116 身勝手な願い
本日四話目です。
帝国第十三研究所。
【勇者召喚】の十年前から稼働していた帝国が【勇者】に対抗できる戦力を作る為に作られた研究所である。
最終目的は【英雄】を作る出す事である。
非検体は昔より異能が宿ると言われている白髪に【勇者】が持っている事が多かった為、実験対象に加えられた黒髪をもつ子供達を帝国軍や繋がりのある盗賊を使い、誘拐まがいの事があっても騒ぎになら無い様な辺境の村や小さな町、大都市のスラムから調達した。
他の研究所よりも圧倒的な資金をつぎ込まれた第十三研究所には、毎日数百人の非検体が集められた。
その為、そこに連れて来られた者達は完全な消耗品扱いをされて、ある者は精霊を直接身体に埋め込まれたり、魔物から作られる特殊な薬の実験体にされて人の姿を失ったり、あるいは延びる可能性のある者に恐怖を植え付ける為の見せしめになったりと実験を進める為としては、合理的かつ効率的なのではあるのだろうが、人道など犬にでも食わせておけと言う表現がピッタリな程、非人道的な事が行われていた。
そこの局長に選ばれたのは、特殊な魔眼をもって人体改造の第一人者と名高かったカダフト・ウェイカー。
人体改造と言う狂気的な所業を行っているのにもかかわらず、彼は理性的で理論的、そして奇行も無い一見すると常識人に見える。
しかし、それはおそらく共感能力の欠落であり自分以外の人間なんて等しく研究材料に過ぎないからだろう。
そう言う者は目上の者にも態度が変わらないのではないかと言う者のいるとは思うが、それが無いのが彼が理性的で理論的と言われるゆえんである。
自分と他人は違うと言う事を理解しており、上の者がいなければ自分の研究も出来ない事を分かっているので、見かけ上は完璧に常識人を装っている。
それは、ある意味自分が考えないであろうことを考えて、実行すれば装うことが出来ないのでそこまでの苦労は無かったし、非検体に対する誘導を行う為にも相手の心理状況を研究したこともあり知識としては、完全に知っているので苦労は殆ど無かった。
こちら側の世界の医者に診られれば、間違いなくサイコパスと診断される様な人物だった。
そして付け加えるのなら、彼は破滅志願者だった。
自分と同じものはこの世界には存在しなく、孤独であったとも言える。
彼が研究に没頭しているのは世界と最も離れられるからであり、そして自分を終わらせるにふさわしい究極の異常を作るのが最終目的であったからである。
その研究所でそれを求めて研究をつづけ四年半がたった。
彼の望む究極の異常はまだ未完成どころか、きっかけさえもその可能性のあるものでさえも見つける事は出来なかった。
しかし、それには及ばないとしても帝国が求めたボーダーラインを超えるものは生産する事は出来ていたので、本国はそれに満足しさらに研究費を多くして来ていた。
しかし、この時彼は自分の老いにおそれていた。
そして彼が狂気に走ってしまう直前に彼女は現れた。
その白髪赤目の少女は体内に魔力を持たなかった。
しかし、その肉体は他所の魔力や魂、精霊を吸収し統合する事が出来る特異体質中の特異体質である事を一目で見抜いた。
しかも、彼女には一緒に連れて来られた親友がいると言う話ではないか。
その時彼は今まで見た事の無い様な名笑みを浮かべて「これは運命的だね」と言った。
何時も彼のそばにいた側近の男は言い様の無い寒気をその時感じたと言う。
そしてその少女は一番初めに親友と一騎打ちをさせその後、変わり果てた親友を目にしその親友に憎悪の言葉をぶつけさせた。
それは予想通りの結果と……それ以上の結果となった。
〈死拒者〉と言う特異なスキルまで手に入った。
それは死に至った親友の魂を吸収しスキルと言う物に転化したのだろう。
それもあり限界を超えた様な訓練になっても生き残る事が出来ると確信し、他の者に課している者よりも十数倍の訓練を課した。
