085 魔女の過去(1)
残酷な描写が有ります。苦手な方はお気を付け下さい。
女は男が帰った後に、自分の過去を思い出していた。
私は、井上 桔梗。元は、普通の高校に通っていた何所も周囲と何の差も無いしいて言えば、本が好きでインドア派のどこにでもいるごく普通の女子高生だった。
もう何百年前の話だろうな…………
彼女は、何百年も前に此方の世界に来た。転生でも(と言っても転生には記憶が無いが)、召喚でもない、迷い人だ。これはごくまれに現れる。と言っても転生者が持っている【証】も無ければ、召喚者の持っている時空神の加護(〈アイテムボックス〉の事)も無かった。しかし、〈言語理解〉と〈異世界人〉と言う称号は有ったので、一応この世界でも生きて行く事は出来た。
彼女は、冒険者や探索者になろうとはしなかった。多少、の一般人より強くなれる可能性が有ろうと死んでしまっては、意味が無いと思ったからだ。それに、元々インドアの人間が急に生き物を殺すなんて出来る訳が無い、と言う理由もあっただろう。
だから私は、現代知識を使ってそれで、どうにかしようと甘く考えていたのだけど。この世界には、昔に来た【勇者】達によってかなり高い水準まで、一部は魔法によって、向こうの世界よりもさらに効率的になっていたのには、驚いたね………まあ、最後の所は魔法に頼っているから、この世界に科学が広まる事は無かったけどね。料理が美味しかったから、まあいいけど………
まあ、細かい事は割愛するけど、私の最初の目論見はついえたね。
仕方ないから、私はごく普通に働く事にした。高校生とは言え、こっちの世界で言えば高いレベルの教養や知識を一応とは言え、身に着けているし、こっちの世界の常識は、図書館で猛勉強したおかげでしっかり身に着いた。そして、それなりに安定していそうな職に就くことが出来た。
ここまでは、運も良くて上手く行っていたんだろうね。
そして、数年が経った。
私は二十歳になって、帰れる見込みもないし、この世界で骨を埋めて死んで行くのだろうねと思っていた。
意外とこっちの生活も悪くないし、小規模ながらも魔法なんてものも使えたしね。
と言っても魔物とかは、殺していないから魔力の量も少なかったけどね、本当に生活用の小規模の物。詠唱を頭でパズルを作るみたいに考えたら〈思考詠唱〉なんて言うスキルも手に入った。魔法使いでも無いのにこんなん持ってて如何するんだよ、とか思ったね。
まあ、こっちで死のうと思ったのは、恋人が出来たのが一番大きいのかな?
エリックって言う冒険者。私の勤めている職場は冒険者ギルド。
私が働き始めた頃に、冒険者になった、私よりも年下の男の子。
その子は才能が有って、二年でDランクになってこの街から一回出て行った。テンプレ物で考えると遅いかも知れないが、この世界の基準で言えばかなり早い方だ。
そして更に、二年が経った。
エリックがBランクになって帰って来たのだ。
帰って来た事を聞いときは、へえ、すごいのね~。としか思っていなかったが、エリックがギルドに入って来て、私を見たと思ったらこっちに来て急にプロポーズをされた時は心臓が止まるかと思ったね。周りには茶化されるし………
まあ、今となればいい思い出かしらね…………
それから一年後、私のおなかに新しい命も宿って、私は向こうの世界でも無いくらいに幸せを感じていた。
しかし、そんな当たり前の幸せも長くは続かなかった。
その頃になって急に増えていた【魔人】の人間の街への攻撃。私は他人事としか思っていなかった。
浅はかだよね。自分の所には来ないなんて、そんな保証はどこにもないのに…………
街は【魔人】達の手によって、一夜にして滅んだ。当然高ランクの冒険者であったエリックも戦って死んだ。
何の因果であろうか、私だけが次の日の陽の目を見た。
この世界に来て知り合った人たちも亡くなり、更に愛する人まで失った私は、深い絶望の淵にいた。
半ば、原型の留めていないエリックの死体を見つけた時、私はその場で死のうと思った。
こんな最後も悪くないと思う自分もいた。
しかし、その時【魔人】の一人が戻って来たのだ。
それを見た時の私の心は、憎悪で染まった。
まともに持てもしないエリックの剣を持って、【魔人】に斬りかかった。
剣術のイロハも知らない私の剣なんて、当然であるが【魔人】には掠りもしない、それでも殺された人たちの名前を叫びながら、剣を振り続けた。
しかし、その【魔人】がここに戻って来たのは、まさに私の様な人間が見たかったからであり、私はアイツに最も見たかったものを見せていることに気付かなかった。
泣きながら剣を振るった。当然ではあるが、戦いの素人であった私は数分後には体力を使い果して、その場に倒れこんだ。
それでも私は恨み言を言うのは止めなかった。【魔人】はそれを愉快そうに見て、エリックの死体を私の近くまで持ってきた。
何をするのかと思っていると行き成り、臟を引きずり出して、私の口の中に入れた。
その瞬間私は、何をされたのかを正しく理解する事が出来なかった。
その【魔人】はこう言った。
‘俺はな。自分の恋人を奪われてそんな顔をする奴をヤルのが、大好きなんだよ’
と。
私はその瞬間、怒り、悲しみ、殺意、不快感と言った負の感情が、留めなく沸き上がり叫ぼうとするが、口に入れられた臓物が、それを邪魔する。しかも、それをしようとするたびに、歯がそれを傷つけ口の中に血の味が広がる。
襲われている最中に、私は頭がおかしくなりそうな程の殺意と憎悪を感じていた。
…………コロシタイ、タトエ、エイエンノジカンガカカッタトシテモ、コロシタイ。
そして、満足したのか【魔人】が。
‘楽しかったよ。じゃあな’
と言って私の頭を拳で潰そうとした時、頭にこう響いた。
【一定上の殺意、状況、資格を持つ事を確認いました……………
称号〈永遠を望んた復讐鬼〉を入手しました】
グシャ。
私の頭は潰されて、地面に紅い染みを残した。
【称号習得者に部位の欠損を発見しました。
種族を【人食鬼】に固定する事で修復が可能です。
所持者の意思の確認に失敗しました。
意識を失う最後の瞬間の感情により、修復する事が所持者の意思と判断します。
修復を開始します】
私は、その瞬間にその時もっとも嫌悪していた【魔人】の一種【人食鬼】となった。
ありがとうございました
もう一話続きます。この続きは明日の6:00か、明後日の00:00には投稿します。




