046 鬼王・閻との戦い
「かかか、これは見事な童もいたようじゃな。
まさか、わしの部下をこうもあっさりと下すとは」
赤い髪をした袖の無い着物を着ている美女。体の筋肉は服をはち切れんばかりに膨らませている。
そして頭部には角。鬼の魔人の様だ。にやりと笑うと長い牙が口から見える。
レティシアが胸を見てまるで親の仇を見るような目つきで見ているのでサイズについては、特に言及しないでおく。
ああ、寒気がするのは風邪でも引いたのかな?そう、そうだ。そう言う事にして置く。精神の安定のために……
「どうやら、あなたは話が通じそうですね。
何故、あなたたちはここに来たのですか」
「ふむ、そうじゃの我々にも巫女と言う役職の者がいるのだがその者から此処に我らが王がいると聞いてのう。
迎えに上がったのじゃ」
へえ、王ねぇ。クノって魔人までに崇められてはいないだろうな。
いや、多分崇められてるな。
何やら都合よく魔人が来たと思ったら俺の所為か………
「とは言えここには居ない様じゃ。
王がいらっしゃるのならこんなにも平和なわけがないわ」
やっぱり魔王=危険な奴みたいだな、こんな危険な魔人の中でも。
「ところでお主ら」
「何でしょう?」
「わしと共に来んか?」
おいおい何言ってんだこいつは、
「有り得ませんね、二君には使えません」
「いや、お兄ちゃんと一緒にいる」
おー、即答してくれるとは嬉しいね~
「ほう、そなた達ほどの強さも持つものなら孤立してるのかと思えば、お主らが慕い、さらに従えている剛の者がおるのか、会って見たいの」
何だか興味を持たれたみたいだな。
げ、なんか二人の顔が能面みたいに!?ちょっ、怖いんですけど!?
会って見たいと言う発言が二人の逆鱗に触れた様だ。
「「絶対にダメです(だ)」」
「レティ」
「ああ、分かっている」
「「殺しましょう」」
ちょっ、何これ怖いんですけど。なんでこんなに息がぴったりなの……ご愁傷様です、鬼さん。
「ほお」
ああ、当てられている殺気に感心してるよ、すげーえ楽しそうに笑ってるし。
「ははは、死会おうか」
貴方も戦闘狂ですか。
…………もういいわ。頑張れ~
面白い童じゃ、奴らも面白いが奴らの主も気にるのぉ。案外その者が王なのかもしれんな。まあ有り得んか。
それに此方を見ておる者もおるようじゃし。早目にケリをつけるとするかのぉ。
「ははは、死会おうか」
「死ね」
「消えろ」
そう言ったのと同時に三人を飛び出した。
「かあ」
〈鬼気〉〈鬼の威圧〉発動
〈剛腕鬼〉発動
まずは小手調べと言うような雰囲気で、スキルを発動させる。
二人の高速で入れ替わりながらの普通の武芸者なら数秒で肉片に成りそうな攻撃を危なげ無く防いでいく。
よいのぉ。やはり強い者との戦いは血がたぎる。
もう少しすれば、両者とも比類なき強者となるであろうな。
ふむ、少し表現がおかしいかの。
何とも余裕そうだ。
「行くぞ耐えてみるがいい」
〈鬼王気〉発動
〈鬼王〉発動
鬼族の持つ固有スキルと称号の中で特に強い二つを使う。
先程よりとも比較になら無い程の威圧感を発する。
二人は少々気圧されるが、
「「はあああ」」
声を張り上げ威圧を振り払う。
ははは、面白い。ならこれはどうする?