そこにいた短い時間の中で少女は気を習得し、剣技も達人級の腕前に達した。
この時点で紛れも無くここの出身者最強の実力。
しかし、まだ足りない。
まだ、究極の異常では無い。
このまま魔物を戦わせていてもそれには届かない……ならば、今縋っている者も破壊しさらに心に傷を負わせよう。
彼女は死を選べないのなら外敵のいなく。
さらに此処の犠牲者が打ち捨てられた場所に送れば、それを喰らいさらに堕ちて行くだろう。
どれだけ経っただろうか……おそらく上にいた時間と同じくらい。
地下から化け物とも災害とも思える程の魔力と気が立ち込める。
「ククク……ついになったか……」
その大瀑布の様な気配は以前見た竜種さえも凌ぐ。
破滅願望を持っている彼にとっては恐怖など極少程もわかず、ついに終わりが訪れるのかと感じ喜んでいるくらいだ
その直後に建物を揺るがす程の轟音が響いた。
地下から出て来たのだろう気配が近くなってきている。
取りあえずの抵抗として命令を出す事が出来る者を全て向かわせて、死ぬ位が無い者は好きにしろと言った。
死ぬ気の無い者達は散り散りになって一目散に逃げて行った。
そして彼女はこの部屋まで来た。
扉を破壊しそれを全て打って来ると言う強引なものだった。
そして初めて今の彼女を見た。
彼は感動した。
彼女が纏っている明確な死の気配に………
そしてその姿は正に死神。
白かった髪は、この世界の全ての憎悪を濃縮した様な黒を主として、所々斑の様に入っているに腐った魔物の内臓の様な赤は、破滅的で廃滅的で夷滅的だ。
手にしている剣もその血が脈動している様に妖しく光っている。
彼はその姿を見て思うのはつくづく外れている。
彼が頭に浮かんだのは、美しいだった。
おそらく今の彼女程の力と禍々しさになると、心に極少程でも破滅願望を持っていればそう感じてしまうだろう。
彼女は彼の笑みが気に障った様で一目散に殺しに来るが、控えていた護衛がそれを阻止する。
彼女は苛烈に攻め続けるがこれらは彼が作った最後の敵。
脳と脳を魔法的な因子で繋ぎ意思を統合させて思考速度と連携能力を向上させた者達。
六人そろっていればA-級のも匹敵する戦闘能力を誇るある種の完成系。
それらを無視して彼をいち早く殺そうとする。
しかし、別の所に意識を持って行っていて彼らを相手にするのは、流石の彼女でも難しかったようで………
「がぁ…………」
腹を貫かれた。
目を見開いて彼女自身が驚いている。
そして彼も失望感を抱いていた。
彼女はそれを見てさらに怒りを燃やそうとするが、急に冷や水をかぶった様に冷静になった。
剣をもう一本取り出し体制を低くして構えた。
そこからは一方的だった。
連繋は入ろうとすれば剣閃がそれを妨害し、連携がとれなくなり孤立したものから首が飛んで行った。
そして最後の一人になるまで一人一人丁寧に殺して行った。
最後の一人の首が飛んだ後、ゆっくりと剣をひいた。
側近の男が何かを言おうとした瞬間、彼女の手が消え同時に飛来した結晶の欠片が男の眉間を貫く。
彼は覚悟を決めて死を待っていると。
「お前はなんでそんなに落ち着いている?」
まさか話かけられるとは思っていなかった為、驚いたがそれでも落ち着いて答えた。
「何故取り乱す必要がある?私の役割は【英雄】を作る事。
それが達成されたのだ……何か問題があるのか?」
自分の考えを一部隠して答えた。
「………」
彼は彼女が剣を強く握っている事から、考えを読まれて彼女自身は殺す気が無くなっている様だがそれでも……
「がふぅ……」
こうなる事は分かっている。
何故なら彼は今の力の元となった霊たちの総意を逆らうことが出来ないのだから……
ようやく終わる……………………
十数万の人間を実験台にして殺した男は此処で穏やかに息を引き取った。
次話より第四章 武術大会って何かあるフラグですよね? 始まります。
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