026 颯の気持ち
作業場を出たころにはもう夕方になっていた。
「もうこんな時間か、リルちゃん今日のところはもう帰ろうか」
「え~、もっと遊びたい」
「じゃあ、また明日も街を回ろうか。
今日はもうお腹減ったし」
「ん、解った」
俺達は、小鳥の泊まり場に向かって歩き出す。
「ただいま~」
「セーラさん今戻りました」
「お帰り、どうだった」
「ええ、大丈夫でしたよ」
「お母さん、お兄ちゃんにすごい綺麗な剣もらったの」
剣を抜いてセーラさんに見せようと走ろうとするが。
「リ、リルちゃん、その白い方は、絶対に人に向けちゃダメ!!」
「え?」
〈瞬動絶隠〉で先回りして、手を取る。
「「え?」」
はじめ見せた本気の移動で二人とも驚いている。
「リルちゃんこっちの剣は、無闇に人が居るところで抜いちゃダメだよ?
いいね、これだけはだけは気を付けて」
「え、はい」
何だか、赤くなってる気がするな………
「おい、お前あの時、手を抜いていたのか?」
「いえ、そう言う訳では、本気でしたよ、……あ、ルナさん如何したんですか」
いいタイミングでルナさんが来た。
「………」
「如何したんですか?」
「ちょっと、話いい?」
「は、はい」
怖い、なんだろう。
寒気が、冷汗が止まらない………
「いいか、リル、アイツみたいな奴はこの先もう会えないだろう。だから逃がすなよ」
「(コク)」
何か向こうで内緒話をしているようだが、空気振動を減衰させているのか何を話しているかは聞こえない。
その後は何があったかは、思い出したくないと言っておく。
「ああ、酷い目にあった」
「ははは、思い人が幼女に手を出しているんだから、ヒステリックにもなるだろう」
その通りだけど自分の子供をそう言うのはどうなんだろう?
「思い人って、そんなじゃ、無いですよ」
「あ?あいつだけ呼び捨てで、何だか仲良さげじゃないか」
「ああ、そのことですか。
実は、昔からの悪い癖で誰かに迫害される人がいてその現場に居合わせるとつい助けて、その後はそいつらに仲間意識を持ってしまうので、昔からそう言った人達にはこちらの方から、恋愛感情と同等のいやそれ以上の感情を持って しまうんですよね。
だから、助けた人にはそう言う感情を持たれることがありますが、俺はそう言う人にその様な感情は持てないんです。
だから、申し訳ないですよ」
「はあ、なんだそんなことか」
大層下らないと言う様な雰囲気で言って来る。
「いや、そんなことって、結構人として、もしセーラさんが言ったようにルナが俺にそう言う感情を持っているのなら、俺の断り方は最低でしょう」
「はぁぁぁ」
セーラさんが心底仕方がないなと言う感じで、ふか―く溜息を吐く。
「いいか、お前あいつは、取りあえずはお前と一緒にいられればいいと思っている。
でもあいつは、ギルドマスターと言う立場があり、この街の亜人を守るためには、その立場を持ったアイツが必要だ。
だから、お前に着いて行きたいがそうは言えない。
あいつの友人として言うが、旅に出るまでにアイツを構ってやってくれないか?」
「それ位ならいいですが、俺では肝心なものは渡せませんよ」
「はぁ、お前は本当に、こっちはお前のいた世界とは違うんだぜ」
「それが何か関係があるんですか?」
「こっちでは、ランクさえ上がれば寿命だって相当延びる、だからこっちでは、そう言う感情は、余り必要ない、もし必要になれば、その時に考える。
しかし、ここは命が軽いから、今が大切なんだよ、だからそれ位でいいんじゃないのか?」
「そうですか………」
「それに、俺らは子供作るのに結婚してから、五十年位間が空いているぜ」
「ご、五十………」
「だから、仲間意識?
結構じゃないか。
それは、お前が助けた連中のことを大事に思ってるってことだろ、お前は自分と同じ、ものが欲しいってことだろ、それを他人に伝えろ、それで相手を納得させろ、そうすれば良いんじゃないのか?
まっ、ゆっくり考えろ、じゃ、俺は寝るぜ」
そう言って、寝室に向かっていく。
ふっ、やっぱり年長者には敵わないな。
仲間意識それでいいのか・・・
愛せなくていいのか。
向こうで死ぬほど悩んだが、こっちで肯定されるとはなあ、人生本当に何があるか解らないものだな。
ありがとうございました




