055 本当は楽しんでない?
煙が晴れると無傷で立っている糸目の男。その左側の眉間には小さいながら確かに角があり口元には鋭い牙があった。
〈鬼人化〉か。
クノが言うには〈魔人化〉は魔力量が一定以上になるか単一の感情が魔力に転嫁する事により人をやめる事。しかし〈鬼人化〉は自分の選択で人間をやめる事を選択、認定される事でなるもの。つまり〈鬼人化〉が出来るものは精神的にはもう人間でないと言える。
鬼の強さの秘密は〈気〉系スキルの〈鬼気〉にある。
ちなみに鬼の魔人とこれは別だとも言っていた。
ここで言う鬼とは〈修羅〉や〈羅刹〉〈夜叉〉と言ったものだ。
丁度いいから〈魔力〉と〈気〉の違いを説明しよう。
魔力とは生物が持つ魂と精神エネルギーが結合したもので主に他のエネルギーに純度が高ければ高い程変換し易いのが特徴で汎用性が高い。
気は魔力とは逆に魂も精神エネルギーも使わない。では気の発生源はどこか?
それは細胞である。
まあ、‘体力を使って作ると考えればいいよ’と肝心な所が適当に流された気がする。
それに追加すると‘魔力を多く使う君には〈気〉を習得できない’とも言っていた。
そして〈気〉には魔力に無いもがある。
それは質量である。魔力はどんな純度であったとしても質量は存在しない。それが様々なものに変換することが出来る汎用性を生むのだ。そして〈気〉は逆に汎用性は全くない遠距離攻撃は殆ど出来ないとは言える。大量の〈気〉を消費するが魔道具の使用は出来るらしいが。そもそもこれは魔力の才能があると根本的に習得することが出来ず更に気が狂う様な訓練がいるらしい。召喚者には一部例外があるようだけど。
才能の無い者の極限それが〈鬼化〉であると言っていた。
つまり何が言いたいか。これを使っていると言う事はもう完全に本気だろう。今までは〈気〉も使っていなかったし。
ここからはさらに幾つかの称号も使っとくか。
〈龍殺し《毒》〉〈戦略級魔導士〉〈死と境界の王〉発動
〈気〉込での戦闘能力は俺も測れない。流石に〈魔王〉まで使うのは問題があるから(簡単に後で特定されえるから。特に〈死氷〉は魔法具の中によく魔法陣の保護の為に使っているから一発アウトだろう)これくらいは使わないとね。外見の変化は〈変化の面〉で解らないからおおだろうし。まあ、流石に英雄級と言っていた〈龍殺し《毒》〉まで使っていれば余裕だろう。と言うかもう圧倒するレベルで行く。
さてと、向こうさんの用意も終わりそうだからそろそろ行くか。
〈平速思考〉発動
魔法も出し惜しみなしだ。ドンドン行く。
手に持っている槍に雷属性の上級魔法を〈付加〉させる。
そして向こうが準備が終わるのを待っていたのだと言わんばかりにその瞬間に〈鬼人化〉する前の数倍に匹敵する速度で斬りかかる。
しかし〈平速思考〉と〈龍殺し《毒》〉によって高められた。反応速度と称号による腕力によって槍で受けとめる。
「なっ」
「残念だな」
ちぇ、電撃は圧縮された〈鬼気〉が絶縁体の機能を持っている様だから通ら無いか。意外と防御面については使い勝手が良さそうだな。それにさっきまでの攻撃と比較して重い。速さや力の上昇じゃなくて根本的な体重の増加かそれでも速度が落ち無いのは身体能力上昇と同調しているからだろうな。
次は〈絶堺〉も使ってみようかな、せっかくだから強い奴に対して使った方が後々の性能確認をしなくてもよくなるのでいいだろう。
最近使っていなかった防壁系の魔法のように〈絶堺〉を周囲に展開した。
この防壁は展開している限り自動的に防御をしてくれるようだ。これならこいつの剣を更に深く観察出来るな。更にこの防壁は空間系統の能力であるのか、その場所に入った瞬間に速度が消えると言う良く解らん現象が起きる。その為攻撃の初動をよく見る事が出来た。数分後には刀が停止しても体の速度を殺さずに攻撃を繋いで来る様になったがこれは別に使う場面は来ないだろうからいいや。
そんな事より念願の空間系の属性だ。これでワープ装置が作れないかな?
