081 魔人は先に倒しておこう
カサネと話を終えた俺は、誰にも言わずに集落を出た。
今回は誰にも気づかれる事無く、事態を終わりにするつもりだからだ。
まっ、多分シェンには、ばれると思うけどね。でも連れて行く必要も感じないから、連れて行かない。
そして俺は今、集落から十キロの所で待機している。俺の思い過ごしでただ近くをうろついているだけ、と言う事も一かけら程は考えられるので、俺の考える最低限の距離の地点に待機した。
結局、集落へ向かって一直線だったが。
視認できる距離まで近づいた。見たところ全員が、別の魔物からなった【魔人】らしい。何となく集落へ向かっている七人中五人の【魔人】が獣人系であるのは、偶然でない気がする。
と言う事は、俺が目的ではないのか?
その構成は獣人たちの集落へ向かう事を考えた構成に感じる。
以前の【魔人】達は俺の事を何らかの方法で居場所を突き止めて、迎えついでに街を襲撃したが……しかし、それが違うとなれば理由は…………まさか妲己か?
何となく思い浮かんだものであるが、これであっている気がする。
彼女の【仙孤】は、【魔人】の派生種族らしいからね。
となると如何しよう?何だか勝手に追い払って、いいのか分からないぞ。
自分の思っていた事と何だか違った状況に、どうしようかと考えているとすでに俺の目前まで接近していた。
取りあえず話を聞いてみるか……
〈多面の道化〉発動
称号を使って自分の姿を銀髪の狐耳を持つ、あの集落で一般的な着物を着た孤人族の姿にする。この姿を選んだのは、今からこいつらを止めたとしても、アイツらに対して、いい訳が聞くだろうからだ。
俺は重力魔法を使って、奴らが飛び上がった瞬間に重力を数百倍にして、地面にたたき落す。
そして、動きを止めた事を確認してから〈隠形〉を解いて姿を現した。
「な、き、貴様どこから……」
リーダー格らしき男が俺の接近に気付いて話し掛けて来る。
しかし、今の自分の状態が目の前にいる俺の仕業であると確信したのか。
「貴様。これを解け。出ないと後悔するぞ」
這い蹲っているのに、まるで自分の方が上だと言わんばかりに、ゾッとする様な低い声で言った。
しかし、それはこの不測の事態に対して、周りの者達を動揺させない為、もしくは。
俺は無表情のまま、興味なさげにこう言った。
「何しに来た?何の約束もなしにある程度の力を持ったものが近づいてきたのなら、取りあえず無力化するべきだろ」
大胆不敵にそう言い放つ。その様子はまるでお前たちなぞ敵では無いと言わんばかりだった。
まあ、自分としてもこの状態にするのはどうかとういう意見も出るとは思うけど何がるか分からないからね。
自分勝手なのは自覚はしているけど、俺の体はもろいから警戒くらいはしておいてもいいよね。
「なら、後悔しろ」
男がそう言うと、他の者が重力を緩和する魔法を使い、動ける様になった瞬間に男は〈闘気〉で体を加速させ、腰の剣を抜き俺に斬りかかる。
おそらく俺に話し掛けたのは、この時間稼ぎか。
まあ、話をするのに取りあえず相手を動けなくするのは、賛成だけど。
これを無効化される事は彼らの移動方法から考えて、重力魔法を使える者がいると言う事は分かっていたので、特に驚くこともなく〈アイテムボックス〉から槍を取りだして男の剣を逸らす。
あっさりと自分の攻撃を防がれた事に男は驚愕する。
何せ今の攻撃は完全に隙をついたと思丨っていた為、回避されるならまだしも今の様な完全な対処をされるとは思ってもいなかった為である。
こいつから魔力を感じなかったから俺の様に魔力を完全に操作でいるか、もしくは今の様に〈闘気〉を使えるかだが、こっちの方がまだ楽だな。
完全な魔力操作が出来るとすると最低でもA級以上は確定するので、彼としてもそれは嬉しい情報だった。
と言っても〈闘気〉を使える【魔人】など相手に出来る者もそうはいないが………
男の剣は止まらない。
俺の防御を掻い潜ろうと、一呼吸の間に鋭い剣閃を幾度も振るって来る。
時折、隙をつくかのように、掌底や蹴りと言った打撃も取り入れる。
この手の攻撃パターンはアルに似ているので、防ぐのは容易い。
しかし、同じ様な種族が同じ様な戦闘スタイルになるのは、やっぱりそれが一番合っていると直感するのかね。
彼が考え事をしている間に、重力操作の行える者が仲間にかかった重力を緩和して、いつも通りに動けるようにしていた。
動ける様になった者達が、目の前にいるノコノコ出て来た愚か者に対し、自分たちに手を出すと言う事がどう言う事であるかを思い知らせてやろうと、各々の得意とする魔法を使う。
そして【魔人】ならではの魔力の属性への直接変換で一瞬にして攻撃魔法を作り上げる。
炎、雷、そして風系統の不可視の振動が彼を襲う。
【魔人】の強みを挙げるとなると賛否両論となり意見が別れるが、中でもこの直接変換は必ず上位にあげられる。
目の前にいるのが普通の者であるなら炎に焼かれ、雷に打たれ、振動によって体を粉々にされる事であろう。
彼らはそれをすでに確信している。
しかし、運の悪い事に目の前にいる者は、到底普通とは言えない。
ようしゃないな~
