エピソード12『今はまだ、夢の中に閉まっておくよ』
冬斗が、3人の前世とも言える過去を知ったのは、夢の中である。
あれは、ハルの仲間であるカナとリツの二人に初めて会ったあの日の夜、、、、。
夢で見たのは、一人の明るい、水谷奏という女性の人生だった。
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彼女の家は警察一家で、奏もずっと幼い頃から剣道や空手を習いに行き、18の時、警察学校へ首席で合格。順風満帆な人生だった、その時までは。
学校が決まって、春休みからはこじんまりとしたカフェでバイトを始め、学費を稼ぐ。
職場には、優しい先輩や、気の合う友達もできて、時には冗談を言い合ったりしながら、充実した生活を送っていた。
その日も、仲間達と和気あいあいと接客していた。
「いらっしゃいませ。何め、、、、きゃぁ!!?」
新たな客が来たことを知らせるベルが鳴り、ぱっと、持ち場に戻った大学生の女の先輩の悲鳴を聞き、振り返った奏の目に入り込んだのは、キラリと光るナイフと先輩の血だった。ゆっくりと崩れ落ちる先輩が異常なほどスローモーションに見える。
「全員動くな!!」
ナイフの持ち主である黒ずくめの男は先輩にナイフを差した後、喚きながらレジに向かい、金を漁り出す。
行くなら今しかない。
奏は、手にしていた箒を竹刀のように構えると、男の後頭部に思いっきり叩きつけた。
「うっ、、、!?」
男は思わぬ攻撃に頭を押さえて、よろめく。
その隙に、今度は箒を放り投げると鳩尾に拳を連続で入れ、最後に横腹に回し蹴りを入れる。
「この女、、、、くそっ!!!」
バンっ!!
奏が最期に見たのは、男の勝ち誇った顔と、男の手に握られた黒い銃口、自身の胸から飛び散った赤黒い液体だった。
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「、、、っ!!?」
目が覚めたとき、冬斗はぐっしょりと汗をかき、全身で息をしていた。
時計は夜中の2時を少し過ぎた頃を指す。
冬斗はドクドクと大きく鼓動を響かせる心臓を手で押さえる。
しばらくそうして、ようやく落ち着けた時、先程の夢を冷静に考える事が出来るようになった。
そして、ふと思う。
あれはハルの仲間のカナ出はないか?
郵便屋は人間の死後の姿なのだろうか、と。
勿論、確証はない。
だが、冬斗の中にその夢は妙な引っ掛かりを残し続けた。
その後、2日後にリツ――坂田律の両親に捨てられた後、叔父に殺されたという最期を見て、そして、一花と学校を休んだ日の夜。ハル――星崎春斗の、そして、冬斗にとっても大きなあの事故の夢を見た。
そこまで来ると、誰でも気付く。郵便屋の正体。そして、彼らが天使と呼ばれるその訳も。
しかし何故、ハル、基、春斗はわざわざこの学校に通うのか。その真相を本人に聞くのは、冬斗が春斗に託された事をやり遂げるまで、やりたくはなかった。
最早、意地とも言うべきその気持ちは、戦っているであろうハルの所へ向かう冬斗の中で強く、大きく住み着いている。
「ハル!!」
だからまだ、兄貴とは呼ばない。
彼は郵便屋ハルなのだから――――。




