エピソード3『そして始まる、闘いの日々』
昨日までと変わったこと。
1つ目、今まで普通だった人の目が鋭くなった事。
2つ目、下駄箱にゴミが溢れている事。
3つ目、自分の机に花が花瓶に差して置いてあった事。
4つ目、今までより注目されるようになった事。
5つ目、休み時間に呼び出され、暴力を奮われるようになった事。
「、、そんなもんだ。」
放課後、ハルが鍵をくすねた空き教室に集まり、一花に怪我の手当てをしてもらいながら、淡々と1日の流れを報告した。
その話を聞いた、ハル、一花、空の三人はそれぞれの反応を示した。
「関係ないくせに何でそこまで、、、ムカつく!!」
「冬斗ももうちょっと抵抗しなさいよ。」
と怒りを露にする空と、呆れ半分、心配半分な一花。
「なんか、全員が生徒会長様の言いなりって感じがすんな。やり方は丸っきり小学生だけど。あの生徒会長にそこまでの統率力があるとも思えないし、、、。」
唯一違う反応を示したハルは、何気に酷いことを言いつつ、そのまま何か考え込んでいる。
「まぁ、現状味方はこのメンバーだけ。生徒はもちろん、教師も何ならPTAも敵だな。」
「あ、そういや、親の反応はどうなの?」
空の言葉に一花とハルの顔が暗くなる。
「、、、親は知らない。と言うか、それどころじゃないから、今後も多分気付かない。」
冬斗は特に顔色も声音も変えることなく平然と言った。
その言葉に何となく踏み込んではいけない事情を察した空は黙り込んだ。
その途端に、気まずい沈黙が訪れる。
辺りに聞こえるのは一花の手当ての作業の物音だけ。
その気まずさを破ったのはハルだった。
「とりあえず、今一番足りないのは情報。一番集めやすいのは、兄弟である空くんだろうね。」
「私、お弁当一緒に食べてる子に聞いたことがあるんだけど。」
手当てを終えた一花が切り出した。
一花の言葉に全員が彼女の話に耳を傾け始めた。
「実は会長入学して直ぐに中学の時からの先輩から虐めにあってたらしいの。それを助けたのが、親友だったはる君だったんだって。だけど、今度ははる君が目を付けられて、はる君がターゲットにされ始めた。」
「空くん。その時期に何か変わったことはあったかい?」
空は暫く考え込んだ後、首をふった。
「兄ちゃんは家ではいつも通りに振る舞ってたし、怪我してくるとかもなかった。そもそも、そういうのは俺の担当で兄ちゃんはいつも俺を止める方だった。俺が変化に気づいたのは、多分去年の秋くらいだと思う。」
空の言葉に反応したのは一花だ。
「じゃぁ、断罪を始めた頃だね。正確には文化祭の時。この学校は文化祭で生徒会が変わるの。その時に、生徒会長に就任した時、自分とはる君を虐めた先輩達を断罪した。不思議なことに先輩達を庇う人はいなかったらしいよ。そこからは彼の独壇場で今まで断罪された人は冬斗で10人目。9人は退学とか転学とか、中には行方不明になっちゃった人もいるんだって。」
一花はそこまで喋り終えると口を閉じた。
空は黙って俯いている。兄の変化に気付けなかったことに後悔しているのかもしれない。
ハルは顎に手を当ててなにやら、考え込んでいる。
冬斗に関しては、心ここに在らずという感じでずっと胸元のクロスを弄っていた。最早、先程の話を聞いていたのかすら怪しい。
一花はイラっとしたので取り敢えず一発横腹に手刀を入れた。
「、、っ何すんだよ。」
「何かイラっときたから。」
「は?」
そんな幼馴染み同士のやり取りに、ハルと空は、吹き出して笑い出した。
特にハルは笑い上戸なのか中々止まらない。
「「笑うな!」」
流石幼馴染みと言うべき、ハミングに更に笑いは止まらない。
ひとしきり笑ったハルは、生理的に出た涙を拭うと、自分の考えを話し出した。
「一花ちゃんの話が本当だとすると一概に古月さんが悪いとも言えないね。取り敢えず、冬斗君は呼び出された時は必ず僕らに合図を送ること。で、無理かもしれないけど、呼び出した奴から何か聞き出して。空くんはお兄ちゃんとは今まで通り接して欲しい。ただ、よく見ておいて。一花ちゃんは、情報収集をお願いするよ。」
「ハルは何すんだ?」
空が首をかしげる。冬斗も一花も気になるのかハルに視線を向ける。
「僕はちょっと気になることがあるんだ。」
「気になること?」
今度は一花が尋ねる。
「あぁ、古月さんの周りには厄介なモノがいるかも知れない。」
真剣な眼差しで言うハル。
その瞳を見ながら、冬斗は違和感を覚えた。
(何で、右目には光がないんだ?)
それはとても些細な、しかし、確かに感じるモノで。
冬斗は1人頭を捻った。




