エピソード4『心強い仲間と、宿敵との再会』
現在時刻、23時59分。
ハルはとある人物たちに会うために1人歩いていると、彼の前に2つの影が現れた。
「久し振り、ハル。」
「元気そうで安心しました、ハル先輩。」
美人だが、つり目なせいか気が強く見える女性と、正反対に気の弱そうなおどおどした雰囲気の小さな少年が、ハルにそれぞれ駆け寄った。服装はハルが以前着ていた郵便屋仕様だ。
2人は、ハルの仕事仲間で女性の方がカナ、少年の方がリツという。
この3人は、何故か仲が良いと上司や他の同僚から思われていて、チームを組むことも多い。まぁ、実際仲は悪くないし、バランスも良いので3人とも今のところ不満はなかった。
ハルが今回2人を呼び出したのには、理由があった。
「久し振り。ゆっくりと世間話でもしたいところだけど、緊急事態だから単刀直入に言うね。奴等が動き出した見たいだ。」
ハルの何時になく真剣な様子と最後の言葉で二人にも緊張が走る。
「今まであんまり手出ししてこなかったのに、、、不味いことになったわね。」
「ハル先輩、大丈夫なんですか?」
少し焦りを見せるカナとハルを心配そうに見上げるリツ。
ハルはリツの頭に手を置き、「大丈夫だ。」と微笑んで見せる。すると、リツの顔に少し笑顔が戻る。
その顔を見て、頭から手を離し、今度はカナに向き直り言った。
「しかも、生者を使って何かしようと企んでいるみたいなんだ。」
「つまり、ここを離れられないからあたし達に上への報告と向こうでの情報収集を頼もうって訳ね。」
「ご明察。」
カナの言葉に肩をすくめるハル。
しかし、それも一瞬で直ぐに元の真剣な顔に戻って付け加えた。
「今回二人には迷惑を掛けてしまうけど、頼む。どうしてもこの仕事は成功させたいんだ。」
ハルの真剣な瞳に、カナとリツは苦笑いをしてそれぞれ、「しょうがないわね。」「ハル先輩の頼みなら頑張ります。」と快く受け入れてくれた。
「ありがとう。」
ハルは礼を言うと、そのままその場を立ち去った。
「無茶だけはしないでよ、、、。」
ハルの大きな背中を見ながら、カナはポツリと呟いた。隣ではリツが心配そうにしている。
「カナ先輩。ハル先輩、またあんなことになったりしませんよね?ハル先輩、強いですもんね、、、大丈夫ですよね?」
不安気に見上げてくるリツにカナは一瞬眉を寄せたが、あえて笑顔でヘッドロックを食らわせ、頭をわしゃわしゃと撫でた。
突然のことに驚いているリツにカナは力強く言った。
「大丈夫に決まってるじゃない!!何たってあいつはあたし達のリーダー何だから!」
「あたし達は出来ることをしてあいつをサポートしてあげましょ?」とウインクして見せるとリツは笑顔になって、「はい!」と元気に返事を返した。
「おい、星崎。」
「古月さんがお呼びだぞ。」
「ほら、早く来いよ。」
放課後。冬斗が日直の仕事をしていると、クラスの男子3人組がニヤニヤと近付いてきた。彼等は、よく冬斗を呼び出し、暴力を奮っているメンバーの一部だ。
冬斗は周りを素早く見て、空に目配せを送る。目敏く気付いた空は軽く頷くと、溜まり場所となっている空き教室へ向かった。
「で、何処だよ。」
目の前で意地悪く笑う3人組に挑発的に尋ねると、案の定「生意気な奴だ!」等と騒ぎ出し、無理矢理連れ出して行く。
(虐めっ子って現実も漫画も大して変わんないな。)
あちこちを引っ張られながら、時折小さな嫌がらせや小言を浴びせられながら、冬斗はぼんやりと考えていると、「此処だ。」と肩を強く押され、よろけながら前へ数歩進む。
そして、視線を上げるとそこは体育倉庫裏で、目の前には大地が仁王立ちしていた。
「ようやく来たか。」
「、、、どうも。」
短いやり取りの後、一旦冬斗から目をそらすと、後ろで立っている3人組の方を見た。
「お前達ご苦労。もう行っていいぞ。」
「えっ、でも、、、。」
戸惑う3人に大地はガンを飛ばす。すると、あっという間に逃げ去っていってしまった。
「、、、へぇ。入学して数週間足らずの一年生をあそこまで怯えさせるなんて。何したんです?」
3人の姿が完全になくなった後、冬斗が尋ねる。
大地は冬斗をギロリと睨んだ後、メガネをクイっと上げて言った。
「別に、俺はお前が断罪対象になったことを発表しただけだ。俺はな。」
「、、、俺はってことは他の人間は何かしてるってことですか?」
含みのある言い方に、冬斗が眉を寄せていると、大地の後ろから、何かが現れた。
「、、、初めまして、哀れな断罪対象さんこと、星崎冬斗さん。」
「、、、どちらさんですか?」
それは人なのだと思う。しかし、陶器のように白い肌にギラギラと怪しく光る右目と黒い眼帯で覆われた左目。中性的な整った容姿が人間離れした様に見せていた。
これは何となく、初めてハルに出会った時の感覚に似ているのだろうか。
