015 迷宮都市ザクセンへの帰還
視点、戻ります
腐毒の森での経験値稼ぎと言う名の虐殺から三日後、俺は迷宮都市ザクセンに帰って来ていた。
「ふぅ、往復に二十日もかかるとは」
聞く者が聞けばそんなに早く帰って来られる訳無いだろと言われる様な事を呟く。
相変わらず。賑やかなメインストリートを歩きながら、露店で串焼きやサンドイッチを買い、二十日ぶりにまともなものを口にして満足していた。
移動中は野生動物を狩って食べるしかなかったからな。
大体が塩、胡椒、香草を振って、焼くしかしていなかったから………もう当分モンスター肉は食いたくない。
用意不足を痛感した。〈アイテムボックス〉を持っているのだからもっと良く出来た筈だ。
今度から食材と調理道具、調味料は、一通り入れておくと決心した
一時間ほど食い歩きをして満足した所で、ギルドに向かった
ギルドに入ると何やら以前と違う雰囲気を感じた。
なんだ?殺気立っているというか、何やら綿密な地図を前に口論をしているパーティーが幾つも見られる
あ、ルナ発見。聞いてみるのが手っ取り早いな。
「お久しぶりです。
何か、あったのですか、皆さん殺気立ってますが」
「ええ、何でも、とある場所の調査依頼に法外的な報酬が出されまして、それで皆さんが我先にと言う雰囲気になっているんですよ」
「なるほど、あっ、あとこれ」
まあ、あそこの事だろう。SS級の魔物もいた事だし。
メモを見せる。
‘そのことについて話がある。時間がとれるか?とれるなら「小鳥の泊まり場」に来てほしい‘
「では、ありがとうございました。
それではまた」
ギルドを出て小鳥の泊まり場に向かう。
あそこのメシはうまかったからなあ。
こちらに来てから‘一番うまかった’と言いきれるくらいにうまかったと断言出来るからからなあ。くどい気もするがそれ位だったのだ。
そう思いながら中に入る。
「こんにちは」
「おっ、二十日ぶりじゃねえか、てっきり死んだと思っていたぞ」
「はは、確かに危ない所もありましたが、しっかり生きてますよ?」
「はは、ちゃんと生きて帰って来いよ。死んだら何の意味も無くなるからな」
「ええ、そうですね。
心に留めておきます」
「ああそうしておけ。
それとその言葉使いは、どうにかならんのか?堅っ苦しいし、貴族を思い出すからどうにかしてくれ」
「え、ああそうか、わかったじゃそうする。
それで泊まりに来たんだ」
ん~。なんか違和感があるな。
「何泊だ」
「とりあえず、十日分で」
「5000マギカだ」
銀貨を五枚出す。
「はい」
「確かに」
「あ、あと食事は2人分頼めます?
ルナ…さんと待ち合わせをしてるんで」
「お、なんだいデートかい。
そんならここじゃなくて、ここにしなあたしからの、セーラから紹介されたって、言えば入れてくれると思うから」
用意がしてあったかのようにメモを渡してくる。
「いえ、今回はそうじゃなくて」
「そうじゃなくとも、女と飯食う時はちゃんとした所じゃないと、ダメだぜ?」
んー、そう言われるとそうだと思えるが………
まあ素直に聞いておくか。
実害があるわけじゃないし。
「じゃあ、そうする」
「ああ、そうしとけ、おっ来たな」
っ。
俺はルナさんを見た時に思わず固まった。
え、なぜって?それは、ルナの格好によるためだ。
白いブラウスと白のフレアスカートに黒の編み上げブーツそんな可憐な格好に、長い綺麗な銀髪が相まって、可愛さの中に、神々し美しさを感じる………
「あの……どうかしました?」
「はは、お前に見とれていたんだよ。
まさかおまえがね~、うりうり」
「そ、そんなわけじゃあ」
「…………」
称号〈死者の行進〉発動
これを使って落ち着こう。
俺は冷静だ、俺は冷静だ。よしもう大丈夫だ。
ふぅ、危なかった、すさまじい破壊力だ。
そしてさすが、極めて大きな精神の補正だ。
これがなかったら危なかったな、それくらいにすごい。
あれでも、と言う事は今度から私服で会うたびにこの称号使わないといけないということか・・・
どこからか…僕でも知らなかったような称号を何て事に使っているんだい・・・…
とか聞こえた気もしたが無視だ、無視。気にしたら負けだ。…酷いよ…
「もう大丈夫だ、気にしないでくれ」
「ふふふ」
「なんだよ」
「なにかねぇ。
ほら、はやくエスコートしてやんなさい」
「わかったよ」
セーラさんにルナに見とれていたことをからかわれていると、
「あ、おにーちゃんきてたの」
「ん?」
あの時の料理を運んで来ていた幼女が、ものすごいスピードで突っ込んでくる。
ふむ、これはどうすればいいんだ?
