129 国境の森で Ⅵ
静寂に包まれる森。
誰一人……魔物一匹いない森の中で居る筈のない場所で俺は樹にもたれかかっている。
〈多面の道化〉を解除し俺にとって必要な事とは言え、何も感じない訳では無い。
「ああ、くそっ。いつかやると覚悟はしていたと思うんだけどな………」
乾いた笑みを浮かべながら、そう呟く。
皆のところに戻る時間と俺が普段の精神状態に持った時の事を考えるとあれ以上あの集落に止まる事は出来なかったな。
「っ………」
胃が自分の意思に反して内容物を吐き出そうとする。
周囲に地面に液体が叩き付けられる音が響く。
口元をふき、頬に張り付いて来る髪をかき上げ喉の痛みを感じながら俺は吐き出したそれを見る。
「……………無様だな」
俺は仰向けにその場に寝ころび、魔法で鏡代わりに使えるものを作り自分の顔を見る。
「ハハハ、酷い顔だな………」
顔色は元から白いが、それはちゃんと血が巡っている事はうかがうが出来る白さだった。
しかし、今は完全に血の気が引き土色になっている。
それでも俺は〈多面の道化〉の説明にあったいずれ自分を失いだろうと言うステータスカードの一文を思い出し、まだ俺はそこまで行っていない事を確認した。
吐いた事で多少はましになった気がするが、この状態ではまだ帰る訳にはいかないな。
下手に気付かれると無用な心配をかけるからな……
俺はそう思って空を見上げる。
歯の隙間らから夜空を見てそう言えば、何で星があるんだろうと素朴な疑問をいだいてみる。
「それはね。僕らの」
後ろに気配を感じて声がした時点で〈アイテムボックス〉から槍を取り出した。
「おっと、危ないな」
「クノか」
「久しぶり颯君。
それは僕らの星があるからだよ」
適当に挨拶をして来て、中断された言葉の続きを言った。
「星?」
「そうそう。それは、僕らの写し身なんだよ」
「…………それで何の様だ?」
いまいち言っている事は理解出来なかったが、このタイミングで現れたって言う事は何かこいつの怒りにでも触れたか?
「いやいや、そんな事は無いよ~」
「…………」
質問に答えずに思考を読んでくるか……
「僕が君の行動をいちいち言うつもりはないよ。ただね、今回の事については下手をすると一気に悪い方向へ行ってしまう瀬戸際だからね」
クノは俺の見透かすかの様なそれこそ神らしい超越者の目をして見て来る。
「………俺がか?」
「君がだよ」
俺は立ち上がり何でもないふうを装った。
今回の事に限っては、自分の罪から逃げる訳にはいかないと思っているからだ。
「悪い方に行くと言ったが………俺が真に悪の道に行くとでも思っているのか」
クノンを睨み付け表情を無理やり笑顔にしながら問いかける。
しかし、呼吸が安定せず普段はぶれる事のない重心もぶれている。
誰が見ても虚勢を張っている事は分かるだろう。
「それになんだ?お前は俺が子供を殺したからと言って何か言って来る様な権利があるのか?」
「いや、そんな事はどうでもいいんだよ」
「…………は?」
俺が言った事を何それと言わんとばかりに、きっぱりと言ったので呆けた顔をして情けない声を出してしまう。
「そもそも、僕がそんな事をいちいち言うと思ったかい?」
「思わなかったから言ったんだが…………」
「そうだよ。言わないよ。そもそも僕らは個をどうこう感じるとこは無いよ。僕らが考えているのは種そのものさ」
「………俺にかまって来るのはじゃあなんでだ?と言いなくなるな……」
余りの言い様と言うか、俺が思っていた事があまりも外れたので本当にどうでもいい事を聞いてしまう。
「君?君はね、個でも種をどうにか出来るからさ」
よどみなく答える。
「矛盾していないか?」
「君の世界との考えの違いだよ。まあ、重要度だね」
「それは聞いても分かりそうにない。それじゃあ何をしに来たんだ?」
そうなると本当にここに来た理由が分からない。
何がこいつを動かした理由になったのだろう?
「…………君は自分が今どう言う状態だか分かっている?」
「俺が今……」
今………自分で忌避していた事を後悔して自らを攻めている。
「違うでしょ」
「何が?」
また、思考を勝手に読まれしかも、考えている事を否定されて多少は苛ついている。
「そもそもなんでそんなに気にしているんだい?」
「気にしているって当たり前だろ?」
「そうかな?他の人を殺した事は全くと言って気にしていないよね?
それなのに何で子供っているだけで、何で気にしているのかな?
彼らは生まれた場所が良くなかったとはいえ、同じ世に君が忌避する事をしていたよね?
それなのに気にするのかい?」
「それは……」
自分の経験から子供は何も気にさせない方がいい、簡単に染められてしまうから出来るだけ寛容になるべきだ。
自分がああならなかったのは運がいいだけだ。
そうは思ったが、喉まで出かかった言葉は喉もとで引っかかって音にならなかった。
「そうだね。そう言ったら何で殺したんだと言いたくなるよ」
「あれは……」
「必要な事だろうね。君が助けた人からすれば子供だからと言って許さないだろうし、それ以外の人だって許さない。
助けたとしたって奴隷になるだろうし、君が全員引き取ったとしても他の事問題を起こしてその時は君の信頼が損なわれる。
全部考えたうえで、君は切り捨てたんでしょう?」
「っ…………」
言い返そうにも言葉が詰まる。
指摘された事は全て正しい、
「覚悟が足りてないよね」
「………」
「やったなら、後悔するなよ。君は奪う側だ。
最初の話に戻るけど、君が本当にその覚悟をしない限り、ちゃんとした考えを持っている他の【魔王】たちと比較すると災害と変わらないよ」
「他の【魔王】ってどういう奴らなんだ?」
いるとは知っているがほとんど情報が無い。
だから聞いてみる。
「自分の仲間を絶対に守り切ると言う覚悟を持っている事だけは確かだよ。
それこそどんな手を使ってもね」
「…………」
「君の行動は攻めていないよ。ただその後の行動は問題だと思うよ。
何かを守ると言う事は他を切り捨てると言う事なのだから………いつか自分の大切なものを無くしてからじゃ遅いよ」
クノは言うだけ言って消えて行った。
「…………何だったんだ?あいつの言いたい事は………攻めに来たと言う事は確かか……」
………………覚悟ね。
今、言いに来るって言う事は何かあると考えていてもいいのかな……
俺はこの時、後悔している内容から覚悟がないと言うものにすり替えられた事に
気付かなかった。
これについては打ち開けることが出来るものは、俺の周りに居なかったからだったと思う。
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