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P.K.  作者: 乙丑
1STGAME
5/40

Ⅳ:チェンジ・オブ・ペース

チェンジ・オブ・ペース:ドリブル時のフェイントのひとつ。

チェンジ・オブ・ペースはいたってシンプル、かつ効果的である。が、非常に高い技術とセンスが問われる。

リズム、コース、スピード、この3つの変化させて行うドリブル。

絶妙なステップでリズムを変え、細やかなボールタッチでコースを変え、低速のドリブルで相手選手との間合いをとり、抜くときは一気に「ズバッ!」と、トップスピードへもっていき、置き去りにしてしまう。


ディフェンダーはタイミングを狂わされ反応も遅れ、ボールに触れられず、おいてかれてしまう。


「よしっ! みんな集合っ!」

 和成は、コートの中で自主練をしている子供たちに、集合を促した。

 子供たちは手を止め、和成と朋奏の前に、横一列で並んだ。

「今日は練習の前に、ポジションの役割と重要さを説明しようと思う」

「ポジション?」

「サッカーには大きく分けてGKやFW、DF、MFの4つがあって、GKは特に説明しなくてもいいから省くけど、まずDFはその名の通り、ゴールを防いだり、GKのサポートをするポジション。FWはゴールを決める役割を持ってる」

 和成がそう説明していくと、「おにいちゃん、MFは?」

 椿がそう尋ねると、和成はゴホンと咳をする。

「このMFってのは、中心的な役割を持っていて、司令塔とともいわれている。それにDFからFWへパスするさいの中盤の役目もあるしね」

 和成は梓を見遣った。「俺はMFに梓ちゃんを推薦したい」

 そう言われ、梓は自分を指差し、キョトンとした表情を浮べた。

「昨日の練習を見ていて思ったんだ。梓ちゃんはうまくみんなを動かしてる」

「そ、そうですか?」

 梓は照れ臭そうに聞き返す。

「それに出来れば2パターンでやりたいと思ってる」

「――2パターン?」

 武が首を傾げる。

「この中で戦力になるのは、まだ梓ちゃんと直之くんしかいない」

 そう言われ、子供たちは顔を俯かせる。

「だからこその2パターンなんだ。ひとつは梓ちゃんを中心にしたパターン。もうひとつは優ちゃんをDFにして、直之くんをFWにしたパターン」

 和成はそう言いながら、ノートを広げた。

「それじゃぁ、練習を始めようか? タッチライン沿いに往復十周」

 このコートのタッチラインの長さは七十八メートルであるため、軽く計算して七八〇メートルになる。

「あまり無理はしないように、一番大切なのは自分のベースを覚えること」

「――はいっ!」

 子供たちは声を出し、タッチライン沿いに走り出した。

 三十分後、梓と直之以外の子供たちは、まだ基礎体力が出来ていないと云うこともあってか、ゼイゼイと息を荒くさせている。

「それじゃぁ、少し休憩した後、ドリブルの練習。ただし、個人の練習ではなく、総合の練習で……」

「総合練習って何するの……じゃなかった、何をするんですか?」

「三十秒間のあいだに、相手からボールを奪われなければいい。ただそれだけだよ。それじゃぁ練習始め」

 そう告げると、子供たちはそれぞれ二人一組になって、練習を始めた。

「よし、今度は二人、三人と続けていこう。取られても時間内に取り返すことも考えて」

 そう説明している間、和成は優を見ていた。

「いくぞぉっ! 優ぅっ!」

 陽介がそう吼えると、「ひゃうっ!」

 と、優は縮こまってしまう。そのせいでほとんど抜かれてしまっていた。

『やっぱりあれをどうにかしないとなぁ、DFとGKどころか、どのポジションにも入れられない』

 和成はそう考えながらも、ある考えが既に浮かび上がっていた。

『優ちゃんはボールや相手が体に当たるっていう恐怖心がある。それを克服させるいい方法は……っと』

 そう考えると、和成は笛をピッと吹いた。

「みんな集合。それじゃぁ、今から言う二チームに分かれて。赤は梓、悟、明日香、恭平、陽介。白は優、椿、智也、直之、武」

 そう呼ばれ、子供たちはそれぞれに分かれる。

「このチームでミニゲームをやるんですか?」

「いや、今からみんなには内野三人、外野二人のドッジボールをしてもらう」

 そう言われ、子供たちは驚きを隠せなかった。

「ただし、ボールを取る時は胸でトラップして、足で受け止める。味方へのパスはインサイド、足の土踏まずのところで蹴る。相手に投げる時はスローインの形で胸を狙うんだ。ボールが取れなかったらアウト。()けるのはなし、その場合は、取りに行かなかったとみなして、近くにいた人がアウトになる」

