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P.K.  作者: 乙丑
2NDGAME
11/40

Ⅱ―Ⅲ:フィジカル

フィジカル:肉体的な強さ。と云う意味。

フィジカルの強い選手は、多少の当たりでも態勢が崩れず下半身が

安定しているため身体のバランスが乱れない。

こういう選手は、チェックの厳しい前線付近のポジションに起用される。

マークを激しく受けるストライカーやキープして溜めの作れるポストプレー、ゲームの組み立てができる司令塔などが多い。

フィジカルが強いことにより、プレーも安定し、精神的にも落ち着いて

ボールコントロールができる。

サッカーをやる上で何処のポジションでも、必要とされる能力である。


 いつものサッカーコートに集まった梓たちは、和成と朋奏が来るまでのあいだ、軽く自主練を行っていた。

 パスワークを確認したり、優にお願いして、シュートの練習をしたりと、各自積極的にやっている。


「そろそろ、おにいちゃんが来るころだね」


 椿がそう云うと、子供たちの何人かが頷いてみせる。


「椿、コーチが来る前に、この前やったヘディングの練習しようか?」


 ましろがそう誘うと、椿は大きく手を上げた。


「ヘディングを打つコツは、額にボールを当てること。目はしっかりと開いて、打った後もボールをちゃんと見る」


 ましろは、軽くボールを椿の上にあげた。

 椿は、思いっ切り飛ぶと、――ボールは、椿の顔に当たってしまった。


「やっぱり、跳躍がすごいなぁ」


 ましろは、梓を見ながら呟く。「椿、大丈夫?」

 駆け寄って尋ねると、椿は顔を手で覆いながら、「大丈夫」

 と、答えた。


「もう少し、やわらかめのやつってないの? ビーチボールとか」

「ああ、たしかにそれだとやわらかいね。でも、あるかなぁ」


 梓は、見に来ていた華蓮を見た。

 華蓮は物言わず、スッと立ち上がり、姿を消す。

 その五分ほどして、現れた華蓮の手には、ビーチボールがあった。


「これでいいかしら?」


 華蓮がそう尋ねると、梓とましろは「ありがとうございます」

 と、お礼を言った。


「よし、それじゃぁ練習しよう。椿、ボールをしっかり見て、ボールにおでこをぶつけるように飛んで」


 梓が、ボールをトスすると、椿は、先ほどより、少し低く飛んだ。

 ボールは、椿の額に軽く当たり、上へと跳ね上がる。


「あれっ?」


 椿は、着地すると、ボールが自分と思った方向に行かなかったので、首を傾げた。


「大丈夫。よく当てた。後は練習あるのみだから。わたしだってヘディング全然出来なかったしね」


 ましろがそう言うと、「へぇ、あなたも経験者だったんだ」

「まぁね。一応FWを任されたことだってあるんだから」


 梓の問い掛けに、ましろは答える。


「でも、みんなと一緒になって練習するのが、こんなに楽しいなんて思わなかった」


 その言葉に、梓は首を傾げた。

 ちょうどその時、夕方を報せるチャイムが鳴り、子供たちは軽くストレッチをし、和成と朋奏が来るのを、いまかいまかと待ち侘びていた。


 ――待ち侘びていたのだが、十分経っても、二人は来ない。


 いつもなら、という時間になっても、まったく来る気配すらしなかった。


「――あっ!」


 華蓮が何かを思い出したような表情で、声をあげた。


「どうかしたんですか?」

「ごめんみんな、今日ふたりともテスト勉強で来れないんだった」


 華蓮がそう云うと、子供たちはキョトンとした表情で、華蓮を見た。


「コーチ来れないんですか?」


 明日香と優が、ションボリとした表情で尋ねる。


「ええ。あ、でも練習メニューは聞いてるから」


 華蓮は、朋奏から受け取っていた練習メニュー(それを作ったのは和成だが)を皆に伝えた。


「『ラダーステップ』?」


 練習メニューを見ながら、恭平と陽介が首を傾げる。


「えっと……、どういうものか教えて」


 華蓮も華蓮で、朋奏と同様に、まったくサッカーの知識がなかった。

 代わりに、経験者の梓と直之、ましろが皆に説明する。


「ラダーっていうのは、はしごのことで、えっと……」


 梓は言葉を詰らせた。口で説明するより、実際にやったほうがわかりやすいのだが、その肝心のはしごがない。


「コートの外にある砂場にはしごを描くってのは?」


 ましろの提案に、梓と直之は同意した。

 コートの外に、はしごの絵を描き、直之が練習法を実践してみせる。


「簡単なやつからやってくけど、ひとつの枠に、右足、左足と交互に入れてく。最初はゆっくりと、なれてきたら出来るだけすばやくやっていって。出来れば爪先立ちで」


 そう説明していく中、梓はもうひとつはしごの絵を描いた。


「それじゃぁ、練習しようか?」


 梓の号令で、女子、男子と別れて行く。

 経験者の梓と直之、ましろ以外の子供たちは、最初足がもつれたり、マスから出たりしていたが、コツがわかってきたのか、もつれることなく、往復できるようになってきていた。


