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P.K.  作者: 乙丑
2NDGAME
13/40

Ⅱ-Ⅴ:デコイラン

デコイラン:狩猟のとき使う「おとり」の模型のことを意味する言葉。

サッカーではディフェンダーを引き付けるための「囮」と、言う意味で使われている。


「ふぁぁ……っ」

 と、夕方だと云うのに、大きな欠伸をしたのは、まといであった。

 宿題忘れで居残りを食らってしまい、ようやく解放されての帰宅である。

 まといが通っている璃庵由学園は、学園といえば学園なのだが、小中高がまったく別の場所にあるため、学園までしか聞いていない人は、どちらに行けばいいのかわからなくなるほどの、複雑な学園であった。そして和成が通っているのもそのグループに準じている璃庵由学園中等部である。

 しかし場所が離れているため、まといとほとんど学園内であったことがない。

 サッカーコートがある公園を通り抜けようとした時、周りの竹林から、何かが走ってくる音が聞こえ、まといは立ち止まった。

「きゃっ?」

 何かが目の前に現れ、まといにぶつかった。

「いたた……」

 まといは尻餅をつき、おしりをさすりながら、ぶつかってきた子供を見た。

「大丈夫?」

 声をかけるが――椿は、きょろきょろと辺りを見渡している。

「おーい、大丈夫?」

 まといはもう一度声をかける。椿はゆっくりとまといを見遣った。

「あなた、あんなところでなにしてたの? 学校からいわれてない? あそこは変質者が出るから、近付いたり、入っちゃいけないって」

 まといの言葉に、椿は首をかしげる。

 いや、かしげたくもなるのだ。――自分は死んでいるのに、どうして、関係のないまといには視えているのか。

「椿っ!」

 竹林のほうから声が聞こえ、まといと椿はそちらに振り返る。

 出てきたのは、恭平と明日香であった。

「コーチが呼んでるわよ」

 明日香がそう云うと、「わたし、みんなと一緒に出たい」

 椿はそう告げる。

「大丈夫。コーチはちゃんと考えがあって……あれ?」

 恭平は椿の横にいるまといに目をやった。

「この子も……? でも、違うような」

「な、なによ?」

 まといはたじろぐように、後退りする。

「――椿っ!」

 聞き覚えのある声が聞こえ、まといは首をかしげた。

「……なにやってんの? おっさん」

 蔑んだ目と、罵るような口調で、まといはそう云い放つ。

「なんでお前がここにいるんだ?」

 和成は怪訝な表情でまといを睨む。

 そのうしろから来た、梓とましろ、直之はどうしたのかと明日香や恭平にたずねたが、二人はわからないと首をかしげている。

「おっさん、まさかあんたまで犯罪に手を染めようとしてるんじゃないの?」

「はぁっ? おまえなぁ、なに勘違いしてんだ?」

「変質者が出る竹林から出てきて、なにそれ? もしかして、変質者っておっさんのことじゃないの?」

「あのなぁ、俺はこの子たちにサッカー教えてんだよ」

「それこそ信じられない。おっさん一回も試合に出てないじゃない」

「おまえ痛いとこつくなぁ。まぁ、中学は一回も出てないけど」

「ほら、それにおっさんみたいなロリコンに教えられるどころか、変なことされてるんじゃないの?」

 まといは、梓たちを見遣った。

「言葉を返すけど、コーチはそんなことしないわよ」

 ましろがまといにそう云い放った。他の子供たちもうなずいてみせる。

「こ、こんなことをいうなんて……。あなたたち、こいつに脅迫でもされてるんじゃないの? 試合にも出れないやつが、サッカー教えてるとかありえないでしょ?」

 困惑した表情で、まといはたずねた。

「はぁ……」

 と、和成は溜息を吐く。

「まとい、俺が小学生の時、クラブに入ってたのは知ってるよな?」

「お父さんから聞いたことある。小さい大会に出たっきり出してもらえなかったって。あれ下手糞だったからでしょ?」

 まといがそう云うと、和成は睨みつける。

 その目は、それ以上馬鹿にするなと言わんばかりであり、向けられたまといは言葉を失っていた。

「な、なによ?」

「俺が入ってたクラブは、ここらへんじゃ有名で強かった。正直、試合に一回でも出れただけでもよかったと思ってる。話が長くなるから、みんなベンチにでも座って聞いてくれ」

 和成はまといや梓たちを、近くにある噴水の縁に、汚れないように座らせた。


「俺がその時いたクラブの名前は『河山センチュリーズ』っていうサッカークラブだったんだ」

 その言葉を聞くや、梓と直之は我が耳を疑った。

「ちょ、ちょっとそれって……この前来たあいつらがいるってクラブじゃ……」

「あのクラブは才能があるやつを優先的に所属させるクラブでな。他のクラブから抜き取るなんて事もあった。子供はより強いチームでプレイしたり、高度な練習もできるだろうし、親は将来有望な選手になれるとかいわれりゃ、入れたくもなるもんだ。俺もそのうちの一人だったんだが」