 そうルールを説明していき、言い終えた後、「梓ちゃん、ちょっと来て」

 呼ばれた梓は、和成のところへと歩み寄った。

「なんですか?」

「ボールを受け取ったら、全部優ちゃんに投げるんだ」

 そう耳打ちされ、梓は「へっ?」と、聞き返した。

「この練習。ボールがきた時の対処と、ボールを取るという執着心を強くするためが主なんだけど、優ちゃんのボールに対する恐怖心を和らげるためでもあるんだ」

「で、でも、そんなことしたら余計に」

「優ちゃんのあの高身長は、パスを出す時に高くボールを蹴られるし、相手よりも高い場所でボールを受け止めたり、ヘディングで次につなげられる事も出来る。なにより、相手にプレッシャーを与えられるしね。プロの選手でも、高身長の選手がDFやGKをしているのがほとんどなんだ」

 和成がそう説明していくと、「たしかに相手でやったら、ちょっとやりづらいかも――。わかりました、できるだけ優にボールを投げてみます」

 梓はそう云うと、コートの中へと入っていった。

「でも、境界線がわからないんだけど?」

 朋奏にそう言われ、「それじゃ、コートの中心にある、ハーフウェーラインを基準に、十メートルくらいのところを内野、それよりうしろを外野にする。で、いいかな?」

 そう訊かれ、子供たちは「はい」と頷いた。


 赤は内野が梓、恭平、陽介。外野が明日香、悟。

 白は椿、智也、直之。外野が優、武となっている。

 予想していたとはいえ、優が外野になっているのでは、この練習に意味がない。

 中心には恭平と直之がおり、互いを見ている。

「みんな。ドッジボールのルールは教えなくてもいいかな? 外野の子が内野をアウトに出来れば、中に入ることが出来るから。それじゃぁ、ゲーム開始」

 そう云うと、和成は笛を吹き。ボールをリフティングした後、頭上高く蹴り上げた。

 恭平と直之はジャンプし、空中で接触する。

 最初にボールを取ったのは――恭平だった。

「梓、パス」

 恭平は着地すると、インサイドでボールを蹴った。

 梓はボールを受け取り、和成に言われていた通り、優に投げようと思ったのだが、ルール上、敵の外野にボールを投げることは出来ない。

「――っ!」

 投げた先には智也がおり、軽く胸でトラップすると、ボールを足で止めた。

 そして同じくスローインの形で、陽介へと投げる。

 陽介はトラップすると、足で止め、同じように、敵内野にスローインの要領でボールを投げていく。

 そんなのが二十分ほど続いていくと、ほとんどの子供たちは胸でボールを受け取り、パスを渡していく中、疲れを見せ始めていた。

 恭平が投げたボールを智也が追い付けず、外野にいる明日香が投げたボールを椿が追い付けない。

 明日香は敵内野をアウトにしたため、自陣の内野へと入る。

「みんな大丈夫?」

 そう声をかけると、「ドッジボールって、ボールを取ってから投げるけど、これって胸でトラップしてから足で止めるから、動作にもたつくね」

 梓はそう云うと、チラリと和成を見た。

『もしかして、これって持久力とボールコントロールをつけるための練習?』

 そう考えると、ボールは明日香の足元にあった。

 ――だが、和成は時計を見遣ると、終了の笛を吹いた。

 その表情は少しばかり曇っている。

 全員がその場にへたり込み、肩で息をしていた。

「みんなおつかれ」

 そう言いながら、朋奏はクーラーボックスからスポーツドリンクを取り出し、子供たちに手渡していく。

「みんなどうだった?」

 和成が尋ねると、ほとんどの子供が「疲れた」と答えた。

「サッカーはチーム戦だけど、だからといって縦横無尽に動けなければ、味方がどこにボールを送ればいいかわからなくなるし、相手を翻弄できない。それじゃぁ今日の練習はこれでおしまい。ちゃんとクールダウンしてから帰ること」

