おまけ2
地獄の戦場から私が帰還したのは二か月が経った頃だった。
まず、お父様とお母様にご挨拶にいくと「ずいぶんと逞しくなって……」と言われる。二か月間、昼夜問わず巨大な獣と戦い続けていたので無理もない。
前線拠点の町で帰還用の転送ゲートを作ってもらっている間、やることもないので魔獣相手に体と魔力を鍛えていた。
「これは、学園に戻ったらすごくもてる気がするわ」
女の子達に囲まれる未来に思いを馳せつつ、城の地下牢へと向かう。王国の罪人が収容されているその場所にクレアも放りこまれていた。
久々に再会した妹を見て……。
「ずいぶんと逞しくなって……」
私は思わずそう呟いてしまった。
牢獄の中には、長かった髪をばっさりと切ったクレアの姿が。服の袖から覗く腕にも筋肉がついているのが見て取れる。
その瞳に私を捉えたクレアは、足音もたてず静かに近付いてきた。
「ずっと、この日を待っていました……。エリザお姉様、あなたを殺せる日を!」
彼女が牢の鉄格子を拳で突くと、周囲の石壁ごと檻が吹き飛んだ。
な、なんて筋力! いえ、これは筋力と魔力が高い次元で融合しているからこそ生み出された破壊力!
この子、たった二か月でこれほどの力を……!
牢獄を出たクレアは不気味な笑みを湛える。
「ふふふふふ、驚きましたか? ひとえにお姉様をこの手で屠りたいがために鍛え上げたのです!」
「……なぜそれほどまでに私を」
「なぜですって……? あなたのせいで全てを失ったからですよ! スコット様が私の所に来て言ったんです!『君だけは一生許さない』って!」
「……あなた、スコットの大切な人を毒殺しているんだから当然でしょ」
「お姉様がおとなしく殺されてくれていればこうはならなかった! 全部お姉様のせいです!」
……駄目だわ、完全に狂っている。長く一人で独房にいたせいもあるのかしら。とにかく全てを私のせいにして、その怒りを糧に力を蓄え、技を磨き上げてきたのだわ。
ここで少し離れた位置にいたクレアが蹴りをするような動作を。すると、発生した波動が高速で私に向かって飛んできた。
私が横に回避すると背後の燭台が真っ二つに。
「おかしい……。いくら何でも一人でこんな技は習得できるはずないわ」
「あ、隣の牢になんか老師っぽい人がいたので、秘技とやらを伝授してもらいました」
クレアがそう言うと牢獄の一つからおじいさんがひょっこり顔を出した。
「そのお嬢さんの才能は本物じゃ。あまりの逸材にありとあらゆる秘技を教えてしもうた」
何してくれてるのよ!
クレアはかつてのように高笑いをしつつ、掌を近くの壁に押し当てる。壁は細かく震動したかと思うとガラガラと音をたてて崩れた。
「もはや脱獄も自由自在ですし、私を処刑できる者もそうはいないでしょう。私に不可能はありません。まずはこの場でお姉様を始末し、次に私を弄んだスコット様をあの世に送ります!」
……スコットは何もしてないでしょうが。私もだけど。
もう一度顔を出した老師が「こんな凶悪な殺人鬼とは思わなかったのじゃよ」と申し訳なさそうに。本当によく考えて伝授して。ここは罪人しかいない地下牢よ。
クレアの高笑いはまだ続いていた。
「あはははは、今の私に怖いものなどありません! 人や毒など使わずとも直接この手で葬り去ることができるのですから!」
「はぁ……、調子に乗りすぎよ。そろそろ教えてあげるわ」
私はため息をつきながらクレアの服を掴む。次の瞬間には、彼女の体は石の床にめりこんでいた。
「え……?」
私の投げに全く反応できなかったクレアは目をぱちくりさせる。
「悪いけどね、元々私の方が実力は上だし、この二か月間の伸びもおそらく私が上よ。こっちはずっと巨大な魔獣と戦っていたんだから」
「そんな……」
「今のあなたなら、わざわざ魔力を引き出さなくても分かるでしょ」
言われて私の体に目を凝らしたクレアは、ハッとした後にガクンと落ちこんだ。
……やれやれ、ようやく冷静になってくれたわね。
それにしてもこの子、よくこんな牢獄でここまで強くなったものだわ。老師が言った通り、本当に才能があるのかもしれない。
いずれにしろ危険すぎてもうここには置いておけないし……。
「クレア、私と一緒に来なさい」
「え、どこにですか?」
「私、各国から作る世界機関に入ったのよ。あなたもそこで魔獣と戦いなさい。機関がこの国と交渉して身柄を引き受けてくれるわ」
「魔獣ですか……。私は人間を相手にする方が得意なのですが……」
「今後、人を殺さないと誓うなら扱いは他と同じにしてもらえるように頼んであげるわ。結構ハードな仕事だから休みは多いし、報酬の面でもその辺の貴族より稼げるわよ」
クレアはしばし考えに耽った後に、晴れ晴れした表情で顔を上げた。
「分かりました、磨き上げた技を人類のために使えるなんてこんな幸せなことはありません」
……駄目だわ、すごく嘘くさい。
これは当分の間、首に縄でも結んでおかないといけないわね。
これで本当に完結です。
有難うございました。




