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魔道の果て  作者: 桂慈朗
第1章 裏切り
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(26)宿儺

 サエコさんは、じっと二人のやり取りを見ている。

 男同士の一騎打ちに口出しするような野暮ではないらしい。

 というよりは、戦いが始まれば集まってくるであろう兵士たちの相手をするつもりなのだ。


 魔導師が、剣から炎の魔法を発した。

 しかし、カズキは魔石を使い体の周囲に張り巡らせた障壁魔法により、飛来する炎の弾を容易に弾き返す。

 ターン制ではないが、次は自分と言わんばかりに今度はカズキが雷魔法で反撃した。

 通常は、魔術師から発せられる魔法が、なぜか頭上から降り注ぐ。

 そう、大司教カウミゲルが見せた技だ。

 カズキは今、大司教の体内から奪い取った魔石を手にしている。

 あの魔法は、普通の防御魔法程度では防げなかったはず。


 しかしその攻撃を察知し、ゲーリックは転移魔法で瞬時に位置を変えて魔法を躱した。

 稲妻は、対象を見失い地面に吸い込まれる。

「やはり、魔石を神官より奪い取ったのだな。」

 そう言いながら、転移した先から再び魔法の攻撃。

 今度は、風魔法による鎌鼬を使ってくるが、これもカズキが巡らせた障壁魔法で跳ねかえす。


 今は、魔石を用いて防御しているため、全方位に障壁を作っている。

 ユリアナを担いだ状況では、体術により魔法を避けるというのはかなり難しい。

 魔法行使は最小限にしたかったが、今回はそうもいかないのである。

 風魔法が飛来してきた方を向くと、暗い中でゲーリックが悔しそうな顔を見せていた。

「王女が居ては大技がが使えん!」

「ほう、大技があるのか。だがユリアナを手放すつもりはないぞ。」


 カズキとしては、ここは戦わずに逃げるという戦法もある。

 できることならそうしたい。

 今のカズキには、戦うことの優先順位はそれほど高くないのだ。

 ただ、この付近は明かりがあるが、逃亡路の暗闇の中での転移は危険極まりない。

 加えて逃亡を図ったとしても、この魔術師を振り切れるのかと言う問題が残る。

 暗闇の中で無理して転移しても、魔法の残滓を辿って追いついてきかねない。

 なら、ここで決着を付ける方が良い。


 仮に連携のできない兵士がこの戦闘に飛び込んでも、あまり魔術師の役には立ちそうもない。

 むしろ乱戦になれば、それがカズキに有利に働くこともある。

 さらに、サエコさんの存在。

 兵士の数が少なければ、容易にそれを排除してくれるだろう。


 続けて、今度はカズキが転移魔法を使った。

 しかし、自らが飛ぶのではなく拾い上げた小石。

 それを相手の体の中に送り込むのだ。

 だが、転移はゲーリックの体に飛び込む前に、爆発するように弾かれてしまった。

 防御魔法か、別の障壁魔法かはわからない。

 どちらにしても、ゲーリックは見たことがないはずのカズキの転移魔法を防ぎ切ったのだ。


「なんという恐ろしい方法だ。しかも、瞬時にそれだけの精度で位置を決めるとは。」

 物を転移することで、相手に致命的な怪我を負わする手法は、この世界では用いられていなかった。

 少なくとも、アレクすらが知らなかった魔法の使い方である。

 これで一気に行動不能に落とし込もうと思っていたが、防がれた上にどうやら見抜かれたようだ。

 この魔法の使い方を知られた以上、ゲーリックを生かして帰すわけにはいかない。

 なぜなら、魔法を使えない時に狙われれば、カズキにとってかなり危険な魔法だからである。


 転移魔法は、転移する位置の情報を明確に意識しなければならない。

 通常は、相手が動かないものや、対象範囲が広ければ、少々の誤差があってもなんとかなる。

 しかし、動き回る動物や人間に対しては、そう容易に使えるものではない。

 ゲーリックが驚いたのは、カズキの位置を認識する速さに対してであろう。


 障壁魔法にも、いくつかの種類がある。

 魔法のみをはじくもの。

 物理攻撃のみに対するそれ。

 そして、両者を跳ね返すもの。

 通常、魔法のみを跳ね返すものは透明に近いが空間の揺らぎは見える。

 物理攻撃をはじくものは、透過度が多少落ちて色味がかかって見える。

 両者をはじくものはその中間でうっすらと色が見えるものである。

 しかし、今は夜。

 多少の明かりがあっても、障壁魔法を確認するのは難しい。

 障壁を確認すべく、ゲーリックは剣撃を加えてきた。

 もちろん、障壁がそれも弾く。

「やはり、両方弾くか。」


 カズキが魔法攻撃をする瞬間は、一瞬だけ障壁魔法を解除している。

 逆に言えば、その瞬間を狙われれば、ゲーリックの魔法もカズキに効果が届く。

 魔法の発動は、魔術師たるゲーリックには感じ取れる筈。

 ただ、魔法発動の痕跡は体感できても、瞬時に切り替わるそれをゲーリックがどれだけ把握できるのか。

 あるいは、どれだけ連続して魔法を行使できるのか。

 それにより、今後の戦い方が変わっていく。


 カズキからすれば、今使用している魔石に蓄えられていたエーテルも無限ではない。

 さらに、魔法行使に体が慣れていないことも加わって、時間が経過するほど不利になっていく。

 どうやって、相手を倒すかを逡巡しているその時。

 突然、カズキを取り囲む障壁魔法の一部が砕け散った。

 障壁魔法に、障壁魔法をぶつけてきたのだ。

 そういうやり方があったとは!