 そう言われ、子供たちはフラフラになりながらも立ち上がると、「ありがとうございました」

 深々と頭を下げた。



 あれ?と、まといは首を傾げた。

 和成の後を追ってはいたのだが、見失ってしまったのだ。

「ああ、どこいったんだろ?」

 まといは愚痴を零した。ふと西の方角を見ると、日が沈みかけていた。そろそろ帰らなければいけない時間である。

「また、おばさんの家にいたって嘘吐くか」

 そう呟くと、まといは家路を歩き始めた。

 その道中のことである。

「瞬発力をつけるために、あ、それだったら椿ちゃんが好きそうだな。今日の練習だって、まずはボールに慣れてもらうためだったけど、優ちゃんはもう少し時間がかかりそうだ」

 ブツブツと呟きながら、和成はノートを見ていた。

 今日の練習でわかった子供たちの癖が書かれている。

「すごいねそれ。この前からつけてるでしょ?」

 隣に並んで歩いている朋奏が尋ねる。

「ああ。俺サッカー部やってたんだけど、ずっとペンチですら出してもらえなくてさ、ずっと味方や相手の選手の癖を見るのが習慣になってたんだ。それが俺の悪癖になっちゃって、今日だって子供たちのいいところや直さなきゃいけないこととか書いてた」

「ありがとうね。真剣にあの子たちのこと見てくれて」

 朋奏が小さく頭を下げた。

「あはは。あの子たちが必死にやるから、俺もつい苛めたくなるっていうか……。でも、一番の課題は優ちゃんのボールや相手に対する恐怖心を克服させることだな――」

 二人が楽しそうに話しているのを、まといは遠くから眺める。

「何よ……あれ」

 まといは口を尖らせ、『本当に彼女いたんだ――つまらない』

 と、気付かれないように踵を返した。



『あの事件が起きたのは、ちょうど八年前だったか……』

 能義はそう考えながら、公園のペンチに座っていた。

 八年前、癲癇てんかん(脳細胞のネットワークに起きる異常な神経活動のため、発作をきたす疾患または症状)持ちの運転手が、その障害を申告せず、スクールバスの運転をしていた。

 その時、能義の子供である直之が、友達と一緒にそのバスに乗っていた。

 バスは突然、この公園の竹林に突っ込んだ。

 発見された場所の竹は倒れ、散乱していた。

 バスの中ではぶつかった事によってドアが壊れ、サウナ状態であったことと、煙が充満してしまい一酸化中毒によって、中にいた運転手と子供たちは死滅した。

 能義がここに石積みの山を作ったのも、言うなれば死んだ我が息子を供養するためであった。

 しかし、それからというもの、この公園で少女に対する強姦殺人が起きている。

 これは誰かが意図的にやってるんじゃないかと、能義は考えていた。

 警察がろくすっぽ調べようとしないのも、そこにあるのでは、だが『畑千尋』が殺された事件では、一度だけ捜査本部が立てられた。

 だからこそ、その事件は今までとは違うと思ったのだ。

 少し離れた場所で子供たちの声が聞こえた。

『こんな時間に? すこし叱っておくか』

 能義は立ち上がると、声がする竹林の奥へと入っていった。

「いくよ。椿」

 明日香が声をかける。「ばっちこーい!」

 と、椿は大きく手を上げ、明日香へと駆けていく。

「よ、ほっと」

 明日香はボールをうまくコントロールし、椿を避ける。

「てやーっ!」

 椿はうしろからボールを奪うと、「椿、ファウル」

 と、直之が笛を鳴らした。

「えーっ!」

 と、椿は口を尖らせながら訴える。

「相手のうしろから取ったら反則でしょ?」

 梓がそう云うと、「でも、わたしには当たってないから、ファウルにはならないんじゃない?」

 明日香がそう云うと、「そうなのかなぁ?」

 梓はチラリと直之を見た。

「ごめん。よく見えなかった」

 直之は頭を下げる。

「たしかにもう暗くなったね。ここ外灯ないから全然見えなくなってきてる」

 優がそう云うと、「そろそろみんな帰ろうぜ」

 武が言葉を発した時だった。

 ガサッと物音が聞こえ、子供たちはそちらに目をやった。

「君たち、こんなところで何を……」

 姿を現した能義が険しい形相を浮べるが、「――あれ? 子供は? さっきまで声や気配がしていたんだがなぁ」

 能義は首を傾げ、携帯のカメラ機能に備わっているフラッシュを焚いた状態で、コートの周りを照らし見回したが、子供たちは一人もいなかった。


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