しかし今のやり取りでもう解った。こいつは確かに強かったがここまで称号を使うともう相手にならなそうかな。
それでも人間と言う範疇では最強クラスだろうな。多分今こいつはS級で今の俺はS+級。Sでの+-はA級以下の一段階の差に等しい。しかし、初めて純粋な人間からS級まで行った奴を見たよ。
若干の味気なさも感じている。それでもしょうがない事だと割り切って殺す事にした。
俺としては簡単に殺されてほしいんだけど、どうやら自分よりも強いと言う事が解った瞬間に更に笑みを深くしている。
こいつは闘うのでは無くて自分より強い奴と本当は戦いたかったのだと言う事が嫌でも理解させられる顔をしている。
何と言うか本当に嬉しそうだ。さっきまでの笑顔が嘘に感じるレベルだ。
その後奴は笑いながら戦闘を続けた。〈鬼気〉を足場にする事で空中移動もして、立体的な攻撃は苦戦させられたがそこまで珍しくもなんともない。正直言えば俺やリル、レティシア、そして訓練を乗り切った奴らなら誰でも出来る様になっている。
魔力なら比較的簡単に出来る様になる事を相当遠回りしないと手に入らない様だ。
そして先程とは状況が一変し攻撃を一切しなくなった颯に対して男が攻撃をし続ける。
一見すると反撃が出来ないのかと思う光景であるが攻撃を受け続けていると言うのに、その場から少したりとも動く事が無い。つまり完全にいなしていると言う事だろう。
しかもその動きは先ほどまでの男の動きと類似点が見られる。
つまり男の動きを逆に読み切り模倣までして来ていると言う事になる。
「……もういいだろう。お前の動きの根幹はつかんだ」
もう何もさせないよ。
男はその言葉に初めて恐怖を抱いた。これはつまりこの短い間に自分の剣の歴史のすべてを見切られた事を意味するのだから。
「有り得ない、有り得ない。有り得てはいけないんだ!!」
もはや先程までの笑みも余裕も無い、その表情にはただ怖れと怒りが在るだけだ。
恐慌を浮かべながら攻撃をしてくるが流石に技術は体に染み込んでいるのだろう。それでもなお剣線はぶれる事無く襲い掛かる。
しかしもはや武器を使う必要も無いと言う様に腕を下げ〈絶堺〉も消して構えさえも解いた。
「はあああ」
攻撃は先程よりも速いだろうそれでも当たらなくなった。
リズムを変えるために拳や脚も攻撃に加えて来た。
だが俺は何と言った?根幹を掴んだと言った。つまりそれはもはやそんな事では極少程の揺さぶりにもならない。
腕を下げた態勢で攻撃を躱し続ける。
「っう」
〈平速思考〉を使った状態となると表情が消えるのだがそれが更に恐怖を煽る。
まるでガラス玉の様に金色の瞳が光っている。
それがまるで‘お前の剣はもう何も出来ない’と語っている様でもある。
これは剣士として見れば最上級の侮蔑であるだろう。そして本当に呟いた。
「お前の剣はもう何も出来ないよ」
「ああああああ」
防御に回していた〈鬼気〉を全て身体能力強化に使い更に体の全関節と筋肉を前方への移動に使用し斬撃を放つ。それは魔法等の外的要因無しの純粋な新イタイ能力と剣技だけで、完全なる不可視の剣閃と化したが根幹を見切っているので始めさえ分かればそれ以上見る必要も無い。進行方向に槍の穂先を置いておくだけで良い。
そう思い穂先に首が来る様に置いておいた。
そして全身全霊をかけた斬撃はもう何でも無いかの様に回避され、そして首を槍に裂かれていった。
………いくら強くても最後はあっけなかったな。
今のこいつしか知らない俺が言うのもなんだが、これが力に呑まれたものの最後なのか………
この時、颯はもし自分がこの力にのまれて狂った時、同じ様な最期を迎える事になるだろうと思ったと言う。
「さて、此処に来た目的を果たそうか」
屋敷から逃げたとしても殺される事は分かっているのか、屋敷の中にとどまって迎え撃とうとしているのだが恐らくただの悪足掻きだろう。本人もそれは分かっているがそれでもやっておきたいのだろう。
こっちや巻き込まれる側としてはいい迷惑なんだけどね。
夜は長いそこまで急ぐ必要も無いと言うかの様にゆっくりと屋敷に向かって歩き出した。
特殊条件の達成を確認しました。スキル〈模倣〉、称号〈技術泥棒〉を統合し上位称号を習得します
称号〈技俲者〉を入手しました
技俲者
見たモノの理を見抜き自らの物とする者
観察能力、理解能力に極めて大きな補正
PS
君……あれは酷過ぎない?
あそこまでしたらもう立ち直れなくなっているんじゃないの。
自分のすべてとも言える剣を完全否定だよ。それ含めて狙ったのかもしれないけど。
それにこれはちょっと君を相性が良すぎるよ……
ク「ん~なんか初めの追い込まれること込みで狙ってる気がするけど、どうなんだろう」
ありがとうございました




