013 逃亡と不和
澪視点です。
それから,更に一週間がたった。
拙いながらも、戦闘技術が一通り習得できた頃に、迷宮に行って実戦訓練をする事になった。
なお今回は、なぜか過去の召喚者たちと比較して能力が高く技能の習得が速かった為に、通常よりも早く実践訓練が行われる様になったらしい。
これは、誰も知るよしも無い事ではあるが、何人もの最上級のユニーククラスの職業持ちが居た為に召喚門にいつもより大きな魔力が吸収されたから、そこを通る者のスキルや称号が底上げされた為である。
これは今までには無かった異常な事だろう。今まで三十人位の者が召喚された事は無く。更に【勇者】以外が初めから最上級クラスの職業を持っている者は居なかった。
まあ、このことは、まさに神のみぞ知る事だろう。
そして私達は、帝国ガザンに在る。極東の迷宮を除いたら世界最大級の迷宮と呼ばれている、武神の迷宮に来ていた。
ここは、暇を持て余した武神達がその神社に手伝わせ自分達と戦える者を育てると言う目的で協力して創った迷宮である。
探索者ギルドで言えばF~Sまでのモンスターと段階的に戦えると言う事になっており、聖国の迷宮都市ザクセンも完全に上回る程の規模を誇る。
各国に首都すらも、遥かに超える規模の迷宮都市の一つである。
そして私達はその迷宮の入り口に来ている。
「さあみんな、これが僕たちの初めての実戦だ、油断し無いで頑張ろう」
我らが勇者の勇希君が皆の前で鼓舞する。
まあ、しぶしぶ付き合っている奴もいるけどクラスの美人、美女のハーレム達の目があるから、その身勝手な行動もうまく行っている様だな。
ちなみに何故、都合良くハーレムメンバーが揃っているかと言うと、学校側に自分たちを同じクラスにしろと不正の証拠を持ち出し校長を脅したと言う事がある為である。
これは私が突き止めて、それをネタに奴らを大人しくさせていたのだが、こっちに来た所為でそれも無く成っているので奴らは私の事を消そうと動いている様だ。それを利用してここからいなくなるとしようと思っている。
「さてそれじゃあ六人ずつのパーティーに分ける。
今からそれを発表するよ
・
・
・
と言う感じで別れて迷宮に挑んでくれ、くれぐれも安全第一だよ」
さて私のパーティーは前衛の男三人に勇者の取り巻きの魔法剣士と魔法使いだ。
ヤンキー風の切れ目の長身美人の神崎 紅音、ショートカットの無口美幼女の音無 静音の二人が含まれている。
ああ、これは〈看破〉と〈観察〉でもう何を企んでいるのかまる解りなんだけど・・・
はぁ、殺しちゃおっかな~
これは多分正当防衛成立だしねぇ。
「行きましょうか、先生」
「・・・」
ちなみにここの先生の発音はせぇんせぇだ。
はぁ、前途多難だ。
一応、何の問題も無く迷宮を攻略していき14層に有る十五層のボス部屋前のセーフティールームで休みを取っていると、不穏な空気が流れだすのを感じた。
ふむ、来るか・・・
スキル〈隠形〉〈分身〉発動
自分に〈分身〉を重ね発動し〈隠形〉を使って自分分身を置いた場所から姿を消しそこを離れる。
「アースバインド」
私の〈分身〉に向けて拘束用の魔法を放つ。
それに合わせ 風属性第3階梯魔法 ボイスメール を使い、私が本当にそこに居るかの様に声が聞こえる様に音を発する位置を変える。
ちなみに〈隠形〉の効果で魔法名の発音は聞こえていない。
「何をする!!」
驚いた様な声も出しておく。
「くくっ」
「貴様いったい何をするつもりだ!?」
興奮したような笑い声をあげて近づいてくる。
迫真の演技だろ?
