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P.K.  作者: 乙丑
4THGAME
22/40

ⅣーⅢ・キックオフ

キックオフ:ゲームの開始や再開の時にセンターマークで行うキックのこと。

ファーストタッチは相手陣側の前方に移動しなければならない。


『ただいまよりN市少年サッカー大会第一試合を行います。みなさま子供たちに温かい拍手を』

 アナウンスがそう言うと、スタンドから惜しみない拍手が響いた。

「き、緊張してきた」

 武がこわばった表情で言う。

「その緊張も楽しもう。なんでもそうだけど楽しんだほうが気分が楽になるから」

 梓がそう言うと、ポニーテールFCの子どもたちはうなずいてみせた。

「ほら、まずは準備運動。ちゃんとしないとこむらがえりになるってコーチも言ってたんだから」

 梓を中心に、ポニーテールFCの子どもたちは輪になって準備運動を始めようとしたときだった。

「それにしても、でかいね」

 椿がFCカコウの斑を見上げていた。

「はじめまして、FCカコウのキャプテン、御影です」

 そう声をかけられ梓は振り向いた。キャプテンを示す腕章を着けていたからである。

「あ、ポニーテールFCのキャプテン――」

 梓はどう言おうか考えていた。そもそも子供たちに苗字がないのである。

「えっと、横嶋です」

 そう言った時、梓は違和感を持った。知らない苗字のはずなのに言い慣れた感じがしたのだ。

「横嶋さんですか。お互い、いい試合をしましょう」

 御影は手を差し伸べた。

「はい。お互い悔いのない試合を」

 梓は返すように、握手を交わした。


『それでは、ただいまから第一試合、FCカコウ対ポニーテールFCの試合を行います。スタメン選手はピッチに並んでください』

「よし、それじゃぁみんな行こう」

 梓がそう言うと、ましろたちは気合を入れるように、「おーっ!」

 と、拳をあげた。

 審判が時計に手を掛けた。ストップウォッチ機能がついているやつだ。

 両チームのキャプテンが中央に集まり、コイントスを行う。

 FCカコウのキャプテンである御影はオモテ。梓はウラと告げる。

 コイントスの結果、ウラとなり、勝ったポニーテールFCがコートを決め、負けたFCカコウからのキックオフとなった。

 それぞれのコートに、フォーメーション通り並んでいく。

 ――あちらさんは2-3-2か……。

 和成はそう考えながら、キャプテンである梓を一瞥すると、センターハーフの右側におり、ジッと相手のフォーメーションを見つめていた。

 審判が笛を吹き、いよいよ試合が始まった。


 FCカコウのFW、7番の石墨がボールを右のインサイドで8番の礒岩にパスを送る。「なんで最初にパスをだすの?」

「キックオフの時、最初に蹴った選手がもう一度蹴ると【ダブルタッチ】っていう反則になるんだ。そうならないために、味方にパスを送ってから戻すっていう、ワンツーが基本だね」

