006 小鳥の泊まり場
ルナさんに勧められた通りに小鳥の泊まり場と言う宿に訪れていた。
へぇ、結構きれいな女将さんだな。
見た目は二十代後半くらいかな、綺麗な髪を高い位置で結んでなんというかすごい母性を感じさせる体型をしている。
ルナさんの絶壁っぷりとはえらい大違いだな。
あれ、何だかすごい寒気を感じるな、背中から冷汗が・・・
ごほん、気を取り直して、
「すいません泊まりたいんですが」
「はいよ、何泊だい」
「一泊で頼む」
「あいよ、500マギカだよ」
まあやっぱり安いな、銅板5枚か。
さすがは、ルナさんが初心者向けにいいと進めただけはあるな。
それになんというか姉御肌なしゃべり方だな、似合っているけど。
見たところ食堂の床やテーブルもきれいに磨かれているし、日本人の感覚から見てもかなり高レベルだ。
これは当たりだな。
「大銀貨でいいかな」
「はいよ、9500マギカのお釣りだよ」
日本で言うレジの代わりにしているらしい箱から硬貨を取り出しお釣りを渡している。
俺はお釣りの銀貨9枚と銅板5枚を受け取った。
「食事はどうするかい?
今すぐにでも用意できるが」
「ああ、頼みます」
「お父さん、食事一人分頼むよ」
「はいよ」
「すぐできるから待ってくれよ」
「ああ」
俺は案内された席について料理を待っていると頭に狼?の耳を付けた幼女が料理を運んでこちらに来る。
母親が美人だと子供もきれいだと言うのは本当だな、大きな釣り目がちな瞳、綺麗な癖の無い銀色の髪に柔らかそうなピンク色のほっぺ。
おっと、少し見過ぎたか、だが見ずにはいられない程の美幼女だな。
何だかこっちを見て怯えている様な印象を受けるな。
「どうぞ。おのみものはどうしますか」
料理を持ってきて何を飲むか聞いて来る。
おお、舌っ足らずの聞いていて心地いい声だな。
でも声が固いな。
「何があるんだい?」
俺は出来る限り柔らかい声で質問を返す。
「えーるとかじゅうしゅとおちゃです」
「それじゃあ、果汁酒をもらえるかな」
「わかりました」
パタパタと足音を鳴らして厨房へ戻っていく。
へぇ、尻尾もあるのか。
出てきた料理は、具沢山のシチューにパンだった。
うまそうだな。
そう思いながら、料理を食べ始める。
なんだかパンがふわふわでうまいぞ、もしかしてこっちにも酵母とかもあるのか本当にこんな値段でいいのか?
満足感を得つつ俺は食事をつつけていると。
「おまたせしました」
と微笑ましいものを見て自然と顔がほころぶ。
俺は笑顔で手招きをする。
「?」
笑顔を見せたことで多少は警戒心が薄れたのか近づいてくれる。
「ありがとね」
お礼を言い得ながら頭を撫でてあげる。
昔、犬にやった様に撫でると気持ちよさそうに目を瞑って頬を緩めている
十秒くらい撫でて手を離した‘またこんどね’と言っておいた。
女の子が厨房に戻ったところで飲み物を手に取る。
ちゃんと冷えてるな、本当になんでこんなにサービスが充実しているのにこんなに安いんだろう?
そう思い満足しながら食事を終えた。
トレーを戻し。
「御馳走様でした」
「おっ、そうだ風呂はここの奥にあるから好きな時間に入ってくれ」
風呂まであるのか、こういう世界には一部の人しか風呂には入れないと思っていたが、そうでもないのか?
まあ一端、部屋に行ってから入って見るか。
俺は部屋に入りここに来て何度目か分からない、驚きを感じていた。
余計なものを置いてはいないがしっかりとした作りの家具だな。
さて風呂に行くか。
風呂は食堂の奥へ行った所に有った。
…………暖簾がある!?
まさか向こうで見た事が無かった物をこっちで見られるとはなぁ。
こんな所にまで、向こうの文化が伝わっているのか?
まあいいや憧れの物が見られたんだからそれいいか。
そう、思いつつ暖簾をくぐる。
ん、先客がいるな、女将さんの旦那さんかな?
頭に狼の耳を付けた、とても引き締まった体をした、線の細めなイケメンがいた。
かっこいい人だな、どことなくウェイトレスの子の面影があるな、あ、逆か。
「こんばんは~」
機嫌のいい俺は明るく挨拶をする。
「ああ」
寡黙な人だなあ。
今の俺はかなり機嫌がいいといえるだろう、身体を布でふくのがこっちではせいぜいだと思っていたからな。
まあ、耐えられなくなったら、自分でお湯を作って重力で浮かせながら、そこに入ろうと思っていたくらいだったし。
「お前、俺がいることを気にしないのか」
「?」
俺は何を言っているのか、わからないという顔をしていると。
「ふぅ、ルナの言っていたのは本当だったか」
「ん、なんの事ですか」
「いや、何でも無い、忘れてくれ」
なんだろう?
まあ、いいや温まったしそろそろ出るか。
「では、お先に~」
俺は風呂場から出ていく。
部屋に戻った俺は、日課の柔軟をしながら、今日一日のことを思い出していた。
ふう、色々な事が有ったな、今日は。
異世界に呼び出され、更に魔神に目を付けられて、その力の継承者になり国?教会の敵になるとは、予想外だったなその後のダンジョンに強行軍で行ったのは意外と楽しかった。
今まで、ストレスでも溜まっていたんだろうな。
母に何も伝えられずにこっちに来てしまったのは、唯一の心残りだな。
一日を振り返った後、特にすることも無くなったので自分の使えそうな、〈合成魔法〉の組み合わせを考えてメモし実際にスケールを小さくし試したりして。
その後は本当にする事もなくなったので、このまま寝る事にした。
おやすみ~
布団もやわらかく異世界に来た初日の夜は、ぐっすりと寝ることができた。
ありがとうございました。
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