表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
P.K.  作者: 乙丑
4THGAME
23/40

Ⅳ-Ⅳ・アジリティ

アジリティ:バランス、巧緻性、スピードなどを含む体力要素のひとつで、瞬発力とともに反応及び、細かな方向変化を含む素早い動きをこなす能力のこと。日本の選手の課題として取り上げられており、とくに1対1におけるディフェンスの対応に要求される。


 後半開始のホイッスルが鳴った。

 直之が軽くましろの方へとボールを流し、ましろはそれを返そうとしたが、蹴る瞬間、直之は石墨にマークされており、ましろも磯岩にパスコースを塞がれていた。

 ましろはボールをうしろへと蹴り流す。「明日香っ!」

 その先にいた明日香がボールを取ろうとしたが、上がっていた御影にカットされ、ボールは大きくうしろへ、FCカコウの自陣へとセンタリングされた。

 長井がそれをクリアすると、それを返すように蹴り上げる。

「DFッ! 上がってくるぞ!」

 ましろ、直之、梓はマークされ、身動きが取れないでいた。

 明日香も戻ろうとしたが、御影にマークされている。

 ボールは、その隙を抉るように上がっていた片麻がクリアし、恭平が止めに入った。

 片麻は恭平を抜こうともせず、うしろ右サイドへとボールをセンタリングする。

 その先にいたのは、ディフェンスラインにポジションを置いている3番・センターバックの泉が待ち構えていた。

 リベロの役割を持っていた泉はパスボールを受け取り、そのままシュートの体勢へと入る。「させるかっ!」

 悟と陽介が止めに入ったが、泉は唇の端を上へとつり上げた。

 明日香は自分をマークしていた御影がいないことに気付くや、「違うっ! そいつシュートじゃないっ!」

 マークと言うものは、相手にボールが来ないようにするためである。

 明日香は自分にマークがついているとすれば、優がシュートを防いだあと自分にパスを出すという考えがあれば、マークからはずさないはずだと思い、否定的な声で叫んだ。

 悟と陽介が止めに入る間もなく、ボールはゴールへと蹴りだされた。

 優がボールをパンチングでクリアしたが、明日香の言葉を思い出すや、「うそ……」

 とボールの行方を目で追った時だった。ボールが流れたところに御影が上がっていたのである。

 御影はボールを軽くゴールへと右のインサイドで蹴り流す。

 ボールは、優の反応をせせら笑うようにゴールラインを超えた。

「ちょ、ちょっとっ! 今のはオフサイドでしょ?」

 朋奏がそう和成に言ったが、和成は首を横に振った。

「オフサイドってのは、最終的にボールを受け取った選手が、ボールが蹴られた瞬間、オフサイドラインを超えていたかで決まるんだ。片麻は最初っから囮だったってことだ」

 和成はやっちまったなと悔しい表情で朋奏たちに説明した。

 梓たちにオフサイドトラップについて、あまり詳しく教えていなかったのである。

 先ほどのシュートは、オフサイドトラップでどうにかなるものなのであったが、ボールが蹴られる瞬間、片麻が恭平を抜かすに、うしろへとボールを流したことに意味があった。

 オフサイドラインは、相手のいちばんうしろにいる選手を最終ラインとしており、泉がボールを蹴った時、御影はそれに合わせるように上がっていたのである。

 そして、優がクリアしたボールは、運悪く、誰もいないところに流れてしまっていた。「それを御影が取ったってだけだ」

「みんな、まだ1点差。それに、こっちが勝ってるんだから気持ち切り替えよう」

 梓が柏手を打つ。その表情は失点による悔しさというよりは、それすら楽しんでいるようだった。

「梓、ちょっと話があるんだけど……」

 ましろがそう梓に耳打ちをする。梓は話を聞きながら、「大丈夫かな? それって」

 と不安げに聞き返した。

「大丈夫。まぁ後はそう誘導できるかだけどね?」

 ましろは小さく笑みを浮かべる。「目には目を、オフサイドにはオフサイドってね」


 再開時、直之から受けたボールを、ましろは梓へとパスを送る。

 梓はうしろへとパスを流し、恭平が明日香へとパスを送った。

「明日香、こっちっ!」