 椿の質問に答えた和成の説明通り、ボールを受け取った礒岩は、ワンツーで石墨に返した。

 石墨はドリブルで攻めながら、礒岩・御影・片麻の順に大きくパスを送りながら上がっていく。

 ましろは守備に入るために戻ろうとした時、ちらりと梓を見た。最初の位置から動いていなかったからである。

「梓、なんか指示ある?」

「ましろと直之くんはそこから動かないで」

 その言葉に、言われた二人は「どうして? ボールを取りに戻ったほうがいいんじゃ?」

 と疑問を投げかけた。

「コーチが云ってたよね? 全員が戻ると攻撃する時に遅れができるって――。大丈夫、みんなを信じよう。二人はボールが上がったらお願い」

「――わかった」

 ましろと直之はうなずくと、FCカコウの方へと足を近付けた。


 礒岩が右サイドに上がると、御影にパスを送った。

 ボールを受け取った御影は、まだ完璧とはいえないディフェンスラインの隙間を見てからシュート体勢に入る。

 ――へっ、キーパー女かよ? それじゃぁちょっと遊んでやるか。

 そう考えるや、本来の力も出さすにシュートを放った。

「明日香ッ! すこし上がって」

 シュートの瞬間、梓は明日香に向かって叫んだ。

 その言葉を聞き、明日香は躊躇ったが、云われた通り、すこしだけ、3メートルほど上がった。

 ボールは優の真正面を目掛けて飛んでくると、バシンという叩きつける音がピッチに響いた。

「――んなっ?」

 御影が驚きを隠せない表情で、目の前の出来事を見た。

 優は放たれたボールを、しっかりと胸で抱えるように捕らえている。

「明日香ちゃんッ!」

 優は左手でボールを上げ、右足を使ってハーフウェイラインよりも3メートルほどうしろにいた明日香にパスを上げた。

 受け取った明日香は間髪入れずに、フリーになっている梓にパスを送る。

「くそっ! あの6番をマークしろっ!」

 FCカコウの監督、黒石が指示を出す。上がっていた御影たちがボールを追いかけるようにして自陣へと戻っていく。

 ボールをクリアした梓の目の前に、戻っていた6番の片麻がディフェンスに入った。梓がドリブルを仕掛けると片麻がタックルでチャージをかけ、ボールを取ろうとした一瞬、梓はボールを一度強く転がし、ルーレットで機動を変えた。

 片麻はそれに追いつけず、転倒してしまう。「直之くんっ!」

 右サイドに上がろうとしている直之にパスを送り通すと、直之はドリブルで、敵のペナルティーエリアに攻め入った。

 3番の泉が止めに入ると、直之は大きくゴール前にボールを蹴り上げる。

 2番、センターバックの斑が飛び上がり、クリアしようとした時だった。

 ましろも同時に飛び上がっており、斑と空中でせめぎあうと、ボールはこぼれ、そのボールを直之がクリアし、シュートを放った。

 が、ボールはゴールポストの上側面にあたり、空中に大きくはじかれていく。泉がそれをクリアしようと前に出た。その手前に踏み込んでいたましろが飛び出し、ヘディングでボールをゴールにねじりこんだ。

 ゴールを報せる笛が高々と鳴り響いた。


「よっしっ!」

 ましろが大きくガッツボーズを取った。

「ましろちゃんすごい」

 ペンチに座っている椿が驚いた表情で和成と朋奏を見る。

「いい判断だな。てか、わざとこぼれ球を作ったのか」

 和成の言葉を聞くと、朋奏が首をかしげた。

「あちらの6番がボールをクリアしようとした時、無理しないで着地ポイントのところまで行ってからジャンプしようとした。ましろも同じような場所でジャンプをしてる。そうすると背の高い2番の方が勝つのが見えてるわけだ。だけどこぼれ球ができた時、5番を梓がマークしてたんだ。どうしてだと思う?」

「えっと、ボールを取らせないようにして、パスを出させないため?」

 悟がそう答える。

「正解。あちらさんもひとりは上がらせているはずだからね。その中間が必要になる」

「でも、直之くんが反応したのがいいよね?」

 朋奏がそう云うと、和成は否定するように首を横に振った。

「いい反応をしたのはましろの方だよ。あの時、GKがボールを取るタイミングが少しでも早かったら取られていた。ましろは着地すると直之がシュートを放った瞬時にGKの近くまで入っていたんだ」

「だけど、たしかキーパーより前に選手がいて、その間に誰かがいるとオフサイドって反則になるんじゃ」

「ボールが大きくこぼれたのが功を奏したんだ。まぁ、あちらの監督はさっきのプレイに納得がいかないで、審判に文句いってるみたいだけどな」

 和成の云う通り、FCカコウの監督である黒石が審判に抗議をしていた。

 審判はシュートが入った時の状況を観客に説明する。

『先ほどのゴールですが、ポニーテールFCの直之くんの手前にFCカコウの斑くんと、そのうしろに泉くんがいたため、本来オフサイドにはなりません。また、そこからシュートを出した場合、ボールがゴールポストに当たり、ポニーテールFCのましろさんがそのこぼれ球をヘディングで決めております。直之くんがシュートを放った時、FCカコウの泉くんがましろさんの前におり、こぼれ球になった時にゴール前に入っているため、オフサイドプレイとは認められません』

