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P.K.  作者: 乙丑
6THGAME
31/40

Ⅵ-Ⅱ・スクリーン

ボールを奪われないようにするための手段のひとつ。

ボールと相手選手との間に自分の身体をいれて、相手選手にボールを触らせないようにすることをスクリーンという。


「それじゃぁ、準決勝のスタメンを発表する。ましろは下がってサイドバッグ。かわりに武がセンターフォワードに入ってくれ。それから、梓はメディアーノを頼む」

「メディアーノって?」

 梓は首をかしげ、和成に問いかけた。

「MFが三人の場合、真ん中の人がその役割だったはずだから、今回は2-3-2ってことですか?」

 ましろがそういうと、「それってトップ下っていうんじゃ?」

 と梓は片眉をしかめた。

「そういえば、八人制が採用されたのって結構最近だから梓が知らないのも無理はないか」

 ましろは肩をすくめる。梓が生きていたころのサッカーはほとんどが十一人制が適用されており、MFが三人の場合における真ん中の位置にポジションを置くオフェンシブハーフ――通常トップ下がさきほど和成が言った梓のポジションとなる。

 もともと梓は攻撃と連携どちらも担当することになっていたため、文句自体はなかった。

 逆に言えば――。

「それだったら、一回戦と同様に、私を前線にだして」

 とましろのほうが不満げな態度を取っていた。

「ましろ、一回戦のハーフタイムの時、自分がなにを言ったのか忘れたのか?」

「ましろは一回戦で2点とってるしアシストもしてる。一回戦の時はまだほかのクラブが私たちのことを知らなかったからよかったけど、前線に置くとマークされるのがオチだよ」

「それにお前が一番動いていたからな。DFがマークされるってことはあまりないだろうから、今回はお試しってことで頼むわ」

「……わかりました」

 ましろが若干納得したところで、

「それじゃぁ整理する。FWは直之と武、MFは智也、梓、明日香、DFはましろと恭平、GKは変わらず優でいく」

 と、和成は二回戦のスタメンを発表した。

「わたしは?」

「椿は一回戦と同じで後半に出す。ペンチ入りの悟と陽介もいつ交代になるかわからないからな」

「はいっ!」

 子供たちが声をあげる。それと同時に、

『準決勝第一試合、ポニーテールFCとリーズFCの選手はグラウンドに集まってください』

 室内アナウンスが聞こえ、和成は子供たちをみやった。

「それじゃぁ、号令でもやるか? キャプテン頼む」

「ふぇっ? えっと、それじゃぁ……、全身全霊勝っても負けても、悔いが残らないように全力で楽しもうっ!」

 梓がそう言うと、ほかの子供たちは鬨をあげた。


「ましろ、智也」

 控え室を出ようとした時、和成に声をかけられた二人は、なにことかと首をかしげる。

「さっきはましろを休憩させるためにDFに下げたけど、ましろ、いけるって思ったときは行っていいぞ。その時DFに空きができるから、智也がカバーに入ってくれ」

「わかりました」

 二人はうなずくと、部屋を出ていった。

「ふぅ……、まぁ、優がいる以上はそうやすやすと点が取られるとは思えないけど、問題は梨桜がいつ動くかだな」

 和成は、梨桜を危険視していた。

「一回戦の時はMFだったけど、次はリベロでくる可能性もある」

 梨桜は幼い頃から和成と一緒に遊んでいた。それこそ、和也と遊びたいがために、体力をつけている。

 リーズFCの中では一番持久力を持っているといってもいい。

 それと和成が一番気になっていることなのだが、それこそ梨桜は和也が練習しているのを裕香やまといと一緒になって見ている。

 ポニーテールFCの子供たちよりも長く見ているのだ。

 昼休みにエラシコを教えてほしいと頼まれたときも、和成は違和感を感じていた。小さい時から自分の練習を見ている梨桜が知らないとは思えないし、エラシコはダブルタッチの基本だからである。

