058 日常風景 颯⑵
「…………またかね、正面から入って来てくれないか」
「流石にもう無理だろう」
正直言うと短期間に入り過ぎだ。ここまで来ていると個人的な繋がりを疑われる。
「そんな事よりも図書館の閲覧の許可書もらえない?」
「何故だ?」
「ちょっとね。新しい魔法具でも作ろうかと思ってね」
「…………まあ、それなら対外的な言い訳も出来るか。
いいだろう少し待て、いま一筆するから」
「悪いね」
「そう思うのなら少しは気を使ってほしいな」
「俺を使う代金として諦めて」
「それを言われるとまぁ、弱いな。
と言うかあれは、良くやったな。
高ランクの冒険者やどこの者か解らない護衛も居たそうじゃないか。
それをもよくもあんな短期間で………」
「気にするな。ほら庭が焼けてただろそれで一気に倒したんだ」
ここでも〈多面の道化〉が役たった。道化とあるだけで嘘を誤魔化す効果もあった。
顔色やその他の事も誤魔化せる。これで多少交渉もうまくいく出来る気がする。
まあ、これがこの称号の怖い所なのかもしれないが………
「………まあいい、ほら出来たぞ」
「どうも~」
「あんまり使いすぎるなよ」
まあ、これ持っていれば中に入っても特に何も言われないだろうから隠れて入るけど。
「おい、頼むからあんまり無茶な事しないでくれよ」
「分かってますよ」
顔に出てたか?おかしいな?顔には何も出ないはずなんだが。
「じゃあ、そろそろ行きますね」
〈多面の道化〉を使って不可視化し窓から出て行く。
「………これが暗殺者になったら対処のしようも無く殺されるんだろうな」
と呟いていたとかいないとか………
俺は局長室から出て図書館の前に来ていた。
………一応前から知ってはいたがデカいな。
大きさは何と言えば伝わるだろうか。
五階建てで地下は三階分あってそれぞれにフロアの底面積が東京ドーム四つ分位か………
俺が探しているような本は地下に有るのが殆どの様だ。
魔本関連は重要性と秘匿性から俺が持っている様な許可書が無いとは入れない様だ。
まあ、これの為に言う事を聞いたとしてもいいくらいだな。
とそんな事聞かれたらいい様に使われそうだらか絶対に言わないけど………
さて、中に入ろうか。
中に入るとこれもまた圧巻な本の量で、毎度の事ながら空調管理の魔法が使われている。
こう何度も聞いていると王城に使われてるのが、凄いものじゃ無いのでは、と思うかも知れないが、あっちは庭ごと作用していて感覚的には、空間を切り取って均一に温度湿度調整が行われている感じかな。
どうやら地下の方に向かう昇降機の前には職員が居てそこでこれを見せる様だ。
まあ、いいやととっと入ろう。上の本は何時でも見られる事だろうし。
「止まれ。ここからは一般人の立ち入りは許可していない」
「あ、どうも。お疲れ様です。
これでいいですか?」
「ん?これは市長直筆の許可書………失礼しました。
学者の方でしょうか?初めて見る御顔でしたので」
「気にしないでください。当然の対応です」
「ありがとうございます。閉館は五時となっているのでお気を付けください」
「どうも」
ん~すごいね。ここに有る本全部が魔法関連のものになるのか………
数万は下らないかな、これは目的の物を探すのにも骨折れそうだな。
まあ、活版印刷の物なら探しているワードを〈諸事万端〉で探せばすぐに見つかるが………手書きの物はきついかな……頑張ればいいや。さーて、やるぞ。
腕まくりをして本棚の迷宮と呼んでもいい様な所に入って行く。
それから数十分後目的の数冊を持って机に向かっていた。
机の上にある本は『十三階梯精霊術』『古式禁級魔法』と言った俺の使う【白焔】に匹敵する。魔法の魔法陣について記されているもの各十冊。
それに加えて『精霊の隷属法』『教会の禁術研究結果』と表で見つかったら速攻ブチ込まれそうな題名のレポートの束。この二つは何でここに有るかは………うん。気にしたら負けだろう。
『精霊の隷属法』は偶にいる超危険思考の研究者が書いたもので、精霊の隷属はやるとその者がいる都市を精霊王が焼き払ったり、氷漬けにしたり、そこにいる人間が細切れにされたり、雷の雨が降ったり、地殻変動によって沈んだりと、まあシャレにならないことが起こるらしい。
それを何故しようと思ったかと言うと、これ使えば精霊王呼び出せんじゃね?と思ったからだ。
まあ、当分はやらないけど武器とかに入れられればいいものが出来そうだよね?なんて思っている。
次は『教会の禁術研究結果』の方は、これをいつか暴露して向こうの悪事を世に知らしめてやろうと思っているからだ。教会や軍が『禁術』の研究をしている事はテンプレなのであると確信していたがここに有るのは予想外だった。
大体人間を生け贄にする系統のものだ。多分スラムの人間を定期的に使っているのだろう。でないとあそこの大きさの割に住んでいる人数が少ないからな。
っと、さて読み始めるか。
パタン。
ふぅ。
取り敢えず本の方は読み終わった。禁術級魔法は取り敢えず出来そうだ。十三階梯精霊魔法は十体くらいの上位精霊が居れば出来る。もしくは最上級クラスの精霊以上に出来る直接契約をすればできるけどこれを見る限り精霊の扱いは面倒臭そうだからやめておこう。はっきり言うと無理だわこれ、精神弄るか、最上級クラスは基本的な精霊の気質の例外が多いらしいからそれを探すくらいじゃないと無理。でも面倒臭い。
………しかも【魔王】は精霊に好かれずらい…嫌われるらしい。【勇者】の方は契約しなくても力を貸してくれるとかいうけど………
こう言う事だけは羨ましい……
次レポートの方。
バサッ。
終わった~
何か暗号で書いてあったけど〈言語理解〉のスキルのおかげか、直接意味を知ることが出来るので特に苦労することは無かったけど、読んでると胸糞悪くなる様だったな。
人間の狂気を見たよ。
『精霊の隷属法』の方は………必要になる材料の希少性が高いから無理かな………
今日の成果は…………禁級の魔法と教会の禁術研究か微妙だな。
と言っても一日でこれはいい方か、帰りは食材でも買って久しぶりに料理でも作ろうかな。ミーリャも休んでいるだろうし。
ありがとうございました