なんて思いながら、彼は火と振動をお馴染みの真空の壁で遮断。
さらに、真空の壁に誘導される雷を氷属性の魔法で作り出した液体窒素を水属性魔法で操り防ぐ。
液体窒素は中性なの電気は通さない絶縁体だ。
なお、彼が液体窒素を使っているのは、集めるのと不純物の除去が水よりも楽だからと言う理由だ。
維持も真空の壁で覆っているので苦にもならないし。まあ、もっと言えば攻撃に回すのにも有効であるからだ。
そして一見するとこの状況は、水によって炎、雷、振動が防がれた様に見える。
当然攻撃した方は何故防がれたか意味が分からない。
炎はまだ水壁に防がれるのはいい、それは彼らもよく知っている防御手段だ。
しかし、この世界では水が雷を通すのが一般的だ。
なお、この世界の水魔法で純水を作る事が出来るが、それは魔法薬の生成に使われるくらいだ。
純水は生成するのも面倒くさいし、それにしか役に立たない為、引きこもりの錬金術師が作る物と言われている。
「な………」
「っ……」
それを見た彼らは絶句している。
当然だろう。
魔法を兆候が一切、感じられなかったのだから。
彼の魔法は〈魔力支配〉の影響で魔力のロスが無い。
魔法を探知することが出来るのは、その魔力ロスがある為だ。
しかし、彼らも幾度の修羅場を潜って来ている猛者たちだ。
特殊属性の存在を言っているので、それかとあたりを付けた。
実際には違うのだが、それでも戦闘中に動揺して動けなくなるよりは遥かにいいだろう。
「気を付けろ。
こいつは強い。
油断するとやられるのは俺達だ!!」
リーダー格の男は周りの者達に、言い聞かせるように声を荒げる。
こいつは、有能な奴だな。状況を冷静に判断することが出来るみたいだ。
彼はいつもの様に、この世界の常識では有り得ない様な現象を起こす魔法を使えば、戦意を失ってその隙にでもかたを付けようと思っていたのだが、そうは行かなかった事をむしろ喜んでいる節がある。
戦える人数は五人。重力魔法を緩和して動けない魔法使いが二人か。
さてと、いつもなら魔法使いから倒して楽をしようと考えるけど、ちょっとアルたちに試すわけにはいかない魔法と魔法具を試す実験台にでもなってもらうか。
黒い笑みを浮かべる。
〈アイテムボックス〉から新作の銃を取り出す。
それは銃身の長さが三十センチ近くあるロングバレルのオートマチックのハンドガン。
今までアルたちに渡してきたものとは、バレルの長さが圧倒的に長い。
寧ろ今までは、重力魔法で誘導路の様なものを作って来ていたので、そんな事を気にする必要も無かったが、今回は使用する弾丸と加速法の性質状、バレルは長くする事を強いられた。
〈紫電の魔人〉発動
称号を使いこの銃を撃つための準備を終える。この称号を使った段階でこれが何だかわかるだろう。
その引き金を引く。
青白い光が見えたかと思うと、目標となった者が少しも反応が出来ない程の速度で弾頭部分に〈魔力分解〉を付加させた弾丸が飛来し、男の纏っていた魔力の鎧を貫通して手の甲を貫き、その衝撃で着弾部分を爆散させた。
弾丸を受けた者が呆けた顔をしているところで、弾丸が空気を斬り裂く音が聞こえた。
【魔人】程の者達が反応出来ないと言う事は、ある程度の敵には有効か。
自分の作った物の性能に満足しながら、更に引き金を引く。
それにしても、この武器は本当にえげつない様に作られている。何せ発射の瞬間に出る青白い発光……紫電。あれは、消そうと思えば消せるのに実は、わざと消していない。彼は、発射時にあれが出るのは、発射される弾丸とほぼ同じ色なので、ミスディレクションの様な働きをするだろうと思って残しているのだ。
そして、おそらく彼らも速度だけなら反応も出来たんだろう。しかし、これが組み合わさる事によって、弾丸は不可視のものとなった。
そして、そんな弾丸を彼の知覚能力を全開にした偏差射撃によって、一人また、一人と戦闘不能にしていく。
一人を除いて、俺に攻撃を加えようとした【魔人】達は、碌な抵抗をする事も出来ずに倒れて行った。
【魔人】達にとってそれは、悪夢としか言えない状況であっただろう。
目の前の少年の持っている金属の塊の先が、光ったと思ったら体が壊される。
そんな自分たちの理解を超えた現象に対し、冷静さを失ったところを攻撃される。
容赦なく戦闘行為に必要である腕や足を打ち抜いかれて行く。
ちなみに、彼の知っている者達の中でこれをどうにか出来ると予想される者は意外に多い。リルはおそらく素の身体能力反応が出来る。レティシアはおそらく持っている予知系の能力で反応できるだろう。シェンは何もしなくてもこの程度無傷だろう。そして妲己は今のシェン並みの能力を持っている気がするからできるだろう。
意外と多いね……
最後に残ったのは〈闘気〉使い。〈闘気〉の鎧は子の弾丸では貫通できないから予想通り………と言いたいところだけど、こいつは弾丸を三回ほど避けて、二回手に持つ剣で斬り落した。
予想外に手練れの様だ。以前、逃げられた鬼の女には多少は劣るものの、こいつが街なんかを襲ったら、相当な被害が出る事は予想に難くない。
しかし。
「さてと、そっちとしては、もうこれ以上戦闘を続けるのは得策ではなのではないか?
