「そうだね。サナくんは女好きだもんね。」
みなさん、お久しぶりです。佐上夏樹です。え?前の噺から随分間が空いてる?‥‥‥それは時空の歪みですよ、きっと。
それより俺、今‥‥‥なんか死にそうです。
「あ、えっと‥‥‥ごめんねサナくん!これもお願い!!」
目の前にはちょっとだぼだぼしたパーカーにミニスカートなおっとり系美少女、心音さん。普段はしていない、うっすらと度の入った赤ぶちメガネ。‥‥‥いいよ、超理想的だよ!
まあただ、ね。ひとつだけ問題がある。
俺がなぜか漫画の原稿を手伝わされてるってことだ。
心音さんに「今度の日曜日。空いてる?」と、照れ臭そうにデートのお誘いのように言われた俺が、ワクワクしながら待ち合わせ場所に行ったら、心音さんの部屋に案内された、という‥‥‥。
完全これ‥‥‥デートイベントのフラグだよな!?
部屋。女の子と二人きりだよ!?彼女は部屋着なんだぞ!?おかしくないか!?
「ご、ごめんねサナくん‥‥‥。文芸部の部誌、手伝わせちゃって‥‥‥。」
「いや、大丈夫です!でも心音さん。締め切りギリギリにやるタイプなんですね。」
「今回は、ね‥‥‥。頼まれたのも急だったし。」
俺がなぜ今漫画の原稿をしているか。まあ、これは文化祭の原稿なのだ。俺が今しているのは、文芸部の部誌の表紙絵の仕上げ作業。そして心音さんがしているのは、げんしけんなどいくつかの文化部による合同冊子に載せる絵。ちなみに、同時進行で心音さんの友人が立ち上げたらしき同人サークルの新刊のおまけ絵も描いている。
「本当にごめんね!!でも今日協力できるって人‥‥‥サナくんしかいなくて!!」
「大丈夫ですよ。細かい作業は得意ですし!」
心音さんという女の子のお部屋にあがれたし!!(これが本音というわけではない。断じて)
「にしても、サナくんは本当にミスがないから助かるよー。」
「そうなんですか?」
「うん。ベタのはみ出しも少ないし、何より机に墨をぶちまけないし。」
「待って下さい!?墨ぶちまけるのはお約束なんですか!?」
顔を背けてしんみりと呟く心音さん。その墨ぶちまけるのは、会長な気がしたのは‥‥‥内緒だ。でも多分合ってる。
「風里ちゃんも、同じようなことしそうだしね。焦ってる時には‥‥‥うん。危険を想定してまで頼めないかな。」
「意外と器用だし絵も描けるみたいですけど、‥‥‥まあ。ドジはしそうですね。」
「絵が描けることよりも、今はミスをしないことのが大切だよ。サナくんは冷静だからねー。」
‥‥‥はじめて言われたぞ、冷静とか。
「由亜ちゃんの前だと時々冷静じゃないけど。冷静であるからこそ、あのツッコミが出来るんじゃないかな?」
「心音さん。違いますよ。ーーー俺は女の子の前ではカッコつけたいタイプなんです。」
会長だけじゃなくて、可愛いと思ったら止まらないタイプでもある。会長が少しだけ特別なだけだ。
俺があまりにも真剣に言うから、心音さんはペンを動かすのをやめて笑いだしてしまった。
「そうだね。サナくんは女好きだもんね。」
「心音さん。それは誤解を生みますよ。」
女好きとか、ナンパ男とかとは一緒にしないでほしい。軟派男ではあるかもしれないけど。いや、違う!!軟派でもないぞ!!!
「あ。表紙絵のトーンとベタ終わりました。次、まだいけます!!」
「うわぁ!!すっごぉい‥‥‥早いねサナくん!!!はみ出しもトーンカスも少ないよ‥‥‥。」
何だろう。心音さんに誉められるって超絶うれしいな。ああもう。さすが我が会のオアシス!‥‥‥そして、トーンカスの話とかは会長と比較して、だろうな。俺は今日までトーンの貼りかたとか知らなかったし、結構ムダ多いのは自分でもわかる。
「あ。えっと、じゃあ。これ、トーン貼りとベタお願いしていい?新刊のおまけ絵なんだけど‥‥‥」
「りょーかいです!」
多分、心音さんのことだから描いてあるのは女の子だろうなぁと思いつつ、原稿を受けとった。えーっと‥‥‥。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥!!!」
なんなんだこれは!!
