027 双極の魔王のお話
結局夜遅くまで悩んだが、答えは出なかった。
まあ、仕方ないだろもう何年も悩んでいることが新しい考え方を聞かされたとは言え、一晩で解決する訳もないだろう。
そんな簡単に解決したら、俺の7年間は何だっていう話だよな。
その後は、約束通りリルちゃんと一日中遊んだり、訓練したりしていたら、もう気付けば一週間がたっていた。
自分の動向を伝えるためにクノとでも話をしに行こうと転移された時の丘に向かった。
『やあ、いつも僕と話す時は、ここだよね』
クノの言う通り、ここは最初に来た丘の上である。
「仕方ないだろ、見られたら面倒なんだから」
『で、今日は何の用だい?』
「そろそろ、旅に出るから伝えておこうと思ってな」
『別に僕は、基本君のことを見るくらいしか、する事が無いんだけどね』
「おい、この駄目神が少しは働け」
『ははは、手厳しいね』
笑いながら少しもこたえて無い様な雰囲気で答える。
「て、言いうか当然だろお前一応、亜人の神だろ」
『一応じゃなくて、ちゃんと神なんだけどね。
それに、少しは働いているんだよ、君に他の神が干渉しない様に妨害してるんだよ』
自分も苦労しているんだよと言いたげだ。
「妨害って何を?」
『自分たちの種族に魔王降臨の神託を遅れさせる様にしたしり』
「え?神託なんてすんの?
てことは、それは不味いんじゃないのか」
『大丈夫だよ、なんせ今教会はパニックになってるからね』
「どういう事だ?」
『だって【真の魔王】クラスが、二体現れた事に、なってるんだから』
「え?それって俺のことじゃ」
『そう、君の事だよでもね、それを僕が妨害して二体居るって事にしたのさ』
「二体居るね、何かそんなにパニックに成る様な事か?」
何の事か全然わからず呆気にとられたような表情で聞く。
『【双極の魔王】』
「ああ、そう言う事か」
つまり、教会は同時期に二体もの【真の魔王】クラスの魔王が出てきたから、【双極の魔王】の再来だと思っているのか。
『そう言う事』
「考えを読むな」
『ごめんごめん』
「そう言えば、その【双極の魔王】について詳しく聞きたいんだけど」
『いいけど、どうしたのさ、いきなりそんな事聞いてきて』
「何と無くだけど」
『まあ、いいか話そうかこの世界にいた、最凶の夫婦〈ビア〉と〈ネーオ〉の話を、
彼らの出会いは、最悪の部類だった、だろうね。
このころは、人間と魔族の戦争中でまだ【聖証】も【罪証】もそこまで迫害もされてなかった時代の事だった。
戦争中は、この二つはしていない時に比べて、多く生まれる。
更にいうと、この二人はその中でも異常なほどに、能力が高かった。
そのせいなのか、二人とも孤独を抱えていた。
二人とも孤立していて、戦場に出る時も、単独で遊撃役をしていた。
その時、戦場で出会ったんだよね。
当然だけど二人は戦ったよ。
その時の彼らのランクは、お互いにS-級【魔王】と【勇者】には及ばなかったが、それぞれの自軍で、二番手の実力者だったんだよね。
二人は、何回も引分けたんだよ。
それで、二人共お互いにお互いを上回ろうと、それまでに無い位に本気で訓練して実力を上げていったんだよ。
そして、気が付けばお互いにSS-級、この時の【魔王】がS+級で【勇者】かS級だったんだよ。
まあ、そのことに関しては、特に問題に成らなかったんだけどね。
そのランクに成った後に、二人共スキルが上位派生していて、今までに無かった現象が起きてしまったんだよ。
その時の二人のスキルは、ビアは〈無限結界〉ネーロは〈空間破界〉お互いに方向は違えど空間に干渉し、支配するそんな能力だ。
そして、そこで起こった問題とは、お互いが戦場を空間ごと消し飛ばして、数十万の兵士と共に【魔王】も【勇者】もまとめて殺してしまったんだよ。
それが原因で彼らは、世界の敵になったんだよ。
二人はその後両陣営から追い出され、行く処の無かった二人は、そこで再会し、運命を感じたのかそのまま結婚したらしいんだよ。
でもね、そんな事は世界が許さなかったんだよ。
皮肉なことに、人間と魔族が手を組んで彼らを消そうとした。
何故なら、目障りだったからだよ。
当然だろ?
【魔王】や【勇者】よりも強くそれらを殺し、戦争を勝者無しで終わりにした二人が共に居るだなんて、彼らの許容できる範囲ではなかった。
しかし、それを殺すのは自分達だけでは、不可能。
なら如何するか、その後に同じ恨みを持った者達と手を組むのは、必然だろう。
そして、彼らは【魔王】も【勇者】も殺す化け物を殺す為に、手段を選ぶと言うことは、考えてなかった。
数十万もの生贄が必要となる【神格召喚】を使ったんだよ。
まあ、それを成すのに最終的には、同時に8体の【神格】を呼び出して神群を作り出しそれでようやく成し遂げる事が出来たらしいよ。
最終的には、彼らは二人で居ればSSS級の能力だったよ。
これは、中級神級だ。
呼び出されていたのは、初級だったんだけど、よく8体ごときで殺せたと思うよ。
それで、その後に二つの能力が噛み合い、絶対的な力を持ち、数百万の人間を殺したその恐怖から【双極の魔王】と呼ばれる様になったらしいよ。
まあ、大まかな流れはこんな感じだよ』
「何だそれは、数十万はいいとして、数百万もの人間を殺したのは、お前らじゃないのか!!」
責任を押し付けた昔の国や教会連中に対して無駄と分かっていても怒鳴ってしまう。
『そうだね……』
それは仕方ない事だと言わんばかりに悲しそうに答える。
「何なんだよ都合の悪い事は、全部隠してんのかよ。
しかも、そいつらは、完全に被害者じゃないかよ。
どこまで、自分よがりなんだよ!!」
怒りと共に周囲に魔力と殺気をばら撒・・・寸前にクノの張った結界に阻まれる。
恐らく、それがなければ、周囲の人間に死人が出ただろう。
それほどまで、危険なものに成りつつある。
『ダメだよ。それは気を付けないとそれだけで、死人の山が出来るよ。
気を付けてね』
いつものふざけた雰囲気は無い。まるで別人だ。
「……すまない」
そんな顔も出来るのか……
『今更だけど、君はこの世界で初の単独での神殺しが、出来そうなくらいなのだから……
ダメだよ、冷静に行動しないと』
「すまない。
ていうかお前真面目に話できたんだな」
『ちょっ、酷くない!?
君が真面目に話をしたがってそうだったから、真面目な雰囲気にしたのに』
クノが心外そうに反応する。
「ふふっ」
俺は苦笑する。
「助かった、今日はもう行っていいか」
『ああ、大丈夫だよ。
君の答えなら、それは正しい。
そう、自信を持ってね』
「・・・ありがとう」
そう言い、そこから離れていく。
ありがとうございました




