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魔道の果て  作者: 桂慈朗
第1章 裏切り
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(18)大司教戦

 カズキが右腕にはめているブレスレットは、防御魔法のための魔石が込められたものである。

 それでも、防御魔法は風の裏魔法であるため先ほどカズキは風の魔法を使うことができた。


 記憶を辿れば、先日カズキと戦った兵士はカズキが放った雷の魔法を受けても、魔法による電撃は彼らの体に届かず、兵士はダメージを受けなかった。

 防御魔法は魔法そのものをはじくことで、それを可能にする。

 しかし、今回の魔法とは発動形態が異なるような気がする。


 カズキが用いたのは、魔法によるその場所で発現する電撃。

 だから、魔法がはじかれれば電撃も即座に消える。

 しかし、大司教が使ったのは発生した電撃が指向性を持って放出されるもの。

 カズキたちに届く時には雷と変わらず魔法の障壁では防ぎきれない可能性が高い。

 更にこの建物の土間が窪むほどの衝撃を見ると、カズキが発した魔法よりも遙かに強力だ。

 これの直撃を受けて防御魔法がどれほどの効果を発するかを実験する気もない。


 そもそも、大司教はカズキがそれを身につけているのを知っている。

 知った上で攻撃しているということは、防御を上回る力があると自信を持っているからなのだろう。


 そんな逡巡を大司教が座視するはずもなかった。

「さあ、踊ってください。愉快な踊りを。」

 今度は、壁から水平の雷撃。かすかな前触れを感じとり、ギリギリで躱すのが精一杯。

 倒れている兵士の近くを動いているせいか、水平からの放電はその手持ちの剣に落ちていく。

 さらに、次は別方向からと続く。

 常に移動することで、大司教が攻撃の的を絞り切れないが故に辛うじて直撃を免れているが、それをカウミゲル大司教は「踊り」と称したのだろう。

 躱すくらいは想定の内と言う事だ。


 サエコさんは、カズキ以上の直感で余裕を持って躱しているが、こちらも攻めには入れるほどの隙があるわけではなさそうだ。

 頭に血が上っても戦いに関しては冷静なところが凄い。

 一方、いくら魔石の力が強大でも無限に使用できると言う事はない。

 いつかはその力が枯渇する。

 以前の戦いの時のことを考えると、気が遠くなりそうな時間を必要としそうではあるが、それでも永遠と言う事はあり得ない。


 ただ、一般的な魔法は距離を取れば効果が薄まることも知っている。

 一時しのぎではあるが、それならいつでもできる。

 問題は、今は時間が少しでも惜しいこと。

 この大司教を早く倒してユリアナを救いに行く。


 そう考えると、カズキの表情に人が見れば邪悪とも思えるような笑みが浮かび上がる。

「ふはは、この感覚が堪らないぞ!」

 移動しながら、腰を抜かして倒れ込み気を失っている男の剣を2本拾い上げた。

 剣は電撃を受ける要素となる。

 ただし、剣を構えずに持つだけ。

 そこに再び上からの雷撃。

 これもカズキはある程度の余裕を持って躱しきるが、その直撃が腰を抜かしている一人の男を捕らえた。


「ぐぁぁぁ。」

 瞬時に焼け焦げたような姿になり息が途絶える。

 ただ、そこに見えたものは明白だ。

 薄々感じてはいたが、あくまで魔法は魔法。

 原理をねじ曲げるものではなかったということ。

 仲間の死を見た一人が大声を上げて意味の分からない言葉を叫ぶ。


「かずちゃんも、そろそろ気の流れがよく見えるようになったのかしらね。で、何処を攻めれば倒せるの?」

 自身も踊るように雷撃を避けながら、サエコさんは一見軽口のような内容を問いかけてきた。

 ただし口調に軽さは一切無い。

 むしろ、酷薄なイメージがするほどの冷たい響き。


