061 日常風景 颯・リル・レティシア
「お兄ちゃん今日は何かする予定あるの?」
リルが食堂で食事をしていると俺の今日の予定を聞いてきた。ちなみに今は昨日の事もありみんなと同じ時間で食べている。昨日のおかげで思った以上に仲良くなっていた。
若干みんなに慰められていた気がするんだけど何でなんだろう?
「今日は昨日調べた事の実験をする気だけど」
「………と言う事は一緒に遊べないって事?」
上目使いに聞いて来る。
う、うん。これは卑怯だろ。
こればっかりは………速く試したいけど………
何方かと言うと断る方で考えを纏めていた様であるが。
ん?
「……………」
レティシアが横から服の裾を持って上目使いに見て来る。
何も言って来ないのが何と言うか、更に来る様なものがあるな………普段とのギャップが。
それとなんか周りの子たちが声には出していないけど、ザワザワしているな。それにこっちの事を興味津々で見て来るし。
まあ、いいか。極論実験は何時でもしようと思えば何時でも出来るし。
「いや、何でもない。考えてみればいつでもできる事だから」
リルが満遍の笑みを浮かべ、レティシアは安心した様にはにかんだ。
邸を出るのを昼の前に指定して来たのはなんか意味が有るのだろうか?
まあ、この内に多少は昨日調べた事をまとめて後は作るだけと言うレベルにはなった。
空間系の魔法の実験は明日でいいかな?
俺達は今日は買い物等では無くゆっくりしようと考えが一致し観光区にある公園内を回ろうと言う事になった。
観光区にはいくつかの公園があり俺たちが選んだのは街の中に森を作ったと言うのがコンセプトの物で人気の公園だ。
公園全体が温室となっており魔法具によって温度管理がされており世界中の植物が育てられている。
向こうの世界でもこんな規模の植物園は存在しないだろうと思うぞこれ………
これも【料理勇者】が基本設計をしたらしく、此処に自分の料理の為の食材を育てる為に作ったと言われている。
この使い方が世界中に知れた事によって、どの様な国であっても食材が出回り易くなった様だ。
特に北にある雪国サイレントでは作ればそのまま凍らせて保存させると言う保存法を確立させた事によって輸出力が増加し国土面積は聖国、皇国、帝国よりも大きく、国力はそれらに次ぐ為、第五の大国として数えられる事が多い様だ。
まあ、他の四国特に帝国ガイズル、帝国ガザンの二国の帝国は戦力と国力と軍事力によって大国を名乗っているのでそれは否定する事が多い。
しかし、その国はそもそも自分たちの国が大国と思っていないらしく、しかも国民の気質が温厚でそれに助け合いの精神が浸透している為殆ど戦争をしたと言う歴史も無い様で帝国とは正反対だ。
更にこの国は亜人の差別も殆ど無い。普通に国の中枢に亜人も居て亜人の集落を回ったら次はそこに行こうかなとも思っている。
「うわ~。すっご~い」
「すごいですね………」
二人共目の前の光景に圧倒されている。
目の前に広がっているのは一面の紅葉風景。
え?何で今の時期に紅葉?ちょっと前は六月位って言ってたって?
ここはそう言うのも人気の点なんだよ。ここは四季の光景がいつでも見られるんだよ。
まあ、俺もここに来るまで知らなかったけど、レティシアの格好が珍しく洋服だったので‘何で’と聞いたら、‘あそこに行くなら和服にすると景色と合わなくなるので’と言っていた。その時は何の事だか解らなかったけどここに来ると納得だ。
確かにここに来る時は季節ごとに模様や生地を選ぶ和服は合わないな。
ちなみに今の格好はリルは胸元にリボンの付いた白のワンピースに同色のハイソックス、温度調節の為に青いストールを付けている。スカートの丈は絶対領域が眩しいと言えば通じるだろうか?
レティシアは腕の部分がレースになっている黒のロングカットソー下は白いパンツに同じく温度調節の為に黒いストール。
ん?俺はタイ無しのタイト目のスーツだよ。そう言う所に行く様な服なんて無かったから、何処にでも合う様な無難な奴を選んだ。
「所でさ。なんで今日ここにしたんだ?
あ、不満があるわけじゃないけど、ちょっと気になってね」
「昨日買い物をしてたのですけど、何だか兵士の方々からの視線を感じたので。
ここは兵士の方があまりいませんから」
「ああ。成程。
それについては問題ないよ。兵士たちはこの前の魔人が街を襲った時にそいつらを撃退したのが二人だって言うのを知っているから。
それに二人は今兵士たちにとっては、ちょっとしたアイドルみたいな扱いらしいぞ。
二人とも可愛くて強いから」
「「………(ポウ)」」
あれ最後の‘可愛い’の下りでいきなり赤くなったぞ。
おかしいな。今のは俺の意見じゃなくて兵士たちの総意の筈だけど。
まあ、いいや。指摘して面倒な事になるよりは………
「と言う訳でそれは問題ないから安心してくれ」
ついでにいい機会だから貴族になる事此処で話しておこうかな?
いや、もっと驚かせたいから使者が来る直前にしようか。
「ところでさ、そろそろご飯にしない?」
「ん?ああ。確かに腹減ったな」
まあ、流石に昼前に屋敷を出る様に調整してランチボックスの入りそうな大きな袋を持っていれば、もう何を用意しているかは一目瞭然だよな。
でも、二人は料理なんて出来たっけしてるとこ見た事無いけど?
