132 予選決勝
皇国のとある都市の闘技場で私は刀を低く構えて開始の合図を待っている。
相手を見るとこれを勝てば帝国で行われる武術大会の本戦に出場することが決まる為か緊張で体が硬くなっている様な気がする。
自分の事を考えてみるがそこまで緊張をしているとは思えなかった。
エルには刀の能力と〈気〉更には主要の称号を使う事を禁止されているがそれでもだ。
ここまでの実力をつけるのには、いくつもの迷宮を攻略して魔境と言われている魔素濃度が高くて魔物が大量にいる場所も多く回った。
まあ、それでもこの世界の人間からすれば信じられない………もしかすれば激怒されるかもしれない様な早さで力を付けたと思う。
それを考えているとついくすりとしてしまった。
それを見た私の対戦相手は、イラついた様な表情をして私をにらみつけて武器を強く握りしめた
しかし、なかなか始まらないな…………
決勝戦だからだろうかこれまでの試合の振り返りをしている。
私は魔力を一切使わずにやって来たのでやれここまでですねとか、脳筋だとか、美人だから相手が手を出せなかったなど言われている。
これを聞いていると少し本気を出して開始の瞬間に勝負を付けたくなってくる。
おっと、そんな勝負のつけ方をしたらエルに怒られてしまう。
そんな誘惑にかられていたが、ハッとなって気を引き締める。
おっ、司会の説明も終わった様だからそろそろ始まるな。
『では、そろそろ待ちに待った決勝戦です。
…………武術大会皇国第18区決勝戦…………開始!!』
その掛け声と同時に地面が揺れる程の歓声が響いた。
「おおぉぉ!!」
対戦相手は、緊張を振り払う様に大声をあげて魔力を纏い瞬間的な爆発力を生み出し、上段に構えた長剣で振り下ろそうとする。
決勝まで残って来ているだけあって、その斬撃は多少も加速を損なう事無く私に迫って来る。
単純な速度で言えば、分かれた時の勇希の剣速に一歩及ばないと言ったレベルだろうか。
あの時は多少なりとも称号による強化が必要だったが、今はそれを使わなくとも対応できるようになった。
下段においてあった刀を正眼に構え直し私も地面を蹴る。
私がお互い武器がとどく間合いに入った瞬間、相手は剣を振り下ろした。
それに対し私は刀を振るうことなく中段に固定し斬撃を待ち構えた。
私は斬撃を見るのではなく全体を見る事によって、斬撃の軌道と余力を残しているのかを予測したうえで相手の長剣の剣先に刃先をあて僅かにすらしそのまま相手の懐に入りこんだ。
相手は今の攻撃に自信があったのだろう。
目を見開いて驚愕の表情を作っている。
それは身体に余力を残していなかった事から全力であったのでそう動くことは分かっていたので回避することは容易だった。
しかし、相手は私がそう思っていることなど分からないだろうからその様に驚くことは理解できる。
しかし、それでもそれは一瞬の事、直ぐに切り替えて剣の間合いの内側には行って来る私を対処する為の行動に移った。
私は感覚を総動員して次の行動を見切ろうとした。
魔力の増大は感じられないので最初の様な武技は使って来ない、来れないとふんでそれ以外の取る事の出来る行動を考える。
だが相手はそれなりには剣の扱いにたけて来た者である為おのずと予想がつく。
勢いを殺さずに倒れ込むようなショルダータックルを仕掛けて来た。
予想通りだが、これは本当に内心どうなんだろうと思う。
私はまだ刀を振るっていないので重心もぶれていないから直ぐに振れる。
回避しながら相手と交差しようとしているのだが、このまま抜き胴の要領で斬ってしまいたくなる。
そしてなんだか相手はこの流れは思い通りと思っている事が、ひしひしと伝わって来る。
「はぁ!!」
横の回転を生み出しそこから背面切りに繋げる。
ここまでつなげるのが一通りの流れなのだろう。
つなげる事に関しては、おおよそ速度の減衰もないし、しっかりと動作をつなげるごとに剣速も上がっているので及第点だとは言えるが、完全に型をやっているとしか思えない。