「けしからん!最高ですね!!!」
「ふぇっ!?」
心音さんが俺の大きすぎる独り言に振り向く。って、そうじゃないんだ!!
「心音さん!これは一体‥‥‥!!」
「え、あ、ち‥‥‥違うの!!これが載る同人誌がそういうやつだからっ!決してノリノリで描いたらこうなったとかじゃ‥‥‥!!」
心音さんが俺に渡した原稿には、心音さん自身のコメント。そして、胸開きタートルネック(袖だぼだぼで、ワンピース。下着見えそう)を着た照れ顔の女の子!!!
なんていうんでしょう。えろい。
「こ、これ‥‥‥深夜にハイテンションになって描いたから。あんまり知り合いに見せられないようなものになっちゃって‥‥‥。でも自分で仕上げする時間ないし‥‥‥!!」
絵の女の子みたいに顔を真っ赤にする心音さん。な、なんかこういう女の子目の前にすると弱いんだよなぁ俺。会長とかはノリの良さで乗り切ってるけど、心音さんみたいなおとなしめな子が照れてたりするのには弱い。理由は単純で、こっちまで見てて照れ臭さくなるからだ。
「‥‥‥まあ、俺は男としてこういうのは好きですし。てか俺、好きに性別は関係ないと思ってるんで。」
「‥‥‥‥‥‥え。まさかサナくん、‥‥‥お、男の人がす‥‥‥‥‥‥!!」
ーーーーーあ。
「ち、違いますよ!!??趣味に関しての話です!俺は公言してる通りに女の子を愛してるんで!!!」
「うん。それはわかってるけど、好きと結婚が違うのと一緒かなぁ
?って‥‥‥。」
「さすがに性別の壁は越えません!!‥‥‥あ、いや。そういう趣味の人には申し訳ないですけど。同性愛者が嫌いってわけじゃなくて。」
「椎菜ちゃんは腐女子だしね‥‥‥。私も本当、BLは無理だもん。腐女子って存在は嫌いじゃないけどね。どうしても女の子可愛い!とかいう感情に走るから‥‥‥。」
俺もオタクだから心音さんのいうことはわかる。男で少女漫画読んでたりするのと同じような感じ。結構心音さんみたいな、女の子を優先にキャラを好きになる女の子は疎外感があるんだ。周りは男キャラの方が好きって人のが圧倒的に多いから。
なかなか、男で男のキャラの方が好きって人はあんまり見ないから共感‥‥‥とまでは出来ないけど。
「女で女の子キャラ好きって言うと‥‥‥他のオタクの子に否定されることも多いんだよね。そういうのよくわからないって、言われた後に男の子の話とかされても、それこそわからない。アイドルとか全然興味ないから‥‥‥イケメンとかにも興味ないから‥‥‥。女の子とイチャイチャする男の子はすごく好きだし、男の子の友情も素敵だけど、やっぱり女の子が優勢なの。わたしの中では。」
「‥‥‥げんしけんは、楽しいですか?」
心音さんも俺も作業する手をとめない。心音さんの方は、手を止めたら泣いてしまいそうで。作業に影響はないが、声は明らかに震えている。
「げんしけんはね。すごく楽しい。全員違った趣味を持ってるから否定されることもないしね。しあわせって、はっきりと言えるよ。」
「そうですか‥‥‥。」
少しだけ手を止めて、心音さんの横顔を除きこむ。‥‥‥‥‥‥ああ、これは本当にずるい。誤魔化すみたいになるけど、作業のペースあげなきゃいけないな。
俺が見た心音さんは。
涙ぐみながらも下を向きながらも、季節外れのひまわりみたいに笑う、心音さんだった。
すごくすごく間あきましたが、‥‥‥終わっていません!
また次も間あくんじゃね?とか言われても、最低でもヒロイン一人一人をフューチャーし終わるまでは終わりません。
次回も心音回‥‥‥かもしれません。原稿終わってないし。
かといって、心音でまた一話ぶん書けるかもわからないし。
どのみち、次のヒロインは誰か。
お待ち下さい。
では。読んでくださりありがとうございました。