「ラダーは神経を鍛える練習で、どう動けばいいのかっていうのを身体に教えるの。考えるより先に体を動かさないといけないしね」

「慣れてきたら、枠を跨ってみたり、枠の外に足を交互にやってみたり、色々やってみて」


 梓とましろが、手本を見せる。


「梓、ちょっと難しいのやってみていいかな?」


 ましろがそう云うと、梓は首を傾げた。

 ましろは、右足を枠の中に入れ、左足も枠の中に入れる。

 ここまでは、直之が教えたクイックランと一緒なのだが、今度は右足をラダーの外に出し、左足、右足の順に、ひとつ前の枠の中に入れていき、左足を枠の外に出していく。


「これがシャッフルなんだけど……」


 ましろが説明すると、梓は少しだけ明日香を見た。


「明日香、ましろと一対一で勝負してみたら?」


 そう言われ、明日香は「えっ? ましろちゃんと?」

 と、ましろを見ながら聞き返した。


「なんか、シザースと動作が似てるんだけどね」


 梓の言葉に、ましろは、「ああ、たしかにね」

 と、同感する。


 ――そんなこんなで、明日香はましろと対峙する事になった。


「いつでもいいわよ」


 明日香の足元にはボールがあり、ましろは体勢を低くとっている。

 明日香は軽くボールを蹴って、ドリブルを始めた。

 そして、ましろに近付くと、左に行くと見せかけて、右へと切り替える。「遅いっ!」

 ましろは、明日香の進路方向に体を動かし、ボールをカットする。

 ボールは明日香の足から少し離れると、その隙に、ましろは明日香の股下に来たボールを蹴り流した。


「動作が遅い。フェイントは悟られたらおしまいだから」


 ボールを取ると、今度はましろが、明日香にシザースを仕掛けた。

 明日香と違い、しっかりと相手とボールを見て、二、三回ボールを跨ぐと、ボールを大きく左に流し、左足でボールを先に蹴り、明日香を抜き去って行く。


「シザースはあくまでフェイントのひとつであって、色々と組み合わせないとだめ」


 ましろは、ゆっくりとボールを足で止める。


「たとえば、こんなのとかね」


 明日香を目の前にして、ましろはシザースを仕掛ける。

 明日香は、相手とボールをしっかりと見て、ボールをとるタイミングを見計らっていた。

 ボールはましろの股下に転がり、このタイミングなら取れると、明日香は判断したが……。


「たとえば、近くに味方がいたら?」


 ましろがそう尋ねると、左足でボールを跨ぎ、右足のインサイドで、ボールを左へと流した。

 地面についた左足を軸にして体をうしろに反転させて、明日香から離れようとしたが――。


「あいたっ!」


 足がもつれて転んでしまい、逆に明日香から心配されてしまった。


「あちゃぁ、失敗した。これ結構体のバランスがいるのよね。まぁ、ボールが味方にわたれば、無理に抜かなくてもいいんだけど」


 ましろは笑いながら説明する。


「ちょっと、やってみる」


 明日香は、ボールを取りに走り、そこからドリブルを始める。

 そして、体を左に行くように、左足でボールを跨り、右足のアウトサイドで軽くボールを蹴ると、体を右へと流し、右足で、今度はインサイドで自分のほうへと流した。


「ステップオーバーっ? しかも動作が細かい」


 ましろは体を近付け、突破されないようにするが、明日香は、体を右に流し、ボールを左足の踵で、うしろに蹴り流した。


「これもフェイントでいいのかな?」

「相手を突破するだけがサッカーじゃないからね。そういうプレイもありじゃないかな? まぁ、あまりお勧めはしないけど」


 ましろは、してやられたと、苦笑いを浮かべた。

 すっかり明日香に翻弄されていたのだ。


「もしかしたら明日香って、フィジカルが強いんじゃないかしらね?」


 そう言われ、明日香は首をかしげた。


「フィジカルって云うのは、押し合ったり、身体を寄せられても、重心を保ってボールをコントロールできる人のこと。フェイントで一番大切なのは相手を抜くことと、ボールをキープする身体のバランスだから……」


 ましろは、明日香の肩に手を掛ける。


「あなた、突破口を切り開くのに適してるかもしれないわね」


 そう言われ、明日香は「そうなのかな?」

 と、首を傾げた。


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