詩、ショートショート
〇致死獨
「あぁ、君が」
恍惚な目をしていた。
幾度となく見てきたはずだが、いつもどこか新鮮味のある姿をしていた。
「......よっと」
「はじめまして、だね」
腰を下ろすとすぐに、笑みをのぞかせる。
当然のことながら、答えは待っていないようだった。
「いやぁ、君のことを聞いて楽しみにしてたのさ」
「最近は言葉だけの奴が多いからさ」
「分かるよ、君を見れば分かる。君はそこらの奴とは違う」
「それだけのものを持ってるんでしょ?」
次から次へと紡がれる言葉。
じわじわと広がるはずの距離も、今日はまだ、その兆候を見せなかった。
「理解してもらえるかは分からないけど、こちらも忙しい身だからね」
「ほら、人間は移ろい易いって言うじゃん?正直そんなわけ...って思うこともあるけど」
「だから、チャンスは逃したくないのさ」
「君にとっても、悪い話じゃない。いや、とても幸せな話でしょ?」
そこまで言うと、静かに席を立つ。
目の前には、それと、空っぽの瓶が転がっていた。
「ところで、君」
さっきまでより低いトーンで、声が響く。
否応なしに、今まで通り、その姿を目にする。
「その容器ってさ、壊れずに残っちゃってるけどさ」
「何が必要だったと思う?」
「恥ずかしながら、自分には良く分からないんだ」
「病気とか、傷とか、タナトスとか......色々聞くけど」
「君ならさ、何か出してくれる気がして」
「......いや」
「そもそも、お前次第だろ」
冷めた目。
でも、それは分かっていた。
毒の味は、未だ知り様もない。
期待外れを詰め込んで、また、独り背を向けた。
〇退潮
「あ、ありがと」
「欲しかったんだよね」
「最近ごはん進まなくてさ」
「飽きなのかな」
「キミが送った封筒、無事に届いたんだって」
「良かったじゃん」
「どうせ、あてもない遺書しか書けないと思ってたから」
「...過剰だね」
「別にいいと思うけど」
「泥を浴びれるとか、それだけ綺麗に見えるんじゃないの?」
「泥だと分かる程度には、だけどね」
「ねぇ」
「キミの血液はさ」
「どうして、もっと期待させてくれるような」
「清らかで、瑞々しくて、優しくて、幸せであってくれないと思う?」
「透明な蜂蜜でも詰め込んで、そのまま溶けて」
「前も見えなくなって、何も考えられなくなって」
「それで救われるのが、私だったらいいな」
「ただね」
「キミは無理だよ」
「呪われてるんだよ、キミに」
「味を知れないでしょ?」
「まぁ」
「私が泥だって教えてあげなければ、キミは泥であることさえもわからないんだろうけど」
「拭ってから持ってきてくれたのは、何というか」
「わかりあえなくて、不幸だね」
「でも、望んだことでしょ?」
「多分、キミの為に」
「誰かも言ってたじゃん」
「幸せは意思なんだって」
「困った話だね。本当に」
〇負隔調壁
声になりませんでした。
項部はいくつかの口を開け、所々から黒染めを垂れ流していました。
掻き毟られた石塊が、誣告の和手に猛々しく包容されていました。
「何をなさっているのですか、貴方は」
「......」
眼前は刺傷で溢れていました。醜悪そのものでした。
それでも彼は、きっと怠惰に、朽壊を求め続けました。
「何をなさっているのですか、貴方は」
「......」
決死に劈く腕を傍目に、想像するしかないのです。
相異なるとした水に沈溺するのは、どういうことですか?
その低俗な岩壁を貫く4000Hzは、どういうことですか?
私は届きようもないのに。
「=====はこう思うけど、どう?」
「聞えますよ、私には」
「=====はこう思うけど、どう?」
暗澹を浴びせかけたことさえ、その仙郷の下では、影も形もないのでしょう。
ただ無記のまま、高貴なメスを入れ続ければよいのでしょう。
その鉄漿が射影を妨ぐまで、牆の奥で。
「......」
突端から滴る濃い混信に、惰弱な沈黙を挙げました。
渾然一体の不韻致に、耳を覆う術は分かりませんでした。
〇釣
嗚呼、彼の御嬢の言う通りに有りました
無慈悲な空の下で、蒼は何時も朧げでした
時を移さず、白い手は黒業に染まりました
突如、口蓋を突く蒙昧が覚悟を問うのです
懸かる望を殺し、殺し、道糸の隷を嘲弄するのです
還らぬ地の上、後面の無明は哀憐を呼びましょうか
鬱懐の赫きの前、艶やかな鱗の朱殷が応えるのです
囁かに首を絞めよと乞う許りなのです
此れが如何にして悦楽たるのでしょうか
嗚呼、退屈な生で御座いました




