118 移動手段
本日六話目です
颯が邸に入って向かっているのは、旅の準備をお願いしたレティシア、ミーリャの所だ。
なお、レティシアもあの自動人形と模擬戦は行っており、その時は刀の能力も使わずにリルが破壊するのにあれだけ苦労した関節を一刀の下に切り捨てたので、抜根的な改良がされない限りあの自動人形が彼女と再び模擬戦をする事は無いだろう。
リルが自動人形のテストに付き合っているのもレティシアは、それを自分の力だけで容易に下す事が出来た為である。
普段は仲が良いのだが、ふとした時には勝負をよくしている。
大体勝敗は半々くらいだと聞いている。
二人共タイプが違うのでモノによって勝敗が見事に割れてしまう。
まあ、それで全体的な底上げになっているので颯はよっぽどの事でも起こらない限り、口出しをする気はない様だ。
蛇足かも知らないが、〈刹撃〉〈刹動〉と言う二つのスキルをレティシアとリルがそれぞれ習得した。
これは妲己の動きを颯の動きから盗んで習得したものだ。
レティシアが関節を破壊した攻撃は〈刹撃〉を使ったもので、リルが蹴りの時の加速は〈刹動〉を使ったものだ。
颯と同じで多用は出来ないし、妲己や颯の様に移動にも攻撃の両方として使う事しかできないが、颯と比較すると二人の方が筋肉の生み出すエネルギーは高いので颯がそれを使う時よりも速い。
速さで負ける事は気にしていない様であったが習得の早さに関して颯は、これが才能か……と誰に言うでもなく呟いていた。
ちなみに、颯は〈刹撃〉も〈刹動〉もスキルとしては習得出来ていない………その所為でそれの習得は完全に諦めて〈瞬動絶隠〉の方をより強力になる様に改良を加えていた。
颯は移動の時に使う馬車を置いてある場所に入って行った。
それをひく馬はソフィーに手伝わせて自動人形にでもしようかと思っていたが、あれは生きた細胞を使ってるので〈アイテムボックス〉に入れる事が出来なくなるのでなしになった。
同じ入れられなのなら普通に魔物を調教してくればいいと言う結論に至った。
それは颯がシェンとちょっと遠出して連れて来た。
全長三メートルの真っ黒い身体に炎と雷を操る能力を持ったここら辺では凶馬として恐れられている奴らしい。
その事はギョクが瞳に涙を浮かべて震えながら教えてくれた。
颯はシェンに恐れて簡単に交渉が出来たから、たいした事ないと思っていた。
それを聞いた時はまた苦笑いをしていたが、まあ、リルとレティシアよりは弱いから二人が、調教したって事にしておけばいいか……とか、いっその事、子竜と言う事にして、シェンにでも引かせればよかったか?とか言っていた。
完全に現実逃避をしているだけである………
まあ、武術大会に出させられる事でリルとレティシアの事が広まってある程度は、おかしい事があってもいいだろうと言う建前の元、最近自重がなくなっている感じがする。
「あ、颯様」
作業をしているレティシアが颯の事に気が付いて、周りで手伝っている子供達も気付いた。
「お疲れ様。大体終わった感じかな?」
レティシアにねぎらいの言葉をかけた後、あたりを見ながらそう言った。
積む予定で置いてあった荷物は殆ど無くなっている事から、作業はほぼ終了している事が分かる。
「みんなもありがとね」
今も残りの荷物を運んでいる子達にそう言った。
「ありがとうございます。これくらいなら殆ど疲れませんので大丈夫です」
颯に一番場所にいた近い子がそう言った。
その証拠に荷物を運んでいる体は一切ブレていない。
まだまだ、余裕を感じさせる。
ちなみに〈アイテムボックス〉があるのに態々荷物を馬車に入れているのは、それだけはこの旅をしている内は外部の者にはばれない様にする事にした為だ。
まあ、〈アイテムボックス〉を〈付加〉させた物を作ったりすれば、迷宮から出た魔導具と言い張ればいいと思っているので、運び入れているものは実を言うとほぼ家具だ。
馬車に中を〈死と境界の王〉の【絶堺】で拡張した為、邸の大部屋くらいの総面積はある。