 だが、断るのも梨桜たちが可哀想だったので、ポニーテールFCの子供たちと一緒に教えた。


「……ふぅ」

 と、梨桜は控え室のペンチに座り、軽くリフティングをしていた。

 左足のインステップでボールをワンバウンドしていき、たまに強く蹴り上げると、右足のインステップでリフティングを繰り返している。

「梨桜、監督が呼んでるよ」

 4番・センターハーフである美柑がそう梨桜に呼びかける。「わかった、エリッ!」

 言うや、梨桜はボレーシュートの体勢でボールを放ち、GKの恵里香に渡した。

「はい。みんな注目」

 襟川がそう言うと、リーズFCの子供たちはそちらへと見遣った。

「さてと正直言うとましろさんと直之くん、それから梓さんはマークするか、前線に入れさせないようにしないとね」

「それと、MFの明日香さんのロングパスは正確性の良さから見てクロサーであることは間違いないよ。後半に出てきた椿さんは瞬発力とあの跳躍。正直助走なしであれだから、勝てるかって聞かれるとちょっと困るかな」

「もうひとつ、GKの優さんも、あの身長からしてゴールを取るのも一苦労しそうだね。和成おにいちゃんが教えてる以上、私たちのシュートじゃ、そう簡単には取れそうにないけど、頑張ってみよう」

 襟川と子供たちは、ポニーテールFCの子供たちについて話し合っていく。

「それじゃぁ、いつもどおり1点をとったらパスをつないで……梨桜、どうかしたの?」

 襟川は首をかしげながら、梨桜に声をかける。

「それでいいんですか? 逆にすぐに追いつかれそうな気がする」

「梨桜、相手にボールを渡さなければいいんだから……」

 センターハーフの貴音がそう言う。「そうなんだけどね」

「なにか不安でもあるの?」

「それって、楽しいのかなって」

「勝つための作戦だからね。仕方ないよ」

 梨桜はその言葉を聞くと、それ以上は何も言わなかった。

『私は、和成おにいちゃんに直接教えてもらってるあの子たちがうらやましいよ』

『準決勝第一試合、ポニーテールFCとリーズFCの選手はグラウンドに集合してください』

 室内アナウンスが聞こえ、襟川は柏手を打った。

「それじゃぁいつものポジションで、FWは望空(のあ)と裕香。MF美柑、貴音、玲子。DF梨桜、雪乃。GK恵里香」

 呼ばれた子供たちは「はいっ!」

 と、声をあげた。


「それではこれより、準決勝第一試合、ポニーテールFC対リーズFCの試合を行います。各チームのキャプテンはセンターマークに集まってください」

 アナウンスにそう言われ、梓と裕香はセンターマークへと歩み寄った。

 梓はオモテ、裕香はウラと言い、コイントスはウラとなった。

 ポニーテールFCからのキックオフとなり、審判の笛が高々に吹かれ、試合は開始された。

 梓は、少し下がり、リーズFCのポジションを頭に入れていく。

 ――あれ?

