094 翌日。
「ふぁ~」
大きなあくびをしながら、目じりに溜まった涙をぬぐう。
火と水の生活級魔法を使って、温水を作って顔を洗い、髪を軽く濡らして、寝癖を整える。
ふぅ、伸ばしたいとは思うのだが、手入れが面倒なんだよな。
毛先をいじりながら、そんな事を思い、身支度を整え朝食をとる。
そして、クロを預けておいた服屋に向かう。おそらく使う事になるであろう、いくつかの魔法を〈思考分割〉の中にストックを作って置く。多分使う事になるだろうからな………
「ナターシャ、クロは……」
昨日と同じ場所に来て、声をかけながら扉を開ける。
中の光景を見た時、二の句をつく事が出来なくなってしまった。
昨日の夜の様な光景が再現されている。
はぁ………こいつは多分こう言う事をしろって、言う事、かなっ。
一個目の、っ、で飛び上がり、二個目の、っ、の部分で重力魔法を使い踵落しを後頭部に落とす。
「へぶしっ」
奇声をあげながら、地面に顔面をぶつける。
「大丈夫かクロ?」
「怖かったです」
「よしよし」
涙からがらと言った様子で、私に飛びついて来る。
「澪ちゃん酷いじゃないか」
地面に顔を直撃した筈なのに、完全に無傷のまま、何だかニコニコしながら話し掛けて来る。
………コイツ、クロが私に対する依存度を上げる為に、こんな事をしているんじゃないだろうか?と言う邪推をさせる程にニコニコしている。
正直、この街に来て、なんだかんだ上手くやれているのは、偽の過去をコイツが広めてくれたからで、何やら妙に他人の世話とかお節介をする事が、好きと言うか………まあ、謎な奴だ。なんでこんなに強いのかも謎だし、本当の所、何故こんな所で被服店をしているのも謎だ。
「はぁ」
つい、ため息が漏れる。
「まあ、いいか。こいつの服は用意できたのか?」
「ええ。ばっちりよ。完璧なコーディネイトが完成したわ!!」
親指を立てて、キリリとした顔をこちらに向けて来る。
「ちょっと、待っててね」
そう言って、店の奥に入って行く。
「そう言えば、朝食はもう食べたのか?」
「あ、はい。食べました」
何かちゃんといいものを食べたのか、はにかみながらそう答えてくる
ふむ、この反応を見る限り、さっきの様なやり取りをしてもいいくらいには、信頼を得ていたのか………まあ、酷い目に合っていた様な奴とは、相当世話をした様な経験がある奴だ、それくらいの事は造作も無いか……
「はい、お待たせ~」
服を何着か持って奥から出て来る。
それをクロが受け取り、更衣室に入って行く。
「いや~、いい仕事したわ」
「………見た所、あれはアイツの体格に一致していたのだが、いったい誰がオーダーメイドしろと言った?あんな金額では、一着分にもならんだろう」
ジト目をしながら言う。
しかも、長く使える様に、ある程度体格に一致する為にの細工が掛かっているし………
「いや~、役得は貰っているし」
「………」
本当にそんなんで、いいのだろうか?て言うか、やっぱりそんな事で、値段設定しているから各方面から睨まれるんじゃないのか………
「あの、着替え終わりました」
………ふむ。戦闘服とは言えこいつの作品だ。迷宮内で使う為から、全体的に黒で統一しているが、所々に同色の魔糸で刺繍がされていて、認識阻害系の魔法が発動するようになっている。全体的に拘束衣を思わせるデザインが、幼い肢体を強調して背徳的な印象を与える。その拘束衣の様な物に大量にナイフや短刀をさしているから、機能性的にも文句が言えない。見たところまださせる場所が多いから、後で買いに行った方がいいのだろうか?
………悪くは無いが、これは別の理由で襲われる可能性を作るのだろうか?
