090 探索者ギルドにて
私達は、その上の層、第51層に行き転送装置を使用して、地上に戻る。なお、これは転送装置と言う言われ方をされているが、本当の所これは、超高速の昇降装置だ。
「あ~、帰って来た」
外に出て、太陽の光を拝んだ時に、今日は良く生き残ったな~、なんて感想を覚えた。
私がそう思っている時に少女は、その場にペタリとその場に、座り込んで「はぁ~」と息を吐き出していた。
まあ、仕方ないだろう。あんな状況生きて帰れる方が珍しい。
「とりあえず、ギルドの方に行くぞ」
私は手に入れたあの大量の素材と魔石を売りに行こうと言う意味を持って行ったのだが、彼女にはそう受け取れなかったようで。
「え…………」
絶句していた。
あ?何だ、この反応は?
ああ、こいつは今回の事を私がギルドにでも報告しに行くとでも思っているのか?
ええと、確か………ギルドはギルドにいる者達の事には干渉しないが、迷宮内で多数の被害者が出る可能性がある事を起こした場合、それが他人にばれて捕まった場合、奴隷に落とされる。しかし、今こいつは奴隷だ。この世界に奴隷の人権なんて言うものは存在しない。まあ、普通の人間にしても明確に人権等の事は、決められている訳では無いのだけど。
「お前を突き出すわけでは無い。大量に手に入れた素材と魔石を売りに行くだけだ」
それを聞くと、あからさまにほっとした様に感じた。
余り追い込み過ぎて、嫌われるのはあまり得策では無い為、安心させるために言っておいた。恐怖を感じさせて置いて安心させる様なやり口は、狙っていたわけではないが結果的にそうなってしまった。
更に言うと自分がミスをすれば、殴られるなりされるのが当たり前だった少女にとって、自分がミスをしたのにそこまで自分の事をあまり責めてこない彼女は、はっきり言えば何もしなくてもドンドンと好感度が上がっていると言っても過言では無い。
はあ、それにしても私としては出来るだけギルドの方には行きたくないな、あの雰囲気はあまり好きでは無い。
ここのギルドの雰囲気は分かりやすく言うと、テンプレ通りと言うのが一番分かり易いだろう。
五月蠅いし、臭いし、私の事を変な目で見て来る者もかなりいるし、本当に如何にかならないものかね。
ギルドの不満を考えていると、ふと思いついたことがあった。
「今更何だが、お前の名前って何なんだ?」
「え………名前ですか?」
あ?何だ?そんな難しい事を聞いた覚えは無いのだが?
「ああ、名前だ。何か言え無い様な事情でもあるのか?」
「…………」
何かを言おうとして、喉まで出て来た言葉の飲み込んだような気がする。
「名前はありません……ずっと、おいとか、おまえとかと、しか呼ばれた事が無いです」
…………ちっ、胸糞わるいな。と言う事は生まれた時からそんな扱いを受けていたって事か……
「あの…………どうかしました?」
「何でもない」
「す、すいません」
先程までの苛立ちが、言葉の中に感じ取られたのだろう、少し怯えた様な声で謝って来る。
その後はお互いに無言のままギルドに向かって歩いた。
私はいつもの様に、周囲の者達を見向きもせずにカウンターに向かう。
「これを買い取ってほしい」
取って置くと例え〈アイテムボックス〉に入れておいても魔物の素材や魔石は劣化していくので、目立ったとしても売らないで置くなんて事はしたく無かったので、全て売る事にした。
いつも一人と言う事を考えれば今までも相当多かったのだが、更に普段の数十倍の販売量に、受付嬢は顔を引き攣らせている。
周囲の探索者もその量を見て唖然としている。
他の受付嬢も応援に加わり、十分くらいで数えるのが終わった。合計で大金貨4枚に金貨7枚、銀板5枚になった。
何時もの二十倍近いな………、本当に無理をした事になるな、これは……
基本的に私は敵を不意打ちをかけるのが中心で魔法も普段は使っていないので、それなりに強い個体を狙っているので、十体前後しか殺さない。
これなら、二週間くらいは念願の宿に泊まってだらけられそうだ。
と思いながら笑っていると、私達に声をかけて来る者がいる。
「ねえ、君たち、すごいね。二人だけでそんなに倒したのかい?」
顔はそれなりに悪くないが、何と言うか………目が腐っている。
周囲にいる者達もそんなに強そうではないが、バランスのいいパーティーの様だな。
その中の一人がこいつの事を凝視している。
嫌な予感がするな………
「そうだが?」
「へえ、すごいね。どう?僕らのパーティーはいらない?と言うか君が一人でいてずっと狙ってたんだよね」
自分が声をかければ、付いて来るのが当然の様な顔をして話を進めて行く。
「お断りします」
何とも関わりたくないと言う雰囲気を全開にして、即答する。
「え?でも、少人数じゃ危ないよ?」
「もう慣れている。おい行くぞ」
「あ、はい」
碌に言葉を交わすような、真似もせずに早目に会話を打ち切って、その場を去ろうとする。
「ねえ、その子ってさ、知り合いのパーティーの奴隷だった子だよね?」
こいつの事を凝視していた根暗そうな男が言う。それを聞いて、私に話し掛けてきた男が「へぇ」と言う感じに反応する。
「ねえ、何君がその子を連れているのかな?」
はぁ、面倒くさいな………。
「迷宮内でこいつの主人が死んだらしくて、その時こいつを拾った」
「信用できませんね。あなたが殺して、奪い取ったのではありませんか?」
「そんな事はあり……」
そんな事はされていないと、反論を少女がしようとするが。
「奴隷は黙ってなよ。奴隷の発言なんて、意味が無い」
「っ………」
そう言われて泣きそうな顔をする。
「だったら、お前の発言も意味は無いな。お前の発言もただのやっかみだ」
「おい、行くぞ」
若干の苛立ちを覚えながら、少女の手を引いてギルドから出て行く。
後で面倒な事が、起こるだろうが知った事か。
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