 和成は、ゆっくりと椿を見た。

「だけど、あそこのクラブは、監督の云うことを聞けないやつ。自分勝手な行動をするやつは、たった一回のプレイで解雇にされるんだよ」

「どうしてですか?」

「試合に勝つことが当たり前だと考えていたチームだからな。金にモノを云って抜き取ってたクラブだ。その分、自由な攻撃ができなかったんだ。そんなところにいて、面白いと思うか? 俺がサッカーを始めたきっかけは、みんなと楽しくやりたいって思ったからなんだ。チームメイトでさえ魅了させてしまうプレイ。たった1点でもみんなで協力してもぎ取ったり、強いチームなら完膚なきまでに叩き潰してやるっていう闘争心。それがあのクラブには全然なかったんだよ」

 吐き捨てるような言い方に、子供たちは黙り込んでしまった。

「直之、例えば1点リードの場合、どうする?」

「守備を固めて、同点にされないようにします」

「でも、もう1点入れたくなるよね?」

 直之の言葉に、明日香が言葉を付け加える。

「もちろんそれはピッチに出てる君たちの判断に任せるし、そもそも最終的に判断するのは試合に出ている選手だ。でもそれすら赦されなかった。俺はみんなには自由にプレイしてほしいんだよ。もちろん椿にもね」

 和成は椿の頭をなでる。

「コーチはね、椿を試合に出さないんじゃなくて、どのポジションにしようか悩んでただけなの」

 梓がそう云うと、椿は首をかしげた。

「ほんと?」

「ああ。他のみんなだってそうだよ。練習や得意なプレイを見ながら考えてるんだ」

 梓は、椿にポジションのことで椿を云わなかったことについて説明する。

「――みんなの足手まといじゃないんだ」

「椿、みんなとサッカーしてて、楽しい?」

 ましろがたずねると、椿ははっきりとうなずいた。

「わたし、みんなと一緒にやってると楽しいよ」

「それがチームなの。チームって云うのは、一人じゃできなくても、みんなで協力してひとつの事を成し遂げる。サッカーや野球だってそう。みんなが作ってくれたチャンスにこたえたりね」

「それに、わたし……椿には感謝してるんだよ」

 梓が椿を抱きしめる。

「わたしがボールでリフティングしてた時、楽しそうにジッとわたしを見てたでしょ。それから一緒に遊ぶようになって、直之くんや明日香、悟くんに武くん。智也くんに連れられて、優も一緒にみんなでサッカーをやり始めた。わたしね、みんなと一緒にサッカーすることの楽しさ思い出したんだよ。あそこにいるとサッカーが楽しくなくなって、もうサッカーをやめようって思ってたくらいだったから」

 梓の様子を窺いながら、ましろは和成を見ていた。

「どうかしたんですか?」

 そう声をかけると、和成はハッとした表情で、ましろを見た。

「いや、……っ!」

 言葉が詰り、和成は答えられなかった。

 ――もしかして、梓がコーチから聞いた、サッカーを始めたきっかけをくれた女の子って……

 ましろは梓を凝視した。

 結局、この後は日が沈んだこともあり、練習はお開きとなった。


「あのさぁ、結局のところどうなのよ?」

 家へと帰る途中、まといを送って行くことにした和成に、まといが質問してきた。

「あの子たち、ずいぶんおっさんにしたってるじゃない?」

「いちおう知ってることは教えてるつもりだしな。ただ、試合に出れるかどうか」

 和成はすこしばかり試したかった。いつまでも同じチームメイトと練習したり、ミニゲームをするだけではだめだ。他のチームと試合をさせて、自分たちの実力や、相手の攻撃を体験させること、より上手くなろうと向上心を出させようと思っているのだが……。

 ――あの子たちが死んでるなんて、誰も信じないだろうなぁ。

 和成は、ゆっくりとまといを見た。

「そういえば、どうしてあんな時間にいたんだよ?」

「学校の居残り」

「また宿題忘れか……おわっ?」

 まといに背中を蹴られ、和成は上擦いた声をあげた。

「るっさい。それであの子たちには手を出してないんでしょうね?」

「出すわけねぇだろ?」

「どうだか? あのロリコン犯罪部長がいた……」

「お前、それ以上云うな」

 和成はまといの頬を抓むと、「たてたてよこよこまるかいてまるかいてまるかいてちょんっ!」

 と、最後の『ちょん』のところで、思いっ切り頬を引っ張った。

「いったぁっ! 暴力反対」

「言葉の暴力反対」

 和成はきびきびと、置いて行くように歩き始める。

「――ねぇ、和成お兄ちゃん?」

 突然そう言われ、和成は足を止めた。

「あの子たち、いい子そうだね」

「少なくとも、お前よりはいい子だ。すこしは素直に、うちのお袋や、親戚と接したらどうだ?」

 馬鹿にしたような言い方だったが、「考えとく」

 と、まといは答えた。


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