 審判がそう説明すると、黒岩は納得のいかない表情を浮かべていた。


 再び試合が始まり、御影が攻め上がった。

 ましろと直之を抜き去ったが、これも作戦のうちである。

 ――上手いのは6番とFWのふたりか。

 御影はそう考えると、手前に梓が立ちはだかっていた。

 梓を抜こうとフェイントをかけるが、その一瞬のうちにボールを取られてしまった。

「明日香っ!」

 センターサークルから10メートルほどうしろにいる明日香にパスを送る。

「行かせるかっ!」

 石墨と片麻が行く手を遮る。「悟くんっ!」

 明日香はヒールでうしろから上がっていた悟にパスを送る。

「梓っ!」

 悟は大きくボールを上げた。

 それを梓が空中でクリアして着地すると、大きく右足をうしろに蹴り上げた。

「くそっ!」

 4番・センターバックである長井がそれをクリアしようと梓の前に出る。

 ――かかった。

 梓は右足の勢いを殺し、ボールをインサイドで逆サイドに転がした。

 反応ができなかった長居はそれを取ることができなかったが、ボールは誰もいない場所に転がり、タッチラインを越えようとしている。

 FCカコウの選手は、タッチラインに入ればスローインとなり、自分たちのものになると考え、その場から動かず、ボールの行方を見送った。

 ボールがラインを出ようとした瞬間、「直之くんっ!」

 ましろがそれをカットし、インフロントでボールを蹴り上げる。

「しまったっ!」

 タッチラインの近くにいた斑が叫んだ。

 直之はフリーの状態であった。「止めろっ!」

 深成の指示で、斑と泉が止めに入る。

「ましろっ!」

 直之はうしろにパスを送り、ましろがそれを受け取ると、目の前には誰もおらず、ましろはミドルシュートを放った。

 ボールは深成の手を掠めて決まった。

「くそっ! あの8番も徹底的にマークしろっ!」

 再開すると同時に、黒岩の指示によって、ましろには常に二人マークがついた。

 ――コーチの云ったとおりだ。強い選手ほどマークをつけたがる。

 ましろはそう考えながら、ボールを取りに行こうとしたが、笛が鳴ったため、前半が終了した。


「みんな前半お疲れ」

 朋奏が皆にドリンクを手渡していく。

「さて、初めての試合、みんなどんな感想だ?」

 その質問に対し、子供たちは息を整えてから、凄く楽しいと答えた。

 自分たち以外との試合はこれが始めてであったためである。

「それじゃぁキャプテン、前半を振り返って感想は?」

「見たところ、8番、4番、5番が攻撃の要みたいですね。それ以外はDFの2番。背が高いから空中戦はちょっときついし、ゴール前のクロスはかえってクリアされやすいから危険だと思います」

 梓の言葉に、直接斑と空中でせめぎあったましろがうなずいてみせた。

「それにわたしが二連続ゴールしてるからマークが厳しくなってる」

「コーチ、どうします?」

 直之がそう云うと、「俺は特に指示は出さないよ」

「でも、それって責任放棄じゃ……ひゃうっ?」

 ましろがその先を云おうとした時、和成は彼女の頬に優しく触れた。

 ましろの、運動をして火照った身体とは違い、和成の手は冷たい。

「最終的な判断をするのはピッチに立っている君たちだ。梓がインサイドでボールを誰もいないタッチラインに送った時だって、ましろがそれをカバーしてる。それで相手の守備判断が鈍ったんだ」

 ましろと梓は互いを見遣った。梓は無理に抜かず、タッチラインを越えて相手のスローインになっても、正直良かったと思っていた。

 その時にまた取ればいいのだが、それをましろがクリアしたため、相手の守備に隙間ができ、敵の陣地にいた直之にパスを送ることができた。

「さてと、そろそろ後半戦だ」

 和成は子供たちを見遣った。

「よしっ! このまま突っ走るぞっ!」

 直之の言葉に、子供たちはオーと拳をあげた。



修正前の時、コイントスの際、勝った方がコートを決めることができ、負けたチームが最初のキックオフというルールを間違えてしまったため修正しました。

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