最後の背面切りに関しては、あたればいいと私は読み取った。
なぜなら相手を見ずにただあたる可能性の高い中段切りにしていると言った印象を受けるからだ。
流石にここまで隙があって手を出さないのも変に思われかねないので仕方ないので反撃をする。
中段切りよりもさらに身を低くして斬撃を回避、地面に手をつき相手の軸足目掛けてしっかりと回転を加えた蹴りを膝の側面から直角にはいる様に蹴る。
相手は決まると思っていた様だ。
だらかこちらを見てもいなかった様で、一切の回避行動もなしで攻撃を受けた。
衝撃を流す様な動作も一切しなかった為、膝より繊維が切れる感触を感じながら足を振り切った。
相手は面白い様に回転した。
最初の時よりもさらに驚愕をしているといった表情をしている。
まあ、当然か決まると思ってその感覚が手に来るのを待っていたら来たのは、足の激痛と急な浮遊感じゃしかたないだろう。
…………痛そう。
宙を舞っている相手の膝の曲がり方を見て他人事ながら私は思った。
そしてそう言う状態になった者は無我夢中になって手を振ったりする。
予想通り、いや思ったよりも鋭い斬撃が私に向かって飛んできた。
これなら大きくかわしでもいいかな?
私はそれを後ろに跳んでそのまま距離を取る。
さてと、ちゃんと着地できないと格好がつきませんよ?
そう思ってみていたが、私が飛び退いて一応安全だと言う事は分かっているのかしっかりと着地した。
私の相手をしている彼はそれなりに整った顔を歪ませて私を睨み付ける。
最後の攻撃を考えるに反撃をするチャンスがいくらでもあった事が理解できたのかな?
そうは思ってみるがすぐさまそれは違うと考えを破棄する。
まあ、違うだろうね。それが分かっていれば多少は警戒と恐怖を感じるだろうけどそれは一切感じられないから、多分綺麗に決まった技の流れを潰されたのが気に入らないとかそういった具合かな?
ほとんど確信をもってそう思う。
戦い方から予想するに彼は相当自分が中心だと思っている様だから間違いないだろう。
青年と言える年齢で武術大会の本戦にリーチをかけているくらいだから才能もあって強いのだろうけど対人戦は何だか甘い印象を受けるから恐らく探索者だろうなと思った。
『す、凄まじい攻防です!!急加速と連続攻撃をもって相手を追い詰めて来たファピオ選手の猛攻を流れる様な、まるであらかじめそう動く事が決まっていたかのような流麗な印象で紫苑選手がさばいて行きます。正に決勝戦にふさわしい互角の攻防と言えるでしょう』
司会が拡声の魔法具《アーティファクトを使って会場全体にこれでもかと言う程の大声で叫ぶ。
ある程度、盛り上げたのはいいけど互角って言われると、この後すぐに一気の勝負を決めていいのか分からないね………
適当に数分間打ち合った後、膝の傷が影響で動けなくなっていったって感じの終わり方の方が、普通に接戦だったって事で終わるかな?
その方が印象派薄くなるだろうし………
そう考えれば、やるのは容易い。
直ぐに終わるかちょっと時間が掛かるかくらいの差なので、この試合終わった後の閉会式や出場資格授与の方が絶対長いと思う。
だからそれを選択する事にはあまり抵抗は無かった。
『決着!!長きにわたる戦いをせいしたのは流麗な剣技で観客を魅了した紫苑選手だーー!!』
私は動きが緩慢になった相手に動きを合わせてそれなりに気持ちよく動ける様に動作を誘導して観客や視界から見た時の見栄えがいいように調整した。
最後の方はどちらかと言えば試合と言うよりも殺陣に近い様な感じだっただろう。
それに加えて3~6合ほどの間にしっかりと私も反撃を加えたからしっかりとした攻防戦に見えただろう。
…………さて、長い事が予想出来る授与式だ。
私は勝利の喜びを示す為に刀を高く掲げた状態でそれを悟られぬように必死で表情を引き締めていた。
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