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魔道の果て  作者: 桂慈朗
第1章 裏切り
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(20)宮廷魔術師

 カズキの放った魔法は効果的ではあったものの、全ての兵士を一瞬で無力化できたわけでは無かった。

 アレクから机上では学んではいたものの、実際に使用するのが初めてであったからでもあり、あるいは数名の兵士が魔法に対する防御を施していた可能性もある。


 ただ、カズキが魔法を使用する前にサエコさんは影のように忍び寄っていたのだ。

 その気配はカズキすらも完全には追い切れないもの。

 この能力に関して言えば、あのアンザイよりもサエコさんの方が優れていると言っていい。


「こんな感じでいいかしら。」

「完璧に近いよ。さすがサエコさん。」

 ミエミエのお世辞にも、鼻を膨らませ胸を張ってくるサエコさんはお茶目でかわいい。

 とてもではないが、一瞬のうちに屈強な兵士3人を倒した女性とは思えない。

 容姿は健康的で爽やか、身長は女性としては高く頭身も大きい。

さらに言えば胸も十分大きい。

普段のがさつささえなければ、かなりいい線行けるのだ。


 兵士たちは、ずっと体の小さなサエコさんの攻撃を顎先に受けて、皆昏倒してしまった。

 雷魔法による身体や感覚の麻痺があったのかもしれないが、それにしても瞬時の早業は見事としかいう他はない。

「もっと褒めてもいいわよ。」

「時間が無いから次に進もう。そこの扉を開けたいんだが。」


 目の前には倒れている兵士たち、そして神社の山門を髣髴させる大きな木製の扉。

 少々押したからと言って動きそうもない重量感がある。

 魔法で穴をあけるという方法もあろうが、まずは正式な方法で開ける方が無難であろう。

 問題は、それがどのような仕組みになっているかがわからないことである。


「あのエロじじい。これのこと何も言ってなかったわよね。」

「普段の自分は命じるだけで開いてもらっていたんだろう。お嬢様が切符の買い方を知らないように、大司教様は扉の開け方を知る必要が無いということだな。」

「それが分かっても、扉が開かなければ何にもならないわよ。」

「そうなんだ。魔法による仕組みなのか、あるいは何らかの仕掛けがあるのか。」


 サエコさんとの会話を続けながらも、カズキの視線は怪しい場所を探し出すために目まぐるしく動いていた。

 明らかに分かるようなレバー等は見当たらない。

「サエコさんが言う通り、この扉を開ける仕掛けを見つけたいんだけど。全員の意識を刈り取ったのは失敗だったかもしれないな。」

「あら、じゃあ一人起こした方がいい?」

「完璧に昏倒させていたと思うんだけど、そんなことできる?」

「任せてよ。一人今起こすから。」


「騒がれたら面倒だから、できれば弱そうなやつを頼む。」

「それはさすがにわからないけど、最後に私が仕留めた兵士で行ってもいい?」

 最後にサエコさんが倒した兵士たちが一番屈強そうなんだが。

 これでも弱そうな部類に入るのだろうか。

 それならば、ここに倒れている兵士の誰でも良いことになりそうだ。

「それもサエコさんに任せるよ。」

「じゃあ、こいつでいくか。」


 落ちていた剣を拾い上げると、サエコさんはそれを地面に突き立てた。

 続いて鎧姿の兵士の上半身を抱きかかえるように持ち上げ、背後から発勁のように気を入れる。

 カズキはこの技をサエコさんから学んでいない。

 他にもいろいろとありそうだが、おいおい教えてもらうとするか。


 強いショックを受けたような感じに兵士がびくっと体を震わせた。

 その隙に、サエコさんは片手に剣を取り、もう一方の腕を兵士の首に絞め技のようにからませる。

「さて、目が覚めたかしら。」

「うっ。」

 首筋に冷たい剣の刃が添えられているのに気づき、狼狽えているようだ。

 目覚めれば首筋には剣となれば驚くのも無理はない。

 そのおかげで、兵士は慌てて声を立てることはなかった。


「この扉の開き方を教えて。」

 声を出さずに、兵士は首を横に振る。

 教えられないという意味か、知らないという意味かは分からない。

 良く見れば、この兵士まだ歳は若いようだ。

 鎧と兜に覆われているため一見では年齢がわかりにくい。

 ただ、サエコさんがこの兵士を選んだのには当然理由があるのだろう。

 おそらく好みとか。


「大きな声を出しちゃ駄目よ。わかるわね?」

 優しく聞いているつもりなのだろうが、剣を首筋に突き付けられている側としてはそうは受け取れないだろう。

 この問いかけに、兵士は必死に首を上下に振った。

 わかっているという意味であろう。

「じゃあもう一度尋ねるわね。あの扉、どうやって開けるの?」


 再び兵士は必死に首を横に振る。

 知らないと伝えようとしているようだが、怖ろしくて言葉を出せない様にも見える。

 全身も小刻みに震えているようだ。

「私が聞いているのは、首の振り方じゃないの。あなた本当にわかってる?」


 今この時サエコさんが楽しそうに見るのは、カズキの気のせいであろうか。

 その時、突然扉から大きく低い音が響いた。

 扉が動き、向こう側にゆっくりと開いていく。


「おい、大きな魔法の気配を感じたが何があった?」

 人の気配は数人と言うところであろうか。

 カズキは瞬時に倒れている兵士に紛れて伏せる。

 しかし、サエコさんは兵士をいたぶるのに陶酔していたのか、いつもの勘の冴えが見られなかった。


