087 怠惰な忍者と猫耳少女の出会い
時系列的には死んだ事にして脱走してから一~二週間くらい
私は今、迷宮の中にいる。
武神の迷宮第52層。
出現魔物の平均はB級、この階層で生き残れるかどうかが、探索者としての一つの壁と言われている。
さて、私は何でこんな層まで来ているのかと言うと。今まで私は、適当な宿に泊まって、毎日を寝て過ごしていた。適当な宿とは言え、この世界の物は意外と品質がいいのでそれなりに満足していたが、ある日、家具屋であるベットを見つけた。
私はその時それに一目ぼれをした。しかし、それはその時の私の所持金では、とてもではないが買う事が出来ない金額であった。しかもそれは、とある宿がすでに買取済みだった。ならそこに泊まればいいかと思ったが、その宿はこの都市で最高レベルの宿で一泊でさえするのには、その時の私が本気で稼いだとしても、一か月分くらいが吹っ飛んでいく様な金額であった。
本来ならば諦めるところであるが、彼女にとって睡眠は最上位優先事項なので、彼女は本気で稼ぐ事を決心した。こんな事で、本気を出す事を決心していたと言う事が知れたら、他の探索者は激怒するだろうが、彼女はそんな事は気にしない。
その時は、片手間で魔物を殺す事が出来る難易度のD+級の階層にいた。
一応、この階層でも一人前を名乗れるレベルである。
この時、彼女は少々悩んだ。
毎日潜って稼ぐのならB級で、何とかなる。しかし、A級まで行くことが出来るのならば、一日稼ぎで一週間は泊まる事が出来る。
自分の持っている職業等を加味した結果、彼女は後者を最終目的とした。
多分、何とかなるんじゃない?
と言う他の探索者たちが聞いたら、その才能に嫉妬して怒りで我を忘れそうな事を思っていた。
ちなみに、何故家を買うのが選択肢に入っていないかと言うと管理するのが面倒、だそうだ。
それくらい稼げていれば、奴隷を買うなり使用人を雇うなりすればいいじゃないか、と言う事を言うような事は頭よぎったが、奴隷はちゃんとやれるか不安、使用人は金を出したくないので却下したらしい。ちなみに何故そこまで、宿に泊まる事にこだわるかと言うと、宿なら宿の人がプロの仕事をしてくれるからだそうだ。
そしていつも通りに【忍者】と【暗殺者】によって、強化された〈隠形〉を使った不意打ちで、魔物を狩って行く。最強級の職業とは言え、斥候職と後衛職しか持っていない彼女は、安全面の事を考えて正面から戦う様な事はしない。正面から戦うには圧倒的に防御力が足らないからである。
下の層に来て見て思った事は、この様に気を付けながらやっていれば、意外と苦戦しないと言う事だ。
もちろん、自分の攻撃が通る様な敵としか戦っていないが……
まあ、彼女にとって本来、探索と言うものはそう言うものだろうと思っている。彼女は、自分の思っていた以上に順調に進んでいる攻略に満足して、今日はここら辺で切り上げるかと思った時にそれを見つけた。
っ!?魔物の大量の反応………くっ、トレインか……。
その考えに至った瞬間、擦り付けられてはたまらないと、自分のステータスの中で特の突出している敏捷に物を言わせて、一目散にその場から離れる。
しかし、その大群は私の方へ向かって来る。
は!?何で!?
そんな事を思ってみるが、当然現状が変わるわけではなく。魔物達は私のもとへと向かって来る。
くそっ…………この状況で考えられる事は、二つ。私が魔物を引き付ける様な何かをやったか、もしくはこれを誰かが引き連れているとして、その者が私に擦り付けようとしているかがだ…「助けてくださいーーー!!」…………後者か面倒な。
何か助けを求めている様な、声もする気はしたがこんな階層に来ている様な者は、何が起きようが自己責任と言うのが当選な迷宮において、こんな魔物を連れ来る様な者を助ける様なお人好しではやっていけない。と言う事もあり知らんぷりをして更に走る速度を上げる。
「ちょっと!!助けてくださいよーー」
ちっ。こっちが逃げている事に気が付いたか。何だか子供の声がするような気がするがこんな層に子供がいる訳が無いな。きっと逃げている奴が〈変音〉魔法で声を変えてるだけだろう。
実際は使っていない事は分かってはいるのだが、こんな所に異様な子供がまともな事情でない事は容易に予想がつくし、こんな状況で助ける事は無理に等しいので、無視して走り続ける。
逃げるルートを探すために、〈気配探知〉を使って魔物のいない場所を探すが、周囲にいる反応を見て愕然とする。
なっ!?こいつどんだけ連れてやがる。て言うか、こいつはどれだけ逃げていたんだ?尋常じゃないぞこの量は……………
彼女は知るよしも無い事であるが、これを連れて来てる少女は一時間にわたって逃げ続けている。
その為、そんな者が逃げ続けていればいる程、周りにいる魔物達もそれに巻き込まれて、ドンドンと引き連れている物の数は増えて行って、本当に数えきれないくらいの数に達している。
くそっ、最悪は、壁を作る系統の魔法でも使ってから逃げればいいとでも思っていたが、この数では意味が無さそうだな………
四十を超えた事から迷宮の一階層の底面積は、上に存在している都市一つ分にも匹敵する。その為この階層になって来ると、ある程度よく使われている集合点の様な場所でなければ、人と会う事は無いし、魔物も一体一体が強力である事が多くなり集団でいるのも稀だ、もちろん集団でいるものもいるが、それには近づかない様にしている。その為、狭い範囲を深く索敵していたのが、あだとなり反応が遅れ現在のトレインに巻き込まれるような結果となっている。
くそっ……悪手だと思うが、ここは魔物達を倒していく方がまだいいのかもしれないな………最低限今逃げている奴が、追って来ている魔物の気を引く事が出来るレベルがあればいいのだが………
一応、彼女には多対一の時の為の魔法も持っている。【黒糸】で陣を編むことによって一本で使う時よりも圧倒的な強度にすることが出来、更に斬り裂くときに使う力も魔物のものを利用する為、私自身にそこまで負担はかからない。しかし、圧倒的に時間が掛かる。これを使い始めたのも最近なので、まだ練度が足りないのだ。
私は、少々やりたくもないが生き残るために、逃げて来ている少女に速度をゆるめて近づいた。
ありがとうございました




