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P.K.  作者: 乙丑
6THGAME
30/40

Ⅵ-Ⅰ・イマジネーション

イマジネーション:日本語に訳すと「想像力」「想像性」の意味。


「お疲れさまです、能義刑事」

 大会が行われているサッカー施設の入口前で、能義を待っていた同僚の刑事、冴島が声をかける。「準決勝はもう始まっているのか?」

「いえ、あと10分ほどではじまります」

 それを聞くと、能義は少しばかり唸る。「どうかしたんですか?」

「いや……、大会主催者である季久利は?」

「おそらく、観戦はしていないかと」

「そうか、電話で聞いた感じでは河山センチュリーズの試合が悪かったらしいな」

「ええ、もう観客はブーイングですよ。まるで八百長してるとしか」

「そうなると、決勝であの子たちがやっても同じ結果だろうな」

「どこか知り合いのチームでも?」

「ええ、ポニーテールFCというね」

「それでしたら準決勝進出。FWのましろさんが2点とってましたよ」

「ほう、試合結果は?」

「3対1でポニーテールFCの勝利。見てて楽しかったですよ」

「まぁ、あのクラブのモットーは“楽しむ”だったからな」

「ええそんな感じでしたよ。見ているこっちも楽しくて、そのあとに見た河山センチュリーズの試合と比べたらね」

「その河山センチュリーズだが、昔はよかったらしい。ここら辺では一番有名なクラブで、そのクラブでは熾烈なレギュラー争いが行われていたらしい。みなスキルが高く、最強とまで言われたほどだ。しかしいつからあんな風になってしまったのか」

「金の力でしょうか?」

「ほかのクラブに所属している優秀な子供を、将来性があるとかそそのかして、トレードしていたそうだしな」

「親やクラブの関係者は何も言わなかったんですか?」

「それも金の力でね……、きちんと育てれば、いい子達ばかりだと思うよ」

 能義はポニーテールFCの練習を、仕事の合間を縫って見ている。

『今となって思えば、もともと才能があった横嶋幸さんと畑千尋さんは注目されて当然……。直之やほかの子供たちも一生懸命練習している。ひとつの技を覚えたり、それを攻略する楽しさを、和成さんは遊びを通して教えている』

 それこそ、ほかのクラブから見れば、和也の練習方法は遊びでしかなかった。

 しかし、ポニーテールFCの子供たちに共通して言えることは、なんだかんだでみな負けず嫌いなのである。

 たまに和成がテクニックを見せて教えることもあるが、一度しか見せない。

 教えるのがへたというわけではなく、子供たちにコツを教え、どう動けばいいのかを自主的にさせているのである。

 そして、教えるときは本気でプレイするため、子供たちは一瞬たりとも見逃さないように、動きのひとつひとつを見て観察していた。

 相手の動きを見ることで、攻守ともにパターンが増え、いろんなシチュエーションができる。

 ――はて?

 と、能義は首をかしげた。

「今、金の力で子供を……、でもうちにそんな賄賂はなかったな」

「たしか、亡くなられた直之くんは河山センチュリーズに所属していましたね?」

 直之がサッカークラブに入っていることを、父親である能義は当然知っていた。

 しかし、どこのクラブに入っていたのかは事件が起きるまで知らなかったのである。

「うちはいまでも貧乏だからな。そんな虫のいい話があったとは思えんし、かと言って直之がうまかったというわけでもなし」

「うまかった?」

「あ、いや……、家内にいろいろと話を聞いてるんでね」

「そうですか。となると、スカウトし始めたのは、直之くんが入団した後ということになりますね」

「殺された畑千尋は河山センチュリーズに入ろうとしたが門前払いを食らっている。だが諦めず学校のサッカークラブに所属し、六年生になったころにスタメンに選ばれたと聞いている」

「季久利はほかのクラブから賄賂紛いにトレードしていたようですからね。となると、畑千尋の噂くらいは聞いてるはず」

「それと横嶋幸が所属していたことをいままで隠していたことも気になるな」

「能義さんから聞いた話だと、かなりの腕前だったみたいで」

「俺は、あくまで()で聞いただけだがな」

 実際は直接見ているのだが、横嶋幸、つまり梓が死んだのは直之が亡くなった八年前と一致する。

 つまり、梓が河山センチュリーズにいたことは、実力ということになる。

 もちろん、今のメンバーも実力はある。

 しかし、常勝主義というクラブであるため、また名誉というものもあるためか、季久利は八百長をしていた。

「粗方こんなところでしょうか?」

「そうだな」

 能義は、そんなことで子供たちが嬉しいのかと考えていた。

 和成の教えは、子どもたちがサッカーを“楽しい”ものだと思ってほしいと考え、勝つことは強要していない。ポニーテールFCの子どもたちは共通して倒したい相手がいるだけであり、勝つことに固執はしていなかった。

 逆に河山センチュリーズは勝つことを強要されていた。

 勝てばうれしいものだが、果たしてそれが子どものためになっていたのだろうか。

「なぁ、子供のころって競争していたとき楽しかったか?」

「俺は足が早かったので、徒競走の時はいつも勝ってましたし、リレーのアンカーにもなったことありますよ。でもほかのクラスに陸上部の奴がいて、中学と高校一緒だったんで、そいつといつも一騎打ちみたいになるんです。そいつもアンカーになるんでいつも張り合ってましたよ」

「ほう、それで結果は?」

「徒競走とリレー、合わせて12戦。まぁ団栗の背比べみたいな結果でしたね」

「つまり、五分五分だったというわけか」

「ええ、でも負けても次にまた勝てばいいかなと思いましたね。楽しくなかったかというと、そうでもありませんでしたし。次は勝ってやるって思いましたよ」

「それが子供の競争なんじゃないか? 大人が、その一度しかない勝敗に関与することじゃないんだよ」

 能義は、以前和成から聞いたことを思い出した。

『サッカーをやりたいって気持ちは変わらない』

 それはうすうすポニーテールFCの子供たちが、この幻影から現実に落とされ、想像を絶する地獄での罰を受けることに気付いていたのか。

「変わらない……か」

 能義はコートのポケットから折り畳みの財布を取り出し、中を開いた。

 定期などのカードを入れる透明なポケットには、息子である直之の生前の(、、、)写真が入っている。

 ――梓さんやましろさん、直之も、生前の記憶がなくても、サッカーが好きだったというわけか。

「能義さん、どうかしたんですか?」

「いや、なんでもない……。そろそろ時間だな」

 能義はそう言うと、市民グラウンドの観客席へと足を運んだ。


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