魔法使いは残してはいるが、いつでもやれる。
一応、そっちがここに来た理由を聞いておきたい」
今のセリフを言っている時に、弾を打ち切って残弾の残っていないマガジンを〈アイテムボックス〉に仕舞い、呼びの者を空中に出してリロードをして、また何時でも打てるようにしたとこまで、銃を指でもてあそびながら、不敵にもそう告げた。
「貴様………ぬけぬけと。
そうしたのは貴様ではないか」
当然であるが、こんな事を言われようなら当然の反応ではあるだろう。
男は歯を強くかみしめながら、射殺さんばかりに殺意のこもった眼で彼を睨む。
しかし彼は、戦略的にそれが正しいと判断したのか、後ろの者にやめる様に指示し様とすると。
だが、後ろに控えている者達は、少しも殺意を誤魔化そうとはせずに。
「くそおお」
悔しそうに唸り声を出しながら、魔力を練り上げて行く。
どうやら大規模な魔法でも使う気らしい。
後ろに控えていた魔法使いの片方は、前衛の人数が減った事から重力緩和の魔法を使う必要が無くなり動ける様になっていたらしく、先ほどの前衛たちの使った物とは比較にならないくらいの魔力量を持って、巨大な魔法を発動させる。
生み出されたのは、龍を模した巨大な炎。
だが、それでも男は、いやな方に確信をしてしまった。
俺は血の中で最強の攻撃力を持っているこいつの攻撃でも、目の前にいるこいつにとってはとるに足らない攻撃なのだと。
そしてその予想は、悲しい事に的中する。
俺は、あれだけの力の差を見せたのに、まだ向かってこれると言う事に感心していた。
まだ、自分の周囲に浮遊されて置いた液体窒素と追加で作ったそれを使ってそれを迎え撃つ。
何もしないままに火に当てると、気体に戻って爆発する可能性があるので大量の魔力を流し込んで、温度を下がらない様にする。
一応、殺す気も無いしね。
「くらえぇぇ」
魔法使いの男が火の龍に命令を出して、俺へ向かわせる
見たところ、詠唱を省略して放つには、いささか強大過ぎる様で顔に大粒の汗を浮かべている。
轟音を鳴らしながら、俺の事を焼き尽くそうと接近する。
だが、大波の様に押し寄せる液体窒素に飲み込まれて、一瞬にして男の使った魔法は消え去った。
そして、攻撃に対して少々警告の意味も込めて反撃をしておく。
今度は、それからドライアイスの小さな礫を生成して、いつもの重力と真空の空気抵抗の減衰を使った加速法を持って反応で出来ない速度で飛ばし。
それを手足に突き刺す。
これも、アルたちには試せないよね~
そして、その礫を内部を一気に気化させて体の内部から爆発させる。
瞬間的に、固体から気体に戻された二酸化炭素は、小型の爆弾となり男の肉を引き裂く。
「がああぁあ」
小規模にしていたから、手も足も千切れていないのにやけに五月蠅いな。
どうせ直ぐに治るだろうに。
「さてと、それじゃあ、ここに来た理由を「その話は、私も混ざろうかの~」………やっぱりいたのか」
ここに来た理由を聞こうとしたところで、魔力による〈隠匿〉だろうか………俺の〈諸事万端〉に引っかからないとは……やかり、強いな。
「ははは、強いのお主。途中で手を出そうと思ったのじゃが、出すまでも無い程の圧勝かのお~」
目の前の惨状を目にしても、微塵も自分のペースを乱すことなく、昨日見たちゃらんぽらんな雰囲気で言った。
なんだか、こいつの登場で一気にこの場の空気がゆるくなった気がする。
俺はため息を吐きながら、そう思った。
次回の投稿はテストの為8月4日(月)になります。
ありがとうございました




