107 自己紹介
本日二話目です
俺とレティシアは室主の趣味の実用一点張りの家具の並んだ執務室に入った。
「失礼します」
俺は部屋の中に入り、レティシアが扉を閉めた所で一礼する。
レティシアも俺に続けて深く頭を下げる。
頭を上げた俺は、部屋の向かいにいる人物を見る。
そこいるのはこの部屋の主のウェイン辺境伯、その辺境伯の秘書をしているソルさん、精悍な顔立ちの妖森族の男性で相当な軽装をしているが着ている物の艶等から高級品である事は分かるおそらく皇国側の貴族だろう、そして認識阻害系の魔法が付加させられたマントを着てフードを深くかぶったかなり小柄な者。
さてと、面倒さの度合いはどっちが酷いだろうか?
貴族の方は紹介して来るだけだろうが、こっちのフードの方は一体どんな理由でここにいるのだか想像がつかない………いや、ある程度想像はつく。
おそらく、商会関連か今の時期を考えるに武術大会がらみか………
これは、後者の場合であると相当面倒な事になると予想が出来る。
まあ、自由に動けないと言う理由だけどね。
さて、どうなるかな?
「こんにちは。私に紹介したい人物とは、ここにいるお二人でしょうか?」
分かり切っている事ではあるが、こちらから聞いた方が話は進めやすいだろうと思って聞いた。
「ああ、そうだ。この二人は………私が紹介するよりも自己紹介をした方がいいだろう」
二人の方を見てそう言い。
まずは俺の方から自己紹介をしろと視線を送って来た。
俺はそれに素直にうなずいて自己紹介を始める。
「私の名前は颯 黛、マユズミ商会の会長をしています」
そこまで言ってウェインの方を見て、この二人には俺が魔法具を作っている事を話してもいいのかと疑問を視線で伝える。
その視線に大きくうなずいた。
そこまで自信をもって頷いてきたのでこちらも信頼を見せる為に話す事にする。
「そこでは魔法具の開発を行っています」
俺の発言を聞いて妖森族の男がほぅと興味を示した。
その反応からウェインが俺の情報を自分の判断で話していないと分かる。
無論、その反応は演技である可能性もあるが、それを示す様な物は感知できないので俺の中では本当の事としておく。
俺は短いがそれで自己紹介をやめる。
実際の所俺が、自分の事を話す時これくらいしか言う事が無い、商会を作る前は探索者ですとしか言えないだろう。
俺の人に言える肩書はこんなものだ。
まあ、〈魔神継承者〉とか【魔王】ですとかは言えるかもしれないが、それを言ったら将来的に危険があるとかで討伐隊が組織さえてしまうな。
俺はレティシアに視線を向けて自己紹介をするように促す。
「私の名前はレティシア・ノワール。マユズミ商会に所属しています。颯様の秘書兼護衛をしています」
レティシアはよどみなく名前と組織における役職を言った。
その次はフードをかぶった小さい者が動いた。
「私の名前はギョクと言います。薬剤研究局副局長を務めています………」
高めの声、少年とも少女とも取れるトーンで自分の所属部署を言った時点で言葉を切った。
ここから先の事を言うべきか如何かを迷っている様子だ。
俺の勝手な予想ではあるが、多分あのフードの中身だろう。
あのマントはなりふり敵わず魔力を完全に遮断し、さらに光学的にも物理的にも覆っているので幻影に耐性があるとかないとかの関係なくフードの中を見る事が出来ない様になっている。
遮断率が高すぎ魔力の空白が出来てしまっている為、隠形系の物としては使えないが中を見せないと言う用途に限ればこれ以上に確実な物は無い。
まあ、中を確認できない手は無い事は無いが無理にする必要は無いとい思っている。
どうせなら自分から見せて欲しい。
ギョクは決心を決めた様でフードを脱いだ。
その中から出て来たものは、長い耳につぶらな瞳、突き出した呼吸をするたびに動いている鼻、頬から生えているピンとした髭、やわらかそうな茶色の毛が顔全体を覆っている。
…………遠まわしに言わないと完全なウサギですねこれは、パーフェクトな二足歩行のウサギですね不思議の国のアイリスですねこれは。
