エピソード11『俺達の決意』
ハルが戦いに身を転じていた頃、、、、――。
冬斗達は、空き教室に何とかたどり着き、これからの相談をしていた。
「てか、ハルは、、大丈夫なのかよ、、、、。」
「確かに、、心配よね、、、、。」
走ったせいで上がった息を整えながら、空と一花は、冬斗を見る。
「、、、、ハルなら大丈夫だよ。むしろ、俺達が居た方が足手まといになってただろうし。それより、、、、。」
息を整えた冬斗は、先程、ハルが去り際にポケットへ忍ばせてきた物を取り出した。
それは、白い小さな笛だった。
「なんだよ、それ?」
空が、冬斗の手のひらに転がるそれを覗きこむ。
二人より遅く息を整えた一花も、同じように見る。
「あ、可愛い。でも、ふゆ君そんなの持ってたっけ?」
一花の問いに首を振って答えた後、冬斗はハルの、カナ達を呼べという言葉を思い出し、笛を口にくわえてそっと息を吹き込んでみた。
しかし、音は全く鳴らない。
もう一度、今度は強く吹いてみるが、虚しく冬斗の息の音も聞こえなかった。
「、、、、冬斗何してんだよ~、貸せよ!」
ニヤニヤと冬斗を小馬鹿にしたような顔付きで、空は笛を冷めた目をした冬斗から受け取ると、大きく息を吸い込み、思いっきり吹いた。
しかし、やはり何度吹いても、音は鳴らない。
「くっそー!なんで鳴らねーんだ!!」
「人のこと馬鹿にしといてその様か。てか、これは多分、普通の人間には聞こえないような笛なんだよ。」
冬斗が呆れたような顔で空を見下して、笛を取り上げる。
空が一瞬、あっ、という声を出したと同時に、何かが空の頭を直撃した。
「ピーピー、ピーピーうるせーーんじゃーーー!!」
冬斗達が目を向けると、投球ホームのカナと、カナの横で困ったように眉を下げるリツの二人が、運動場側の窓を背景に立っている。
「カナさんにリツ君!久しぶり!」
嬉しそうに駆け寄る一花に、カナは笑顔で片手を上げて返し、リツもペコリと会釈した。
「カナー!会って早々酷くない!?超痛かったんだけど。」
ジンジンと痛む頭の横側を撫でながら、空は口を尖らせて、カナに文句を言うが、カナは空をスルーして、冬斗に声をかけた。
「で、どうしたの?ハルがこういうことするのって珍しいから、よっぽどの事なんでしょう?」
「、、、、俺達にも正直、あまり状況が把握できてません。けど、ハルの感じからして、悪魔が絡んでるんだと思います。、、、、古月大地と学校の人間ほぼ全員が、豹変しました。」
冬斗は空や一花とともに、これまでの経緯を、説明する。
それを聞くカナとリツも、話す冬斗達も真剣な瞳をしていた。
「、、、、ということで、今、神使君は一人で戦ってる。お願い!私達をもう一度あそこへ戻して欲しいの!!」
「無理よ。」
「何で?!」
「この事はもう、貴方達の問題じゃないの。次元が違う戦いなの。そうなってしまった今、貴方達は只の邪魔者よ。」
「、、、、、、。」
カナの、ハッキリとした冷たくも聞こえる物言いに、一花の表情が強張る。
「、、、、一花、カナのいう通りだ。二人に任せよう。」
見かねた冬斗が、一花の肩にそっと手を置いて泣きそうな一花を下がらせる。
カナも流石にばつが悪そうな顔をしていた。
冬斗はカナとリツに一歩近付くと、深々と頭を下げた。
「カナ、リツ、戦いの方はお前達に任せるよ。確かに俺達の次元とは違うからさ。」
「ええ。」
「うん!」
カナとリツは、冬斗の言葉に強く頷く。
それを見て、空が堪えきれなくなったのか、声を上げた。
「おい、冬斗!良いのかよ、お前の兄貴の願い叶えるんじゃなかったのか?!それに俺の兄ちゃんもどうなってるのか、、、、やっぱり、引き下がるなんて出来ねぇ!!」
空の言葉に冬斗は呆れたように溜め息をついて、空の頭を叩き、一花の頭を軽く小突く。
「お前はバカか?俺が何時、兄貴の事やお前の兄ちゃんの事まで任せるつった?それは俺達、人間の問題だろ?そんなとこまでハル達に任せるつもりはないよ。」
それを聞いた空と一花は、ぱぁ、と顔を明るくし、カナとリツは焦ったような表情を浮かべた。
「で、でも!生徒会長さんは今、悪魔と戦ってるんですよ?危険です!」
珍しいリツの大声に冬斗は決意の籠った瞳で告げた。
「だけど、あの場にはハルしかいないし、悪魔が先輩を影から見ていただろうから、ハルと悪魔は今、一騎打ちの可能性の方が高い。カナやリツ、ハルが戦っているうちに、先輩を元に戻して俺達はその場を離れる。迷惑はかけない!頼む。力を貸してくれ!!」
「俺も兄ちゃんを助けたいんだ!!お願いします。」
「私も、はる君とふゆ君の願いを叶えたい。お願いします!」
再び深く頭を下げた冬斗に習うように、空と一花も頭を下げる。
暫くの沈黙の後、カナが、はぁ、と溜め息をついた。
「、、、、分かったわ。ただし、目的が終ればすぐに立ち去りなさい。そして、必ず目的を達成すること。勿論、犠牲者は出さずにね。」
「「「はい!!」」」
「じゃぁ、行きましょう!ハル先輩の所へ!」
リツが笑顔で先頭を歩く。カナは一番後ろへつくと、すぐ前にいた、冬斗に声をかけた。
「、、、、全く、恨むわよ。」
「すいません。これで、ダメだったら奥の手を使うつもりだったんですけどね。」
「何よ、奥の手って。」
カナの挑発的な問いに、冬斗はぼそりと呟いた。
「、、、、、、水谷奏、坂田律、、、、星崎春斗、、違いますか?」
カナの目が大きく見開かれ、さっと、警戒心を強める。
「貴方、、、、何者?」
カナの問いに冬斗は肩をすくめて、答えた。
「俺は只の人間、そして、兄殺しですよ。」
冬斗の胸元では銀のクロスが揺れていたのをカナはぼんやりと見た。




