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P.K.  作者: 乙丑
7THGAME
40/40

エピローグ・プレーメーカー

プレーメーカー:ゲームを組み立てる選手。ゲームメーカとも言う。

中盤でのパス回しをする中心となる選手で司令塔の役目を果たす。


「おい鎌田っ!」

 喧騒とした都会のオフィスの一角にある部屋の中で、踏ん反りがえった男性の声が響き渡る。「今日の会議の資料まとめたのか?」

「あ、はい課長」

 スーツ姿の若い男性が机の上に置いてある書類をまとめると、課長の前へと歩み寄った。

「これが今日の会議で使う資料です」

「よし、ちゃんとできてきてるな」

 課長が書類を確認していると、お昼を報せるチャイムが鳴った。

「お、昼か……どうだ鎌田、昼飯一緒に」

「あ、すみません。俺昼飯食べたらちょっとそこら辺を走ろうかなと思って」

 和成はそう言うと、部署を後にした。


「まったく、面倒だからって部下をこき使うなよ」

 和成はそう言いながら、パンをひとくち口に咥える。

「あ、おにいちゃん」

 うしろから声が聞こえ、和成はそちらに振り返った。

「おう、梨桜と裕香か」

「なんで私たちだって気づいたの?」

 梨桜と裕香はサングラスと帽子を被っている。そのため、すぐばれたのが信じられないでいた。

「いや、知り合いで俺のことおにいちゃんっていうのは限られてるからな。でも日本代表の合宿はどうしたんだ?」

「まだ集合まで日にちはあるよ。それにさ、ジッとできないんだよね」

 梨桜と和成が会話をしている中、裕香は視線を感じた。

「お、おい。あれって日本代表の市澤梨桜と濱崎裕香じゃないか?」

 周りの人間たちが、梨桜と裕香に注目する。

「二人とも、ここから離れよう」

 裕香にそう言われ、和成と梨桜は逃げるようにその場からあとにした。


 あの日の出来事から六年の歳月が流れた。

 梓たち、ポニーテールFCの子どもたちと別れてから、和成の周辺ではめまぐるしいほど劇的に変化した。

 まず最初に、季久利聡一が精神崩壊したことで出版会社は崩落し、それに引き摺られるかのように河山センチュリーズは解散となった。

 その弟である季久利翔太が自殺したことも話題になったが、もっと話題になったのは当時校長だった野江島にたいする不祥事である。

 彼もまた季久利によって脅されていたのだ。

 璃庵由学園中等部サッカー部の再建も考えられたが、やはり一度起こした不祥事も相重なり、和成が現役の頃には叶わなかったが、和成が卒業した後、二年生となった大間たち元河山センチュリーズの面々が中心となって再建を果たした。


