメージが異なるため、双方を聞くことで混乱が生じる。

 それが念話を利用するデメリットであった。

 だから、アレクも最初はそれを用いようとはしなかったのだ。


 しかし、そのことをおそらく汲み取った美鈴は、念話をフォローのために用いるという離れ業を編み出した。

 本当に賢い女性である。

 その結果、アレクが得る知識は飛躍的に向上するようになっている。


 さて、王女を見かけたからと言って接触に関してアレクが動くことはない。

 そもそも、王女らと関わったからと言ってアレクの野望に役立つことは一切ないのだ。

 魔法力を考えても、王女や王子の使える魔法ならアレクは全てずっと高いレベルで使いこなせる。

 逆に二人にとってアレクは親の仇なのだから、こっそりアレクの方が発見されるのは困る。

 二人だけで単純に襲いかかってくるのであれば、叩きつぶすことに躊躇はない。

 また、それは不可能ではないが、不意打ちの場合や力のある協力者がいた時には十分脅威になり得る。

 こと、殺傷や破壊に関してはこの世界の技術は魔法を遙かに上回る力を発揮するのは既に知っている。

 協力者が何らかの武器を提供すれば、わかっていても攻撃を防ぐのは容易なことではないだろう。


 だから、アレクにとっては二人には見つからないようにすることが最良の方策だと言うことになる。

 偶然とは言え、先んじて王子の魔法の気配を察知し、あまつさえ王女の存在を視認できたのは幸運だった。

 せいぜい、今後も見つからないように細心の注意で事を進めなければならない。

 とは言えど、今進めようとしていることは魔法を使うものではないため、出会うことでもなければ問題となることはあるまい。


 企業という集団の方には魔法の存在を匂わせているので、なんとかして探ろうと来るだろうが、こちらも美鈴による睨みはかなり効いている。

 より大きな力が介入してでもこない限りにおいて、現状のペースは悪くないものなのだ。

 とりあえずは、企業の方にアレクの存在が表に出ないようにさせるのが重要だろう。


「アレクサンダラスさんの持っている知識と能力は、別の企業からも追いかけられています。ですから、彼の存在は最大限の守秘義務を伴う情報だと理解してください。」


 美鈴を通じて、彼自身の情報が漏れないように手を打っていた。

 アレクは表面上は美鈴に感謝しているが、その裏では如何に上手く美鈴を利用して目的を達するかしか考えていない。

 もっとも、それをおくびに出すことは決してない。


  ◆


 しかし、まんまと安西に引っ掛けられた。

 以前はよく仕掛けられたが、最近は鳴りを潜めていたはずだったのに。

 要するに、安西が一紀を試しているのである。


 別にそれにより不都合が生じたわけでは無い。

 それよりはむしろ状況が好転する側のそれである。

 だから、一紀と言えども安西を詰問するのは憚れた。

 試されていちいち感情的になるようでは、安西ほどの男を使う器量ではないと考えていることもある。


「いえ、詳しくお伝えするような余裕はないと思っておりましたので。」

 相変わらず、首を軽くすくめるポーズで飄々と語りやがる。

「いや、短い時間でよくそれだけまとめたな。この方が、説明も簡単だし矛盾が少ない。」


 なんてことはない、王女と王子は中東の難民として処理されていたところを、親父が欧米の機関を通して養子として引き取ったことにしている。

 だから、書類の上では確かに一紀の妹・弟ではあるが、容姿の不整合や言葉の問題も一切生じることはない。

 言語を突っ込まれれば別だが、それなければ全くもって不都合が無いのである。


 加えて、かつての噂は濡れ衣ではあったものの親父の浮気の線もないし、この話ならおふくろも諸手を挙げて賛成だろう。

 今後、味を占めたおふくろによって弟や妹がさらに増える心配はあるが、その話はここで考えても仕方がない。


 最初からこうするつもりでいながら、あたかも問題があるように見せかけやがった。

 一紀を試すという面もあるが、それ以上に反応を楽しむためであろう。

 執事の真似をするのも基本的には同じ指向性であることは知っている。

 それでも、見事に嵌められたことについては否定的と言うよりは、賞賛したい気持ちが強い。

 自らが及ばなかったことには、心の内で素直に認めるのであった。

 もちろん本当に称賛することはないが。


 水橋が状況を説明した。