 上がっていたましろが声をあげる。それをMFの片麻がパスを出させないようにマークを仕掛けた。

 明日香はパスを出しそこね、ボールを御影にカットされてしまう。

「おらっ! これで2点目だ」

 御影の強烈なボールがゴールへと放たれる。それに反応した優はボールをキャッチした。

「梓ちゃんっ!」

 ボールを受け取った梓はドリブルで相手陣地に蹴り出した。

「行かせるか!」

 片麻が止めに入り、対峙したが梓は直之にパスを送った。

 それを止めに入った長井がボールをカットする。

「御影っ!」

 上がっていた御影に目掛けてボールを蹴り上げる。「させるかっ!」

 恭平がボールをカットしようと飛び上がった時、御影と接触してしまい、恭平は派手に転倒してしまった。

 ボールはタッチラインを超え、ボールには誰も触れられなかったために、ポニーテールFCのスローイングとなる。

「恭平、大丈夫か?」

「ああ、これくらい平気だ」

 立ち上がろうとした恭平は足を崩した。

「おい、大丈夫かよ?」

「恭平、ちょっと様子を見るから少し下がれ」

 和成が声をかける。「でも、交代したら」

「大丈夫だ。少年サッカーには自由交代が認められてるからな」

 和成はましろを一瞥した。開始からずっとピッチに立っており、攻撃の要をしている。

 交代要素があるにはあるのだが、視線を感じたましろが首を横に振って拒否をしている。まだやりたいという意思の(あらわ)れであった。

 不意に袖を引っ張られ、和成はそちらへとみやった。

「えっと、椿……?」

 和成が首をかしげた。椿はジッと和成を見ている。

 自分を出してほしいという強い視線を和成にぶつけている。和成ももしかするとなにかしらの突破口になるかもしれない。

 そう思ったからこそ――。

「――わかった、いってこい」

「はいッ!」

 椿はハーフウェイラインを挟んだ場所にある『交代エリア』から、恭平と入れ替わるようにピッチに入った。

 陽介がボールをスローイングで、明日香にボールを投げた。

「直之……くん」

 明日香がボールを蹴ろうとした時、ふと視界の端に小さな影が走った。

「明日香、こっちに回して」

 梓が声を上げ、明日香はそちらへとパスを送る。

「椿っ!」

 梓は流れるように、ボールを椿目掛けて浮き上がらせる。

 そのボールを取らせないように、御影がクリアしようと跳躍するが――届かない。

「椿、思いっ切り飛べっ!」

 和成がそう叫ぶと、椿はその場で、助走をつけずに飛び上がった。

「なんだと?」

 御影が声を張り上げた。

 それもそうだろう。

 自分よりも小さい椿が、それよりも高く飛び上がっているのが不思議なのだ。

 椿はボールを直之のほうへとヘディングし、直之はそれをクリアする。

「きゃっ!」

 着地に失敗し、椿はしりもちをつくように仰向けになって倒れた。

「大丈夫?」

 明日香が声をかけ、椿に手を差し伸べる。「大丈夫」

 その手を引っ張るように椿は立ち上がると、恭平が守っていたポジションへと下がった。

「大丈夫みたいだね」

 梓がホッと胸を撫で下ろす。

「梓、ボーとしないっ!」

 ましろの声が聞こえ、そちらに振り返った梓は、ボールを取りにむかったが、ボールはFCカコウの斑にわたっており、センタリングでボールが上がっている。

 それを片麻がクリアし、左サイドから上がっていた御影へとパスを送る。

 御影はボールを右サイドを走っている石墨にパスを送ると、石墨はシュート体勢に入る。

 それを陽介が止めに入った。

 石墨は振り返り、ボールをうしろへと蹴り上げた。

 そこにいたのは泉だった。

 ボールを受け取った泉がシュート体勢に入り、右へと蹴り込んだ。

「くっ!」

 優が反応し、ボールをクリアする。

「くそっ!」

 泉が悔しがる。

「明日香ちゃんっ!」

 優はボールをセンタリングで蹴り上げる。

 明日香がそれをクリアした瞬間、

「明日香っ! 梓に渡して」

 FCカコウのペナルティラインまで上がっていたましろが叫んだ。

 そう声をかけられたが、梓はマークされている。

 明日香が苦痛の表情を浮かべていると、「大丈夫、いいから思いっ切り蹴り上げて」