 すっかり大人になった和成が勤めている会社から1キロほど離れた場所に、小さなグラウンドがある。

「あ、おいちゃんだ」

 そのグラウンドでボールを蹴っていた子供が和成を見つけると、声を大きく張り上げた。

「みんな、今日はすごい人が来てくれたぞ」

「誰……あっ!」

 子供たちの中で一番小さな子が喜びをあらわにした。

「すごい。なでしこジャパンの市澤梨桜選手と濱崎裕香選手だ」

 先ほどのガヤといい、子供たちのはしゃぎぶりから想像できるとおり、梨桜と裕香はなでしこジャパンにおいて、1、2を争うほどの実力に成長していた。

「すげぇ、おっさんもしかしてすごい人なのか?」

「ええ。和成おにいちゃんはね、私たちにサッカーを教えてくれたすごい人なんだよ」

 梨桜は否定するわけでもなく素直に答えた。今でもそう思っているのだから仕方がない。

「でもさぁ、おっさんが教えるのって遊びなんだよなぁ。本当にうまくなっているのかもわからないし」

「でもすごく楽しいよ。今日はどんなこと教えてくれるんだろうって楽しみできてるもの」

「私はキャッチングができるようになってきたし、みんなの迷惑になりたくないよ」

 子供たちの会話を聞きながら、梨桜と裕香は目の前の光景に見覚えがあった。懐かしい風景が、二人の脳裏に流れる。

「よしっ! 今日は日本代表の二人と一緒に、ドリブルをしながらの鬼ごっこにするか」

 和成がそう言うと、子供たちは「はいっ!」と答えた。

「みんな準備運動は終わったの?」

「はい。集合したあと準備運動したり個人練習してました」

「それじゃぁ始めようか。……おにいちゃん、わたしと梨桜は何回飛ぶの?」

「梨桜と裕香はその場で腕立て10回。それくらい楽勝だろ?」

 そう言われ、梨桜と裕香はうなずいた。


「うわっ、あと少しだったのに」

「やった。うまく逃げれた」

「ちょっと待って」

「待ってって言われて待つやつがいるのか?」

 子供たちの声がコートの中で響き渡る。

「ほら、相手の動きをよく見て。ここだって思ったときは積極的にボールを奪いに来るようにね」

 梨桜が優しく指導していく中、「ダメだよ。ボールに気を取られたらすぐに取られちゃうから」

 対照的に裕香は厳しく指摘する。

「はいっ!」

 子供たちは返事を返していく。

「ねぇ、おにいちゃん」

 対峙していた子供と離れるタイミングを見計らって、梨桜は和成に近づいた。

「ん? どうかしたのか?」

「みんな、楽しそうだね」

 梨桜はそう言いながら、子供たちを見やった。練習が厳しく、狭きメンバー争いをしている今の自分と裕香も、子供たちと同じ時はただ夢中になってボールを追いかけていたんだなと。

「まだみんなそんなにうまいってわけじゃないんだけどな」

「うん。でものびしろがある子だっていたし、将来がすごく楽しみ」

 梨桜はそう言いながら、梓たちのことを思い出していた。

「結局、おにいちゃんはサッカーやめちゃったんだよね」

 梨桜がそう言うと、和成は怪訝な表情を浮かべた。

「何言ってんだ? 俺からサッカー取ったら何が残るんだよ?」

「でも、結局中学の時はサッカー部の再建はなかったし、高校と大学もサッカー部に入らなかったじゃない」

「ああ、所属していなかっただけで授業の時やたまに助っ人みたいな感じではやってたぞ。それに、今でも走り込みやボールを扱ってないと落ち着かないんだよ。どこまでいってもサッカー馬鹿だってことだ」

 和成は目の前で一生懸命に練習している子供たちを見やった。

「それにな、今あの子たちに教えていることだって将来のためなんだぞ」

「――将来のため?」

 梨桜が首をかしげると、和成は懐から財布を取り出し、その中からカードを1枚取り出す。

「ほら」

「公認C級ライセンス? それじゃぁ公式にサッカーの指導ができるって事?」

「ああ。梓やましろたちが俺のことを信じて練習してるのを見てたらさ、こういうサッカー人生もありなんじゃないかなって思ったんだよ。ただ時間が作れない時もあるし、まだまだ半人前だよ」

 和成は苦笑いを浮かべた。「それじゃぁ、将来的にはS級も取るって事?」

 梨桜は期待に満ちた表情を浮かべる。

「いや、さすがにプロの指導は無理だろ」

 指導者資格はD・C・B・A・Sと大きく分けて五段階ある。

 和成がもっているC級ライセンスは十二歳までの指導ができる。中でもS級ライセンスはプロ選手指導のためのライセンスであり、A級ライセンスをもった人の中から選ばれた人しか持つことができない。

「そっか」

 梨桜はしょんぼりとした表情で項垂れた。

「おっさん、次何するんだ?」

 子供たちが目を爛々と輝かせる。次は何をるのか、期待に満ちた表情だ。

「そうだな、それじゃぁ日本代表の二人を交えて、みんなでパスの練習をするか。そろそろロングパスの正確さもしっかりとしていかないといけないしな」

「はいっ!」

 子供たちは返事を返す。

「ねぇ、みんな……サッカー楽しい?」

 裕香がそうたずねると、子供たちは太陽のように明るく、屈託のない笑顔で答えた。

「うん。練習はきつくてつらいけど、でもできなかったことができるとすごく嬉しいし、楽しいよ」

 子供たちの元気な声が、今日も青空の下で響きわたった。

 それを見守るように、タンポポの花が土手に咲いていた。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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