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spring message  作者: 井邑ハイリ
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エピソード13「別れの先に」


「はぁ、はぁ、、、、。」


「はぁ、、、、はぁ、はぁ、、、、。」


ハルは今だキラと激しい攻防戦を繰り広げていた。

ハルがキラの右肩を斬れば、キラはハルの左腕に剣を貫く。

一進一退、互角の戦いに、二人は全身に傷を負い、息を切らす。

しかし、互いに引けない思いがあるため、決して膝をつくなどという無様な姿は見せたくないという、最早意地以外の何物でもないものだけを胸に必死に剣を振るう。

その時、数人の足音が聴こえてきた。

ハルとキラが思わず音の方を見ると、そこには、先程ハルが逃がしたはずの冬斗達と、仲間であるカナとリツの姿が現れる。

冬斗達は此方には近づかず、カナ達と小声で何かを話すと隅で未だ意識のない大地を連れ出そうとしていた。


「おい、カナにリツ。何で冬斗君達連れてきたの?」


自身の武器を手に近付いてきた二人にハルが問う。


「、、、、あたしが珍しく口で負かされちゃったの、これで二人目よ。あたしを負かしたのは。流石兄弟ね。」


カナの言葉にリツが驚いた顔をする。ハルはキラの剣を押し返しながら、肯定の意味を含めて、自嘲気味に笑った。

そこに目を付けたのはキラだった。


「ほぅ、ではあまり好きではありませんが、その方法でいきましょうか?」


キラは不敵な笑みを浮かべて言うと、ハル達と距離を取るとそのまま離れて、全く違う方向へ向かった。その先には、目を覚ました大地の様子を伺う冬斗が背中を向けて無防備に立っている。


「、、、、っ冬斗!?」


「えっ、、、、」


ハルの声に何事かと振り向いた冬斗の目の前には黒い剣を持ったキラの笑みがあった。痛みを覚悟して目をつむる冬斗と剣を構えたキラが重なる寸前、間に1つの人影が飛び込んだ。

冬斗は耳障りな肉が抉られる音を聞きながらも、何時までも来ない衝撃に恐る恐る目を開けた。

そこには血を流しながらも冬斗を庇い、キラに剣を刺すハルの姿がある。

二人は同時にドサリと地面に倒れ、キラはそのまま砂となって霧散した。

それを目にした途端、冬斗は一年前の事故の光景と重なり、息が詰まる。

真っ赤に広がる世界、その中心には。


「ハル先輩!?」


ハルが、兄が、いた。

リツの叫びに止まっていた時間が流れ出す。

冬斗は足元に崩れ落ちたハルの体を抱き起こした。服や手に血が着くのになんか構ってられない。


「ハル!!ハル!!目を覚ませよ!何で二回も死ぬんだよ!!可笑しいだろ、なぁ!!」


ひたすら叫び続ける声に、その場に生きる全員が息を飲んだ。

その中、何とか正気を取り戻した、一花が冬斗に背後から近付き、落ち着かせるように肩に手を置いた。それでも、叫び続ける冬斗の声が届いたのか、ハルの瞼がふるりと震えた。


「ふ、、ゆと、、、、?」


「、、、、っ兄貴!」


泣きそうな冬斗にハルは昔のように動かない手を必死に動かし、頭の上に乗せる。そして、不思議なほど優しい顔で、笑った。


「あ、りがと、、、、う、、、、冬斗、、、、辛かった、だろ?、、、、ごめんな、、、、。」


途切れ途切れに告げるハルに冬斗は本格的に涙が溢れる。


「何で兄貴が謝るんだよ、、、、!俺のせいで兄貴は死んで、今回だって、俺がいなけりゃ、、、、!!」


「いや、、、お前のせい、じゃ、、、、ない、、。僕はそんな、、、、に、出来た人間じゃない、、、、んだ。」


「どういう事だよ、、、、?」


その時、冬斗の背中を暖かい風が撫でた。それはやがて、形を作り、人の手になる。


「「ヴィーナス様!!」」


その人物のを見て、驚いた声を上げたカナとリツは、その場に傅く。

そんな二人を一瞥した後、ヴィーナスは冬斗の背中を離れ、ハルの側へ動く。


「あれは、誰だよ。」


「あの方は光の女神、ヴィーナス様。ハルの主よ。」


カナの言葉に、空と一花は揃って息を飲む。それほどまでに、ヴィーナスは美しく、神々しかった。

ヴィーナスはそんな周囲に目もくれず、ハルの姿を見ると、まるで、絵画に描かれる女神のように美しく微笑んだ。


「ハル。随分派手にやられたのだな。」


「、、、、も、しわけ、、ございません、我が主。」


「覚悟は出来ておるのだな?」


「、、、、はい。」


ハルの短い返事にヴィーナスは何処からともなく、剣を出し、それを自然な動作で構えた。

その瞬間、冬斗は反射的に動く。これ以上、ハルを兄を傷つけられたくはなかった。

ヴィーナスは突然飛び込んできた少年を面白そうに見つめた。冬斗も負けじと睨むように見る。対峙する二つの瞳。

何か言わなければ。冬斗は口を開いた。


「、、、、ハルは、何時も飄々としてます。」


「、、、、ほう。」


状況にそぐわない言葉にヴィーナスの表情が変わる。


「続けろ、少年。」


冬斗は更に口を動かす。


「なんか、胡散臭いし、初めは信用できなかった。でも、一緒に居るようになって、こいつは良いやつなんだ。って思うようになった。何時も何時も助けてもらった。なのに俺はハルに何も出来てない。」