「おそらく正面は駄目だ。横からも雷撃を打つと言う事は、壁際か、足下か上。」


 カズキの吐いた言葉を聞き、カウミゲルは顔を歪める。

 しかし、常時発動型の魔法はそう容易に変更できないはず。

 一度消して再度展開する他はない。

 魔法の力としては圧倒的に強いが、小回りや燃費に欠けるのがそれの特徴。

 そして、雷撃の方も照準が微妙に調整できないでいるのは言うまでもない。


 それでも雷撃の数を増やされれば、いつやられてもおかしくない状況ではある。

 それを増やせないのは、サエコさんとカズキの二人を攻撃しているため。

 一人に集中されると躱しきる自信はない。


 サエコさんは走り回って雷撃を避けながら、左手に剣、右手を低く地面付近まで下げて床に転がっている小物をいくつか拾い上げた。

 一瞬の躊躇もなく、次々と大司教に向かって投擲する。

 一つは上方へ山なりに、もう一つは足下を狙った鋭いもの。

 足下のそれは壁にぶち当たったように跳ね返されたが、ゆっくり落下する上方から落ちてくる小石のようなものに大司教の視線が固定されているのを見逃すはずもない。


 サエコさんとの間だからこその阿吽の呼吸と言えるだろうか。

 カズキは、風の魔法を上方に放つ。

 雷撃と違いこちらは変化を付けることができるのだ。

 距離が少しあるので威力は落ちるかも知れないが、肝を冷やさせるには十分だろう。


 慌てた大司教は、足下に落ちた小石に驚き上に向けて雷撃を放つ。

 そこに今あるのは風の魔法であり、放たれた雷は風を通り抜けてしまう。

 結果として雷撃は部屋の天井を貫き、屋根まで届く大きな穴を開けた。

 おかげで、外は雲行きが怪しくなり始めているのがわかる。


 ただ、カズキが放った風の魔法も、もっと近くであれば鎌鼬のような鋭さを持つが、到達距離が累計で10m近くになると魔石の力に頼る現状では威力が弱すぎた。

 ユリアナがいれがもっと強力な魔法も使えるのだが、今はそれを悔やんでも仕方がない。


 大司教は衝撃に対してうめき声を上げたものの、傷を負うまでには至っていない。

 しかしその直後、隠れていたように落ちてきた剣が大司教の肩に突き刺さる。

 まったく音も気配もなかった。

 カズキでさえ全く気づくことのない剣の投擲。

 天井の高さに制限されるため勢いは弱いものの、剣にかかる重力のエネルギーは大司教の体に傷を付ける事を可能とした。


「ナイスカモフラージュ!」

 いや、狙ってやった訳ではなかったのだが。

 サエコさんの冷静な顔で出されたグッジョブサインに、思わず曖昧な笑顔を返す。


「この悪魔めらが! よくも、、、やってくれたな。」

 カズキとしては更なる反撃が来るのは予想済みだ。

 しかし、大司教の方は攻撃を受けるなどとは全く考えてもいなかったような様子。

 魔法の力は図抜けて凄いが、戦闘に関しては全くの素人ということ。


 ただ、生じた傷は瞬く間に治っていく。

 大司教自身の傷口付近が光を帯び、あたかも巻き戻していくかのよう。

 治癒の魔法を自分に施したようだ。

 教会の高位職ともなればその程度は容易に行えるのだろう。


 あるいは本来の魔法特性が治癒に適合しているのかもしれない。

 しかし、その魔法は魔石に頼るモノではない可能性がある。

 自分自身の練り上げたエーテルから生み出される魔法。

 もしそうならば、こちらの容量はずっと低いはずなのだ。


「決して許しませんよ。神の怒りを知ると良い!」

 相当お怒りのようだが、最初から許していないのだからその台詞は明らかにおかしい。


 明らかに雷の魔法のグレードが更に上がりそうなのだ。

 と言うのも、先ほどから肌がピリピリし始めてきている。

 この部屋全体に強力な電圧が霧のように広がり始めているようなのだ。


 大司教は長い呪文を読み続けている。

 加えて部屋の内壁部分に障壁の魔法のような空間の揺らぎを感じ取った。