「あんたはさぁ、向こうにいた時から気に入らなかったんだよ。
あんたはここでこいつらに犯されて、あたしらの奴隷になるんだよ。」
うぁ、何て馬鹿馬鹿しい…………
「………」
「なんだ、どうにか言ったらどうだ」
付き合うのも面倒だな、もう少し付き合おうと思っていたけどいいや。
「………そう思われているのは知ってはいたが、こんな事をしてくるとは」
私をため息を吐きながらそのセリフに返事をする
「なに余裕くれてんだ。
泣きわめけよ。
そこで土下座して謝んなら許してやるぜ」
高笑いを上げそうなくらい上機嫌に言った。
「はぁ、もう少しお前が冷静に物事を考えられれば良かったんだがなぁ」
「ああん」
「………」
私はとりあえず話にじゃまそうな男は手首、足首、ひじ、ひざ、肩の腱を切り裂いて無効化する
「ぐぎゃ、」
「あが」
「ぐっ」
男たちは各々の悲鳴を上げ倒れこむ。
「お前らはもう少し相手をよく見て挑むといい」
「なぜだ、貴様は後衛職しか持っていないはずだ、なぜこんな事が出来る」
こいつらは自分が能力を隠していると言う事を考えられないのか?
如月ならまだしも無遠なら考えられそうだが……
ああ、勇希が職業やスキルの事を全て話そうと言ったからそれで全て話しているとでも思っているのだろうか?
いや違うなそれを言わせたのはこいつらか…………
「・・・なにかを隠しているとはおもっていたけど……
ここまでだったとは…………」
ん?少しは考えていたのか?
まあ、考えが甘いよ。
「そう思うならなぜろくに調べずに行動に移ったんだ。
少々短絡的な行動だと思うぞ」
「黙れ、力を隠していたのは勇希に近づくつもりか」
「そんなことはさせない」
ああこれは、そういうことか勘違いにも程がある。
こいつらは勇希の事になるとおかしくなるからな。
「はぁ、なんだお前らそろって馬鹿だったのか?なんでそう思ったのかはまあ、あのバカが良く私に絡んできたからか?
それはただの嫉妬だろ?
それに誰もかれもがアイツの事を好きになるとでも思っているのか?
私からしたら有り得んよ。あんな能天気な餓鬼なんて」
「このアマ」
怒りで顔を真っ赤にして怒鳴って来る。
「ああ、なんて汚い言葉遣いだ
同じ女として情けないもう少し冷静になったらどうだ」
「……まったく」
ん?以外な所から援護が来たな。
「おい、お前どっちの味方だ」
「……………乗せられている」
「ああ?」
ちっ、ばれたかだが少々説得に時間がかかりそうだ今の内に消えちまうか。
「おい、待て、逃げるつもりか」
「行かせはしない」
「何か?見逃してやろうと思ったんだが」
上手く行かないか。面倒だけど頑張るか。
「いくら、お前がなんか隠してようが俺らには勝てないんだよ」
「そう」
「…………はぁ、私の持つ職は最上級職が一、上級職が二、つまりこれ勇者を連れてこようが私には勝てんよ」
まあこれくらいの情報なら話してもの問題ないな。
と言ってもスキルを使いこなしてくれば難しいと思うが………
スキル〈隠形〉〈瞬動〉発動
気配を極限まで希薄化し、さらに高速移動、首に傷をつけておく。
「そして私は勇希君には興味がないし、私はこれからあなた方と離れて自由にするから。
まあ、勝手にやってくれ」
「くっ」
「………」
反応できないレベルで動かれ、首に傷をつけられると言う事の意味を正しく理解した様だな。
まあこれで引かないのなら本当に殺すつもりだったけど。
「あ、そうだ。
そっちの男は全員殺すよ。
なんせこいつらは私を犯しに来たんだろ?
なら死んで当然だな」
私は向こうの世界では狂人と言われそうな事を簡単に言ってのける。
「た、たすけて」
「なんでもしますから」
「殺さないでください」
はぁ、うっとうしいな。
「ダメだよ、これは君たちの行動の責任。
この世界では自由が許される変わりにそれ相応の責任がついて回るんだよ。
ここでは命が軽いから、こんな事をして、返り討ちに合ったんだよ?
