080 妲己の本心
「あの……」
俺が振り向くと、そこにいたのは銀色の髪を長めに伸ばした、気の弱そうな大体十代半ばの少女だった。
「ん、何?」
あれ?どこか妲己の面影を感じるな……もしかして彼女も?
「ええと、初めまして私はカサネと言います。シャラを助けた商会の会長さんで合っているでしょうか?
少々お時間いただけないでしょうか?」
おどおどはしているが、自分の意思をしっかりと伝えて来た。
「ああ、いいよ」
俺は、それに承諾して。
「アル。俺は彼女と話をしてくるから今日の訓練はここまでにしてあがってくれ。あとすまないがみんなの事を頼むぞ」
俺はまだ動けないであろうか、彼に一応声をかけてその場を後にした。
少々ぞんざいな扱いに感じるかもしれないが、邸で訓練していた時も動けなくなった場合は、自分たちで先に回復した者がまだ動けない者達を運んで看病させるようにして来た。
俺がどうにかするよりも、自分たちでどうにかする方が仲間意識が強くなって丁度いいだろうと思ったからだ、けして俺が面倒だからそうしている訳じゃ無いよ………まあ、一石二鳥とは思っているけど……
そして、俺達は集落の広場の様な所で彼女がそこへ行く途中に用意した果汁を絞ったジュースを飲みながら話を始めた。
そこは、ここの集落の人たちが花を植えている様で、ちょっとした花畑の様になっている。以前に見た物とは違って、思い思いに植えているので、計算された美しさではないが、何と無く見ていてホッとする様な印象を受ける。
俺はここの来る途中ここの集落の住人に明るく挨拶もされて、最初の頃とはがらりと変わった態度に、ポカンとしているとカサネに貴方の考えている事分かりますけど、貴方はシャラを救ってくれた恩人であり、母様にも滞在する事を許されています、更に昨日のお酒でやられたものもいると思いますけど………と言って来た。
口ぶりからすると二番目理由が一番比重を占めていそうだった。
「ありがとう。訓練の後にはこういう飲み物が欲しくなるからね」
まず、最初に用意してもらった飲み物のお礼を言う。彼女が用意してくれたのはオレンジを酸味を抑えてより甘くしたような感じの飲み物だで、疲れている体には甘いくらいがちょうどいいと考える俺には好みの味だ。
………後でアルたちにも持って行くかな。
「どういたしまして。ここの集落では子供も大人も運動をした後にはよく飲むものなんです。
お酒好きの人はその実で作った果汁酒もよく飲みます」
ん~、そう言われてもお酒は飲めないからな………
「えっと、話があるんだよね。何かな?」
「はい、昨日母様にお会いになりましたよね」
一応確認の意味合いで聞いて来る。
「ええ、集落に来たのに族長に挨拶しない訳にはいきませんから」
俺としては、会う前に彼女の性格の事が分かっているのなら、お断りしたかったけど。
「母様はああ言いましたがシャラの事は大事に思っています。 母様は【仙孤】で数百年の間この集落で族長を務めています。そしてこの集落にいる者達は全て母様を祖としていると言えます。そしてその強大な力によって神とさえ見ている者もいます。ですので母様は多くの事を我慢していらっしゃいます」
ふむ、昨日受けた印象と随分違うな……いや、千年近い時を生きている者の本質を俺程度が一目見ただけで見抜けるはずも無いが、それが本当だとすると少々優秀だと自負していたスキルに足して自信が無くなるな………
「どうかなさいましたか?」
俺が考え事をして黙り込んでいると、彼女が声をかけて来る。
「そうでしたか………
俺には全く分からなかったので情けなく思ってまして………」
「仕方ないですよ。母様はいつも周囲からそう思われるように振る舞っていらっしゃいますから。自分で動こうとするのは他の集落に行って優秀そうな者の子種を持ってくるときです。それも結局は周囲の集落との繋がりを作る為で今の母様は本当はあまり乗り気ではないので………」
彼女は仕方ないと言っては来るが、自分も第一印象の所為とは言え、妲己の事を深く見ようとしなかった。それは彼の中で特に嫌いなモノだと言う事だと気付き落ち込んでいる。
…………何と言うか、聞けば聞くほど俺の抱いていた印象が変わっていくな……
確かに最初に俺が思ったあの性格を考えるとここにいる事、事態がおかしく感じてはいたけど今の説明を聞くと自分の子供と子孫が大切だから此処居ると言う事か………辻褄は合うな。
「すいません。長く話しすぎましたね。
ただこれだけは言っておきたかったので……」
昨日邪険にしたこと謝りに行きたいな……言っても昨日の様な事を言ってはぐらかされそうな気もするけど。
「今何を考えているかは想像がつきますが、それはおそらく母様も望んでいませんし、言ったとしても考えている通りになると思います」
「良く分かるね」
何度も先回りされているので一応聞いてみた。
「私も母様の心情を和らげたいと思ってそう考え続けていた頃がありましたから……と言っても母様は私たちにそんな重荷を背負わせる気も無いようですが………」
………重いな。俺なんかが何か入る余地も無い問題だな。
くそっ。昨日見た笑みが別物に思えて来る。
特に最後の一言とがもっと意味深な気がする………
ん?集落から南東に九十キロ………空気の読めない無粋な連中が来たな。
今回も俺関連じゃないといいけど………先んじて潰して置くかな。
「あの……どうしたんですか?」
俺がいきなり空を見上げて何の反応も無くなった事を不審に思ったのか声をかけて来る。
「あ、ごめん何でもないよ」
何かこの後の事はうさはらしになる気しかしないのだけど………
………また来たのか。
うんざりしながら集落の中心の小屋の中でため息を吐きながら何かを探知している者がいた。
奴らもこりん連中じゃのう。前回も断ったと言うのに。
仕方ない、行くかの。
流石にそんな連中も集落の中に入れる訳にはいかないのか、接近する前にどうにかする様だ。
誰にも気付かれない様に魔力で姿を消し外に出た。
ありがとうございました