 この部屋からは逃がさないと言うことなのだろう。

 かなりの魔法消費が想定できるので、最後の技かどうかはわからないがカウミゲル大司教はこれで決めるつもりだ。


 おそらくは、回避不能なほどの空間に広がる魔法を使おうとしている。

 そうなると、仲間というか部下そのものを巻き込んで皆殺しにする覚悟であることが想像できてしまう。


 サエコさんも、大司教が放とうとしている魔法のやばさに気づいたようだ。

 頭に昇っていた血もかなり元に戻ったみたいである。

 怒りをぶつけて何とかなる状況ではないのだから。

 空気中に溜められつつある電気がどんどんと肌に強い刺激を与え始める。

 無防備に見える大司教に攻撃をかけたいが、正面は先ほどと変わらず障壁の魔法が残されているのが気配でわかるのだ。


「こんなのどうすればいいのよ!?」

「剣を2本取って! そして、近くに来て。」

 なぜ? という表情は見せたものの瞬時に行動に出た。

 本来、雷の魔法に対して二人が近くにいるのは望ましいことではない。

 魔法を受ける可能性が高まってしまうためだ。

 しかし、部屋全体を覆うような魔法であれば位置は全く関係なくなってしまう。

 放出する魔法量が大きなため、詠唱に時間がかかっていることのみが今の救いである。


 ただ、なんとサエコさんは剣だけでなく、泣き続けていたカールスレイという名の魔獣使いの少女までも野獣たちの傍らから連れてきてしまう。

 距離を走るだけで肌に痛みが走るような状態というのに、全くこの人は。

 

 その電光石火の動きに反応できなかったのか、あるいは「待て」と指示を出されていたためか、はたまた空気中に充満する電気に動きがとれないのか、魔獣たちは小さく唸ったもののサエコさんに襲いかかることはなかった。


 カズキはサエコさんに指示を出し、2本の剣を空中に放り投げさせる。

 カズキもまた手に持っていた2本の剣をバラバラに空中に投じると、素早く呪文を唱えた。

 いつの間にか、先ほどのブレスレットは捨てられ、新たなブレスレットが両腕に着けられている。


 放り投げられた剣のうち3本が、風の力を受けて勢いを増して3人を囲むように地面に突き刺さった。

 カズキは泣きながら魔獣たちの名前を呼ぶ少女を、無理矢理押さえつけて自分と同じように地面低く腰を落とさせる。

 突き刺さった剣の周囲を強烈な風の渦が囲むように回る。

 クゼの街で用いたような大きさの魔法ではないが、それでも部屋にあった小物や床の小石などが巻き上げられて空を舞った。

「サエコさんも屈んで!」


(どちらの魔法が長く保つかだ。)


 正直、この魔法で部屋全体を覆うような雷撃を避けきれるという絶対的な自信はない。

 ただ、大きなダメージを受けたとしても生き残れれば勝ちと考える。


 直後、部屋全体がスパークするように輝いたかと思うと、蜘蛛の巣のように稲妻が部屋の中を駆けめぐった。

 地面そのものが揺れるような大きな地響きをあげて、建物が揺れるのがわかる。


 カズキの額に大粒の汗。

 魔獣たちの断末魔の声に紛れて小さな人の悲鳴も響き渡る。

 風の渦の中では見えないが、おそらく凄惨な光景が広がっているのであろう事は想像できる。

 雷の魔法による放電はまだ続いており、風の渦が幾度も強い光を帯びて輝き地面に突き刺さった剣が浮かび上がる。


 剣は避雷針、風の渦はその内側に真空層まではいかないものの空気の薄い部位を作り上げている。

 風の流れに従い、電撃がカズキたちの周囲にある剣に流れやすくしているのだ。

 大司教が使った魔法が強い指向性を持っていなかったからこそできることである。

 いくつもの大きな魔法を同時に操作するのが難しいという理由もあるだろう。

20160102:体裁見直し

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