当然死刑だよねぇ。
それに、ここからいなくなる身に何でもするは別に魅力的でもなんでもないしねえ。
交渉は相手の求めるものを考えて言わなきゃ駄目だよ?
まあ、それに君たちを殺すのは見せしめの意味もあるからどうあっても助けないよ」
出来るだけ残酷に悲鳴を上げるように殺すほうが効果的。
スキル〈詠唱破棄〉発動
「黒牙」
闇属性中級魔法 黒牙 いたるところから黒い牙を生やし対象を串刺し内部から引き裂く。
わたしの持っているモノの中でも最上級の苦痛を与える魔法だ。正直、私もこれで死ぬのは勘弁願いたいね。
古式魔法を見たことのない彼らは驚愕し脅えた。
まあ、自分達にとって完全なる未知の脅威を感じたら怯えるのは普通か。
指定した地面や天井から黒く長い牙に見るものがそこら中から生え、指定した場所は口に見える。そしてその口は左右に揺れながらゆっくりと閉じられる。
「ぎゃあああ」
「がああ」
「いでええええ」
人はこんなにも声が出るのかというほどに叫び、そして死んでいった。
「ハハハハ、さて君たちも余計なことを話したら、それが分かり次第もっとひどい痛みを与えて殺すのでそのつもりで。
私はここでこいつらと一緒に死んだと言う事にしておいてくれ、それじゃあ」
相手に恐怖を与えるために高笑いしながらそう、言うと気配と姿を消しその場から離れる
それと【勇者】の戦いでも見に行くか。
さっき初めて人を殺したが、思ったよりも心が動かなかったな、前々から必要とあれば人を殺せるとは思っていたが、ここまでとはね……
本人はそう思ってはいるがこれは、元の素質もあったかもしれないが、これは【暗殺者】【忍者】を持っていることが原因である。
さて、あらかじめ【勇者】のパーティーにつけていた〈分身〉に意識を集中させる。
ほう、25層か中々頑張っている様だね、まあ、紫苑君と雅柳君をパーティーに加えていたからまあ当然か。
今ボス戦を始めようとしているようだから、見てみようか。
「さてボスフロアについたようだね
ここで休憩して万全の状態で挑もう」
そう、言って腰を下ろすとすぐに香織と彩月が隣に座る。
それを見ていた二人は溜め息を吐きそこから離れた場所に座り今までの戦いの反省点を出し合う。
それを見た勇希は、
「紫苑さんもこっちに来ませんか?」
普通二人とも呼ぶだろう。
下心が丸見えだな。
「お断りします」
それを即答する。
それを見ていた香織と彩月はむっとした表情になる。
近づけば嫉妬心を丸出しにすると言うのに……何と言うかどこまで自分勝手なんだろうな。
「そろそろいいだろう」
「ええ」
「なんであんたたちが決めんのよ」
彩月が扉に向かって歩き出す二人に向かって言う。
「もう疲れは取れたようだから、もういいだろう?」
紫苑がそれに対し冷たく言い返す。
まあ、あんなこと言って来たんだからその反応も仕方ないよね、彼女、彼のこと嫌いだから。
「私たちとしては安全第一と言っていたのなら他のパーティーに入りたかったのだが」
まあたしかに、その方が他の連中の安全は確保されるだろおしな。
完全にさっきの事と言い自分達の都合で組み合わせは決めたんだろうな。
「それは、私たちは皆の中でも強いから奥に進んだ方がいいでしょう」
「俺としては、輝崎と榊以外は足手まといだ」
まあ、そうだろうな彼らは他の者と比べても頭一つどころか四つ位飛び抜けているからな。
「君そんな事を言ってはダメじゃないか、そんな事を言うのなら俺のパーティーから抜けてもらうよ」
「別に構わないが」
「それなら私も一人で行かせてもらいたいな」
二人がそれに願ったりだと言わんばかりに同意する。
「いや別に紫苑さんの事は言って無いですよ」
「君たちの先ほどの緊張感の無いやり取りは見ていて吐き気がする。
そんな事をするのなら他所でやってくれ。
それに私達は君達と違って【勇者】と言う役割を手伝うとも言っていない」
なんだか雲行きが怪しいな。
て、言うかそこまで苛立ちを募らせていたのか。
個人的に訓練をしている時に何かあったのかな?
