040 颯の地獄の訓練
奴隷購入から一週間、故郷に帰ることを希望する者達が屋敷のホールに集まっていた。
総勢は全体の半分くらいだろうか。何故帰らないのか?と聞いてみたところ、人間の子供たちの理由は家族に売られたり元々孤児であったりこれはここにいる全員がそうだと言うから愕然とした。
亜人たちの理由はもう故郷が残っていないと言う事らしい……
「さて、この一週間頑張ったな、これなら道中盗賊なんかに襲われても問題なく撃退出来るだろう」
そう、この一週間で彼らは相当力を付けた。
別にモンスターを殺してレベルを上げた訳では無いが強力なスキルも手に入れ強くなった。
それでは何故レベルを上げずに強くなったと言うと普通なら簡単には手に入らない様なスキルを超スパルタ式で習得させたからだ。
習得させたスキルは〈魔力操作〉〈空歩〉の二つだ。
どう言うふうに習得させたかを簡単に紹介しようと思う。
「今日は何をするんですかい?」
もうお馴染みになった、まとめ役のアルが問いかけて来る。
俺としては全員と仲良なりたいから話しかけて欲しいんだけど、訓練のせいで恐れられてしまったらしい。
自業自得とは言え少々落ち込んでいる。
まあ、その姿を見せれば多少は緩和されるかもしれないが、本人は部下の前で情けない姿は見せられないと考えて皆の前では、キリっとしている為なかなか距離が縮まらない。
本当に不器用な奴である。
上に立つ奴はちょっとくらい抜けている位がちょうどいいと思うのだがね……
「今日は、〈魔力操作〉を覚えてもらおうと思う」
「はい?戦技なら使えますよ」
「違う違う、俺が言っているのはその一歩上の技術かな」
それを聞いて目と口を開き愕然としている。
表情を読めばこう言う事だろう。
ああ、さらに無茶な訓練するのか?
俺達この後生き残れるかな?
と言う具合だろう。
どれだけ恐れられているかがご理解いただけるだろう。
「それは無茶なんじゃないでしょうか。
俺達ではそんな高等技術を使える様になるとは思えないんですが……」
「ふっ、大丈夫だ。考えがある」
俺が自信たっぷりに言うとそれに驚いたのか、それとも疑っているのか、声を小さくして聞いて来る。
「どんな方法なんですかそれって……」
「それはだ、これから俺が〈魔力支配〉でお前たちの魔力を使って勝手に身体能力増加を使う。それでお前たちの体を動かすから、お前たちはそれに抵抗しろ。
よしんばそれが出来なくても魔力で自分の体を動かすことを感覚で覚えろ」
「な……」
「じゃあ、行くぞ」
〈魔力支配〉〈平速思考〉発動
さて、まあこれも普通なら脳の処理能力不足になるがまあ、いつも通りの颯君クオリティー。
万票一致のチートスキル〈平速思考〉で解決させた。
強制的に庭を全力疾走させる。
はじめの一時間、少しの抵抗も出来ずに走り続けている。
二時間、走る事による疲労が出始める。しかし速度は落ちない。
三時間、少しずつではあるが速度が落ちはしめた。
四時間、体の操作権を取り戻したものから倒れていく。
五時間、全員が操作権を取り戻し倒れた。
その間俺はスキル〈人間操作〉〈魔力譲渡〉、称号〈燥生士〉〈鬼畜な訓練官〉を手に入れた。
こんな感じだ。
人間操作
人体を乗っ取って自由に操作できる
PS
普通こう言うのはゴーストとかの体が無い奴が持っているんじゃないの?
人間が持っているのは初めて見たよ!?
魔力譲渡
魔力を他人に渡すことが出来る
PS
君とかなり相性がいいよ。
君は自分の体外の魔力も操作できるから君の率いる軍隊は魔力無限のチート集団だね。
燥生士
他の生物を意のままに操り自分の思い通り出来る者
他者の自由を奪う事に対して大きな補正
PS
新称号キター(;゜Д゜)
はやいよ、何それ知らないよ。
まあ、君程の魔力の持ち主がそんな事をしてこなかっただけだと思うけど。
鬼畜な訓練官
訓練をする時に極限を超えて鍛え上げる事が出来る者
訓練を課す者達に極めて大きな成長促進かける
しかし、その者達が倒れるまで訓練が終わることは無いだろう
PS
………………反応に困る称号をどうも。
何これ?
魔力を譲渡し続けるから体を壊すことも無く体を苛め抜くことが出来る……………
途中で中途半端じゃ倒れる事も出来ない………
ご愁傷様です。
それと俺だけじゃなく倒れている者達も目的のモノでは無いがスキルと称号を手に入れたらしい。
スキルは〈疲労耐性〉〈魔力回復力増加〉〈魔力変換(体力)〉、称号〈極限の中の集中者〉、〈不屈なる者〉だそうだ。
この世界で本来スキルや称号など一か月から半年くらいに一個手に入ればいいと言うのに一日でこれだ。
称号〈鬼畜な訓練官〉で成長力が大きく上昇しているとはいえこれは異常な事だろう。
まあ、ここまで過酷な事をしたいかと聞かれれば、ノーと答える者が殆どであろうが………
ちなみにスキルと称号のせいで訓練の出来る時間が1,5倍程になったのは彼らにとって幸運だったのであろうか?
次の日。
「さあ、今日も頑張って行こうか」
「今日も昨日みたいな事をするのですか………」
「安心しろ、昨日みたいな事は偶にしかやらん。
今日はちゃんと別の事をする」
「偶にでもするのですね」
げんなりした様な声で答える。
「大丈夫だ、今日はそれ程辛く無い」
「…………」
「何だ?その信用できなさそうな顔は」
「実際に信用出来ません」
「まあ、そうだろうな」
笑いながらあっさり認める。
「今日は無重力の空間を作りお前らを底に浮かべる。
今日はそこで訓練する。移動するには魔力を操作して加速しないとされたい放題にされて結界の中で吹き飛ばされ続けるな」
「…………」
その何所が辛くない訓練なんですかと言いたげであるが、そもそも辛くない訓練などないだろうに。
さて始めよう。
〈魔力支配〉派生技能〈魔力結界〉発動
柔らかくて、ぶつかると跳ね返される結界を作る。
闇属性上級魔法 虚重 指定した空間の重力を無くす魔法を使う。
「さあ、入れ」
「え?」
「ここに入って訓練するんだ」
「くそ、やるぞ」
「うぁ、なんだ?これ」
「不思議な感覚だな」
皆初めての無重力空間に思い思いの感想を述べる。
「さあ、行くぞ?早く出来る様にならないともっと酷い事になるぞ」
俺はモノに当たると爆発して当たった物を吹き飛ばすだけの魔弾を作り出す。
その後はピンボールの様にはじかれる者達の悲鳴が聞こえたと言う。
とは言えうるさいので一時間くらいで、虚空を使って音を遮断したが………
それから三日後に全員が〈魔力操作〉〈空歩〉を習得した。
いや~みんな頑張ったよね~たったの一週間で本当に習得するとは思わなかったよね~
〈鬼畜な訓練官〉様様かねぇ~
なお、本人たちは気付かない内に人外たちの仲間入りをしている事はどう思うのだろうか。
そして、此処に居る(颯、リル、レティシアを除いた)者だけで、都市一つくらいなら滅ぼせる事だろう。
「じゃあみんなに、武器を挙げるから気を付けて行って来てね」
一週間前に作った。麻痺銃と魔断の剣を渡して見送った。
ありがとうございました