 瞬時に、破れた障壁魔法を修復する。

 が、その直前にカズキの肩からユリアナが消失した。


「あっ、くそっ!」

 警戒を怠ったわけではない。

 むしろ十分すぎるくらいに、集中も緊張もしていた。

 しかし、今ユリアナはゲーリックの手にある。

 召喚魔法で呼び寄せられたのだ。

 カズキの動きが小さかったため、狙いを定められたというのがある。

 しかし、障壁魔法を砕くとのほぼ同時に召喚魔法を発動するなどと言うことは、カズキにもできやしない。

 それだけ高度な魔法行使。


「やはりな。なぜ王女を常に抱いているかと思ったが、お前は中途半端な魔術師だった訳だ。王女が居なければ、まともな魔法が使えぬということか。」

 すぐに召喚魔法を使わなかったことで、見抜かれてしまったようだ。

 ただ、この暗闇では王女を遠くに転移させることはないだろう。

 情報が無くて危険すぎる。

「それがどうした!」

 そう言うと、魔術師に向かって距離を詰める。

 しかし、王女を抱いたまま転移。


「もはや勝負はついたな。お前に勝ち目はないぞ。」

 カズキの目の前から、姿が忽然と消えた。

 だがゲーリックの目的は、ユリアナを取り戻すことと、カズキにリベンジすること。

 だとすれば、ここでそのまま去っていくことはあるまい。

 炎の弾が連続してカズキに撃ち込まれる。

 魔法発動の気配ではなく、エーテルの流れを辿ってそれを避ける。

「本当にその程度で決着がつくと考えたか? お前はさっきユリアナのいない俺に負けたんだぞ。」

 そう言いながら、カズキは魔法が放たれた方向をゆっくりと見る。


「くっ。減らず口を!」

「事実は事実さ。」

 実を言えば、もうスタンガンのバッテリーは上がっている。

 そうではなくとも、同じ戦法は使えない。

 先のこともあり、接近戦に応じてくれる可能性は低いだろう。

「だが、今度は同じようにはいかん。この手でお前を這いつくばらせて見せよう!」

 その挑発に、カズキはふっと笑みを浮かべた。

 この闇空の下、その表情がゲーリックに見えたかどうかはわからない。

 ただ、この魔導師が負けず嫌いで助かった。


「こんな馬鹿が高弟とは、大魔導師アレクサンダラスも見る目がなかったんだな。」

「なんだと!」

「そうじゃないか。魔石に頼るしかない相手に、畏れたり慌てたり。魔導師ってものは、結構ちょろいんだな。」

「言わせておけば!」

 そこに、カズキは背中からブーメランを取り出し、ゲーリックの立ち位置とは異なる方向に投擲する。


「なんだ、その武器は。全く方向が違うではないか!」

 そう言うゲーリックに、今度は腰からゴム弾とスリングショットを取り出し即座に撃ち付けた。

 ゲーリックはゴム弾に対して、即座に障壁魔法を張り巡らせる。

 しかし、それはカズキが同時に張った障壁魔法でキャンセルされる。

 ビシッ!

 ゴム弾がゲーリックの眉間を直撃。

 だが、防御魔法を張り巡らせているため、衝撃は受けてもダメージはない。

 そこへ、不意打ちで後方からブーメランが飛来し、ゲーリックの後方から襲いかかった。