「雑誌の方は取材ではないですが、読者モデルと方向で進めています。マネージャーとして紗江子さんが立候補されていますが、どうされますか?」

「紗江子さんはダメだ。水橋、お前がやれ。」

「わかりました。ただ、紗江子さんへのご説明は一紀さまの方でお願いいたします。」

「いいだろう。あと、テレビへの露出はどうなんだ。」


「それは、私の方で手配しています。」

ともう一人の男性の児島が答える。

「ネットの投稿を見て、芸能プロダクションの接触がありますが、そちらは別ルートで抑えるようにしています。」

「いつごろ、露出できそうだ?」

「来月あたりには、まず番組内のサクラで押し込みます。その後、生き別れの祖父を探しているという番組を作る予定ですがが、こちらはもう少々時間がかかるかと。」

「そうか。わかった。」


 現状、アレクサンダラスの動向は不明である。

 ただ、この世界にいるとしていくつかの可能性が考えられる。

 既に、何らかの理由で死んでしまっている場合。

 王女の短剣がかなり深く刺さっていたはずだ。

 普通の人なら、即入院して手術しなければ致命傷ではないかと思う。

 ただ、治癒の魔法を目の当たりにした今、大魔導師がその程度で死ぬとは考えにくい。


 次に考えられるのは、どこかに匿われている可能性だ。

 小さな魔法を餌に、交渉してるという可能性がある。

 それが国家なのか、企業なのか、あるいは個人なのかはわからないが、隠遁しているということになる。

 既に海外にまで連れ去られていたとすれば、手を出すのが容易ではないが、それであればおそらく一紀の検知に引っかかっている筈。

 それが無いということは、上手く隠れおおせているという事。


 もちろん、最大の可能性はこの世界に来ていないという線だが、これは今の計画には関係ない。

 さて、それら以外として個人で山の中やあるいは街中のどこかに潜伏しているという可能性もある。

 王女や王子と同じように言葉が通じなければ、その線が強い。

 と言うのも、念話をどこかれとなく使用していれば、探せばその糸口は必ず掴めるはずだから。

 まあ、王女が強力な援軍を持っていると予想するのも難しいであろう。

 どこまで潜伏し続けるかは悩ましいところである。


 もし、この世界がアレクサンダラスという大魔導師が求めた場所であるならば、この世界でやろうとしている目的が間違いなくあるはずなのだ。

 だとすれば、いつまでも隠遁していることはできるはずもない。

 とりあえず、アレクサンダラスが接触した人間が増えれば増えるほどに、彼の痕跡が溢れ出てくるはずである。

 そして、王女が探していると訴えればほぼ間違く何らかのレスポンスが現れる。

 その反応の中から真実を見つけることが一紀の仕事である。

 一紀たちは、王女を利用した探索キャンペーンを一気に進める計画を推し進めていた。


  ◆


「ちょっと!どうして私じゃマネージャーはダメなのよ!?」

「紗江子さんは、自分の道場での指導があるでしょ。」

「そんなものは昭義に任せるわよ。それと、私は紗江子先生!」


 道場の方にたまに指導に来ている紗江子さんのいとこの名前を持ち出してきた。

「昭義さんは、警察の仕事がある。道場べったりは無理だろ。」

「いや、休みを取らせる。ユリアナちゃんの撮影の時だけで良いから、ね。お願い。」

「駄目です。」

「そんなこと言わないでーっ。」

「頼まれても、お願いされても、土下座してでも駄目です。」

「じゃあ、脱いだら?」

「もっと駄目です!」


 ミーハーすぎる。

 テレビ局に向かうことを想定してのことなのだろうが、目的は若手アイドルではないだろうか。

 この人の年下好きにも困ったものだ。

 下手すれば、本当に芸能人を飼いならしてしまいそうだからな。


「どうしてもダメー?」

「甘い声を出しても駄目です。」

「じゃあ、いいわよ!」

 そう言うと、怒って出て行ってしまった。

 しかし、水橋には十分注意するように言っておかないと。暴漢等のトラブルだけではなく、紗江子さんの暴走を抑える方でもだ。


 さて、王女の方は既に説得して了解してもらっている。

 『役者になりきって演技してほしい』とお願いしたら一発だった。

 向こうの世界でも演劇などは、盛んなのかもしれない。

 ただ、大仰にオペラ風にやられでもしたら大変なので、もう一度念押しをしておく必要がありそうだ。

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