まあ、食堂で調理していればミーリャがそれとなくアドバイスくらいしているだろうし、リルは父さんが料理人だし、レティシアはちゃんと調べてから調理しようとする筈だから大丈夫だろう。
「私達で昼食を作ってきました。少し開けた場所で食べましょう」
「おいしく作れたよ」
「ありがとう。嬉しいよ」
「速く行こ」
「……」
リルとレティシアに手を引かれて少し開けた休憩スペースの様な場所に行く。
二人が作ったのはサンドイッチとフライドチキンと言った公園で食べるお弁当としては王道の内容だね。
ハムに卵、ツナと言ったよくある物とデザートのフルーツサンド。フライドチキンは塩コショウ、ニンニク、ローズマリーで下味を付けてサクサクとした触感に成る様に素揚げしている。
「~♪~♪(もぐもぐ)」
食べている姿が言葉が必要ない程に雄弁に‘おいしい’語っている。
二人共自分の作ったものがちゃんとできているか不安があったのかその姿を見てほっとした様子だ。
その為か三人でいる時はほぼと言っていい程にやっていた‘あ~ん’の事をすっかり忘れている位であった。
「ずぅ………ふう。美味しかったよ」
お弁当を食べ終え。食後の紅茶を飲んで一息ついて感想を言った。
二人共その感想に満足そうにしている。
「ところでお兄ちゃん、今日お兄ちゃんに渡したいものがあるの」
「渡したいもの?」
「はい。颯殿に大変世話になっているので、その感謝の気持ちを表そうと思いまして、昨日二人で用意したんです」
「嬉しいね。そう言ってくれるのは」
うぁ。感動だな~兄妹とか居なかったから分からないけど、妹からプレゼントを貰うって言うのはこう言う気持ちなんだろうか?
リルに貰ったのは雪の結晶をモチーフにして中央に蒼色の宝石の付いた銀色のネックレス。
レティシアに貰ったのは黒いフレームに花の透かし加工がされているバレッタ、髪留めを貰った。
「ありがとう。嬉しいよ、俺あんまり人から贈り物もらった事無いから
大切に使わせてもらうよ」
と言ってもこれは他人にかかわらないから自業自得だと思うけど。
「着けさせてくれませんか」
「ん。ああ、お願いするね」
そう言ってレティシアに背中向ける。
手早く髪をアップにして高い位置で止めた。
簪などで慣れているのか大変手際が良かった。
ん。ちょっとこれはくすぐったいな。
「ありがとう。ん~なんか頭が重く感じるな」
「普段おろしているとそう感じますね。
良く似合ってますよ」
………男が髪飾りが良く似合っている事に喜んでいいのだろうか?
「所で何時から伸ばしているのですか?
相当長いと思いますけど」
まあ、リルやレティシアは膝のあたりまであるけど確かに俺の腰までも相当長いよな。
え、と確か。
「この髪はうちの実家で相当虐げられる理由になっていたからね。
それが出来ない立場になった時にその反動で伸ばし始めたのかな?」
自分でもいまいち覚えていないな。
ん~。しかしあの頃は大変だったな。一部の師範代クラスは普通に剣とか槍で鉄とか斬ったり壁走ったりしていたからな、あれを見た時は驚いたな。こっちで言えばD+からC-位あったよな。
………あれこれどう考えてもおかしくない?向こうの世界の人間としてはおかしいよね。
「お兄ちゃん。ネックレスつけていい?」
「と、えーと。何の話してたっけ?」
声をかけられて思考が現実に帰って来る。
「レティがお兄ちゃんに髪留めを付けたんだから次は私がネックレスを付けるって事。
ちゃんと聞いててよね」
「あ、ごめん。お願いするよ」
殆ど使った事の無いバレッタならともかく、ネックレスくらいは着けられると思う、それどころか後ろも知ることが出来るのでここは空気を読んで何も言わない。
後ろにまわって着けるが普通だと思うが何故か正面に回り手を首に回してまるで抱き着く様な体勢になった。
普段こんなに近づく事は無いのでドキリとしている。
いつもは特に顔色の変えない颯ではあるが不意打ちとも言える急接近で今は少しではあるが顔を赤くしている。
付け終わるまでドキドキとしていて落ち着かなかった……
なんて言うか急にそんなことして来るなんてね。
颯はこの時は気付いていないがリルもそんな反応に顔を赤くしており。レティシアは私もそうすればよかったのかな…………とかも言って羨ましそうにしていた。いや、どうやって正面から髪留めを付けるんだよ。
その後はまだ回っていないエリアを見て回った。
春のエリアはこっちの世界の特有の花の花畑を見た時は圧倒された。何と言うかサイズが無効の世界の物では見れないくらい、すごく大きかったかあらね。遠くから見ると大きな花弁なのだが近づいて見るとそれは小さい花弁の集合体で近づいて見ても不自然さから来る気持ち悪さも感じなかった。
しかもそれは花弁を乾燥かせるとハーブとして使えるらしい。昔はとある場所にしか生息していない高級品であったがここを作った者によって採取されたらしい。
冬のエリアでは氷で、花弁を作る様なこっちの世界ならではと言えるものを見た。
このエリアはとある理由で観光客よりもカップルに人気なんだよね。
「温かいね」
「すいません」
「…………」
季節違いの寒さになるので、ここに来る様なカップルは体を密着させて見て回る様だ。
俺達の他にも来園客もいたけど、みんな同じ様にして見ていたから間違いないだろう。
さっきまでいた家族連れは居なく、若いカップルから老年の夫婦まで仲良さげにしている。
三人に見とれてパートナーに頬を抓られたり、腹に肘鉄を貰っている事は。何と言えばいいんだろうね様式美?
まあ、微笑ましいものを見る様に女性が見ている事も多かったんだけどね~
その後は特に何かあるわけじゃ無くぶらぶらして夕食ができるころには邸に戻った。
充実した休日になったと思う。
ありがとうございました