以前馬車で酷い目に合ったので同じ轍は踏むまいと、思いっ切り魔改造を施した結果だ。
なお、あれだけの能力がありながら酔う理由は不明。
「颯様中を見て行きませんか?」
「そうだね。内装はレティシアとミーリャに一任したからどうなっているのか気になるね」
と言っても中に入れた家具は大体彼が作ったので予想はつくと思われるが、それをどう配置するとか何を足したかとかは知らないので気になっているのは事実だろう。
颯はレティシアにひかれて馬車の中に入って行く。
「ほぉ……」
中に入り颯は感嘆の声を上げた。
広々とした印象を受ける白い壁紙とフローリングと自然のままの色を使った温かみのある家具に硝子細工を使った明るい照明。
さらにいくつもの扉が見える事からこれ以外にも部屋がある事を容易に予想させる。
その扉が開きミーリャが出て来る。
「こんにちは颯様」
颯を見て綺麗な礼をしてくる。
顔を上げると表情は変えていないが、雰囲気がこの内装どうでしょう?と語りかけて来る。
「すごいね。良く出来ている」
内装を見て笑顔でミーリャに言った。
「こっちも見てください」
パッと見は先ほどまでの表情を保っているが、口元がにやけるのを抑え様としているのがまるわかりだ。
颯はそれを態々指摘はせずにニコリとしながらミーリャについて行った部屋の中に入った。
「調理室か……」
颯は、中を見て目を見開いて本当に驚いている。
邸の中にある調理室とほぼ同じレベルの設備になっているのと彼はこれを作っていないからだ。
「これもしかしてシャノンが作ったのか?」
それらを指さしながらミーリャに聞く。
「はい、そうですよ。まだ、颯様の様に複雑なものを作る事は難しい様ですけど、簡単なものなら時間をかければ出来るみたいです」
「へぇ………すごいね……」
彼は早すぎると呆然としながら、警備もっと増やした方がいいんじゃないのか?と思っている。
「そうでしょうか?颯様から見れば児戯に等しいのでは?」
「そんな事は無いぞ……」
段々と彼の周りにいる者達は、常識から離れて行っている様な気がしなくもない。
「しかし、すごいね。これなら旅をしている内もここにいるのと変わらない生活が送れそうだ」
苦笑しながらそう言う。
「ギョクさんが魔物の素材を加工する為の作業部屋もここに作ってありますので役に立つでしょう」
馬車そのものを用意したのは彼であるが、彼の周囲の者達によって王族でさえ使っていなさそうなものへと変貌を遂げていた。
「寝室も作ってありますので見ておいてください」
「…………」
ミーリャはいい笑顔で颯は以前の事を思い出して嫌な予感がしており、レティシアはもうどうなっているのかを知っているか頬を少々赤くしている。
「さあさあこっちですよ」
ミーリャはニヤニヤしながら既に隠す様な素振りを見せず、颯をその部屋に案内する。
「……………やっぱりか」
そこに置いてあったのは天蓋の付いた大きなベッド。
本当にどこぞの王族が使うかの様な大きさだ。
ちなみに颯はこれを作ってはいない。
「ミーリャ、これは如何言う心算なのか聞いてもいいかな?」
「嫌ですね颯様、スペースの節約に決まっているじゃないですか~」
「それならひろ「いえいえ、お手をわずらわせる訳にはいきませんよ」……………」
言葉をかぶせて颯の提案を封殺する。
「それにもう出発まで時間がありませんよね?」
とは言っているが、ミーリャの視線はどうせ手を出さないのだからいいじゃありませんか?手を出しても責任を取ればいいじゃないですかと言う意味を読み取れる。
レティシアもその視線の意味を読み取り先程よりもさらに顔を赤くしているが、何かを期待するかの様な雰囲気をかもしだしており颯もそれを指摘すると藪をつつくのと同じ事の様な気がして颯は何も言えなかった。
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