「君は僕らを保護してくれた国に対して何の恩義も感じていないのかい?
少しでもそれを感じるのなら【勇者】である、俺に協力するのは当然なんじゃないのか?」
何言ってんだろうこいつは?お前に従う理由にはならないだろう。
それにただ紫苑君を自分の元に置いておきたいだけだろ?
それに・・・
「はぁ、教会の言ってる事はどうも自分勝手な教えだと思うのだけど、それについて、君は何も疑問を思わないのかい?」
そうそう、そう言うこと分かってるじゃないか紫苑君。
「別にそんなことはいいじゃないか、それはこちらの世界の問題だ。
別の世界から来た俺らがとやかく言う事じゃ無いだろ」
「それは、間違っている。
確かにあの教えなら、人間は幸せになれるだろう、でもそれ以外の人はどうだ。
こっちの世界には亜人がいる向こうの世界よりも人種問題は複雑で大きな問題だろう。
でも、私達がただ言われるがまま動く傀儡になるのはどうだろうか。
それは、ただの思考停止だと私は思うよ」
「俺はそこまで考えている訳では無いが、どうも教会は信用できない。
お前は【勇者】としてこちらに来ている訳だから、俺達よりも教会に特別扱いされた事だろう。
多少なり離れた視点から見れると、どう考えても教会の教えは自分勝手な様にしか聞こえなくなるんだよ」
へぇ、この二人は本当によく考えてるな、何と言うか面倒だと言うだけで脱走しようとしている私が少々情けないな・・・
あいつらもそれは感じていたのか、反論に困っているようだ。
なんだか戦闘を見に来たはずがこんな現場に居合わせるとは・・・
少々後のことを考えさせられるな。
「なんだよ、俺が悪いっていうのか?」
勇希が劣勢になると今まで黙っていた二人が口を挟む。
「なんでそんなに勇希のことを悪く言うのよ」
「そうよ、勇希だってこっちの世界のためになると思って行動しようとしているのよ。
多少なり離れた視点って言ったけどそれってつまりは、あなたの理解が浅いってことじゃないの」
………まあその反論も一理あるとは思うがそれは、本人が言ってほしかったな。
まるでそういうことを言われることを予期していたような反論ではあるが。
しかし何であいつらは、こんなにも特定分野では優秀なのに勇希の事となるとこんなに馬鹿になるんだろうな?
何だかさっきの発言で平行線と言う感じの空気になったかこれは、一端切り上げた方が良さそうだと思うぞ。
「今話しても無駄なようだな」
「そのようだ」
「なに?私たちの方が正しかったということでいいのかしら」
「別に、ただこれ以上話したところで水掛け論の様な平行線が続くだけだ。
それなら話す必要は無いだろ、少し間を開けるべきでだ」
ふぅ、やっと話が終わる。
でもこれじゃあ、ボス戦はやるかどうか分からないな。
今の空気ではボスに挑むだけ危険で無駄なだけだろう。
「それでボス戦はどうする?」
「やめておくべきだろう」
「いや、折角だから俺たち三人が一人ずつやらないか?」
「それは危険じゃないか」
何だか雅柳君が私に都合のいいことを言ってくれる。
「俺たちはこれから何度も危険に晒されるだろう。
なら、それを今体験するって言うのもいいんじゃないのか」
「まあ、悪くはないだろう」
「いやでも」
へぇ、これは都合のいい展開だな私的には願ってもないが。
おっ、話がついたみたいだな。
「それでは、発案者でもあるし俺からいこう」
ありがとうございました