 明日香はましろの言葉を信じ、梓目掛けて蹴り上げた。

「くっ!」

 梓はボールを取ろうとしたが、抜け出せない。

『やっぱり、ダメだ』

 そう思った明日香は、ふとうしろを見ると、一人いないことに気付く。

「えっ?」

 ボールをクリアしたのは……椿であった。

「椿、こっち!」

 ましろが声をかける。椿は思いっ切りボールを蹴り上げようと右足を振りかぶった。

「バカか。お前ら上がれ!」

 蹴り上げようとした瞬間、FCカコウのGK、深成がそう指示し、DFの斑が上がった。

「ましろ、下がってっ! そのままじゃオフサイドになる!」

 梓がそう叫んだが、ましろは笑みを浮かべていた。それが深成には理解できなかった。

「パスを取るのが私だと思った?」

 ましろは小さく舌を出した。そしてボールをスルーする。

 ボールは右サイドに落ちた次の瞬間、それをマークから抜けていた直之が受け取った。

「しまったっ!」

 深成が反応するが、直之はボールを蹴り込む。

 ボールはゴールネットを揺らし、審判はセンターマークを手で示し、笛を鳴らした。

「ちょっと待って! 今のって完全にオフサイドになるんじゃ?」

 朋奏が、自分のチームに点が入ったというのに、納得のいかない表情で叫んだ。

「そうか……、ましろは最初から囮になってたんだ」

 和成がそう言うと、智也と武が首をかしげる。

「いいか、椿にボールを上げるように指示したのはましろだ。その時ましろは自分の方にパスして欲しいって意味で言ってる。それが最初からトラップだったんだよ」

「相手のゴールキーパー以外の選手が前にいないとオフサイドになるんでしたよね?」

「ああ、だからGKはオフサイドラインを前に出したんだ。もちろんましろもそれは予想していたと思う。あの状況下においては誰もがましろにボールが渡ると思う。だからましろはボールをスルーしたんだ」

「それを直之が受け取ったってことですか?」

「椿がボールを蹴った瞬間、ましろはオフサイドラインを出てるけど、直之は出ていなかった。蹴った瞬間上がったとすれば、それはオフサイドにはならない」

 それこそ偶然の産物だろう。残り時間を考えると、終了するまでパスで時間稼ぎをするのも作戦のうちであるが、以前子供たちと話したことを、和成は思い出した。

『守るよりも、攻める方を選ぶってわけか』

 和成は笑みを浮かべた。


 FCカコウのキックオフになり、少し経った時である。

 審判が笛を三度、試合終了の笛を響かせた。

「うっしゃ初陣白星ッ!」

 ベンチで立っていた和成がほえた。

「やったぁ!」

 それに共鳴するかのようにポニーテールFCの子どもたちも喜びをあらわにする。

「くそぉ一回戦敗退か」

 試合終了のホイッスルを聞いてか、それとも負けたことに対してなのか、明日香のマークにつこうとしていた御影が、明日香からすこし離れた場所でへたり込んだ。

「おつかれさま。いい経験になったわ」

「あははは、しかしまぁ、最後のあれはすごかったわ。お前らもしかして強いんじゃねぇの?」

 御影は笑いながらたずねる。明日香はちいさく笑みを浮かべるだけでなにも答えない。

 和成から言われたのだ。――自分の力を自負するのはいいが、過信すればするほど失敗したあとの代償は大きい。と――。

 それは失敗したあと、ショックから立ち直る時間に差異があるからであり、自尊心がある選手ほど立ち直りが遅いと言う意味にも捉えられる。

 だからこそ、ポニーテールFCの子どもたちは、自分たちが上手いとは思っていても、それをおくびには出さないでいた。

「ほら、みんな整列して」

 審判が声をかける。

 FCカコウとポニーテールFCがセンターラインを挟んで整列したのを審判が確認すると――。

「3対1。よってこの試合、ポニーテールFCの勝利とする」

「「ありがとうございました」」

 子供たちは互いの検討を称えるように深々と頭を下げる。

「いいぞ。よく頑張った」

 観客席から激励が響き渡り、一回戦はこうして幕を下ろした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