 裕香と梨桜のポジションが変わっているのが気にかかる。

「明日香」

 直之、武、明日香とパスがわたっていき直之は前線へと上がっていく。

 が、直之を玲子がマークし、裕香がボールを取りに、明日香へと向かっていく。

「っ!」

 明日香は左足のインフロントで梓にパスを送ろうとした時だった。

 パスコースをさえぎるように裕香は身体の重心を左へと向ける。

「……っ」

 明日香がたじろいた一瞬、裕香はトップスピードでボールを奪った。

「恭平くんっ!」

「いかせるかっ!」

 上がる裕香を恭平が止めに入ったが、裕香はスピードを落とさない。

「そのまま攻める気?」

 梓の言葉が聞こえたかのように裕香は一瞬だけ笑った。

 そして、恭平との間合いが1メートルほどになった時、エラシコで、ボールの動きを止め、恭平の体勢を崩すと、ボールをうしろへと軽く流し、ルーレットの形で抜いていく。

 そして、そのまま右足を振り上げシュート体勢に入った。

 それを梓が止めに入ったが、裕香の体勢を見るや梓はゾッとした。

 裕香の左足――つまりは軸となる足の爪先が、ゴールとは違う方角へとむけられていた。

「しまっ!」

 梓の予感は的中し、裕香は左サイドへと蹴り上げた。

「ナイス、裕香」

 裕香が攻め上がっているその隙に、左サイドから上がっていた貴音がボールを受け取ろうとした時、影が走った。

「智也くん、DFのフォローお願い。梓、上がるよ!」

 ボールをましろがクリアし、指示を出す。

「明日香はセンターラインよりすこし手前でボールと上がってくる選手の対処。武くんも上がって」

 梓はそう言うとバックステップを踏むように、からだをリーズFCの陣地へと向けなおした。

『なんだったんだろ、いまの……。わざとってわけでもなさそうだし』

 梓はうしろを裕香を見遣った。自分をマークするようについてきている。

「直之くん」

 ましろは直之へとパスを送り、武へと流していく。

『ちょっとためしてみようかな』

 思ったことはやってみないと気がすまない性質である梓は、スピードを速めた。「武くん、こっち」

 武から梓へのパスは難なく通った。

 ボールを受け取った梓はボールを右足の裏で止め、立ち止まった。

「ちょ、ちょっと梓、なにしてんの?」

 ましろが困惑した表情で言う。

 だが梓は自分が思ったことを確認したかった。

 あの時、入る入らないに限らずシュートを放つと思わせる精神的な威圧感。

「裕香さん、ちょっと勝負しようか?」

 そう言われ、裕香は立ち止まる。

「さっき、シュートの体勢からボールを左サイドに蹴ったのも、わざと私とましろを上げさせるためだったんでしょ?」

 梓は裕香がシュートではなく、ましろがいる左サイドに蹴ったことが気になっていた。

 逆に言えば攻めにくい場所にボールを蹴るとは考えにくかったからだ。

 一回戦の試合を見ている以上、ましろを危険視していないとは思えない。

「さぁ、どうかな?」

 裕香はそう言うと、上半身を小さく前のめりさせ、膝を軽く落とす。左右に対処できるよう、足は斜めに構えた。

「梓、馬鹿なことやってないで攻めるよ」

 ましろはパスを送られた時、オフサイドにならないよう、できる限りDFである雪乃との間合いを保っていた。上がっている直之も同様である。

「裕香、さっさとボールを取って」

 と雪乃が言い、

「そうだよ。前半のうちに1点でも取っておいたほうがいいんだから」

 雪乃とは逆の位置、左のタッチラインで美柑が裕香に声をかける。

 ――あれ?

 ましろはディフェンダーラインを確認すると、本来いると思っていた選手がいないことに気付いた――と同時に、自分たちの陣地へと視線を向けると、そこにはDFだったはずのプレイヤーがすでにハーフウェイラインまで上がっていたことに気付いた。

「梓ッ! ごめん本当に勝負とかしている場合じゃないっ! DFの選手が入れ替わってるッ」

 梓はハッとし、うしろを一瞥した。

「どうしてMFの美柑がDFになってるのかって顔してるね」

 裕香は梓が油断した一瞬に、ボールを奪い取った。

「しまっ!」

「梨桜っ!」

 裕香は左サイドから上がっていた梨桜へと、ボールを高々に蹴り上げた。

 それをクリアしようと、武がジャンプしたが高さが足りない。

 ポニーテールFCのゴールまで20メートル、つまりペナルティーエリアの手前で梨桜にボールがわたると、間髪入れずにシュート体勢へとはいった。

 ボールは大きく弧を描くように、ゴールへと向かっていく。

 優は手を伸ばしたが、反応が遅かったせいか、ボールは手を掠め、ネットを突き刺した。

「うそ……、あんなところから?」

 唖然としている梓を横目にしながら、「梨桜のボールは性格悪いし、すごく気まぐれだから。でも、今日は気分いいみたいだし、気をつけたほうがいいよ」

 裕香はそう言うと、自分のポジションへと戻っていく。

「梓、気を取り直して、ポジションに戻るよ」

 ましろにそう言われ、梓はハッとした表情で、元のポジションへと戻った。



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