 不意打ちであれば、防御魔法を使っていてもそれなりの効果があるようだ。

 抱いていたユリアナをショックで落としてしまう。


 その瞬間を見逃すことなく、カズキは強烈な風魔法によりゲーリックの周りに渦を創り上げた。

 たまらず、ゲーリックはユリアナを拾い上げることなく、その場から転移する。

 そうなることを見透かしていたように、既にカズキはユリアナの元に駆け寄っていた。

「さて、状況は元に戻ったわけだ。」

ゲーリックの顔色が、ほの暗いこの状況でもわかるほどに紅潮していた。

「許せん! 私を馬鹿にする様な奴は決して許せん!」


 カズキは素早くユリアナを担ぎ上げ、今度は常に移動しながらゲーリックに相対する。

 周囲には再び障壁魔法。

 今回は二重に張り巡らせた。

 先ほどの反省に立った結果である。

「許せないねぇ。俺としては、弟子のくせに、散々世話になったくせに、師匠を裏切る奴の方が許せないな。」

「何も知らぬよそ者が、知ったような口をきくな!」

「まあ、よそ者と言えばよそ者だが。同じ弟子の一人でもある。」


「お前など、弟子とは認めぬわ!」

「あれ? もうあんたは弟子ではないんだろ? 自ら辞めたんじゃないのか?」

「違う!」

「違わないだろ。」

 どうやら、ゲーリックの琴線に触れたようだ。

「これは、必要なことなのだ。この世界を守る上で絶対に成し遂げなければならぬことだ!」

「一部の住民だけを助けることがか? 俺にはそうは思えないがな。」

「全てを救おうとすれば、全てが滅ぶ。それは既に予言されていること!」

「予言? そうか教会か。お前ら、教会と組んだな。」

「我々は魔術師。必要があれば、どんな相手とも組むものだ。」


 何となく、ここに至った理由が見えてきた。

 弟子たちは、そのどれだけかはわからないが、教会と組んでアレクを裏切っていた。

 だから、アレクの最初の試みは失敗に終わったということか。

 そして、その経緯があったからこそカズキが今ここにいる。

「それが悪魔とでもか?」

「お前と組むことなどありえん!」

「じゃあ、誰とでもではないな。」

「教会が正しいとは限らないぞ。」

「そんなことはありえぬ。神は偉大だ!」


 そろそろ決着をつけなければならない。

 カズキの持つ魔石も、もう長くは保ちそうもないことがわかっている。

 それはゲーリックにとっても同じことだったようだ。

「悪魔め。だがお前の持つ魔石も、そろそろ限界ではないか!」

 ゲーリックがにやっと笑った。

「そうだな。だがな、最初からお前を倒すのは簡単だったんだ。」

「何だと!?」

 笑いが怒りの表情に変わる。


 横目でサエコさんの状況を確かめた。

 どうやら今は、3匹の魔獣と戦っているようだ。

 魔獣?

 魔獣使い。

 そう、カールスレイ。

 サエコさんが助けようと言った少女。

 王城にも現れたらしい。

 その戦いを、兵士たちが取り囲むように見ている。

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