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P.K.  作者: 乙丑
6THGAME
33/40

Ⅵ-Ⅳ・ディレイ

ディフェンス方法のひとつ。

積極的にボールを奪うのではなく、相手の攻撃を遅らせること。

ディレイすることにより、味方の守備体制を整える時間ができる。

ボールをキープしている相手選手をフリーにしないで、パスコースを消しながらドリブルで抜かれないように間合いを取り、攻撃を仕掛けられないようにする。


「それにしても、試合が7回しかないからって、ちょっとハードだよね?」

 椿が不貞腐れた表情で言った。

 決勝戦の開始時間が夕方17時からとアナウンスが入ったからである。

 大会が始まったのは10時。それから開会式が行われ、第一試合始まったのは10時30分。

 試合は15分ハーフのため、準備やハーフタイム、ロスタイムなどを考慮に入れると、ひと試合だいたい40分前後となる。

 その後10分間の軽いフィールド整備が行われるが、その間にもうひとつあるサッカーコートを使って試合を行う。

 第一試合を終えたポニーテールFCの子供たちが、リーズFCの試合を見れたのはそれが理由だ。

 試合を終えたポニーテールFCの子供たちは準決勝第二試合、河山センチュリーズとフォレスターSCの試合を見ていた。

「椿、まだ後半出さなかったの気にしてるのか?」

 椿のうしろで和成が苦笑いを浮かべながらたずねる。「椅子(、、)は黙っててっ!」

 キッと椿が和成を睨みつけた。「はい……」

 和成は困り果てた表情で、隣に座っている明日香を見遣った。

「約束を破ったからですよ」

 明日香やほかの子供たちも笑みを浮かべている。

「まぁ、重たくないからいいんだけどな」

 そう言いながら、和成は目の前の試合を見ていた。


「今のところ、滞りなく進んでいるな」

 能義は、ピッチ上の子供たちではなく、審判に目をやっていた。

 四回戦の時、不審な動きをしているからである。

 それと、準決勝第一試合における梓の二度にわたるノーゴールの件。

『あのプレイはどこも悪いところはなかった。リーズFCの貴音さんが転倒した場面だって、彼女が体勢を崩してのこと。シュートも問題なかったはず』

「あ、はい。わかりました」

 能義は自分の隣で電話をしていた冴島を見すえる。「誰からだ?」

「堀川さんからです。能義さんに変わってほしいとの事です」

 そう言うと、冴島は自分の携帯を能義にわたした。

「もしもし」

「ああ、試合は今どうなってる?」

「今準決勝第二試合。前半10分が過ぎたくらいですね。まだどちらも点を入れてませんけど」

「なんか気になるのか?」

 能義の口調が気になり、堀川はたずねた。「点を取りに行ってないんですよ」

「相手が強いからじゃないか?」

「いやそれならまだわかるんですけど、河山センチュリーズの子どもたちが妙にパスワークが多いんですよね。攻めるためのってならわかりますけど」

 能義の言うとおり、河山センチュリーズの子供たちは、ペナルティーエリアにボールを上げたと思いきや、シュートをせずうしろに下げている。

 たまにシュートをするが、ゴールポストにあたり、相手のGKのセンタリングすると、ペナルティーエリアに残っていた坂本が軽々とクリアしている。

「何かを狙ってるんでしょうかね?」

「……いや、半分しか使ってないな」

 能義はその違和感に気付き始める。

 センタリングは、ボールをセンターラインに上げることをさす。

 それをクリアし上がるということは、実質コートの半分しか使っていないということになる。

 河山センチュリーズのフォーメーションは2-3-2の基本形。

 しかし実際動いているのは、FWの大間と河崎、MFの坂本だけで、ほかの四人はあまり動こうとはしていなかった。「残りはあと3分か」

 いくらなんでも、そろそろ点を取るだろうと能義は思いながら、ボールを目で追いかける。

 大間が相手DFの前でボールを受け取り、シザーズを仕掛ける。

 そして抜くや、シュートを撃った。

 吸い込まれるようにボールはゴールへと入っていく。

 審判の笛が高々と鳴った。

「……今のは文句がいえんな」

「前の試合はなんだったんでしょうかね?」

 冴島が怪訝な表情で言う。「さぁな、しかし腑に落ちん」

 能義は頭をかく。

『なんだ? この嫌な感じは……』

「でもすごいですよね。まるでセンタリングするってことがわかってるみたいに、クリアしてる」

 冴島は、何気なく言っただけだった。

『わかってる? いや、ちょっと待て、攻められている場合、GKがセンタリングすることはわかっているはずだ。それなのにフォレスターSCの中で上がっている選手が一人もいなかった――っ!』