受け止めるべきだろうか?
まあ、その方がいいな。
ぶつかる瞬間に衝撃が返らない様に衝撃を逃がしながら受け止めた。
うお、こいつは常人なら内臓が破裂するぞ。
なんかセーラさんが、‘ほう‘とか言って感心してるし。
「コラ、リルダメじゃないか、このおにーちゃんじゃ無かったらケガしてるぞ」
「いいじゃん、しないことはわかってたし」
なに?
この懐きようは、ルナの時と言い何故か懐かれているしほんとに何なんだ?
それと、おにーちゃんはよせよ。
「えーと、これは一体」
「ふふふ、何でもないよ。
ほらリルそろそろ離れな」
セーラさんがリルちゃんを引きはがそうとすると
「あ~、いや~なの~」
「ぐぁ・・・」
ぐお、肋骨が・・・
それに抵抗するように、腕の力を強くする。
ミシミシ・・・
なんかルナは、底冷えする笑顔で見てるし。
「えっと、セーラさんこれは一体・・・」
「ああこいつはなあ・・・」
饒舌なセーラさんが言いよどむ。
あれなんかまずいこと聞いたか?
「それは私が言っておくわ、ここで言うべきではないでしょう」
「んああ、そうだな、頼む」
そういう話になったのならそうしておくか。
いやそう言ってもどうやってこの子をはがそう。
「さてと、ふっ」
「はぅ」
「それじゃあな、ちゃんとやれよ」
リルちゃんを手刀を首に打ち込み気絶させると、服の襟をつかんで持っていく。
大丈夫なのかあれは・・・
「それじゃあ行きましょうか」
「え?ここで話すんじゃはないの」
「セーラさんにお勧めの店を教えていただいたので、そこに行こうかと」
「なら、そうしましょうか、それでどこに行くつもり」
「ナイトクラウンと言う店を紹介されました」
「・・・そう」
どうかしたのだろうか。
何やら反応が芳しくないな。
「行きましょう」
「はい」
ナイトクラウンは、隠れ家的な雰囲気のオシャレな店だった。
「良さそうな店ですね」
「そうね」
店に入るとネコの獣人のウェイトレスが店に入った俺に驚いた様な顔をしている。
店にいる客も殺気立ち始めて、店の奥から店長らしき熊の獣人の人も出てきた。
「おい、こんなところに何の用だ」
「え?食事に。
あ、ここはセーラさんに紹介してもらいました」
「なにセーラに?」
「ええ、彼女の紹介なら、はずれはないでしょうし」
旦那さんがあんなうまい飯が作れるのだから、いい店を知ってそうだし。
「お前、今ここに入って何も思わないにか?」
「??
なんだか殺気立ってますけど、店は普通に隠れ家っぽい雰囲気のいい店じゃないですか」
「・・・」
なんだ?この人。
「それよりも俺、腹減ってるんですよ、あんなうまそうな匂いを嗅いでもう限界なんですけど、これ以上の待機とか拷問ですか」
「ふふ、この人は大丈夫ですよ」
「えっ、ルナさんいつから」
「初めからいましたよ。
それより彼の言う通りですよ、私たちはご飯を食べに来たんですよ」
「えああ、こちらです」
話がついたみたいだな。
店の奥の個室に案内される。
「俺はおすすめもらえます。
ルナは?」
「同じものを」
「はい、少々お待ちを」
注文を終えて定員さんが下がらせると。
「それで、あの爆発とあなたはどう関係しているの?」
「ん~、まず何から説明しようか・・・
俺のことについて少し話すとするよ。
聖国で勇者召喚があったことはもちろん知っているよね、俺はそれによってこっちの世界に来たんだ」
「え、と言うことは勇者なの?」
首を振りながら。
「いいや、俺はこっちに来たと言うだけで勇者というわけではないですよ。
それに、もし俺が勇者なら俺を城から逃がすわけがないでしょう」
「ふ~ん」
もっと早く言いなさいよと言いたげだ。
「それで、森での事何だけどあれは、いくつかのスキルとこっちでは、まだ知られていない別世界の知識を使ってこっちに魔法と組み合わせてみたら、あの大爆発になった」
「それホント?