うん、意味分からんな、さっきのは。
さてと、ここで亜人と言う言葉を詳しく説明しよう。
亜人とは人間側からする自分たち以外の人型の総称である。
獣の因子を持っている亜人の中で一部に獣の特徴が出ている者の事は人獣種、見た目は完全に動物に近い者は獣原種。
前者は元は人間で〈獣化〉等のスキルと手に入れ受け継いできた人間たちが起源とされていて、後者は魔物が〈人化〉のスキルを手に入れた魔物が起源であると言われている。
起源が違うので差別の理由も実を言うと違う。
人獣種は優良な者への嫉妬と恐怖、獣原種は起源による単純な嫌悪感からだ。
それと付け加えると魔族は生まれた時から他の能力値よりも魔力の能力値が、一回り高い種の総称であり広い意味で言うと妖森族もその意味で言うと魔族であるのだが、大きな戦争と言うレベルで人間と戦った事が無いので魔族のくくりには行っていない事が多い。
まあ、一部の人間が勝手に希少、高位と呼んでいて魔力の高い人獣、獣原種にもいる事はいるので、いかにこのくくり方は人間によって適当に作られている事が分かる。
さて、これは如何言う反応を期待されているのだろうか?
別に特に反応も指摘せずに流すと言うのも問題は無いだろう。
だが、ここは多少突拍子の無い事でも言うと言うのも、それを気のしているものに対しては有効だろう。
「ねぇ、君?」
俺は身を乗り出して、少しなれなれしい口調で話し掛ける。
じぃと顔を凝視されてビックっとしている。
「はい、何でしょう……」
恐る恐ると言うのが、ピッタリな口調で返事をしてくる。
「君って男の子?女の子?あ、いや言わなくていいよ……………この耳の位置と髭の長さから………男の子だね!!」
ビシっ、と言う擬音がつくくらいに指をピンと立てて得意げな顔でそう言った。
当然そんな突拍子の無い事を言ったので、四人は唖然として妙な沈黙が室内を支配している。
「あはははっ」
ギョクの隣に座っている妖森族の男性が腹を抱えて大笑いしている。
俺とレティシアは呆気にとられた表情でウェインとギョク、ソルさんはまたかと言う感じの呆れた様な表情をして彼を見ている。
妖森族の男性は息たえだえと言った様子でようやく落ち着き、目元の涙をぬぐって俺の方に手を出して来る。
「ごめんね、ギョク君を見てそんな反応をした者は初めてだったからついね。
面白いね、颯君は正直気に入ったよ。
僕はクリストファー・ソニーエール、この街の副市長で薬剤研究局と錬金技術開発局の局長を兼任している。
よろくしく」
俺とレティシアは聞かされた地位の高さに再び唖然とさせられる。
と言う事は皇国側の貴族筆頭と言う事か…………
しかし、二人も妖森族はともかく獣原種が、街の副局長の立場でいると言う事を見ると本当に差別があるのか疑問に思うな………
まあ、ここが例外なだけか。
相手に感づかれない様に視線を固定しながら考えた。
「よろしくお願いしますクリストファー様」
俺がそう答えて手を握ると。
「僕の事はクリスでいいよ」
笑いながらそう言って来る。
笑みを浮かべている彼は、精悍な顔立ちをしてるのに子供の様に見える。
「分かりましたクリス様」
様を付けている事にまだ不満げであるが、初対面である事と俺も一応爵位を持っていて位置の差がある事から渋々ながら受け入れたと言う印象だ。
「さて、自己紹介も終わった所でそろそろ本題に移っていいだろうか?」
ウェインが頃合いを見払って会話を切った。
「分かったよ。颯君終わったら話いいかい?」
「ええ、大丈夫です」
こたえに満足した様でソファーに座った。
ウェインが本題に入った。
獣耳が付いている亜人は主に狩りをする男性は移動時に木に引っ掛けない様にと女性比較すると短くかつ下の方についています。
と言っても、女性しかいない種族や女性も狩りをする種族もいるので一概には言えませんが大体当てはまります。
ありがとうございました。感想待ってます。評価お願いします。