 ざわっとした反応の後に、3名の兵士とそれに囲まれる位置にいたローブを来た人物が身構える。

「お前は何者だ!」

「あなたたちこそ何者よ、名乗りなさい!」

 これは逆切れに過ぎない筈だが、それでも目の前に多くの兵士が倒れており、そのうちの一人の首筋に若い女性が薄ら笑いを浮かべながら剣をあてがっている。

 扉を開いた先に、そんな場面が待っていることを想像できる者も多くはあるまい。

 ちょっと雰囲気に酔いすぎの感じはあるが、相手を十分戸惑わせていると思う。


 しばらくの沈黙の後、ローブを着た指揮官っぽい男性が思い出したように叫ぶ。

「賊だ。捕えろ!」

 考えてみればおかしな指示である。

 不自然な魔法行使を確かめるべくやってきて、眼前には10人強の守護兵士が倒れている。

 それを見る限りたった一人の若い女性が行ったとしか見えない。

 それほどの恐ろしい敵を前にして、たった3人の兵士で捉えられると考える理由がわからないのだ。


 逆に言えば、判断を狂わせるほどにサエコさんの見せた光景が衝撃的だったということかもしれない。

 もっとも、良く見れば今現れた兵士たちは皆、以前見たブレスレットをしている。

 それは、教会と同じ品を使っているということ。


 そして、それ以上に中途半端な魔法や攻撃は弾き返すことができるということでもある。

 決して侮れる相手ではない。

 3人の兵士たちは倒れている仲間を助ける前に、サエコさんを取り囲むように位置取りをした。

 そちらに注意が集まっているためか、伏せているカズキにはまだ気づいていないらしい。好都合だ。


「賊って誰の事?」

「お前以外に誰がいる。一体何者だ!」

「私? 私は正義の味方よ。」

「ふざけるな! 王城に侵入しようとする賊ではないか!」

「あら、乙女に向かって何手ことを。失礼しちゃうわね。」

 ユリアナと違い、こういう場面でも全く畏れや怯えを態度として見せてこない。


「話さぬのなら、無理やりにでも聞き出すのみ。私の足元に連れてきなさい!」

 3人の兵士たちは全て剣を構えた。

 それを見て、サエコさんは自分の懐から鞭を取り出す。


 実を言えば、カズキは若干ではあるが筋肉痛を感じていた。

 これは魔法を使い過ぎた時に出る症状。

 魔石を利用すれば出ないのではないかとも考えていたが、そうでもないらしい。

 少なくとも、回復するまではじっとしておきたい。

 そう考えたからこそ、今伏せて隠れている。


 ただ、兵士やローブの男がサエコさんへの注目を解き、冷静に見渡せば一人おかしな男が倒れていることには気づくはずだ。

 魔法行使ができない訳ではないが、これ以上の筋肉痛はスムーズな救出作業に支所をきたす。

 すなわち、ある程度回復するまでは魔法使用を控えた方が良いということである。


「いいわ。相手をしてあげる。」

 いつもと違い妖艶ですらあるサエコさんの態度に、伏せながら様子をうかがっているカズキもどきりとした。

 一体どうしちゃったのであろうか。


 先制攻撃はサエコさん。

 長い鞭を利用した牽制的な打撃。

 向こうの世界で鞭なんて使ったことなかったはずだけど、いつの間には上手く使いこなしている。

 ひょっとすると、女王様キャラの素養があるのかもしれない。


 ただ、鎧兜を装着している兵士たちには軽い鞭の衝撃は元々あまり効かない。

 無論、本来金属の鎧などが無い部位に当たれば相応の痛みを与えることができるのだが、それすらも防御魔法が覆っているため大きなダメージにはならなかった。


 鞭が飛んでくるという心理的な要因が、わずかに兵士たちが近づくのを押しとどめているが、鞭が障害にはなり得ないことを認識した時には一気に襲い掛かられる。

 通常のサエコさんなら、兵士の攻撃など余裕で避けられるだろうが、今の雰囲気が変わった彼女がどのように反応できるかは不確かだ。


 そう考えると、いつまでも隠れている訳にもいかない。

 最適なタイミングで最高の成果を上げる必要がある。

 唯一気になるのがローブを着た指揮官のような人物。

 あのローブはアレクの来ていたものに似ている。

 すなわち、魔術師である可能性が高い。

 しかもおそらくは宮廷魔術師。

 魔術師であれば、少なくとも何種類かの魔法を使い分けてくる。

 大司教のように一つの魔法でごり押ししてくるわけでは無く、臨機応変に様々な魔法を使い分けてくるはずなのだ。

 それにうまく対応できるという自信はない。


 ただ、魔術師の位置はカズキが倒れている位置とはサエコさんらを挟んで反対側。

 それを最初に狙える状況にはない。

 ローブを着ているのでわからないが、魔術師にも兵士と同じような防御魔法を身につけている可能性も高いのだから、より難しいはずである。


 サエコさんが振り回す鞭が鎧や地面に当たる音が響く。

「そんな攻撃が意味を持つと思っているのか!」

 兵士の一人が声を上げた。

 わざわざ宣言しなくても良いと思うが、兵士は自らに気合を入れるためであろう。

 得体のしれぬ相手に向かって行くためには、やはりその程度の儀式は必要なのかもしれない。


 二人が同時にサエコさんに切りかかる。

 先ほどまでも何人もの兵士を倒してきたサエコさんではあるが、それ程手間をかけていないので体力的には余裕がある。

 更に、この世界はエーテルが濃いので復活も早い。

 疲れで動きが鈍くなることはないだろう。

 ただ、魔術師の動きが気になるのでカズキはこちらに加勢することにした。

20160102:体裁見直し

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