〈鬼王気〉の宿った太い豪腕から振り出され人外の一撃を地面に打ち込む。
拳が撃ち込まれた場所から舗装された地面の岩盤が弾け飛ぶ。
まるで散弾の様な速度と密度で周囲に石が飛び散る。
リルは飛来する岩盤を剣で逸らしながら間を作り、間をすり抜け背後に回る。
レティシアは斬り裂きながら正面から接近する。
前後から同時に攻撃を仕掛ける。
「見事。称賛に値する力量よ、しかし」
正面からせまりくる刀の縁を掴み、刀を振る速度を利用しレティシアをリルに投げつける
「なっ」
「え?」
「まだ甘い!!」
リルは慌てて攻撃を止めた為、避ける事が出来なかった。
二人は何度もボールの様に何度もバウンドしながら飛ばされ、近場の家にぶつかり中に入り込んだ。
ふむ、やり過ぎたかの?む、っ。
土煙で姿は確認できないが膨大な魔力は集まっていく。
「はああ」
巨大な炎の剣が襲いくる。
フフフ、こんな事も出来るのか、良い武具を持っておるのか。
振り下ろされる場所から飛び退く。しかしそれはレティシアの誘導通り。
飛び退いた所をリルが狙う。
ここまで気配を殺せるのか。見事な隠形である。
〈空歩〉発動
空中で足を踏みしめ、背後に向かい裏拳を放つ。
手ごたえが無い。っ正面。
リルは気付かれたことに驚いている様だがもう間に合わないだろうと思い、首目掛けて剣を振るう。
やりおるわ。この童。駆け引きまでうまいと来たか、これ程の才能眩しいのう。
だが、ここは鬼に狙うべき場所では無いな。
剣を歯で掴み取る。
「っ、くっ」
リルは焦ったのか更に力を加えてしまう。
その力を利用され、それと首の力で地面に投げ付けられる。
「ぐっ」
今日はここでしまいじゃな。
そのまま追い打ちを仕掛ける。
「かあああ」
腹部を狙い掌を撃……その一瞬の中頭部目掛けて超高速で弾丸が飛来する。
っ
しかし、それに驚異的な反応速度で反応し拳で頭に当たらない様に弾丸を逸らす。
ぬぐっ
しかし速度までは逃がしきれずに吹き飛ばされる。
何と、金属片だと何故こんなものが?どうやってこんな物をこんな速度で、ここまで安定させて飛ばしたのだ?
間髪入れずに三発の弾丸が飛んでくる。
ぬうぅ。
1つは躱し、二つは地を踏みしめ拳で打ち払う。
衝撃で地面に足がめり込んで行く。
「ぬぐぅ、良い射手がいるようじゃな。これが貴様らの主か。確かに良い腕だ」
フム、良い射手と良い戦士を同時に相手取るのは無理であるな。
それに今の攻撃での腕と脚への衝撃が無視できぬ。
く、ここは引き時の様じゃな。まあ、冷静になればここで態々戦う必要もなかったかの。
悪い癖が出てしまった様じゃ。
「ははは、楽しい一時であったぞ。さらばだ」
そう言ってわしは背後を警戒しながら去って行ったが攻撃は無かった。
見逃された様じゃな。
しびれる腕を庇いながら、
次に会う時は顔を見られると良いのう。
と顔に壮絶な笑みを浮かべながら、そう思っていた。
再び執務室にて、
「何あれ……」
おかしいだろアイツ。この銃は向こうの対物ライフルに比べて数倍近い速度になっていて、弾丸の持つ運動エネルギーは百倍近いに……
それを素手で弾くとか、この世界の生物は身体能力の限界と言うものが存在しないのか?
なお、この銃の内部は外側には金属でコーティングしてあって一見金属製に見えるが、内部には〈死氷〉で作った氷を使っているので欠ける事も変形することも無いし、しかも氷で作っているのでとても軽い。それ故、何かを作るのに〈死氷〉は打って付けだったと言う思わぬ発見をした。
魔法を使えば如何にか出来ると思うが彼は〈気〉の類いのスキルは手に入れていないので何をしたのか理解出来ていない。その為あれは身体能力だけでやったモノだと思っている。
魔力は感じられなかったし、魔法も隠していると思うが、どうやら手加減されたのか。
魔人って言う奴は本当に強いな、まあ魔物・生物の中から特に強い者達が魔人へと変化するからまあ当然と言えば当然か……
「どうなったのかね……」
ほんの一瞬の間に上級魔法………第十階梯級の魔力を四度も使った。普通なら目の前の者に多少の恐怖を覚えるだろうが、彼は冷静なようだ。
「逃げたようですね」
短く返す。しかし颯は内心驚いている。今使った魔力はA級の魔法使いの総魔力量に匹敵するくらいだ。もっと恐怖されると思っていたのだが、どうやら彼は力を目の前にしてもそれに対して冷静に対応が出来るようだ。
こういう奴なら話をするときに感情的にならずに話せるからな。
ここの市長は人格が良く出来ていると聞いていたがこの反応を見る限り本当だったみたいだな
これからもよい付き合いが出来ればいいな。
俺はスナイパーライフルをアイテムボックスに仕舞いながら、
「今日はここで帰らせてもらいます。二人を迎えに行かないといけないので」
と言う。
「ふむ、そうであろうな。行ってやりなさい。
話は明日にするとしよう。今日と同じこの時間に来てくれないだろうか?」
………引き止めないのか。向こうも出来るだけ良好な関係でいたい様だ。
「ありがとうございます。ではまた明日に」
一応一礼しながら市長室から出て行く。
多分、彼女は再登場します。
ちなみの彼女は魔人の中で最上位の強さですです。
ありがとうございました