暫くお互いを探るように観察していたが、男は急に口元を緩め、笑い出した。
「どうやら、あの小賢しい奴からはなにも聞いてないようですね。」
「、、、誰のことだよ。」
「あの口にするのも忌々しい奴、郵便屋の中でも!このわたしに、片目だけしか奪わせなかったハルですよ。」
「片目だけしか奪わせなかった?」
「えぇ、わたし達は神の遣い、天使、君達は郵便屋とよんでいるんでしたっけ?まぁ、奴等の両目を奪うと一人前になれるんです。しかし、彼はわたしに仲間の目を取らせず、自分の目も片目しか奪わせなかったのですよ。それからわたしは仲間達から罵られ蔑まれてきました。この悔しさ、貴方には到底分からないでしょうがね。」
喋りながら、顔を歪ませたり、笑い出したり、泣きそうになったり百面相しながら喋る目の前の人間(仮)に、冬斗だけでなく、大地まで呆れている。
「おい、いい加減にしろ。」
「はいはい。しかし、大地さんは神経質過ぎますよ。もっとユーモアを持ってですね、、、」
「うるさい。早くしろ。さもないと、、、」
大地が取り出したのは白いウサギの可愛らしいキーホルダーだった。
しかし、それを見た途端、「ギャーー!」と叫ぶ。
それを見て勝ち誇った笑みを見せる大地。
そのやり取りを見て何となくどちらが上か察した冬斗。
大地がキーホルダーを直したのを確認すると、1つ咳払いをして再び人間(仮)が喋り出した。
「ま、それならば話しは早い。とっととハルが何処にいるのか教えなさい。」
「僕なら此処にいるけど?」
冬斗の後ろから肩をポンと叩いたのは、話の中心であるハルだった。
ハルは冬斗に小声で下がっているよう指示をだし、自分は一歩前へ出る。
そして、笑みを浮かべたまま口を開いた。
「やぁ、久し振り。半人前の悪魔、キラ君。」
「どうも、お久し振りですね。落ちぶれた天使、ハルさん。」
気さくに世間話でもするように挨拶をしているが、あり得ないほど殺気だっているハルとキラに、冬斗と大地はただ見ていることしか出来ない。
「君達はここのところあまり活動している噂は聞いていなかったけど、いきなり出てきて、生者に手を出す何てどういうつもりだい?」
「今までも色々内々で動いていたんですがね。相変わらずそちらは耳が遅いようで。生者に手は出してませんよ?彼等は我々にとっても貴重ですから。」
「別に、行動が遅い君達に勝てるからいいんだよ。でも、利用してるなら一緒じゃない?」
「あら、片目とはいえわたしに目を取られたハルさんには言えない台詞かと思いましたが。どっちでも良いですよ、そんなことは。、、、それより、そろそろ残りの目を戴きますよ!」
「今から奪い返してやるよ!」
ハルの言葉を皮切りに2人は同時に地面を蹴り、互いに向かっていく。
端で見ていた冬斗と大地はここで今、自分達の環境が異常なことに気が付いた。
ハルは優しく、鋭く光る綺麗な長刀を持っていて、キラは黒く艶のない大きな大鎌を振るっていた。
2人は一進一退の攻防を続けている。一般人である冬斗達には分からないが、実力に大きな差はなさそうに見える。
「あの頃と大して変わりませんね。」
「そういう君も、寧ろ前より弱くなったんじゃない?」
「おや、それは心外ですね。わたしの実力がこの程度だとお思いですか?でしたら、まぁ、好都合です。」
「まさか。僕だってこの程度だと思わないでね!」
2人は余裕な表情で、戦いを続けている。しかし、そこで2人の間に稲妻が落ちた。
思わず、中断し距離をとるハルとキラの前に立っていたのは、ハルの仲間である、大きな殴打を持ったカナと三又槍を持つリツだった。
先程の稲妻もカナの武器の仕業だったらしい。
「いい加減にしなさい、ハル!生者の前で悪魔とやり合うのはルール違反よ。怒られちゃうわ。」
「ハル先輩の神様怖いから。」
ハルは仲間の言葉にうっ、と一瞬げんなりした後、刀を消した。
それに不満気なのはキラだ。しかし、彼にはあの人がいた。
向かって行こうとするキラの目の前に出されたのはさっきのキーホルダー。それを目にした途端、キラは発狂し、その場に倒れてしまった。
これには流石のハルやカナ、リツも呆気に取られていた。
そんなことはお構いなしに、その場にキラを気絶させた大地は、冬斗を一瞥すると、キラを置いて去ってしまった。
残された冬斗達は。
「、、、ごめん、冬斗君。カナやリツも迷惑かけたね。」
「いや、別に。」
「全く、無茶すんなって何時も言ってるのに!」
「ハル先輩が無事で良かったです。」
「じゃ、思った以上に時間かかっちゃったけど、空君や一花ちゃんも待ってるし、行こうか。カナ達も着いてきて。」
「しょーがないわね。」
一同はそのまま踵を返し、空と一花の待つ空き教室へ向かった。
そして、その場には、憐れに気絶して倒れたキラが1人取り残された。