 能義はベンチから立ち上がった。「そういうことか?」

「なにかわかったんですか?」

「フォレスターSCの子供は、守るだけで攻めていないんだ。GKがボールを蹴る時、FWやMFの何人かは瞬時に上がるのが筋ってものだが、この試合一度も上がっていない」

 ボールはフォレスターSCのFWがキープしており、それを上げようと前を走っているFWにパスを送った。

 その軌道に、河山センチュリーズの野崎が走り込み、クリアする。

 ドリブルをした後、マークされている大間へとパスを送る。

 大間は自分をマークしている岩井から離れると、ボールをカットし、上がった。

 そして、ペナルティーエリアに行くと、シュートを撃つ。

 審判の笛が高々と鳴りひびく。

 ゲーム再開から少しして、前半終了のホイッスルが鳴った。


「前半終了ですか。さっきみたいに不審なファウルがあったわけでも、不公平な判断もないですね」

「ああ。このまま何事もなく終わればいいんだが――」

 能義の携帯が鳴る。着信を見ると芝川からであった。

「あ、先輩。ちょっといいですか?」

「なんかあったのか?」

「実は季久利先生のことなんですけど、同級生から聞くと初等部から去年中等部へ異動になってたんですよ。なんでも弟がそっちに通っているみたいで」

「それは別に可笑しくはないだろ? まぁほかの学校に行くんなら話は別だがな」

「ですけど、璃庵由学園は初等部と中等部が別の場所にあるんですけど、そもそもが別の学校だったのを合併してるんです」

「つまり、形式上小学校から大学までのエスカレート式だが扱いが違うってことか」

「それともうひとつ、これは昔から言われていた噂なんですけど、璃庵由学園創立の時、町長と政治家が絡んでいたって話も……」

『絡んでいた?』

「まぁ正確に言うと、学校創立の際に準備とかで金が必要になるから、その支援でってことなんでしょうけどね」

「学校自体はすでにあったんだろ? そうなると整備と備品に対する支援金ってことか?」

 能義は少しばかり考える。

「ちょっと待て、創立の時なら話はまだつながるが、芝川お前が妃春香を殺したころ、学校に行ってた時は既に合併していたのか?」

「え、ええ。確か創立してから十年くらいは経ってましたね」

 ――二十二年前か。

 能義は、その時何かあったのかを思い出す。「――婦女暴行事件」

 そう呟くと、

「芝川、今から急いで資料室に行って、二十二年前に起きた『邂馬町(おうまがちょう)婦女暴行殺人』の捜査資料を調べて来い」

 怒鳴り散らすように芝川に命ずる。

「えっと? なんですかそれ?」

「当時、創立して間もない璃庵由学園に通っていた女子中学生が、中年男性の執拗なストーカー被害に遭っている。彼女は被害届を出しているんだが、警察はそれを受理していない」

「ちょ、ちょっとそれはまずいんじゃ? たしかストーカー罪の可能性があるって」

「当時はまだストーカーなんて言葉が世間一般的に広まっていなかったんだよ。ただの行き過ぎた愛情表現や、悪戯ってことにされて、直接的な被害がなかったから軽く見ていたんだ。被害届を出していた女子中学生が……」

 能義は言葉を止めた。

『殺されたのは、あの噴水がある公園のはずれ……、墓地があった場所』

 ふと気が付くと、電話越しからゴソゴソと物音が聞こえ出す。

「先輩、ありました」

「二十二年前の事件なのに、よく残ってたな?」

「いや、データベースに入ってましたよ」

 そこは現代社会だなと、能義は苦笑いを浮かべる。

「えっと、うわ……ひどいですねこれは。被害者である『南葉萌花(なんばほのか)』は、学校帰りうしろから不審な男からつけられたり、家にいたずら電話をされてますね。あまりにひどいので警察に被害届を出してますけど、警察はそれを受理していない。それからストーカーをしていた男の特徴も言っていたようです」

「俺が聞いた話だと、四十代前後の中年ってことしか知らんな」

「データベースにもそのようにしか。でも、ちょっとおかしくないですか? 被害届が受理されなかったのも気になりますけど、そもそもどうしてデータベースに書いてあるんでしょうか?」

「そりゃぁお前、殺人事件として処理されてるからだろ?」

「いや、それがですね? 彼女が殺された場所である墓地は、そんなに人目がつく場所じゃないんですよ」

「まぁ、坊さんじゃない以上、墓地なんて墓参り以外行かんわな」

「ええ。しかも殺されたのは一月の寒い日。お彼岸でもないのに行くなんて考えられませんよね?」

「つまり、殺された南葉萌花は加害者と面識があったということか?」

「ストーカー被害は大体そんなんですけどね。ほとんどがちょっとした親切心から芽生えてしまった歪んだ恋や、一方的な片思いによる犯行ですし」

「その加害者に対してはわからんのか?」

「わかりませんね、先程も言ったとおり、四十代前後の男性としか」

 芝川と話をしながら、能義は怪訝な表情を浮かべる。

 ――なんだ、なにかが引っかかる。彼女は加害者に対して警察に伝えているはずだ。それがどうして『四十代前後の男性』なんて曖昧な報告しかないんだ?

 考えられるとしたら、当時の事件捜査に対して、加害者の存在を『なかった』ことにしたということ。

「でも、この事件がどうかしたんですか?」

「んっ? いやちょっと思い出しただけだよ」

 能義はそう言うと、電話を切った。

 ――これはもしかしたら、彼女もまた被害者だったということか……。

 能義が再びピッチの方へと目をやる。

 それと同時に、試合終了のホイッスルが鳴った。

「試合終了。2対0で河山センチュリーズの勝利です」

 アナウンスの言葉に、観客は歓声をあげていた。


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