「で、そなたはどうしたい?」


ヴィーナスの言葉に冬斗は力強く言った。


「最後くらい、ハルを、兄貴を助けたい!!」


「冬斗、、、、。」


ハルの目から涙が一筋こぼれ落ちる。

ヴィーナスは真剣な顔になり、冬斗を押し退け、そして、ハルに躊躇いもなく剣を刺した。


「何で、、、。」


「ふざけんなよ!何が神だ!!」


一花の小さな呟きも、空の叫びも冬斗には届かない。


「どういう、、、、事だ?あれは、、、、春斗だったのか?」


意識が戻ったばかりで、まだ状況を把握しきれない大地の力のない疑問にも答えられない。

冬斗の目には息絶えたハルとヴィーナスしか移っていないのだ。


「、、、、少年、許せ。これがハルの幸せなのだ。」


「あ、、、、あ、、ああああぁぁぁ!!!」


声にならない叫びを上げ、冬斗はその場に膝をついた。地面を何度も叩き、何度も叫ぶ。

誰もが涙し、悲しんだ。

と、その時、冬斗の胸元が突然光を放ち始める。暖かく優しい光に全員が呆然とする。冬斗が慌てて確認すると、それは兄のクロスだった。


『、、、、冬斗、皆。ごめんな。』


そこから聴こえたのは先程死んだハルの声だった。

驚き、全員が冬斗の側へ駆け寄る。


『空に一花。今まで本当にありがとう。二人に出会えて良かったよ。これからも冬斗を支えてやって。』


「あぁ、任せろ!」


「うん、ふゆ君のことは任せてゆっくり休んでね、はる君。」


空と一花は目に涙を貯めながら、それでも、笑って頷いた。


『カナにリツ。お前らには最後まで迷惑かけてばっかりで、ごめん。すごく感謝してる。』


「ハル、、、、、。」


「ハル先輩、、、、。」


二人の脳裏には、ハルと出会ってからの記憶が過る。


『大地。僕のせいでお前には辛い思いをさせてしまった。本当に悪かったと思ってる。でも、もう良いんだ。これからは正しい方法で、学校を誰もが過ごしやすい場所にしてくれ。お前になら、きっとできる。』


「春斗、、、、今までごめんな!あの時、お前を見捨てたことずっと後悔してた!俺はずっとお前に助けてもらってたのに、、、、。許してくれ!!」


頭を下げる大地が見えているのか、ふふ、と笑う声が聞こえた。


『俺への謝罪はいいよ。それより、冬斗に謝ってくれ。で、冬斗を頼むな。』


「、、、星崎、いや、冬斗君。本当に悪かった。許してくれとは言わない。ただ、謝らせてくれ!」


そういって、冬斗に深々と頭を下げ、謝罪する大地に空が嬉しそうに笑った。


「、、、俺は良いですよ。兄貴が許すって言ってるんだから。これからはただの先輩、後輩としてよろしくお願いします。」


冬斗の言葉に大地は目を押さえて、静かに泣き出した。その背中を空がさする。

暫く、その様子を黙って見ていた冬斗の耳に再び、ハルの声が届く。


「冬斗。僕、あの時半分お前を利用したんだ。」


ハルの思いがけない言葉に冬斗は目を見開く。


『あの時、本当に辛くて、苦しくて、いっそ死んでしまえば楽になれるんじゃないかって思ってた。そんなとき、お前が引かれそうになってて、咄嗟の判断だったけど、これで楽になれるんだ。って嬉しくなった。だけど、お前や大地が苦しむ姿を見て、やっぱり自分で片付けないとって思った。だから、お前に託しながらも、もう一度この世界に戻ってきた。ヴィーナス様の力を借りて。やりたいことが終わって、最後に死ぬのは約束だったんだ。お前が気に病む必要なんて何処にもない。』


「でも、俺は、、、俺は、、、、!!」


『もういいんだ。俺はお前が笑って、元気に空や一花、大地と楽しく生きてくれればそれで俺は満足だよ。そうやって生きていてくれれば、何時かお前の所にまた会いに行くから。』


「兄貴、、、、約束だぞ!!絶対に会いに来いよ!!」


『あぁ、約束だ。』


「兄貴、元気でな。」


『お前もな。』


それを最後に、ハルの声は2度と聞こえることはなかった。


「では、我らもそろそろ行こうか。」


ヴィーナスの言葉にカナとリツは従い、三人は消えてしまった。


「空、一花、大地先輩。」


空を見上げながら冬斗はまだ目を伏せている三人に声をかけた。


「これから、よろしく!!」


冬斗の顔には暖かい心からの笑顔が浮かんでいた。



*********



あれから10年後。


「、、、、おぎゃー、おぎゃー!」


「生まれました。元気な男の子ですよ。」


「有り難うございます!一花、お疲れ様。」


あれから、冬斗と一花は付き合い出し、高校、大学を経て、2年前に籍を入れ、この日、第一子を無事授かったのだ。


「あれ、この子、、、、。」


「あぁ。きっとそうだ。」


赤ん坊の顔を見て、冬斗と一花は顔を見合わせた。


「「お帰り。」」


新たな小さな命はかつてのはるの名を持った一人の少年を彷彿させる笑みを浮かべて幸せそうに眠っていた。



どうも、井邑ハイリと申します。

昔から物語を書くことが大好きで、でも勇気が出なくて投稿したことがなかったのですが、「将来やっぱりそういう仕事がしたい!」と思い、投稿させていただきました。

この物語は、現実でありながら非現実な世界を書きたいというのと、兄弟の話を書きたいというのがあって、それを繋ぎ合わせたらこうなりました。

初めての投稿に四苦八苦しながらも何とか、書き上げることが出来て、とても達成感に満ち溢れています。

まだまだつたない文章ですが、最後まで読んでいただいた皆様、ありがとうごさいました!


2015年7月21日 井邑ハイリ

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