にわかに信じられないんだけど」
まあそうだな、個人に使える領域ではないからな。
「ん~、でも事実だからなぁ……称号も戦術級から戦略級にランクアップしたし。
あっ、そうだ【毒の龍王】の素材なら持ってるいますけど」
「あれを倒しちゃったの……
なら最悪の心配はしなくていいという事かしら」
「ん、どゆこと?」
「私達はあれが原因で龍たちが暴れだすのではないかと心配していたのだけど、それが倒されているのであれば一安心ね」
へー、そうだったのか。
「次は、さっき聞けなかったリルちゃんのことを教えてくれない?」
「リルか、そのことを説明するためにはセーラの種族について説明する必要があるようね。
彼女は人間と魔族のハーフなの」
「へえ、それで」
「そして父親が狼の獣人なんだけど、まあそれだけなら別に問題ないんだけどリルは………
ある意味では幸運なのかもしれないけど、教会の目が届く場所では、不幸と言える様事があったの」
「それは………いったい?」
「自分の中に持っているすべての種族の特性が発現したの」
「すべてとなると、人間と魔族と獣人?」
「ええ、魔族の魔力と獣人の身体能力、人間の多様性。
それにより、人間だけが持つ複数の職を持てるの」
「え、そうだったの道理で種族的には弱いはずなのに、デカい顔してるわけだ」
「え、知らなかったの」
「ああ、と言うか複数の種族特性なら俺も持ってる」
「どうゆうこと」
「〈龍殺し〉の称号で一時的に龍人になれるし、おっと料理が来たな」
前菜のサーモンのカルパッチョが運ばれてきた。
「お、うまそう」
新鮮なサーモンにレモン汁、かすかに感じるのはオルガノかな?
「うまい」
「生の魚を普通に食べてますけど、慣れているのですか」
「ああ、うちの世界と言うよりも、うちの国かなそういう食文化があったんだ」
「こちらの世界では人間は生では食べないんですよね」
「へぇ、うまいのにもったいないな」
「教会は生で食べるのは獣のすることだとか言ってましたね」
あいつら………今すぐに滅ぼしに行くか、クノが喜びそうだが、そんなことするとまた悪く言われるだろうしな。
まあ、考えはあるが。
「颯君、怖い顔してるけどどうしたの?」
「あいつらの陥れ方を・・・」
「そんなことはいいからご飯を食べよう」
以降話をせずに食べることに専念した。
スープはかぼちゃのポタージュ、メインは鹿の表面に蜂蜜を塗り、香草で香りを付けたもののグリル。
デザートは野イチゴのタルト。
どれも丁寧に作られていて美味しかった。
まんぞく、まんぞく。
「ところでさっきの話は」
「龍人になれるってやつ?」
「そう」
「〈死者の行進〉と言う称号で龍の魂を吸収して出来る様になったんだよ」
「聞いたことがないけど」
「そういわれても俺はこっちに来たばかりだし、どんな称号があるかとかも詳しくないし」
「そう・・・」
じゃあなんでそんなに強いんだよっていう目をしているな。
魔法はどこで覚えたんだよ。
「・・・」
ジト目でじっと見てくる。
「・・・俺は〈思考加速〉を使って魔導所を読み込んだんだよ。
そうすれば時間はあまり関係ない」
さすがに〈魔神継承者〉のことを話すのは、はやいな。
「まあ、いいじゃないですかそんな事はそこまで大切な事では無いでしょう。
力はどう使うか、そうでしょう?」
「そうですが・・・」
「そうそう、今、はそれで」
いつかは話しますと、言外につけるようなニュアンスで言った。
「・・・分かりました」
「ではそろそろ帰りましょうか」
「ええ」
そう言い合いルナと別れて、宿屋に向かう。
宿に戻った俺は遠出の疲れもあってベットに入るなりすぐに眠りについた。
ありがとうございました