109 クリスとの会話
俺、レティシア、ギョクは一階受付の横にあるカフェテリアでクリスが降りてくるのを待っていた。
ギョクは一度気を許した相手には、意外なくらい自分の事を話す様な子だった。
まあ、その代わり本来なら打ち解けるのに時間が掛かるのと少しでも仲たがいすると、中を修復するのに時間が掛かるだろうな。
甘いものが好きらしく、家にいるミーリャの作るお菓子は美味しいと言ったら食いついてきたので、旅立つ前に一度家に来る事になった。
そんな具合に十数分話をした所でおそらく外に出るからだろうか、軽装の上にマントを羽織ったクリスが現れた。
「ごめんね、お待たせ」
少し口調が貴族にしては軽い気がするが、まあ、高圧的に来るよりはよっぽどいいか。
「いえ、ギョクと楽しく話をしていたので待ったと言う感じはしませんね」
「そう?ならいいんだけど」
苦笑気味に答えてはいるが、ギョクと仲が良くなっている事は好ましいらしく言葉の後半になる時には、子供の様な笑顔を浮かべていた。
それにここまで愛想よくして来て、許さないと言うのもおかしいからな……言える立場でもないが………
まあ、彼くらいの見た目になっていると百はもう遥かに昔だろうからね、年上の余裕と言う奴だろうか?
「話は此処でするんですか?」
格好を見れば如何するかは分かるが一応聞いておく。
「いや、錬金術開発局の僕の部屋でしてもいいかな?」
「大丈夫です」
「そうか、それでは行こうか」
俺の回答を聞くと俺達は早速移動を始めた。
経済管理局から馬車に二十分ほど揺られたところに薬剤研究局と錬金技術開発局が一緒になっている建物についた。
意外と真新しい印象を受けた。
それを疑問に思い聞いてみたら、クリスが副市長になり二つの局長を兼任しているから仕事がしやすい様に一つにされた様だ。
それにしては大きくないなと思ったが、それが顔に出ていたらしくギョクにこう言われた。
「ここは危険なモノも扱いますから、危険な者が実験が失敗した時にそれが外に漏れ出ない様に地下に多く研究施設が作られています」
それを言われてああそりゃそうかと思って、〈諸事万端〉を使って施設の全貌を確認すると地上階が三階で地下がなんと十階もあった。
ふむ、それを考えると経済管理局よりも大きいのか………まあ、実験なんかをするのだからそれくらい必要なのかな?
中に入ると内装はかなりシンプルな雰囲気になっているが、材質は白塗りの木製で所々嫌味のない装飾が洒落た雰囲気を醸し出している。
………クリスが着任してからここを作られたと言っていたから、クリスの趣味が反映されているのかな?
俺が内装について考えながら、地下についても同じ様に材質を調べてみるとそちらは階毎に異なった性質を持つ金属や魔物の素材等が使われていた。
その階事に一般的と思われる様なものから、実験的な意味合いが強そうな面白そうなものをやっていた。
後者の方に強く惹かれたので後で見せて貰えないかな?とその時に思っていた。
俺達は二階の一番奥にあるクリスの執務室にとうされた。
その中の内装は観葉植物が多く置かれ、家具も切り出されたものを出来る限り揃えたりする事無く、自然の木の持つ特有の温かみを感じる様な作りの物だった。
それは実用一点張りのウェインの執務室とは違い、まるでここに森の中の休憩所をそのままここに持って来た様な印象を与える。
やっぱり妖森族だからなのかなこう言うものを作るのは?
