120 裏で……
こんばんは本日一話目です。
先週程今週は多く更新出来そうにありません。
水曜にアクシデントが無ければもっと書けそうでしたが……
今日は多分2~4更新します。
「報告をしろ」
「…………はい」
白塗りの建造物の並んでいる街並を眼下におくとある部屋。
窓際の安楽椅子に男が腰かけている。
その男は右目と口元以外の全身に包帯が巻いていて、声色から予想すると青年くらいの年ごろなのだが、妙に達観して老成している印象を聞く者に与える声を持っている。
そんな男は全身黒ずくめで顔も同色の布で覆っている感情の伺えない声をした女に命じた。
なお、女は音も無くこの部屋に現れた。
気配も常人なら同じ部屋にいようが、存在を悟る事も出来ないであろうレベルだ。
包帯の男は、それに対し顔を向かる事も無く確信をもって声をかけた事から、男も相当な技量がある事が予想出来る。
「最初の報告を国に所属していない参加者は推薦が26、予選から上がって来た者が87です。
さらにその内で貴方様の要求に合うものは三人です」
「名は?」
「リル、レティシア・ノワール、ルージュです」
男はそれを聞いて頷いて一応聞いておきたい事を聞く。
「本当に三人しかいなかったのか?」
「国に所属していないA級以上とされている者は本来ありえません。
よほどの理由が無ければ、ギルドに入っているかをしています。
この三人は冒険者、探索者、傭兵ギルドの名簿を調べた所この三人はたった一度としても所属していないようです」
「…………」
男はその事は知っているが特に口を挟む事無く女の話を聞く。
「A級以上は存在そのものが災害と言えます。
特に前者の二人は【魔人】の襲撃を受けた時、八割の【魔人】を倒した様です。
それを考えれば、街の落すのは高ランクの者が二人いれば事足りると言う事です。
管理されていないものが、そんな力を持っているのは問題があります」
彼女は正直言って分かり切っている事を続けて、なかなか結論が出ない。
「何が言いたい?」
「退屈でしたか?では簡潔に言いましょう。
貴方が何とつながっていて彼女たちを使って何をしようとしているかは、分かりませんが彼女達ならどうしてもいいです」
「くふふ………」
男は笑った手で口元を覆うが、三日月の様に大きく裂けた口は隠せていない。
男が笑い声をあげるたびに室内の温度が下がっていく様な気がする
女は額や背中から汗をかいているが体の芯は冷え切っている。
彼女の心はいち早くここから出て行きたいと言う感情に支配された。
だが、目の前にいる男から許可を貰わなければならない為、彼女の意思ではここから出て行く事は出来ない。
その反応に先程までの妖しい笑みは消え、目の前の圧倒的な者に対して必死に抗おうとしている女を見て愉快そうに笑っている。
「俺が誰といようがお前には関係のない事だ。そして誰を殺そうがそれもお前には関係のない事だ」
男は管理出来ていて実力者になれた可能性のあった者達を殺した事や外で彼女たちでさえも把握しきれていない者との繋がりの事について指摘したが、少しも考える様な素振りを見せずに一蹴にした。
女はこの男が来てからこの国は良くも悪くも変わったと思っている。
自分の私腹を肥やしていた貴族や国の官僚たち、国政に一々口出しをして来た教会、お飾りで今まで何の力を持っていなかった聖王。
その全てが正しく動く様になって国の税も下がり、国民の生活もここ数カ月の間で相当良くなってスラムの面積もかなり縮小された。
しかし、何かがおかしいだろう。
欲を持っていた者達の欲が急に無くなるであろうか?
この国はただの一人の死者も出る事無く、何かが変わった。
兵士たちも少し前は士気も低く、この周囲は魔物も少ない為、やる事と言えば街の巡回やスラムの調整くらいだったが、現在は毎日訓練をしている。
しかも、どこからも不満の声が上がる事も無く誰もが黙々とそれをこなしている。
現在この国はまるで素人がこうなっていれば国は良くなるであろうと言う理想像が、そのまま再現されている様な印象だ。
それはそうなれば確かにいいが、理想は理想。
実現する訳の無い夢想と言ってもいいだろう。
人間の欲がそれを妨げていたが、今はそれが無い。
その方がいいはずなのに言い様のない不安を感じる。
現在のこの国の上層部にはまるで人間味が無い。
他国を相手にする様な者達はそんな事は起こっていないが、害になる者は職を辞されて実質上欲を抱き難い者がそれを行っている。
彼女たち暗部とされている者達は、元よりそんなものは無く今までと変わりがない為、変って行く状況に凄まじい違和感を感じている。
そして独自に調べている限り、変っているのは主に上の様な者達で市民は一切変わっていないが、現状が変化して起こるべき変化は確かにしていた。
彼女たちはそれ等の事はこの男のよるものと考えていて、それ故急にこの国に現れた異物にしか見えない。
今はいいがそれが悪くなる様に使われ始めたかどうなる事か、それが暗部にいる者達の不安だった。
そこには二種類の人間がいて幼少の頃から様なるべくして育てられた者、その者たちは殆ど感情と言うものは死んでいるが、そうでは無く自分からこの国の為にと裏の部署に入って物も少なくない。
その為、今のたった一人の意思によって多くの者の運命が握られているこの状況は、彼らにとってもあまり好ましい状況ではない様だ。
それを考えると今までの方が、権力は分散されていたし一人の意思でそこまで動かなかった。
それにいざとなれば、その者は消してきたので最後の枷はあった。
だが、それもこの男には意味が無い。
目の前にいる者は文句のつけ様がないこの国の最強の男なのだから、寝首を掻く事さえ出来ないし毒も全くと言っていい程に効かない。
「さてもう下がっていいぞ。俺もそろそろ帝国へ行く準備をしなければならないからな」
「はい……」
容易とパレードの事だろう。
彼女たちには都合の悪い事にこの男は民衆も味方に付けている。
まあ、生活が良くなったのは彼が来てからなのだからそう思っても仕方ないだろうし、頻繁に盗賊の討伐にも出かけていて、商人たちも相当商売がしやすくなったと言って、売られている物は安くなりそれに加え税も軽くなり収入も増えると言う好循環が起こりそれが彼の人気を上げている。
しかも、聖姫と婚約した事も国民に大々的に発表し、婚約をしたのは最も若い……と言うよりも幼い第三聖姫シュルロッテ・アテン・グロリー様でその時もパレードをして、この男は姫の無垢で屈託の無い笑顔を向けられている事を民衆にアピールし、民衆はそれで彼を信用しきっている。
「帝国に暗部を数人連れて行く。それも準備しておけ」
「はい……」
この男はこの面を完全に隠している。
それを言った所で都市中が敵になる。
彼女たちは言いなりになるしかない。
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