「ふっ、いい仕事したわ」
「はぁ」
それは、反論を許さない、何とも我が仕事に一片の悔いなし、とも言う様な雰囲気で言って来る。
「クロ行くぞ」
「はい」
機嫌が良さげだな。
「また、来るぞ」
「またのご来店を待ちしてます~」
その後、二人でギルドに向かい、パーティー登録をした。
このパーティー登録は、迷宮内において、これはステータスカードに記録されて迷宮内で、移動用の装置を動かす時に面倒な事が無くなる。まあ、こう言った事をステータスカードを通してするとギルドのデータベース内に記録されて、指定依頼等をするときに今までどんなものと組んでそれがどれくらい続いたかが、ギルド員の証言と合わせれて判断される事があるらしい、まあ、そんな依頼を受ける気も指定される様な覚えも無いから、大丈夫だと思うが。
よし、昨日の連中もこっちの事を見て来ている。
魔法的な素養のあるものなら、こいつの服にかけられている魔法的な細工の事を効果は分からなくとも、何かがあると直感できるだろう。
まあ、私はすべての武器、防具を魔法的なもので代用するから、手ぶらに見えるから、こいつに持たせている物は私の装備と比較して、妙にちぐはぐな感じの印象を受けるだろう。
その後私達は迷宮に向かう。
そいつらが付いて来ている事は、私もクロも分かっていた。かなりザルな尾行であったから、ある程度力を見せて裏にいる連中の所に案内して貰うつもりだ。
迷宮内で私は、こいつとのコンビネーションが異常な程にマッチしている事を認識した。
一個のパーティーが相手にする分をクロが引き連れ、簡易的な【黒糸陣】を作った場所に誘導する。
したら、服にかけられている認識阻害の魔法を使って消える。
魔物達が、完全に硬直している時に、【黒糸】が瞬時に首を両断する。
私達を見張っている連中が、かなりショッキングな殺し方を見て、ゾッとしている様な雰囲気を出していた。
これなら、確実に自分達では如何にか出来ないと思って、報告する方にするだろう。
なお、今日の報酬は迷宮内にいた時間は、大体半日で昨日のトレインで殺した分くらいは、殺した。
受付嬢の顔はこの時も相当引き攣っていた。
「クロ、私は今から用事があるから、どこかで食事と欲しい物でも買って来ると良い」
報酬の内から、金貨を数枚渡す。こんなに渡してしまうと危険かもしれないが、迷宮内で見たコイツの逃げ足なら、都市内と言う事であまり派手なことが出来ないと言う状態の中では、よっぽどの事でもない限り安心できる。
「ナターシャの奴にお前の好みに合っている様な店の事を聞いておいた、ここに行くと良い。後で合流する」
そこは、こいつと同じ猫人系の亜人が営業しているから、差別的な思想を持っている様な奴はそこにいないだろうし、亜人たちの客が殆どだ襲撃にあったとしてもその顧客たちが、その手の連中なら追い払ってくれるだろう。そこの店長には迷惑をかけるかも知らないが、ナターシャの方から話が言っているはずだから、まあ、そこまで気にする事は無いと思う……多分。
その後は、私達を監視していた者達を尾行して裏にいるメッセンジャーを発見した。
更にそれを追いかけた。
ふむ、徹底しているな。使っている末端たちには、一切と言うレベルで正体を悟らせようとしない、まあ、その所為で下にいる連中のレベルは低くなっていくと言う傾向があって、やろうと思えば簡単に如何にかすることが出来るんだよね。
とは言っている物も、一人一人はC級でパーティー単位ならB-級に位置する者達であるのだから、低いと言う訳では無いのだが………
アジトは発見が出来た。
直接闘えば分が悪いと言うレベルの奴が、二人確認出来ただけいいか。
そいつらの倒し方を考えながら、まだ猶予がありそう、と言うか確実に消すための用意をしている様なので今日はまだ何もしなくてもいいと判断する。
アジト周辺にマーカーを設置。ばれない様に魔石が使われていて、魔力がそれなりあると思われる様な物に設置するのでかなり性質が悪いだろう。
おそらく、ここの近くでわざと見つけられてそこに誘導して、【黒糸】を使った罠でケリをつけるつもりなのだろう。
この手の主人公以外の召喚者たちの話は、主人公視点ではなかなか書けない様な、世界観の為に使用しています。
澪の話は次話で多分終わる予定ですが終わったら、紫苑、エル視点の方の話も予定していたのですが、主人公の方に戻すか、予定通りにするか、どっちがいいでしょうか?感想の方で意見を聞きたいです。