そう言えば、考えてみると俺ってルナの部屋に入った事無いんじゃ………
もう少し、ザクセンに居ればよかったかな………
そんな事を思っていると最終的にこう言う事を思った。
ルナに会いたいな………
自分でも何故かは分からないが、俺はルナに惹かれる。
それを自覚したのは、こっちに来てからだ。
後から考えると相手を落ち込ませたとしても俺が、そこまで気にするような事はそれまで無かっただけど、ルナだけはそれがする事が出来なかった……付け加えるとクリスにもルナの何十分の一くらいだけど同じものを感じる。
「っ………!?」
レティシアが俺のコートの端を掴んでとても寂しそうな表情をしている。
俺は驚いている。数秒の思考の中の数瞬の変化を鋭敏に感じ、それを読み取ったと言う事なのだから驚くのも無理はない。
ギョクは首を傾げて何の事か分からないと言う雰囲気を醸しているが、クリスは何故かすべてを理解していると言う表情をしている。
「………」
俺は何ともバツの悪そうな表情をしてクリスの方を見るが、俺の視線を少しも気にした様子も見せないまま子供っぽい笑みを浮かべているが、この状態であるとただの嫌味にしか感じない………
はぁ………今如何こう言ってはこないけど、レティシアをちゃんとフォローしておかないとな……
何となくこれは、リルやミーリャも巻き込む気がする。
「さてと、颯君。君はおそらく今思い浮かべた人の事を僕に聞きたいのだろうが、それは僕から話す事は出来ない」
「………何故……と言う事も答えられないのですか?」
答えられないのだろうな………と思いつつも一応聞いておく。
「……そうだ」
欲しい情報を出せない事をまず初めに出して来る……か、俺から情報を出したいときには、悪手かも知れないが情報では無くて信用を得たいと言うのなら間違っている様には感じないか……
しかし、そうなると何を聞こうか?
それ以外となると聞く事が無い気がする………ルナやこいつにひかれる理由を聞くと言うのも同じ理由とそもそも男に向かって、自分は貴方にひかれていますなんて聞くのも嫌だし………
まあ、向こうが聞きたい事があるから、この場を設けたんだろう。
だったら、話せる事は話してこの場はクリスから俺も信頼を得ると言う方向で行こう。
そっちの方が無理に聞き出すよりもいいだろうし、今回の事の対価はこの施設の中でも見せて貰えばいいか。
「君の聞きたい事をすでに話せないと言った上でそれを踏まえ、それでも君に聞きたい事がある……話したくない事は話さなくてもかまわないよ」
「分かりました」
「ありがとう、それじゃあ聞いて行くね………………………
俺は聞かれた事には答えた。
更に言うと聞かれた事は多くなかった。
自覚している限りでも相当数聞かれるだろうと予測していたが、そうでは無いだろう。
それは聞かれた内容を簡潔にまとめると、俺は何所から現れたのか?魔法具の作り方は、どうやって生み出したのか?
前者は、今まで俺が無名でこの世界に居たと言う事が、信じられないからだろう。
そして、急に探索者になった事、そしてなって直ぐに商会を作ったと言う事、何方も急すぎる。
後者は、神や迷宮にしか、魔法具と呼べるほどの高性能な武具は作れないと言うのが、この世界の常識であったからだろう。
付け加えると、魔法具を俺が作っている事を知られていると言われた時点で、俺は背中に冷や汗をかいていたが………
俺は自分がこの世界の人間で無い事を告げて、それだから魔法具を作れると言って誤魔化した。
ハッキリ言えば、この世界の人間でも特定のスキルさえあれば、魔法具は作れる。
事実、俺の所にいる子供の一人はもう少しで作れる様になる事から、出来る事は実証されてた。
まあ、これは正確には違って魔力が足りなくて、俺みたいなのは作れないと言うだけだから、成長して魔力が増えたうえでしっかりと時間をかければ、もうすでに魔法具を作る技量はあると思う。
しかし、これは俺に仕えている子供たちにしか俺が教えて出来る様にする気はない。
俺は正直いつ死んでもおかしくないと思っている。
正体が【魔王】を殺そうと思っている者に知られれば、討伐隊は作られるだろうし、俺よりも強い存在に襲われないとも限らない。
俺よりも強い者がいる事は、妲己との戦いで思い知らされたいつ死んでもおかしくないと………俺は、いくつもの強力な称号やスキルを手に入れて慢心していた。
その時、残される子供たちが少しでも生きやすい様に彼ら彼女らにしか出来ない事があった方がいいだろう。
それを使えば、他者から保護を受ける事も出来るだろう。
まあ、だからと言って俺が作っている所を見て出来る様になった者を率先して殺すとかは、する気も無いが………
とは言え、俺が異世界人である事を伝えるのは、今の情勢を考えれば危険なのかもしれないが、俺の〈直感〉では問題無いと出ているのでそれを信じる事にした。
彼からは、俺が【魔王】である事知っても、問題にならないと言う漠然とした予感がした。
何故かは分からないのだけどね………
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